「さて、突然だがクラス代表を決めるのを忘れていてな、これから決めるぞ。やりたい者、推薦したい者は居るか?」
教壇に立つなり姉上はそう口にする。今は姉上の出席簿を受けた二時限目より少々時は過ぎ、三時限目が始まったところである。
二時限目は通常の授業であったし、その休み時間もクラスメイトからの有体な質問攻め受けたのと世間話をしていただけなので特筆すべき事もなかったため割愛させていただく。
「はい!私は織斑一夏君を推薦します!」
「じゃあ私は十秋さんを!」
まぁ、こうなるであろうな。
しかし、IS学園のクラス代表は他の学校のクラス委員とは訳が違うのだ、IS初心者の私達では少々荷が重いであろうに。
それに、これは少々不味いかも知れぬな。
自己紹介の際より感じていたが私と愚弟を敵視する者が居るのだが・・・、ちらりとその者を見てみれば今にも感情を爆発させそうではないか。
女尊男卑、下らぬ価値観であると考えてはいるが今この場でそれを論じる訳にもいかぬか、仕方あるまい。
「織斑兄と織斑弟か、他には居ないか?」
「織斑教諭、私はセシリア・オルコ「納得がいきませんわっ!!」ット嬢を・・・」
一寸遅かったようだ・・・。
「なぜイギリス代表候補生というエリートであるわたくしが推薦されずに、素人である彼等が推薦されるのですか!」
「そのほうが面白いじゃない」
「せっかく男子が居るんだからねー」
「そのような選出は認められませんわ! 男がクラス代表なんて、このIS学園での良い恥じさらしですわ。私はにそんな屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
「実力からすればこのわたくしがなるのが必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!大体! 文化として後進的な国で暮らさなければ行けないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」
「ちょっと待てよ、そこまで言われる覚えなんて無いぞ! イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
「あなた!私の母国を侮辱しますの!」
双方頭に血が昇ってしまったか・・・。
このままでは売り言葉に買い言葉、碌な事にはならないか。
ふと教壇を見てみれば、姉上の顔が酷い事に・・・、眉間には皺、額には青筋・・・
姉上よそんな顔で私を見ないでくれたまえ、控えめにいって恐ろしいぞ。
姉上の怒りが爆発する前に事態を収拾せねばなるまい。
「双方、席に着きたまえ。授業中であるという事を忘れるな、このままでは授業の妨げにしかならん」
「わりぃ、とあ兄。ついかっとなっちまった」
「くっ!」
とりあえず退いてはくれたか、さて次は落とし所を見つけなければな。
「さて、今回の件、オルコット嬢の物言いも一概に否であると否定しきれる物ではない、しかし、少々言葉が過ぎるのも事実、愚弟が反発するのも理解できる。そこで織斑教諭、私から一つ提案がある」
「言ってみろ、織斑兄」
「なに、至極簡単な事だ。オルコット嬢と愚弟で模擬戦を行い、それで雌雄を決すればよい。無論オルコット嬢が望めば私も出よう、いかがかな織斑教諭?」
さて、姉上の許可は下りるであろうか・・・
「かまわん。では来週の月曜日に第三アリーナでオルコット、織斑兄、織斑弟の三人の決闘を行う。異論はないな」
いや、姉上よ私はオルコット嬢が望むのであれば、と言ったのだがね・・・
「「は、はい!」」
そんな私の心情など露知らず意気揚々と頷くオルコット嬢と愚弟。
何度でもいうが私は荒事は苦手なのだがね・・・
「どういうおつもりですか」
一悶着あった代表決めもとりあえずの収束を迎えた後、休み時間が始まったと思えばオルコット嬢にそう問い詰められる。
恐らく聞きたいのは代表決めの際に仲裁した事であろう。
「どういうつもりと言われてもだね、そう大した思惑があった訳ではないよ。あのまま売り言葉に買い言葉を続けていればクラス全体の不和となってしまう。それはクラスの年長者として避けたかったのでな」
あの言い合いが続いていれば二人の熱がクラス全体に波及し、最悪クラスが女尊男卑派と反女尊男卑派に別れ、所謂冷戦状態に陥る可能性もあったのだ。
「それにあれが丁度良い落とし所だというのは貴女も理解できるであろう? 私はそれを提示し取りまとめたに過ぎない」
「それは・・・そうですけども・・・」
このオルコット嬢、若さゆえに過ちを犯す事もあるが、さりとて愚昧という訳でもないのであろう、私が介入せずに言い合いを続けていても結局似た結論に落ち着いていたであろうというのは理解しているようだ。
「それにこれは私の個人的な理由なのだが、クラスの不和云々を抜いてもあのまま言い合いを続けられては困るのでな」
「なぜでしょう?」
「姉上がな・・・爆発しそうだったのだよ・・・」
「は?」
口をあんぐりあけ、呆けるオルコット嬢。
いかんな淑女たる者がそんな顔をしては、というよりやはりオルコット嬢は目に入っていなかったのか・・・
あの爆発寸前の姉上の般若顔を・・・
「姉上はあれで直情的であり、弟煩悩であるのだよ。それに嘗ては国家代表も務めていたのだ、他国の人間と比べ愛国心が薄いといわれている日本人ではあるが姉上はその限りでは無い」
「つ、つまり・・・」
「貴女は危うく虎の尾を踏むところであった、という訳だ」
「そんな!」
姉上が虎などという可愛らしい物で収まるかは甚だ疑問であるが。
「な、何故わたくしの事を助けたのですか?」
「至極単純なことだ、先も言ったがクラスの不和は避けたいのだよ、オルコット嬢もまた学友の一人なのだ、手を差し伸べるのは当然であろう」
「ですが、私はさっきあなたのこともバカにしましたのよ」
「それも先言ったが、オルコット嬢の物言いも一概に否であると否定しきれる物ではないのだ。寧ろ個人的には、面白そうだからと推薦する者と比べたら生真面目な貴女の方が好ましいとすら思っているよ」
「こ、好ましい!?」
「然り、とはいえ生真面目過ぎ、価値観を狭めてしまうのも考え物だがな」
オルコット嬢が女尊男卑等という思想に囚われているのは生真面目過ぎる性分があるからであろう、今日出会ったばかりなので詳しい経緯は解りかねるが。
「助けてくださった事には感謝いたしますが、模擬戦の際には全力で叩き潰しますのでお覚悟の程を!」
「構わぬよ、では私の方からも一つ」
「あら、なんでしょうか?」
「我が愚弟とやる際には油断や慢心は捨て置く様に、貴女という存在の全てを叩きつける心算で望みたまえ」
「いわれずともそのつもりですわ!!」
愚弟のあの輝きを見ればオルコット嬢の狭まった価値観を破壊する助力になるだろうが、それにはまずオルコット嬢が全霊を持って戦わなければならない、それ故の助言の心算だったのだが、挑発と受け取ったのかオルコット嬢は言葉を荒げた後席へと戻る。
若いな・・・、羨ましくも思うよ。
ああ、最後にこの言葉を贈ろう。
『
「ぐぁー入学式当日だってのに詰め込みすぎだろ、疲れちまったよ」
「最先端の技術を学ぶ場なのだ、当然であろう」
「とあ兄さんの言うとおりだ、一夏は少し弛んでいるのではないか?」
一日の授業が終了し、放課後となった途端だらしなく机に突っ伏す愚弟の姿に少々情けなくも感じるが、元々勉学が得意な訳でないのにいきなりトップクラスの授業を行うIS学園に入れられたのだ致し方あるまい。
私が勉学を教えた甲斐もあり、まだ一日目とはいえ授業について来れていた、元を考えれば寧ろ褒めてやってもいいのかもしれない。
そんな事を考えていると教室の扉が開かれ、一日目にして我が1-1の二大癒し系キャラに認定された副担任、山田教諭が入ってきた。
「よかった!一夏君に十秋君まだ教室にいたんですね」
「山田教諭、そんなに急いでどうなされた?」
「えっとですね、寮の部屋についてなんですが」
「えっ?確か前に聞いた話だと、俺ととあ兄は一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど・・・」
IS学園は全寮制であり、生徒は例外なく寮での生活が義務付けられている。
これは将来有望なIS操縦者たちを保護するという理由なのだが、私と愚弟は急遽入学が決まったので寮の部屋の都合がつかないため、一週間は自宅から通学しろとのお達しがあった。
それを鵜呑みにしている愚弟はともかく私の方は愚弟の分も含めそれなりに用意をしているのだが。
「そうなんですけど、事情が事情なので、一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。・・・お二人とも、そのあたりのことって政府から聞いてます?」
未だ教室には他の生徒が居るため小声でそう話す山田教諭。
しかし、やはりこうなったか、準備が無駄にならずよかったと言うべきか・・・
「そういう訳で、政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先したみたいです」
「そうなんですか、寮については分かりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備できないですし・・・」
「あ、いえ、荷物なら―――」
「私が手配をしておいてやった。ありがたく思え。まぁ生活必需品だけだがな。着替えと携帯電話の充電器があればいいだろう」
いつの間にやら教室に入っており、傍若無人な発言をするは我等が姉上である、若干どや顔なのはなんなのだろうか。
「姉上よ、まったく良くないぞ」
「なんだ、文句があるのか」
「文句というよりも一般常識の問題だよ姉上よ、寮に入るという事は家を長期間空けるという事だ。ライフラインの一時停止連絡もせねばならんし町内会にも一報を入れなければならない、そして私達の家族は全員が世界的に有名になってしまったのだ、愚か者がこぞって家に来るかもしれんのだ、故に警備会社や交番に連絡し見回りを強化して貰わなくてはならん。姉上はここまで済ませたのか?」
「い、いや・・・。そんなに面倒な事をしなくてはいけないのか・・・?」
「なに、心配は要らん、こうなることは大よそ予想出来ていたので昨日の時点で全て済ましてある」
「な、なら言わなくてもいいではないか!」
「姉上ももういい大人なのだ、社会での生き方を学ぶ事も必要なのではないかね?このままでは男を見つけ嫁いでいったとしてもまともに生活できるか弟として不安だぞ」
私は出戻りしてくる姉上なぞ見たくないのだ、そんな未知は要らない。
「それから荷物にしてもそうだ、流石の私と愚弟とて日々の潤いは必須だぞ?それとも姉上は私と愚弟に枯れ果てて欲しいのか?」
「なっ!これだけあれば十分だろう!!」
「ならば姉上も次の休日まで酒抜きで生きていけると?」
「それとこれは別だろう!なぁ一夏!?」
「一緒だと思うぞ千冬姉」
「ぐぬぬ・・・」
舌戦で私に勝とうなど思い上がらぬことだな姉上よ。
姉上に抱いていた幻想が壊れたのか山田教諭が虚ろな瞳になっているが、元より姉上の身から出た錆なのだ、私は悪くない。
箒は苦笑いしているだけだが。
「荷物もIS学園宛に送ったのがそろそろ届いているはずだ後で受け取らせてもらうよ」
「とあ兄!俺の分は!?」
「無論、私の判断で選んだ物ではあるが愚弟の分の娯楽品もいれてある」
「サンキュー!!」
(漫画本とゲーム機、それからベットの下に隠されていた如何わしい本くらいではあるがな)
(とあ兄、一生ついて行くぜ!)
小声で愚弟に荷物の内容を伝える、愚弟に喜んでもらえてなによりだ。
「なにをこそこそと話しているのですか?」
「な、なんでもねぇよ箒!」
愚弟よ、それでは怪しんでくれと言っているような物だぞ、こういう時は迅速に話を変えるのが得策なのだ。
「それで山田教諭、私達の部屋はどこになるのですか?」
この様にな。
「そ、それがですね……。寮に入れるのを最優先したので、完全な空き部屋がなくてですね、一ヶ月もすれば用意できますから、しばらくは別々の相部屋で我慢してください」
別々の相部屋・・・か、愚弟の如何わしい本が日の目を浴びる事は一ヶ月は無くなったという事か。
「織斑弟が寮長室で私と同室、織斑兄が篠ノ之と同室だ」
「あんまりだあああああああああ!!」
「とあ兄さんと同室・・・」
我が姉上の宣告を聞いた両者の反応は対象的であった、片や天を仰ぎ絶望の絶叫、片や笑みを浮かべ小さくガッツポーズ。
箒よ、同室を喜んでくれるのは男として嬉しいが、少々浮かべている笑みが恐ろしいぞ、なんというか社会的な死を感じるのだが。
そして愚弟よ、強く生きろよ、何、如何わしい本は日の目を見ないどころかこの世から抹消されるであろうが、悲しむことは無い、お前の心の中で生き続けるのだから・・・
「ではこちらが部屋の鍵です。場所は篠ノ之さんに教えてもらってくださいね。それから夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど・・・えっと、そのお二人は今の所使えません」
「え、なんでですか?」
愚弟は精神的なショックで気が触れてしまったのだろうか。
「なるほど愚弟よ、お前は女子と共に湯浴みがしたいと」
「ち、ちげーよ!」
ならばよろしい、もし答えが肯定であったら少しばかり教育が必要であったが・・・
まぁ男として本音の渇望は是であるべきなのだが。
「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。三人とも、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ」
寧ろ寮までの大よそ50メートル間に道草を食える場所があるというなら是非食ってみたい物だな。
「では箒よ、案内を頼もう」
「はい!」
「千冬姉と同室か・・・」
タイトルどうしようかな・・・