お久しぶりでございます。
遅筆を極めし私の作品ですが、気長に待ってくださっている読者の皆様方、本当にありがとうございます。
ほのぼの回でございます。
嵐の前の静けさ……?
side.M
「うーーん……しまったなぁ」
「どォした」
「いやその、もう用事も済んだと思って街を出ちゃったんですけど。地図がなくて……探すの忘れてた」
「あァー。そういやそうだな、レイセヘル王国から出ることばっか考えて、ある程度の方角くらいしか気にしてなかったからなァ」
看板の文字は読めるんだけど、肝心のその地名の場所がどんなところなのかが全くわからない。国境を越えてからは特に情報収集もしてなかったし……うーん。大量の金貨が懐に入って、なんていうか浮かれてたのかな。
「そうだ、フェルは?どこか行きたいところとかあるか?唯一の現地
『ふむ……ならば西はどうだ?西にある深淵の森には美味い魔物が多い』
「西ねェ。西、つったら行こうと思ってた国とはちとズレるな」
「フェル……さん?西にはどんな国があるんでしょうか」
『ぬ。そんなことは知らん』
知らんってあんた……仮にも1000年以上生きてきたんじゃないの?というか勇者くん達もフェルとことをシレッと喋るオオカミとして受け入れてるんだね。
「どんな国か、地域かっつゥのは人にとっちゃかなり大事な要素なのさ。戦争や不況、疫病なんかが蔓延る場所にゃ誰も行きたがらねェもんだろ」
『フン。病は兎も角、人が争っていようがいまいが我には関係のない話だ……それに、人は常にどこかしらで争い事を起こしているからな』
そらフェルほど強ければ戦争してても関係ないし、蹴散らせるだろうけどさぁ。……まあ、人の世界のことをフェルに聞くのもお門違いな話だったか。
「
「え、ええと……特には」
「私は安全な場所を探したい、かな?家探しとか」
「花音……。でも多分、探さなきゃ帰る手段は見つからないよ」
「確かにそうだけど──」
「ま、まあ!今の所は特に無いです」
ふーん、勇者くん達は帰りたいのか。……あれ?そういえば俺も……まあ、いいや。呼び出すことはできたのに返すことが出来ないのはなんでなんだろう?扉が開いてそれを通ったんじゃないんだろうか。
「とりあえず街道沿いに進みますか。そのうち街にも着くだろうし」
「だな。櫂斗!お前らも一先ずは着いて
あー、現状勇者くん達にとってはベリアルさんが縋る藁なのか。手掛かりなしから探すにはあまりにも取っ掛かりが無さすぎるし……
しかし、この世界でも国同士の争いは絶えないってことかぁ。どこでも変わらないものなんだね──あのレイセヘル王国も隣国と戦争になりそうだ、って言ってたし。
旅してる以上はこの世界の国のこととかの色んな情勢を知りたい……や、知る必要があるよな。やっぱりそうなると早めに地図欲しい、よなあ──……次の街で手に入れられれば良いんだけど。
夜。
まだまだ次の目的地である街には辿り着かない……まあ、それは想定内だけど。皆と相談して、街道の途中にあったキャンプ跡地の様な場所で一夜を明かすことにした。
土や薄い草の地面はある程度平たく整えられていて、その上のある箇所には焚き火の跡らしき炭や灰が積み重なってる。俺は地面に座り込みつつ、フェルに尋ねた。
「なぁフェル、フェルのおかげで儲かったから異世界の食い物をご馳走するよ。何が良い?」
元の世界のものを出す、っていうのはまぁ……ついでだけど勇者くん達のメンタルケアにもなるんじゃないかな?俺はネットスーパーがあったから好きなように自炊出来たけど、彼らはそうじゃない。
思考の中に沈みつつもベリアルさんと一緒に米を研ぎ、コンロを取り出して火にかける。浸水も含めたら、あと3〜40分で炊けるはず!
ずっと王国の……多分、城の中に居たのかな?わからないけど、もしかしたらずっと畏まったような宮廷料理みたいな物ばかり食べてたのかもしれないし、そうじゃなくっても流石に日本の家庭で出るような飯は出なかったんじゃ無い?
まあ、そう言うのが好きな人もいるんだろうけど──旅行先や出張先で地元のメシが食べたくなることってあるよね。というか、ホームシックというか……ベリアルさんに聞く限り、彼らは帰りたい気持ちが強いらしいし。
『異世界の食い物か。やはり肉だなッ』
「ですよねー」
知ってた。
「えーと、櫂斗くんだっけ?君たち三人も何か好きな物を食べよう。大体のものなら揃うよ、何でも言いなさい」
「……向田のスキルはネットスーパー。こいつは、
あ、そっか。スキルについて説明してなかった……うっかりしてたぜ。ま、同じ異世界人だし特に問題はないだろ。
「え?その、良いんですか?」
「お金とか持ってない……です」
「いーのいーの!若い子が変に遠慮するもんじゃないよ。お金はいっぱい入ったし、ちょっとくらい甘えといたら良いんだよ」
フフ、戸惑ってるなあ。昨日は回鍋肉食べたけど、今日の朝と昼はパンとか炒め物とかの適当飯だったし、俺も贅沢しちゃうぜ。ほらほら言っちゃいなよ〜、言わなきゃ目の前で俺たちだけ食べちゃうぞ!
「わ、私……鳥の唐揚げが食べたいです!」
「じゃ、じゃあ俺は卵かけご飯をっ」
「え?!なら私はど◯兵衛のきつね!」
あら。唐揚げはともかく……
「卵かけご飯にカップ麺……そんなので良いの?」
「フン。レイセヘル王国の卓は何度か覗いたが、見栄えや贅沢を気にするばかりで飯らしい飯を食っちゃいねェ……塩や胡椒で味もわからなくなっちまった肉をワインで流し込むのが心底美味いと思ってる様な奴らのとこで出る様な飯──察するに余りあるってもんだ。安い味を口にしたくもならァな」
……げぇ。そりゃあキツいだろうなあ、舌がイカれちゃいそうだし、王様があれだけブクブク太ってたのもそういうことか……
「そう、そうなんですよ!最初の頃は口の中が嫌に痺れるくらい味の濃い物ばっかり──」
「それに無駄に格好つけて変な手間いっぱいかけて!」
「量は少ないけど、サラダとふかし芋が癒しでした……」
「Oh」
「だから昨日の回鍋肉とお米が美味しくて美味しくて──ッ」
「もう格式ばった食事は疲れました、家庭的なご飯を食べていたい」
「塩辛いのが多かったから、最近お肉を食べられてなかったんです……」
「ハハァ……そりゃあ大変だったなァ」
良いよ良いよ、もう好きなだけ食べなさい!米も新しく炊いてるからね!唐揚げに、卵かけご飯に、◯ん兵衛ね。任せなさ〜い!
「すぐに食べられる惣菜とか……何が良いかな?さっきの三つはマストでしょ、メンチカツに肉団子──そうだ、ベリアルさんは何か食べたいものはありますか?」
「そうだなァ〜……」
『おい……ッま、まだか?』
「うわっ!よだれよだれ!ウワーッ」
「クッ、クハハ!先にフェルに買ってやれ……待てが出来ねェ様だからな。俺はお前と同じで良い。適当に
「すぐ精算するからッうわ垂らすなって!」
ごとごとん。光を発する段ボールが降ってきて、いつもの様にそれを開けばさっき注文した惣菜の山が……
「おお、温かいままじゃんか。できたてみたいだ」
湯気を発するくらい温かいままの惣菜達を、フェル用の大皿にざらざらと盛ってゆく。タレの絡んだミートボールに、様さなスパイスを練り込んだソーセージ。メンチカツやコロッケなんかの揚げ物各種、餃子にシュウマイにソースハンバーグだ!
「山盛りですね……」
「動物に揚げ物は大丈夫なんでしょうか?」
「まァ、フェルなら大丈夫なんだろ」
『うむ!見たことのない形の肉ばかりだがどれも美味い!このすり潰した肉も中々──うむ!』
フェルがガツガツ食ってる内に、フェル用のメインディッシュを作ってしまおう。
「魔物の肉って割と美味いんだよな。その分強いからバランスがとれてるんだろうけど、それより美味い肉といったらこれしかないでしょ」
「随分
「大奮発して国産黒毛和牛ステーキ肉だ!どうよッ」
焼き上がった美しいそのステーキ肉は、艶かしい焼き目を湛えてフェルに食われるのを今か今かと待っている。ウオオッ、俺が食っちまいたいくらいだぜ。
『随分と小さいな……』
「こっちの魔物と一緒にするなよ、250グラム銀貨2枚もするんだぞ」
『ふむ……』パク。フェルが食いついた。
『──なんとッ!なんと柔らかい肉なのだ!口に入れた瞬間に消えるような、美味い!これは美味いぞッ!』
皿の上でちぎれ、零れ落ちそうになる肉片を逃すまいとフェルが更に大口を開けて追いかけた。
『噛むほどに溢れる脂の甘みに旨味!焼き目の香ばしさがそれらを引き立て、表面のカリッとした食感と中の強烈なジューシーさの濁流を両立させている!上品で、筋肉の繊維を感じさせぬ程よい心地──美味ぁあぁいッ』
ねえ食レポ上手くない?
…………ふ、
「そうだろうそうだろう。この肉は俺たちの国で美味くなるように、こだわって育てられた牛の肉なんだ」
『なんと!?お主の世界では食うために牛を育てているというのか?』
「え?ここでは畜産……食べるために動物を育てたりしないのか?」
「牛以外にも、豚に鳥、魚なんかも……色々育てますよね」
『……せんな。この世界には魔物が溢れている、その魔物を狩ってその肉を食えば事足りる。人間どももそうしているはずだ』
「なるほど、こっちじゃ牧畜するまでもないのか」
『にしても美味くなる様に態々育てるとは、お主の国は随分と食にこだわりがある様だな』
「まあ……」
「それは間違いない、ですよね」
「東京や大阪に名古屋みたいな都市部に居れば、旅行や遠出をしなくても色んな国の料理が食べられたくらいだし」
「駅前のスペイン料理屋、たまにいくと美味しかったなあ……」
『なるほど。だからお主の作る料理も美味いのだな』
……まあそれは大体ネットスーパーと日本の食品会社の勝利なんだけど。
フフフ、そして君たちのことも勿論忘れちゃいないぜ。ふっくらツヤツヤに炊けた米をコンロからおろし、隣のコンロで沸騰させていたお湯をどん兵衛カップに適量ぶちこむ。隣の子の唐揚げと一緒に渡して、
「はいどうぞ」
「きちゃ〜!久々すぎるんですけどっ」
「ちゃんと衣がカリカリのやつ……!」
さて。
「──櫂斗くん。ご飯の量は?」
「──茶碗一杯、多過ぎず少なすぎず」
「──卵の数と、調味料は?」
「……一つ。それと濃口醤油──のみで」
少し広めの丼茶碗に、普段と変わらないくらいの量を盛る。土鍋のをふわりとほぐす様にしゃもじを潜らせ、切り離すかのように広げる。しゃもじで持ち上げたふっくらのご飯を──米粒を潰さぬよう、そのままの形を保ったままに茶碗に滑らせてそっと盛り付ける。
そして、彼が求めているものは丁寧な料亭に出てくる様な一品でもなければ、意識を高くより一層の美味しさを求めた逸品でもない……ただ、平凡な家庭の朝ごはんに並ぶような
俺も、勝手に卵をかき混ぜたりしない。その手間も含めての卵かけご飯だ。醤油のかけ具合だって卵かけご飯を形作る一つの大事な要素。一人一人の好みやこだわりがあるんだ。俺が手を出して野暮を生むわけにはいかない!
「──……どうぞ」
ご飯茶碗と、生卵の入った器と、醤油と、箸。それだけで──
「う、おお……ぉ……っ!
いただき、ます!」
軽い音を立てて割れた卵の殻の中から、無色透明の白身と鮮やかな黄身がなめらかに滑り落ちる。それを受け止めた器に醤油をつうと垂らし、勇者くん──いや、櫂斗くんはかき混ぜた。
丁寧でもない。かと言って粗野でもない。軽くて、日常の中の一つの動作の様に自然にかき混ぜた。
櫂斗くんが箸から垂れる黄色い糸を断つ。そして今なお緩く湯気を昇らせる白いご飯に──……その液体をでろりとかけた。
混ぜた卵は完全に液状になったわけではない。ともすれば米の山の上を転がり落ちる様に器の端にまで辿り着き、それでやっと米粒に染み込んでいく様子がわかる。
全体に行き渡る様に軽くもう一度かき混ぜたら、もう後は……
「いただきますッ!」
掻きこむだけだ。
…………どう、だったかな櫂斗くんは。
卵かけご飯は特別な料理でもなんでもない。
貧乏飯との誹りを受けてもおかしくないような……
でも、絶対に味を思い出せるようなそんなご飯だ。ご希望に添えただろうか。
「……うっ、めぇ……!美味い…です……!」
……おお!
「フッ、良かったなァ」
「わかる、わかるよ。こっちじゃ生卵なんて怖くて食べらんないよねぇ」
「そもそも米も醤油もあそこにゃねェだろ」
確かにそうだ。そう考えると卵かけご飯なんてもってのほかだな、全ての要素が足りない。
まあ、卵かけご飯も良いものだけど──今日はベリアルさんに試してほしいものがある。もったいぶることじゃないしさっさと言うけど、酒のことである。呑まずにはいられないッ!
勿論呑めなさそうなら無理強いすることはないけども、俺は結構人と呑むのが好きだ。そりゃあ一人で呑む酒だって美味しいよ?自由だし、どんなに雑に呑んでも怒られない。
けど、人と話しながら呑む!それはやっぱり楽しいんだよね。偏見だけど、ベリアルさんはもし仮に俺が雑なご飯を出したって、それが美味しかったら文句言わなさそうな気がする。
なんでも美味しいと言ってくれて、その上なんで美味しいかとかを口ずさんでる人とか、飯作りが趣味なら最高の人じゃない?
……じゃなくて、一緒に酒を飲んでみたいんだよ。だから、ご飯をちょっとおつまみにしてみようかなって思ってね。
ベリアルさんは何の酒が好きなんだろう?俺は結構ビールしか飲まないんだけど。肴に関しても色々あるよね。乾き物とか揚げ物とか野菜とか……あ、ベリアルさんて野菜好きだったよね。
俺たちだけ呑むのもなんだし、勇者くん達にもジュースとか渡して皆んなで喋るか!
「そりゃァなんだ?」
「これは
「へェ……出汁か?
相変わらず鋭い嗅覚だな……多分ベリアルさんが言ってるのはめんつゆのことかな?ダシの香りの中からそんなに言語化できるもんなんだね。
「あとは〜……唐揚げなんかはもうあるし、砂肝とか行っちゃうか。刺身もありだね」
「スナギモ?肝を食うのか」
「美味いですよ、鳥の肝です」
「フゥン」*1
「で、本題なんですが……お酒飲んでみませんか?」
「酒?……へェ、酒ね。そういや呑んだこたなかったが、言われちゃあ気になんなァ」
「一緒に呑めるならそっちの方が楽しそうだと思いまして」
「そォかい」
何が良いかな?俺はビールを飲むとして、そーだな……チューハイと日本酒とウィスキーにしとくか。へー、日本酒とかウィスキーっていっても色々あるんだなあ。俺、日本酒と焼酎の違いなんて知らないよ。
「先にこの茄子、戴くぜェ」
「あ、ハイ!どうぞどうぞ」
ささっと購入しちゃって、……あーグラスないじゃん。えーと……お!ビニールコップがある。それで良いや──購入完了。
「美味ェ。口の中で
気のせいかもしれないけど、ベリアルさんって野菜食べてる時は少し饒舌さが増してないか?……まあ、良いことだよな。茄子に合う酒ってなんだ?ビールでもいいけど、一旦これ渡すかな。
「これどうぞ!これは日本酒……
トクトク注いだコップを直接ベリアルさんに手渡す。てかベリアルさん指長いね?
「ふゥん、ありがとよ」
「…………」
こくりと喉が鳴る様子がわかる。頭を傾けて、上下に燻らす喉仏を晒し、男なのに色っぽさまで感じる嚥下を見届ける。
「ン……かァー、美味いなァ。澄んだ味がするぜ……塩味と出汁の旨味を引き立てる様な気がするなァ──……向田、酒選び上手ェじゃねえか。ま、俺ァ酒に関しちゃ素人も良ィとこだがよ」
「そりゃあ嬉しいですねえ」
さ、俺も飲も飲も。 カーーッ!これだよこれ!
「味の輪郭がハッキリする……一体感が
「酒、どうですか?気に入りました?」
「ケッ……まァ、所謂酔いはしねえかもしれねェが、中々どうして気に入ったよ。馬鹿みてえに飲みたい訳じゃねえが、そうだな…… ──お前らと呑むのなら悪くねえ」
「……!そうですか」
「この、砂肝?ももらうぜ」
「どーぞどーぞ」
「あ、あの!俺もその茄子、貰っても良いですかっ」
「ンぁ〜?良いぜ、気にすんなよ。好きに食え」
「いやあ、食レポが美味しそうで……」
「ショクレポ……食レポか。フッ、ハハハ」
わかるよ、それにベリアルさんて上品なのに美味そ〜に食べるんだよね。めちゃめちゃ味わい尽くして食べてるというか、隅々まで探究するみたいな楽しみ方をしてる気がする。
お、この唐揚げの衣うま。
「久しぶりの炭酸飲料──美味すぎでしょ」
「たまんない」
「俺、泣きそうだわ」
うんうん、美味いよな炭酸……あ餃子うま。
「────お前も奇特な奴だな、俺みてェなのと酌み交わそうなんてよ……クク」
…………?
自戒の為にこちらに次回予告をさせて頂きたく思います。次回はおそらく、◯◯◯襲来編かもしくは番外編(元の世界曇らせ編)を書こうと思っております。次の投稿がいつかはわかりませんが、お待ちください。
読んで頂き大変ありがとうございます。
作者はまだ酒を飲んだことがありません。