Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王―   作:シュエル

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第4話:報告と沈黙

 ナザリック地下大墳墓――玉座の間。

 蝋燭の灯がわずかに揺れ、冷たい空気が流れていた。

 

 アインズ・ウール・ゴウンは玉座に座し、

 その頭蓋の奥で静かに思考を巡らせていた。

 

 “この世界は、現実だ。”

 

 それはすでに確信に変わっていた。

 NPCたちは意思を持ち、魔法は現実の現象として作用し、

 痛覚や重力までもが存在する。

 

 ――ならば。

 彼らプレイヤーも、もはや“ただの人間”ではないのかもしれない。

 

「……アーカード。」

 

 その名を呟いた瞬間、扉の外から控えめな足音が聞こえた。

 アルベドが現れ、深く一礼する。

 

「ご報告がございます、アインズ様。」

 

「申せ。」

 

「外界調査に向かっていたセバスからの報告です。

 ナザリックから北西三キロの地点で、焼け落ちた村が発見されました。」

 

 アインズは沈黙した。

 指の骨が、玉座の肘掛けを軽く叩く。

 

「村……だと?」

 

「はい。村人のほとんどが死亡。遺体には奇妙な共通点がございます。」

 アルベドは目を伏せ、言葉を選ぶ。

「――血を、一滴残らず吸い尽くされておりました。」

 

 静寂。

 玉座の間を満たすのは、冷たい空気と蝋燭の音だけ。

 

「……そうか。」

 

 アインズは低く呟いた。

 胸の奥に、確かな“予感”があった。

 

「犯人は?」

 

「セバスの推測では……アーカード様かと。」

 

 その名が出た瞬間、空気がわずかに張り詰める。

 アルベドは顔を上げず、息を潜める。

 アインズはゆっくりと立ち上がり、玉座の階段を下りた。

 

「アルベド。」

 

「は、はい。」

 

「彼を――敵と見なすな。」

 

「……は?」

 

 アルベドの瞳が一瞬揺れた。

 アインズは静かに頭を振る。

 

「アーカードは……理解の外にある存在だ。

 彼は我々と同じ“プレイヤー”でありながら、この世界そのものを嗅ぎ取っている。

 彼の行動は狂気ではない。本能だ。」

 

「本能、ですか……。」

 

「そうだ。吸血鬼の王として、彼はこの世界の理を確かめているのだろう。

 だが――」

 

 アインズは玉座に背を向け、広間の闇を見据えた。

 

「我々の秩序が、彼の混沌に呑まれぬようにせねばならぬ。

 それが王としての務めだ。」

 

 その時、もう一人の声が闇から響いた。

 冷静でありながら、どこか愉悦を含む声――デミウルゴスである。

 

「アインズ様。ひとつ、興味深い事実がございます。」

 

「申せ。」

 

「アーカード様が破壊された村の遺体の一部――

 生き残った者が、一人おりました。」

 

「……生き残りだと?」

 

「はい。セバスが回収し、治療しております。

 彼は錯乱状態にありましたが……唯一、言葉を残しました。」

 

「なんと言った?」

 

 デミウルゴスは眼鏡を押し上げ、口元に笑みを浮かべた。

 

「“夜が笑っていた”――と。」

 

 アインズは沈黙した。

 骨の顔には表情はないが、玉座の間の空気が明確に冷える。

 

「夜が……笑っていた、か。」

 

 その言葉が、どこか不気味な詩のように響いた。

 アインズの思考の奥底で、記憶が揺らぐ。

 ――最後に見た、赤い瞳。

 ――狂気に満ちた笑い。

 アーカードの姿が、まざまざと蘇る。

 

「放置するわけにはいかぬな。だが、拘束することも愚かだ。」

 

 アインズは再び玉座に座る。

 その声は冷徹で、まるで運命を告げるようだった。

 

「彼は、混沌そのもの。

 我が統治する秩序の中で、唯一の“不確定因子”だ。」

 

「アインズ様、いかがなさいますか?」

 

「……見守ろう。

 混沌が何を生み出すか、まだ誰にも分からん。」

 

 そう言って、アインズは静かに右手を上げる。

 闇が彼の指先に集まり、魔法の光が瞬く。

 

「監視班を配置せよ。

 だが、決して干渉するな。

 ――“血の王”の夜を、見届ける。」

 

「御意。」

 

 アルベドとデミウルゴスが深く頭を下げる。

 彼らの影が床に伸び、まるで墓標のように静止した。

 

 アインズはひとり、遠くの闇を見つめる。

 そこに確かに感じる――異質な鼓動。

 それは血の音。

 そして、狂気の笑い声。

 

「アーカード……お前の夜が、どこへ導くのか。見せてもらおう。」

 

 静かな玉座の間に、再び沈黙が訪れる。

 それは秩序の沈黙。

 だがその裏では――“夜の王”が微笑んでいた。

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