Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王― 作:シュエル
夜は、終わっていなかった。
人々が朝を迎え、
祈りが日常に戻り、
噂が整理されても――
夜そのものは、どこかで続いている。
◇
王国の南、名もなき街道。
アーカードは、崩れた石垣の上に腰掛け、
月を眺めていた。
血の匂いは、もう薄い。
それでも、彼の感覚には残っている。
「……あァ」
短く、満足げな声。
「人間ってのは、
本当に都合よく世界を作り直す」
昨夜の出来事は、
もう「内紛」になっている。
「神罰」にもなっている。
それが、彼には可笑しかった。
「救われた気になって、
安心して、
また同じ夜を呼ぶ」
彼は、それを止めるつもりはない。
止める義務も、
救う理由も、
最初から持っていない。
◇
アーカードは、
あの神父の顔を思い出す。
狂気と誠実さが、
同じ場所に宿った眼。
「……いい顔になりかけてた」
殺したい。
だが、終わらせたくはない。
それは矛盾だ。
だが、彼にとっては自然だった。
「次は……
もっといい理由を持ってくるだろ」
夜は、まだ彼を飽きさせていない。
◇
一方。
ナザリック地下大墳墓。
玉座の間。
骸骨の王は、
いつもと変わらぬ姿で座していた。
玉座の周囲に、
緊張も、期待もない。
ただ、結果だけがある。
「……第四章、終了」
その言葉は、
記録の区切りでしかない。
感慨はない。
満足もない。
ただ、
進行確認だ。
◇
王は、
人間社会の現在地を把握している。
象徴は固定された。
刃は沈黙している。
異物は自由に動いている。
最も安定して見えて、
最も脆い状態。
「……自壊段階は、次へ移行する」
それは予測ではない。
統計に基づく判断だ。
介入すれば、
壊れる速度は制御できる。
だが――
制御された破滅には、価値がない。
「……よって、介入は行わない」
王は動かない。
それが、
この世界にとって最も大きな影響を与える選択だからだ。
◇
聖都イシュタル。
レオナは、灯りを落とした礼拝堂にひとり立っている。
今日も、誰も責めなかった。
誰も疑わなかった。
それが、少しだけ怖い。
(……皆、安心している)
その安心が、
自分に向けられていることを、
彼女は理解している。
だが同時に――
理解しきれていない。
(私は……
守れている、のですよね)
沈黙は、答えない。
だが彼女は、
沈黙を信じることを選んだ。
◇
聖都の外れ。
アンデルセンは、夜空を見上げていた。
星は、いつもと同じ配置だ。
だが、意味は変わってしまった。
(……まだ、終わっていない)
それだけは、
確信できる。
彼は刃だ。
錆びるか、折れるか、
使われるか。
選択肢は少ない。
「……Amen」
その言葉は、
もはや祈りではない。
自分がまだ“刃である”ことを
確かめるための、音だった。
◇
夜は続く。
人間は安心し、
象徴は祈り、
刃は沈黙し、
異物は笑う。
そして王は、
盤を見続ける。
誰も、間違っていない。
だが、誰も正しくもない。
第四章は、
静かに終わる。
破滅は、まだ遠い。
だが――
引き返す道は、もう存在しなかった。