少し難産ぎみでした
もう少し早く書き上げたかった……
side.B
クックック、すっかり俺も飯の香りの良し悪しがわかるようになってきたなァ。この赤々とドロついた肉とトマトのソース……鼻腔を殴りつけながら走り抜けるような、悪い気分じゃあねェ匂いってやつだ。
ドサッ。
『美味そうな匂いだな』
「うわっ、ロックバード?」
「お帰りィ」
前の時よりは小ぶりだな。若ェ個体か?そりゃ肉が柔らかいかもしれねェなあ……ま、硬えのも嫌いじゃあねえんだがな。
フッ、炒めた玉ねぎの香りってのは良い。料理に関する経験の浅い俺じゃこの“ミートソース”ってのにどう良い影響があんのかは知らねェけど。
『この前の照り焼きというのが美味かったから獲ってきた。他にもあるが一度には運べん』
「置いてきちまったのか」
『案ずるな。森の端で、ムコーダと同じような結界を張って守ってある』
ほォ、やっぱり便利な力だよなァ。向田もフェルも、使える技術の中に生活で活かせる力があって羨ましい限りだぜ。俺の力はちと戦闘に寄りすぎちまってるもんなァ……
「ンなら後で取りに行くかァ。向田連れて」
「はい。まあ、もうすぐ昼飯が出来るところなんでね」
『なにっ、早くしろ』
「ちょっと待て。これ茹でてからな」
さっきから塩水沸騰させて何すんだろォなと思ってたが、あの袋から取り出された細長の麺……確か、パスタだよなァ!そうか、パスタっつうのは茹でる時に塩水で茹でるモンだったっけかな。
「麺だっつうのはわかるんだが、塩水で茹でるのはなんでなんだァ?」
「えーと、確か……麺のコシをよくする為?とかだったような」
「ほォ?なるほどな。知らなかったぜェ」
コシっつうのは麺の硬さのことだったか……?くそ、気にしちゃいなかったが人間の頃の記憶がかなァり薄れてやがる。光の国に新生児として生まれ変わってからのことはかなり覚えてるんだがなァ……
5分ほど麺を茹でる鍋を眺めていれば、湯の中で麺がくるくる回るように踊り出した。それも聞けば、麺類を茹でる時は、大抵の場合麺が泳げる…?くらいの水量があった方が良いらしい。
まだまだ知ることばっかりだなァ。
「よし、できたぞ」
「ククッ、美味そうだぜ」
黄色がかった麺の上で、強烈な味覚を予感させるドロドロのソースが染み込む様に鎮座してやがる。煌々と肉の脂で輝く様はその鮮烈な酸味と甘辛い肉の調和を確信させようって魂胆としか思えねェ。
味を思い出したワケじゃねーのに、どうしてか──向田が作ったからか?不味いハズがねェって思わされる。今すぐそのテラテラした肉感を味わいたい。
『これはなんだ?ツタか?』
「違う違う、俺の世界のスパゲッティって食べ物だ。美味いぞ」
「スパゲッティ、だなァ。いただくぜ」
『どれ』
バクっ。
「…………!」『…………!』
美味ェ。期待通りの美味さだ。
『ツルツルしていて面白い』
「トマトと挽肉っつうのはこんなに合うんだなァ。淡白っぽい麺に絡んで、濃い味なのになんつーかつっかかりなくドッと一瞬で奥まで潜り抜けてきやがる。舌に残るくせにどこかスッキリしちまうぜ」
『うむ……肉は少ないが、なかなかいけるな』
向田は良いヤツだ。飯は美味えし、土壇場の判断力もある…………
何度も言ってる気がするが、向田の……
だが、向田は現状に不満を抱いちゃいねえのか?誘拐まがいに連れてこられて、今までの生活を全て捨てさせられて、勿論ダチや親族との縁だって切れたろう。
俺は長らく娯楽なんてない世界にいた。それに比べりゃ、向田の飯があって平和な世界なここはそれはそれは美しく見えている。
けど向田はどうだ?現代──俺が死んだ頃と同じ時代なのか違えのかはわからねェが、日本で娯楽が飯だけなワケがない。
日本なら漫画やアニメ、ゲームなんかのサブカルチャーも豊富だったろう。携帯だなんて便利なツールはこっちにはねェ。
──故郷に帰りてえとは、思わねえのか?
『美味かった。昼は軽くこれくらいで良い』
「……フッ。フェル、顔の周りがソースでベタベタだぜ」
「ブフッ!なんだその顔!ヒーッ」
『むっ?!なんだ、何がおかしい』
「拭ってやるから水出せ水ゥ」
向田が水を出してくれたんで、それで口の周りをざっと流した。ククッ、毛が長ェから色が残らねーようにしてやらんとな。
「さて。お前が置いたっつう残りの獲物の所まで案内してくれ」
『ウム。ムコーダも飯は食べ終わったな?』
「あ、うん」
「片付けももう終わったぜ」
ミートソースはフェルが残らず食っちまった。ちと残念だぜ、米との相性も良いんじゃねーかと思ったんだがなァ。ま、残るワケねえとは思っちゃいたが。
つって駄弁りながらも歩けば、明らかにコレだなっつー死んだ魔物どもの山があった。フェルほどとは言えねェが、どいつもこいつも街の近くに居ていいモンには見えねえなァ。
「大量だなァ、こりゃ壮観だぜェ」
「一応聞くけどコレ全部お前の食用?なんだよな?」
『そうだが?』
「熊とか蛇はまだわかるけど……これは」
そういって向田が恐る恐る引き摺ったのは、豚頭の大男。おォ、中々不気味な面してやがるなァ。豚っつうのは綺麗好きなモンじゃなかったか?とてもそォは見えねえが。*1
「食えるのか?ていうか食って良いのか?」
『食えるぞ。昔から街の人間どもも普通に食う』
「そッ そうなんだ……二足歩行の豚食うんだ……」
「豚かァ──豚はまだ食ってねェよな?猪は食ったが。楽しみだぜェ」
向田がアイテムボックスとやらに魔物たちを放り込んでいく様子を眺める。本当にポイポイ底がねえみたいに飲み込んでいくもんだから、不覚にもちっとばかし面白くなっちまったぜ。
「おーォ、終わったか」
「ええ、はい。これで全部かな」
「戻るまで時間はあるかァ?」
「?取り急いですることはありませんけど」
……まあ、解体するのにも時間はかかるだろーし、ギルドに報告するのも街に入るのも遅くなっちゃ不味いだろうから、ほどほどにするかなァ。
「向田がどれくらい動けるのか知りてェ。お前が良いなら、そこいらの魔物と一戦交えてもらおうかと思ってなァ」
「エッ」
まあ、そら嫌か。
『見て貰えば良いではないか。
ムコーダよ、お主──我らが守りつつベリアルに武を鍛え導いて貰える状況などと。これがどれほどの僥倖の極みなのであるかわかっておるのか?』
「そう持ち上げンなよ擽ってェ。言い分も確かにわかるがよ、本人のやる気が最優先だぜェ」
『……ベリアルよ、そう甘えた事を言っていると此奴は終始強くはなら──』
「や、やりますッ」
おん?
「良いのかァ?」
「いやもちろん痛いのとかは嫌なんですけどもそのベリアルさんの優しさを見込んでと言いますかですね──」
「──クックック、そうかァ」
「……その、ここで笑われると怖いデス」
「おっと、悪い」
手を口元にやって上がってる口角を隠す。いやなに、俺は嗜虐心なんぞで笑ってるワケじゃねェから安心しな。ウルトラマンを鍛えようってんじゃねンだから、そりゃあ考慮するとも。
ただ、強くなりてェ奴ってのはいつでも微笑ましいとは思わねえか?俺はいつだってそう言うやつは歓迎してた。何人も俺の元から送り出したモンだ、懐かしいぜ。なァ……元気してっかな、アイツら。どいつもこいつもしっかり強くなりやがって、そのくせタイチョータイチョーって雛鳥みてェに……フフッ、気の良いやつらだったぜ。ああ゛ァ〜懐かしい。
「フェル、近くの魔物で雑魚がいる所を教えてくれ」
『雑魚……ちょうど良い雑魚だな?フッ、任せろ』
「ククッ、おいおい向田は初心者だぜェ?強すぎると思ったら俺が代わりに殺るからなァ?」
『我をなんだと思っておるのだ。……フン。ムコーダ、ついてこい』
「あっハイ」
一緒に歩いている感じだと、そこまで深い場所には行かねえみたいだが……森に入った。人の街が近えからか?思ってたより鬱蒼とはしてねェし、魔物じゃねェ純粋な生命の息吹も感じられる。この身とは相入れねェだろうが、嫌いじゃない空気だ。
『今から向かうのは
「ラッ……??」
「そォか……あまり半魚人みてーな奴に雑魚のイメージはねェが」
ま、強いイメージもねェが。
『無論、水中においてはそこらの魔物に上回る実力があると考えていい。だが──地上ではただの雑魚だ』
「なるほどなァ」
ラゴン……俺のいた世界にも同じ名の奴らが居た。
……同じ存在であれば、この世界は俺の世界と繋がりがある──
『本来ならゴブリンやウェアウルフくらいが雑魚としては適当だろうが、生憎先程大きな巣は潰してしまってな』
「え、なんでさ」
「獲物の山にはなかったなァ。不味いのか?」
『その通りだ。とてもじゃあないが、好んで食いたいモノではないぞ。だが、奴らは彼我の実力差というのをわからずに突っかかってきよるからな』
「ほォ、なるほどな。ちょっかいかけられて鬱陶しかったのか」
『ここで待っていろ。一匹捕まえて持ってきてやる』
中々悪くねえ場所だ。遮蔽物も無ェし、足場もしっかりしてやがる……初心者が長物使うにゃぴったりだなァ。
「向田!ちゃんと構えてなァ、結界はかけてもらっただろう?戦うのはお前だぜェ」
「は、はいッ……!」
「力を抜いてよく聞け。いいか?今からやるのは“命のやり取り”以外の何物でもねェ。押し潰されるな、だがその事実を捨てちゃあいけねェぜ──ま、特にお前は怪獣や魔物のいねえ平和な世界からやってきて、自身が暴力を振るうことに困惑もあるだろう……が。これは、お前の命そのものをこれから守り抜く為──その過程は必要なモンだ」
「…………!」
「とは言え思い詰めたりはすんじゃねーぞ。な?」
「が、頑張りマス……」
「ほれ、構えろ」
フェルの風を感じる。そろそろ帰ってくるぜ──と思ってれば、空から、
べちゃっ!
「ウワッ」「うわ」
と何か降ってきやがった。よくよく見れば、それは緑色の人型で、すこしぬらぬらとした粘液をその身に纏った魔物。フェルの風に包まれてやがったからなァ……まあ、フェルが一匹見繕ってこっちへ魔法で吹っ飛ばしたんだろ。落下のダメージがねェくらいには保護して。
「これが、ラゴンねェ」
まんま、だな。強いて言うなら、ヒレが黄色じゃなくてオレンジっぽく染まってやがるくれェで、マジで俺の世界のラゴンと瓜二つ……だなァ?
『なにをボーッとしておる。来るぞ』
「う、うおお……っ!」
「早かったな、フェル」
向田はフラフラと立ち上がったばかりのラゴンに向かって棍を構え、突撃でもするみてェに走っていったが、
『キギャアァアッアァァア゛!!』
「うわっ?!」
それに気づいたラゴンの威嚇の声に気後れして後退りした──まて、ラゴンにしちゃ行動が荒くねェか?
『ギャキャァアァアアッ』
「ひィ!?うわっ、結界
手に棍こそ持っちゃいるが、初めから扱えりゃ苦労はねー……ラゴンが狂ったように結界を殴っても結界に揺らぎはない。しっかり守られちゃいるが向田は完全に怖気付いたな。
「──向田」
「ハッ、ハイ?!」
「無理じゃあねェ。身の危険もねェ。初心者だろ?忘れんな、スマートに勝つ必要なんざねーんだ、泥臭くたって、みっともなくったって今は構わねェ」
「……はい!」
ゴス!
棍が振り回されてラゴンの側頭部にぶつかる。
ドス!
よろけたラゴンの腹あたりに棍の石突が突きささる。
……ガスッ!
屈んでしまったラゴンの、隙だらけの後頭部に向田渾身の振り下ろしが叩き込まれた。
ラゴンは沈黙している。呼吸もねェ……ように見える。死んだか気絶かは知らねェがまあ、
「──よくやった」
『フン、どこがだ。へっぴり腰だっただろうが』
「くぅ、手厳しい……」
「ククッ。勿論これは初めての戦闘だからなァ、満点をくれてやろォって出来は誰だって無理なんだよ。今日は向田の現状を知りたかっただけさ」
それに、向田には悪いがもっと気になることができた。ラゴンが俺の知るラゴンであるならば……あの凶暴性──そして、邪気。レイブラッドのそれに近しいモンを感じざるを得ねェ。ラゴンどもに恨みはねェが、調べることができた。
なにより……ここは、本当に光の国があった星と地続きなのか?
「そろそろ帰りますか?」
「あァ。用事はもう終わったろ」
『ならムコーダ、我の背に乗っていけ。お主が歩くと時間がかかる』
「え、いいの?じゃ遠慮なく」
おい?……まァ良いか。向田はフェルの背によじ登って毛をしっかり握り込んでしまっている。
「俺はやめとくぜェ。速度出し過ぎンなよ」
「え゛」
『フン、おヌシこそ我に遅れるなよ』
「ちょ、待っ」
『それでは行くぞ』
「ちょっと、ちょ──」
ドッドッドッドッドドドド──!!
フェルとその背に乗る向田、そして隣を飛翔する俺達ァどんどん加速していく。俺はフェルに合わせているが、向田にとっちゃ未知の領域だろォなァ。
戦闘における向田のクセ。一番不味ィのは、極端に怖気付いちまうこと、それに付随して攻撃の際に目を瞑っちまっていること。
フェルも言っていたが、まァ姿勢だなんだってのも勿論悪い。現状、向田を鍛えるなら……
「ちょっと待てって、いってるだろぉぉ──ッ!」
俺達は向田の悲鳴をBGMに、街に帰るまで猛進を続けた。
ムコーダさん、一対一の初戦に勝利!良くないクセもあるようですが、まずは乗り越えることができたようです。
魔槍や魔剣を手に入れた時に、原作よりは上手く扱えるようになっていけたら良いと思うのですが……
感想、ありがとうございます。非常に嬉しいです。飯テロ要素を失うことなく、クロスオーバーの違和感も生まず、これからもきちんと文章を書いていきたいと思います。
ムコーダさんは強くなる?あんまり強くならない?
-
強くなる(割と本当にちゃんと強くなる)
-
あんまり(ムコーダさんらしいですね)