入れる時はエクストラの文字を入れようと思います。
眠い
side.M
灯油らしきランプや少ない窓から光をまかない、日中にしては少し薄暗くも感じる建物の中。木でできたカウンターの奥では制服を着た女性の人々が棚から書類を出したり金貨の数を数えたりしている。
「これが商人ギルドか……」
そこかしこにタグが付けられた商品らしき木箱や樽の山がある。雑多な様に見えて、やっぱり皆んな商売に来てるんだからどこかきっぱり統一された雰囲気を感じる。
「俺ァ嫌いじゃねェな、こーいうのはよ」
『ほう。意外だな、あれだけの力を有していながらも戦闘に明け暮れている訳でもないのか』
「あァ。真面目に働く奴らってのは見てて好感が持てる」
さっきは……ベリアルさんはともかく、フェルが扉をくぐった瞬間にてんやわんや、キャーキャー悲鳴が飛び交う大騒ぎだったな……
そりゃ伝説の魔獣なんてのが突然現れたらそうなるよなあ。会社の中に虎だ熊だってのが現れたらそんな感じなのかな?うわ、そりゃ怖いよ。
「旅をするにはギルドに所属した方がいいってことで来た訳だけど……」
「お待たせいたしました」
ウワッすっごい美人……!金髪ロングタレ目のお姉さん職員さんだ……
「担当のミカエラと申します。本日は商人ギルドへお越しくださりありがとうございます」
「先程はお騒がせしてしまってすみません……外で待たせておくべきでしたかね?」
「とんでもない!こちらも大変失礼致しました。フェンリル様も中にご滞在頂いてなんら構いません」
ホッ。良かったぜ……なんにも言われなかったからまあ大丈夫かなと思ってたけど、さっきのここの狂乱ぶりは凄かったからね。
「それでは当ギルドの案内をさせていただきますね」
「よろしくお願いします」
「──まず、商人ギルドとは国を越えた組織です。当ギルドには5段階のランクがあり…*1…ランクによって登録金や年会費、税金などが変わってきます。徴収した税金は我々商人ギルドが責任を持って各国に納めております」
「ほォ」
「この納金により入国税が免除または軽減され、各国や街間の行き来がスムーズになるわけです。
但し違法な取引を行った場合、ギルドからの除名処分の可能性もございますのでご注意を」
「気をつけます」
「ムコーダ様、ベリアル様はどのような形態でのご商売をお考えですか?」
「そうですね……」
「俺ァ登録は──……
……フン。向田、悪いが離れるぞォ。フェルは向田のそばにいろォ、夜には戻る」
『ム?承知した』
あれ、ベリアルさん出ていっちゃった……まあベリアルさんは商人ギルドに登録するわけじゃないんだけど。にしても急ですね?
「その、本人様がいらっしゃらないと登録はできかねますが……」
「ああ、お気になさらず。それと……今の所店舗を持つ予定はないのでアイアンランクでお願いします」
「かしこまりました」
「こちらがムコーダ様のギルドカードになります。紛失されますと再発行に手数料がかかります」
「おー……」
「紛失にはくれぐれもご注意ください」
新品でピカピカ、封蝋モチーフの紋章や名前なんかの刻印がなされた俺だけのギルドカードだ。
「そうだ、こちらで買い取りはやっていますか?旅の途中に手に入れたものがいくつかありまして……」
「ええ。ものによってはになりますが、やっておりますよ」
なるほど、商人さん達の総本山みたいなところだし目利きがいそうだもんな。ネットスーパーで出す商品……我ながら少し白白しいけど、売れるといいなあ。
「では明日、品を持ってまた来ます」
「お待ちしております。本日はご登録ありがとうございました」
時は少し遡る。
ベリアルがギルドの外に出た頃──
side.B
さっきの奴ァこっちの方向に歩いていったがなァ……勘違いならそれが一番良いぜ。だが、あれは確実に“俺”に対して合図の様な、符牒の様な……ろくでもねえなにかを──
「……臭うなァ」
ケッ。鼻が曲がりそうだぜ……この路地、両隣が空き家の様だなァ。新しくもねえ割に扉の端や近くの地面なんかに人が使っている痕跡が無え──ま、本当に空き家かは知らねーがな。
「恥ずかしがり屋かァ?早く出てこいよ」
「フ……やはり、我々の符号に気付いて追ってきたな。同じ穴の狢とみた」
いるだろうと踏んで影に声を投げ掛けたが、案の定ってワケだ。
「悪いが、俺ァこの辺りに来たばかりでなァ……符牒についちゃただの偶然さ。だが、明らかに嗅ぎ慣れた臭いっつう奴がしたんでねェ」
「フッ。そういうお前もな」
嘘は言ってねェ、
少し暗いが、なるほど民衆には紛れやすい格好してやがる。見ようによっちゃ商人にも冒険者にも農民にも見えるだろォなァ。
「でェ?その狢サンはこんな俺になんの用だよ」
「そう焦るな……ま、早速本題に入ろうか。一つ取引をしないか?」
「取引、ねェ」
この男……いや、男の組織はつまり、俺を裏の人間であると思い込んで取引を持ちかけて来たと。恐らくレイブラッドの影響で変異した俺の魂の影響か……クッソ忌々しい。コイツも、レイブラッドも、……ああ゛ぁッ!!鬱陶しい!
にこやかに笑え、すぐに承諾するな、引き出せ。焦らせろ。自ら13階段を登るまでになァ……
「お前の側にいる男の従魔についてさ。わかるだろ?」
「ほォ〜、中々強欲だな。望みは臓か?ククッ、それとも舌か」
「我々は更に強欲さ……奴の主人としての契約紋が欲しい」
「契約紋ねェ?デカく出たな」
契約紋っつうのはなんだ……?向田は確か額を合わせて契約を為した。特に変わった紋章を得たり身体にそういうモンを浮かばせた様子は無かったハズだろォ。
「もちろん皮膚を切り落とせとは言わないさ……ただ、あのフェンリルを屈服させた手段を教えて貰えば良い」
「なんのことだかわからねェ〜なァ〜」
「フッ、流石に渋るか」
大体読めたぜ。つまりは向田の従魔契約は恐らく通常の契約と大きく乖離している……普通は対峙して屈服させ、それで初めて──そう、服従させる力のある何かをその身に刻むことができるってワケだ。……チッ。
「薬か?武器か?だが、今まで表にも裏にもあんな伝説に通用する代物はなかったハズだ……俺たちがそれをフェンリルに仕込んでから、アンタらが契約を解除してくれれば成立さ」
「出来なくはねェだろ〜なァァ?だが……わかんだろ?それ相応のもんがよ。“それなり”じゃ足んねェぜ」
「フッ、フフッ!勿論だ。フェンリルの力さえあれば例えカルテルを一からやり直すことになっても構わないとボスもおっしゃるハズだ。望みは金か?薬も豊富にあるぞ。秘密裏に仕入れた“森”の奴隷も出せる!ああ、釣り合わないかもしれないが“角”“耳”“髭”もあるぞ」
ペラペラベラベラと……だが、これで組織犯罪だっつうのは確定だ。
「……ククッ、よく喋る奴だなァ。誰かに聞かれてたらどーすんだ」
「! あ、ああ……悪い。少し興奮し過ぎた」
反吐が出る。
「勿論ボスと直接交渉出来るんだろォな?話を反故にされましたじゃあ話になんねェぜ」
「当たり前だろう?着いてこい、本拠地に案内しよう……そこでボスは待っている」
「フン」
作り笑いも疲れるモンだぜ。
「中々でけェ組織じゃねーか。ボスっつうのはやり手のようだな」
「あまりここでは無駄口を叩かない方がいい。行くぞ」
「へいへい」
チッ、思ったよりカルテルがでけェな。これァ相当数の人の命食ってやがる。どいつもこいつも隠す必要がねーとばかりに“裏の顔”っつう面持ちだぜ。
人の脳を溶かす様な薬の匂いがする箱を粗雑なテーブルの上に並べて下劣な笑いをしている奴。血の滲んでいる硬い鞭を腰に差して品の無え笑い方をしている奴。ボロボロの歯を剥き出しにしてラリってやがる奴……
この世の地獄って奴だぜこいつァ。俺の過ごした監獄なんかよりもよっぽど悪辣で気色の悪い野郎どもだ。
「着いたぞ。ボスがお待ちだ、決して粗相のない様に」
ご大層な扉を開けられた先で、見栄だけを張った様な椅子に座った大柄な男が1人。で、その周りに見るからに戦えるぜっつう奴らがゴロゴロ突っ立ってやがる。
「本物を出せよ。替え玉はお呼びじゃねェ」
「……おいおいおい、失礼な奴だな。俺がボスだ、わかるだろう?こんなに態度のデケエ奴は初めてだ」
「茶番はいらねーんだよ。で?取引する気はねェんだな」
「チッ……ボスはこの建物にはいるが、逢わせることはできない」
「フン、やっぱりかァ。話が違うぜ、っつう奴だなァ」
まあ完全にブラフだったがな。デケぇ組織のボスがポッと出の何処のモンともわからねえ奴に会うわけがねェ気がしたんだが……
まァ、的外れになっちまってたら「てめーにオーラが無かっただけさ」とか煽ってごまかしてただろーしな。
「なぜわかったか、聞いても?」
「さあなァ」
「…………そうかい」
まあこの場所に本当にボスがいるってんなら構わねえがな……逃げられちゃあ困る。
「どっかでそのボスさんはこの会話を聞いてるって訳だなァ」
「黙秘させてもらう」
「テメェの発言はボスの発言と同義と捉えるぜェ?」
「そのクソ度胸にはまったく参るね……ああ、それで構わない」
フン、これで確信は取れたなァ。少なくとも、この建物の中にボスは居やがる。さっさと──
「最後に一つ聞こうかァ」
「最後?なんだ」
「フェンリルを手に入れてお前らは何をするんだ?」
「クックックッ……裏社会では顔やメンツが命。フェンリル並みの戦力があれば周りの組織どころか上手く使えりゃ国や世界中の支配だって可能だろう!そうだなあ、その莫大な利益で良い回復薬を仕入れて延々と素材をとりつづけるというのも夢が──」
「はァ……もういいぞ。下衆はどう穿っても下衆だったなァ」
パチン。
この建物全体を覆う規模の、物理的干渉を生むバリアを形成すればよォ──……もう、一人たりとも逃げらんねェぜなァァ……!
「……?なんだ、貴様は?無礼もそこまでいったら──」
「大変です
「はぁ?異変ってなんだ。今は大事な話中──いや、テメェなにしやがった!!」
「気づくの遅ェ〜」
テメェらもう詰んでんだぞ?もっと慌てふためけよなァ〜……まあ気付いてねェだけだろうがな。これでお前ら社会のクソカスどもは俺が許可しねーとこの建物ン外にゃ出れねえんだよ!
フェルを操ってだの対価はやるだの……その対価も民から不当に奪い取った血肉だろォがッ!!
「俺ァ裏社会の人間じゃあねェ──テメェらは自分で勝手に騙されたってワケだ」
「ハァ……!?騙されただと……?生きて帰れるとでも思っているのか?」
「やってることもカスなくせに煽り台詞まで三流と来たかァ。こりゃダメだなァァ!」
「殺すッ……!野郎ども!ぶっ殺せ!」
おォおォそっちの方がわかりやすいぜッおぉ゛ル゛ァッ!!
ドゴシャア!
「!?」「ッ!!」
ケッ!慈悲深ァ〜い俺の魂に感謝するこったな!殺さず甚振って──てめぇらが今まで積んできた悪行の分、罪をその身に刻んでやらァァ!!
「代理の身体が机に埋まっ──ぐごぁっ?!」
「殺ォォ──ぶべらッ!?」
「クソがっ!何故だ?!対価に不満でも──はぐぁっ!!」
「略奪が趣味のダボ野郎共がァ……てめェらの都合だけベラベラ自慢げに唾飛ばしてくっちゃべってんじゃねェ〜ぞッこのクソカス共がッ!!」
骨の一本や二本くらいは覚悟してもらおうかァァ……なに、後で止血くらいならしてやるァァ!!
「クックック……建物の地上部分に居る奴ァ制圧完了、ッと──いけねェな。妄言にストレスが溜まっちまって必要ねェのに素手でぶちのめしちまった」
きちんと甚振ってねェで光線で殺さねェ様に仕留めてりゃあもっとスムーズに終わってただろうになァ──ケケッ、反省反省ェ〜。
さて、後ァ臆病モンのボスだけだが……
フン。穴倉掘ってまで逃げ道作ってよォ、部下の為に立ち回るでもなく自分の財産抱えてひたすら逃走しようたァ中々見下げ果てたクズカスだぜェ。
「くそッ!なんなんだこの黒い光の壁は!ふざけるな、俺はまだッ──」
「おいおいおいどこに行くんだボスさんよォ」
「ヒッ?!おっ、俺の部下はどうした……!」
「全員寝てるぜ、間抜けな面でな」
「ふざ──ふざけるなふざけるな、ふざけるなぁぁ〜……っ!たかが獣一匹なんぞの為に……!俺が築き上げて来た巨城がァァ〜ッ!」
「……典型的なクズめ」
「大体、なんなんだこの壁は!俺の行手を阻むクソ壁がァ!」
「俺のバリアを破りたきゃ──怪獣の十匹二十匹は連れてくるこったなァァ!!」
ドカバギャア!!
「ごぶえッッ!?!?」
寝てろ。面を見るのも台詞聞くのも不快なヤローだったぜ……
「おのれ……カイジュー創造計画まで知ってやがるなんて、なに、者──……」
side.-
その日の夕方、もう夜の方が近いくらいの頃──商人ギルドと街の衛兵は、この街や建物にフェンリルが入ろうとした時以上のどよめきと驚愕と喧騒に包まれていた。
なぜか?……数年来に渡ってこの街──否、この国中を悩ませ、手を焼いていた犯罪組織カルテルの一角が捕縛されたからだ。
それも一人の手によって……
「ベ、ベリアル……殿……」
「おゥ。確かに引き渡したぜェ……カルテル構成員63名」
「本当に、──本当に感謝いたします。確かに驚愕や疑念がなかったかと言われれば首を横に振ることはできませんが……」
「あなたは本当にものすごいことを成し遂げた」
「やめろォ笑えねェ。んなこと言ってる暇があるなら奴隷にされてた奴らの対処に時間を使えやァ」
杜撰な管理で不当に奴隷として扱われていた者──計51名。その内自我を喪失している者、暴行により身体の欠損が認められる者、その他問題のある者……16名。
発見が間に合わず各地に売り飛ばされてしまった者も多数いると押収された帳簿から判明済み。国の対応を待つ。
「商人ギルドからも深くお礼申し上げます。大きな問題として悩まされていたのですが、我々では対処のしようがなかったのです」
「重ね重ねありがとうございます」
「……フン。そっちは悪くねェんだろ?それに俺ァ気に入らねえ奴らをぶちのめしただけだぜェ」
犯罪組織は危険薬密売・違法人身売買の他にも、強盗事件や殺人事件を多数起こしていた。偶然が重なったのだ。ボスが本当に本拠地にいて、広範囲を閉じ込めることができる者が赴いた。
ベリアルは「なぜ今更になって」と薬の影響と絶望に塗れた被害者の目を見た。何も言えなかったし、声をかけることができなかった。
悪人をぶちのめして薄く悦に浸っていた自分への嫌悪感と虚無感に苛まれていた。
彼ら彼女らを自分は救ったのだと、そう思えるはずがなかった。
side.M
「“跳ね馬亭”──ここだな」
商人ギルドでおすすめしてもらった宿……ミカエラさんの話じゃあ、ここなら従魔も泊まれるって話だったんだよね。それにあんな美人さんにおすすめされたら……ねえ?
「こんばんは〜。従魔1、と人が2で泊まりたいんですが」
「いらっしゃい!うちは人と従魔合わせて銀貨七ま──キャーーッ!?」
扉からぬうっと顔を出していたフェルの顔に驚いた女将さんは叫び声を上げたが、快く許してもらって裏の獣舎に案内してくれた。すみません……
「おお〜、ここが獣舎か。この大きさなら大丈夫だなあ」
「……ここか。戻ったぞォ」
「うわっ!って、ベリアルさんですか。驚かさないでくださいよ〜」
「……あァ、そうだな。悪ィ」
『どうしたのだ?少しやつれている様だが』
「なんでも……ねェよ。気にすんな」
「え、でも──」
『フム。あいわかった……がしかし!言えよ、我々に。辛くなった何かがあったのならな』
「──そうですよ!俺たちは旅の仲間でしょ?」
「……フッ、」
「クックックックククク」
「あァ、そォだよなッ」
恐れ多いことに平均評価9以上のこの小説──初めてのガッツリオリジナルに皆様がどう思うか、ですよね……
不評でしたら鳴りを潜めるかと思います。
そして改めて……
新たに☆9評価や☆10評価を下さった読者の皆様、誠に、誠に感謝申し上げます。この小説を出してからの生きる活力は貴方方のおかげで保てています。深く深くお礼を──ありがとう、ございます!!
感想をくださる皆様……!
クスッと笑えるものから唸らされる感想、純粋な応援などが私の1番の執筆の力になっていました。本当にありがとうございました。これからも頑張ろうと思えます。
アンケート、思ったより差がつきましたね……
ムコーダさんは強くなる?あんまり強くならない?
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強くなる(割と本当にちゃんと強くなる)
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あんまり(ムコーダさんらしいですね)