Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王―   作:シュエル

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第七話 神父、孤立の中へ

 

 アンデルセンが聖都へ戻ったとき、

 誰も彼を迎えなかった。

 

 非難もない。

 称賛もない。

 

 ただ――

 何事もなかったかのような空気があった。

 

 それが、何よりも重い。

 

          ◇

 

 聖堂の回廊を歩くと、

 若い聖職者たちは彼を見る。

 

 だが、視線はすぐに逸らされる。

 

(……見てはいけないものを見る目だな)

 

 理解はある。

 恐怖もある。

 

 だがそこに、

 信頼はない。

 

 彼は、報告を求められなかった。

 詳細を聞かれることもなかった。

 

 必要なのは、

 「異端が退いた」という結論だけ。

 

 過程は、不要だ。

 

          ◇

 

 枢機卿の一人が、

 彼を呼び止めた。

 

「神父アンデルセン」

 

「はい」

 

「北部での件だが……

 無事に戻ってきたことを、感謝する」

 

 言葉は丁寧だ。

 だが、距離がある。

 

「……以上ですか?」

 

 アンデルセンの問いに、

 枢機卿は一瞬、目を伏せた。

 

「詳細な報告は……

 今は必要ない」

 

「……承知しました」

 

 それだけだった。

 

          ◇

 

 彼の名は、

 祈りの中で語られなくなった。

 

 説教で引用されることもない。

 勇気の象徴として語られることもない。

 

 それでも――

 消されることはなかった。

 

 それが、最も巧妙な隔離だった。

 

          ◇

 

 夜、アンデルセンは礼拝堂に立つ。

 

 灯りは少ない。

 人もいない。

 

 彼は跪かない。

 祈らない。

 

(……正しかったか?)

 

 その問いが浮かぶ。

 

 だが、すぐに消える。

 

 正しさは、もはや意味を持たない。

 

 殺すべきものを殺した。

 それだけだ。

 

          ◇

 

 翌日。

 

 彼の所属は、

 正式には変更されなかった。

 

 だが、任務は来ない。

 

 相談もない。

 同行の要請もない。

 

 ――ただ、待機。

 

(……なるほど)

 

 アンデルセンは理解した。

 

 これは処罰ではない。

 排除でもない。

 

 保留だ。

 

 何かを間違えた可能性のある者を、

 今すぐ切らず、

 しかし信用もせず、

 ただ“置いておく”。

 

 信仰組織が最も好むやり方だ。

 

          ◇

 

 彼は、誰にも文句を言わなかった。

 

 抗議もしない。

 説明もしない。

 

 なぜなら――

 言葉は、もう役に立たないと知っているからだ。

 

 あの夜、

 言葉はすべて血に変わった。

 

          ◇

 

 夕刻、

 ひとりの下級聖職者が、

 勇気を振り絞って声をかけてきた。

 

「神父……

 北部で、本当に……」

 

 アンデルセンは、彼を見る。

 

 その目は、

 “知りたい”目だ。

 

 だが同時に――

 “関わりたくない”目でもある。

 

「……見なかった方がいい」

 

 アンデルセンは、それだけ言った。

 

 若者は、何も言えなくなる。

 

          ◇

 

 夜。

 

 アンデルセンは、聖都の外れに立っていた。

 

 遠く、北の闇を見る。

 

(……まだ、終わっていない)

 

 あの吸血鬼は、生きている。

 自分も、生きている。

 

 ならば、続きはある。

 

 だが――

 ここに、味方はいない。

 

 それでも構わない。

 

 元より、

 彼は誰かと歩くための存在ではない。

 

「……Amen」

 

 その言葉は、

 もう祈りではない。

 

 自分が、自分であることを

 確認するための音だった。

 

          ◇

 

 遠く。

 

 アーカードは、まだ笑っている。

 

 レオナは、まだ知らない。

 

 王は、まだ動かない。

 

 そして神父は――

 孤立したまま、刃であり続ける。

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