Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王―   作:シュエル

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第7話:帰還と審問

ナザリック地下大墳墓。

 永遠の静寂をたたえる回廊を、足音がゆっくりと進んでいた。

 それはまるで、死者が墓へ帰るような静かな音だった。

 

 赤い帽子と黒のコート。

 アーカードは微笑みを浮かべたまま、暗闇を歩く。

 背後には、シャルティア・ブラッドフォールン。

 その顔には満足と酩酊が混じり、まるで夢の余韻に酔っているかのようだった。

 

「……宴は終わったか?」

 低く、よく通る声が回廊の先から響いた。

 金属の音を含んだその声は、王のもの――アインズ・ウール・ゴウン。

 

 玉座の間の扉がゆっくりと開く。

 蝋燭の光が、骸骨の王を照らした。

 漆黒のローブに金の装飾。静寂そのものを纏った存在。

 

 アーカードは立ち止まり、礼を取るでもなく、にやりと笑う。

 

「王よ。私は帰った。」

 

「見ればわかる。」

 アインズは玉座から立ち上がり、階段を下りた。

 骨の手が宙を指す。

「村を焼き、血を吸い、夜を支配した――と報告を受けている。」

 

「ほう。報告というより、噂だろう? セバスの目は誠実すぎる。」

 

「お前の“誠実”とは、血で書かれた契約書か?」

 アインズの声には、怒りはない。だが冷たい圧が空気を凍らせた。

 

 シャルティアが一歩下がる。

 アーカードは笑みを崩さず、帽子を軽く持ち上げる。

 

「モモンガ……いや、今は“アインズ・ウール・ゴウン”か。」

 

 アインズはわずかに首を傾けた。

 その言葉の裏に含まれる意味を察し、静かに答える。

 

「……ああ。

 この名は、我らのギルドの名だ。

 かつて共に在った仲間たちの象徴。

 彼らがこの世界に来ているのなら、この名を聞けば私を見つけられるかもしれない。

 ――そのための、灯火だ。」

 

「なるほど。」

 アーカードは口元を歪め、くぐもった笑いを漏らす。

「死者の名を掲げ、魂の行方を呼び戻す……。

 まるで、墓守の王にふさわしい儀式だな。」

 

「そう評してくれても構わん。」

 アインズは小さく頷く。

「お前は、モモンガという“人”を知る最後の一人かもしれん。

 だが今の私は、“アインズ”としてこの世界を歩む。」

 

「いい名だ。」

 アーカードはその名を口に転がしながら笑った。

「ならば、私はその“アインズ・ウール・ゴウン”という王を、改めて敬おう。」

 

 アインズの眼窩の奥が、淡く光る。

 ほんの一瞬だけ、感情らしきものがそこに宿った。

 

「……ありがとう、アーカード。」

 

 そして、二人の王は向かい合う。

 空気が再び張り詰める。

 今度は、王と王――秩序と混沌の対話だ。

 

「村を滅ぼした理由を聞こう。」

 アインズの声は低く、しかし凍てつくように鋭かった。

 

「簡単なことだ。」

 アーカードは両手を広げる。

 その背から、黒い影が煙のように噴き出した。

 無数の手、牙、目――夜そのものが彼の形を模倣する。

 

「私は確かめたかった。

 この世界の“命”が、どれほど本物なのかを。」

 

 アインズは沈黙する。

 その言葉には、偽りも、言い訳もない。

 ただ純粋な探究――狂気にも似た知的欲求があった。

 

「……そして、確かめた結果は?」

 

「最高だ。」

 アーカードは笑った。

「この世界は死を恐れ、生を欲する。

 つまり“秩序”がまだ働いている。

 ならば私は、その逆を歩もう。

 死を愛し、生を喰らい、夜を支配する。」

 

「……混沌の王、というわけか。」

 

「名をつけるのは好きにしろ。」

 アーカードは肩をすくめた。

「だが私はこの世界を壊すつもりはない。

 私が欲するのは、“恐怖”と“理解”だ。」

 

「理解?」

 

「そうだ。

 お前の秩序がどこまで世界を包めるのか、見届けたい。

 私の混沌がどこまで世界を壊さずに踊れるのか、試したい。」

 

 沈黙。

 玉座の間に、長い間、言葉が落ちなかった。

 蝋燭の火がわずかに揺れ、影が二人の王を包む。

 

 やがて、アインズが静かに言葉を返す。

 

「……お前の狩りは、我が名を汚す行いにもなり得る。

 だが――お前の力は、我が王国に必要だ。」

 

 アーカードの唇が歪んだ。

 

「つまり、許すのか?」

 

「条件付きで、だ。」

 アインズは玉座に戻り、骨の指を組む。

「外で狩りをする時は、私に報告を入れろ。

 その代わり――ナザリックはお前の行動を縛らない。」

 

「フフ……監視と自由、両方を与えるとは。

 お前らしい、骨まで律儀な提案だ。」

 

 アーカードは帽子を深く被り、笑う。

 その笑みには、わずかに愉快さと敬意が混じっていた。

 

「いいだろう。約束しよう、アインズ。

 私はお前の“秩序”の外で、世界を見て回る。

 そして、必要な時には――共に立とう。」

 

「……共に、か。」

 

「そうだ。

 お前がこの世界を支配する“王”なら、

 私はその影で笑う“悪魔”だ。」

 

 アインズは一瞬だけ、その紅の瞳を見つめた。

 そこにあったのは、敵意ではなく――理解。

 同じ“孤独”を知る者だけが持つ、深い共鳴だった。

 

「……良いだろう。」

 アインズは立ち上がり、手を差し出す。

「我らは同じギルドの者。

 世界が敵になろうとも、互いを裏切らぬ限りは――同志だ。」

 

 アーカードはその手を見つめ、わずかに笑ってから掴んだ。

 骨と血肉が、静かに握手を交わす。

 

「骨の王と、血の王。

 良い響きだ。……夜が長くなるぞ。」

 

 蝋燭の灯がふっと揺れ、玉座の間に深い影が落ちた。

 その影の中で、二人の王の輪郭がひとつに溶ける。

 

 死と血、秩序と混沌。

 正反対でありながら、今この瞬間、

 ナザリックに二つの“絶対”が並び立った。

 

「――この夜から、真の支配が始まる。」

 

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