Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王―   作:シュエル

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第十話 夜はまだ終わらない

 

 

 夜は、終わっていなかった。

 

 人々が朝を迎え、

 祈りが日常に戻り、

 噂が整理されても――

 夜そのものは、どこかで続いている。

 

          ◇

 

 王国の南、名もなき街道。

 

 アーカードは、崩れた石垣の上に腰掛け、

 月を眺めていた。

 

 血の匂いは、もう薄い。

 それでも、彼の感覚には残っている。

 

「……あァ」

 

 短く、満足げな声。

 

「人間ってのは、

 本当に都合よく世界を作り直す」

 

 昨夜の出来事は、

 もう「内紛」になっている。

 「神罰」にもなっている。

 

 それが、彼には可笑しかった。

 

「救われた気になって、

 安心して、

 また同じ夜を呼ぶ」

 

 彼は、それを止めるつもりはない。

 

 止める義務も、

 救う理由も、

 最初から持っていない。

 

          ◇

 

 アーカードは、

 あの神父の顔を思い出す。

 

 狂気と誠実さが、

 同じ場所に宿った眼。

 

「……いい顔になりかけてた」

 

 殺したい。

 だが、終わらせたくはない。

 

 それは矛盾だ。

 だが、彼にとっては自然だった。

 

「次は……

 もっといい理由を持ってくるだろ」

 

 夜は、まだ彼を飽きさせていない。

 

          ◇

 

 一方。

 

 ナザリック地下大墳墓。

 玉座の間。

 

 骸骨の王は、

 いつもと変わらぬ姿で座していた。

 

 玉座の周囲に、

 緊張も、期待もない。

 

 ただ、結果だけがある。

 

「……第四章、終了」

 

 その言葉は、

 記録の区切りでしかない。

 

 感慨はない。

 満足もない。

 

 ただ、

 進行確認だ。

 

          ◇

 

 王は、

 人間社会の現在地を把握している。

 

 象徴は固定された。

 刃は沈黙している。

 異物は自由に動いている。

 

 最も安定して見えて、

 最も脆い状態。

 

「……自壊段階は、次へ移行する」

 

 それは予測ではない。

 統計に基づく判断だ。

 

 介入すれば、

 壊れる速度は制御できる。

 

 だが――

 制御された破滅には、価値がない。

 

「……よって、介入は行わない」

 

 王は動かない。

 

 それが、

 この世界にとって最も大きな影響を与える選択だからだ。

 

          ◇

 

 聖都イシュタル。

 

 レオナは、灯りを落とした礼拝堂にひとり立っている。

 

 今日も、誰も責めなかった。

 誰も疑わなかった。

 

 それが、少しだけ怖い。

 

(……皆、安心している)

 

 その安心が、

 自分に向けられていることを、

 彼女は理解している。

 

 だが同時に――

 理解しきれていない。

 

(私は……

 守れている、のですよね)

 

 沈黙は、答えない。

 

 だが彼女は、

 沈黙を信じることを選んだ。

 

          ◇

 

 聖都の外れ。

 

 アンデルセンは、夜空を見上げていた。

 

 星は、いつもと同じ配置だ。

 だが、意味は変わってしまった。

 

(……まだ、終わっていない)

 

 それだけは、

 確信できる。

 

 彼は刃だ。

 錆びるか、折れるか、

 使われるか。

 

 選択肢は少ない。

 

「……Amen」

 

 その言葉は、

 もはや祈りではない。

 

 自分がまだ“刃である”ことを

 確かめるための、音だった。

 

          ◇

 

 夜は続く。

 

 人間は安心し、

 象徴は祈り、

 刃は沈黙し、

 異物は笑う。

 

 そして王は、

 盤を見続ける。

 

 誰も、間違っていない。

 だが、誰も正しくもない。

 

 第四章は、

 静かに終わる。

 

 破滅は、まだ遠い。

 

 だが――

 引き返す道は、もう存在しなかった。

 

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