side.M
『おい。昼は我慢してやったが、いい加減腹が減ったぞ』
……そっか、そういえば昼飯は食べてなかったっけな。フェルも飯飯って催促しなかったし、柄にもなく気遣ってくれたのかもしれないな。
「悪い悪い、それじゃ早めの夕飯にしようか」
『うむ』
「良いねェ」
アイテムボックスから色々出そうと思うんだが、誰も見ていないよね?……見渡しても人影はなし。たぶんいけるでしょ!
「
このレッドボアの肉は、もともとアイアンウィルが運ぶって判断した分。つまり旅程の中では使わなかったんだけど、彼らは快く世話になったってこのお肉たちをくれたんだよね〜。
「レッドボア、残ってたんだなァ。そのアイテムボックスっつう……スキル?は、どれくらい入るんだァ?」
「えーとですね、多分……ほぼ無限の収納に近いと思いますよ」
「おォ……マジか。そりゃ便利だなァ」
「これだけは召喚勇者で良かったです」
「俺ァ使えねンだよな」
そうなんだ?ベリアルさんも召喚に巻き込まれたんだと思ってたから、アイテムボックスのスキル……もしかしたら鑑定も?使えないってのはちょっとびっくりだ。
アイテムボックスは入れれば中は時間が停止してるみたいだし、肉の保存にぴったり──
「肉は俺が切るぜェ。今日はどォ切るんだ?」
「おー、ありがとうございます。ステーキにしようと思うんで分厚めに、このお肉のかたちのままで」
「なるほどなァ、了解だぜェ〜」
なんかベリアルさん、野菜もだけど切ることに関しては俺より上手いんだよな。スムーズというか、刃が素早いというか。スパッ!シュパッ!て感じ。
俺が大きいものにギコギコしたり、体重を乗せて切ったりするところを一太刀で切っていらっしゃる。それでいて形をくずしたりはしてないんだよね。すごいね……
「俺は……そろそろアレが食べたい」
そう、米だ。
こっちの食事もいくつか食べたけど、パンだったり主食がなかったり──やっぱり日本人なら米が欲しくなるでしょ!生姜焼きの時もパンだったしね。
とはいえ米を炊くとなるともう一つコンロが必要になるし、土鍋に米に、色々新たに出費も嵩むけど……あって困るものじゃないか!購入ッ!
お米研ぎも終わった。土鍋でやるから、失敗せずに上手く炊けると良いんだけど──
『おいまだか』
「焼くだけだから、ちょっと待てって」
お米に火をかけてる間にステーキの方をやろう。塩と胡椒をパラパラリ。満遍なくふりかけて下味をつけ……
ジュワァアッ……!
「……良いねェ〜」『……ウム』
良いよ良いよ、肉の脂が溺れそうなくらいてらてら溢れ出してるよ!
ちょいレアめだけど、火が通ったらあとは仕上げにステーキ醤油をトトトッと注げば──
「ほら、フェル」
はぐっ!
『ごくん。……美味いぞっ!もっとくれっ』
はいはい、もう次のやつも焼き始めてるってば。
「あっちの鍋の米、俺も貰っちゃダメかァ?」
「え?いやいや勿論良いですよ!多めに炊いてますし、待たせちゃってますしね」
ベリアルさんは日本に行ったことがあるっていうから、食べたことはなくとももしかしたら食べる様子や作る様子を見たことがあるのかもしれない。フフフ、日本のコメは美味いぞぉ〜?
「ほれ」
そうは思いつつもフェルの皿に次々とステーキを乗せていく。
『む?さっきと味が違うな』
ガツガツ食ってるフェルがちょっと不思議そうにしている。
「ふふ、気づいたか。最初に出したステーキにかけていたのはにんにく風味のステーキ醤油。次のがおろし醤油だよ」
『そんなものがあるのか。ステーキジョウユ……』
「ステーキ醤油は色々使えるからな。便利だよ」
で、更に焼けたステーキに──
「今度は玉ねぎ風味。でこっちはバター風味」
『むぐ……同じレッドボアの肉でこうも味が変わるとは、見事なものだ。次は一番最初に食べた味にしてくれ』
「にんにく風味ね。気に入ったのか?」
『うむ』
「匂いが良すぎて辛抱たまらんぜェ」
ふふ、確かにステーキ醤油と肉の焼ける香りは鉄板焼きのソースと同じで恐ろしく食欲を滾らせる。そこにこうやってフェルがガツガツむさぼってたら……そりゃあたまりませんわな。
「さて、そろそろ炊けたかな」
「おォ〜!」
完璧な炊き具合じゃないか!ベリアルさんと俺の分の米を皿によそって──
「この炊き立てご飯にステーキを載せて──」
そこに、
「おいおいステーキ醤油までかけちまうッてのかァ……?!」
「フフフ……刮目せよ!
レッドボアのステーキ丼!」
「おおおォォッ!」
俺とベリアルさんは同時にかっこむ。
「う……」
ふわりと香る米の甘さ、ガツンと走る肉圧の衝撃、その二つを完璧に調和させるステーキ醤油……ッ!
「「 うめぇぇぇっ 」」
「レッドボアの肉と脂に──ステーキ醤油の染み込んだコメが最ッ高にかみあってやがるッ!」
これだよこれ!箸でかっこむ手がとまらねぇ〜!
『……。
美味そうだな。我にもそれをくれ』
「えっ」
『………………(眼力)(無言の圧)』
はぁ……つまり残りは全部フェルの腹行きか……。
「はー食った食った」
ベリアルさんと一緒に食器、フライパンなんかを洗ったり拭いたりしながら食後の歓談とばかりに皆んなで駄弁る。
「今日も最高ォーに美味かったぜ……」
『穀物など我の食べるものではないと思っていたが、なかなか美味かった』
「だろ?やっぱ米が一番だよ」
「肉と米の相性が良すぎンだよなァ」
「米はなにとでも合いますよ!それこそ魚とか」
「おおォ……俄然旅がより楽しみになってきたぜェ」
異世界にいながら米が食えるなんて……ほんと、ネットスーパー様様だね。ハッ!そういえば……犬に玉ねぎってダメなんじゃなかったっけ?
と思ってフェルの方をチラリと見たけど、満足そうな顔で丸まって眠りに入っていた。
「ま、大丈夫そうか……魔獣だしな」
「久しぶりのベッド!今日は国境も越えたし、なんだか疲れたー……と。寝ちまう前に明日の準備をしないと」
せっかくベッドが二つある部屋を貸してもらったけど、そういえばベリアルさんは寝ないんだった。これもご飯と一緒で寝れるけど寝ないのかな?それとも寝られないのかな?
肝心のベリアルさんは、なんだかいつも夜に数十分いなくなることが多くて、今日のそのタイミングが今の様だ。飯の片付けが終わったらなんか飛び去ってしまった。
……ベリアルさん、空を飛べるんだねって今日初めて知ったよ。
「さっき買ったこれを、この世界で買ったこの袋につめて──」
上手く行くといいんだけどな。
side.B
向田に着いてきた代わりに、城に置いてきた世間を舐めたガキ三人──そう、前前世では高校生だとかって言うんだったかなァ。
俺は通算三度目、飛んで城に舞い戻っていた。別に王やガキ共にそれを知らせたりしてるワケじゃねぇが……
まあ、ありのままの国の魂胆やらガキ共が惨状に陥りそうな状況だったりを見極める為に俺は此処に来る。ヤバそうだったら手出しはするが、いっぺんは痛ェ目にあわねェとガキ共は色々とわかってなさそォだからな……はァ。
向田も含め地球人が召喚されてから一週間前後。俺がさんざ脅しつけたからなァ、今までは僅かながらも警戒心を持ってたみてェなんだが……
「バカどもが……」
おっといけねェ、思わず口にしちまった。……ま、はるか上空の夜闇に紛れる俺に気付ける奴がいたなら逆に拝みてェもんだがな。
んで、ガキ共はついに単純なハニートラップに引っかかった。女二人はあてがわれた面と被った猫だけのクズに良い様に騙くらかされ、男も腹黒そォな美女共に持て囃されて満更でもなさそうだなァ。
くっだらねェ。
王やら国やらの魂胆が透けて見える様だぜ……テメェらがそのガキ共の自由やら尊厳っつう首に縄をかけた時が──テメェら自身の最後だ。
チッ……こうも連続して胸ッ糞の悪ィモン見せられちゃあ、いらぬトコにぶつかっちまいそうだ。今日のところはここで退散するぜ。
side.M
朝、気持ちよく目を覚まして俺はまた商人ギルドにやって来た。朝方のギルドは昼というより夕に近かった昨日のここより活発な雰囲気がした。色んな商人さんやらギルド職員さんやらがキビキビ働いてらっしゃるし。
昨日受付を済ませたカウンターを見れば、俺の登録をしてもらったミカエラさんが。
「おはようございますミカエラさん」
「おはようございます」
「昨日言っていた買い取りをお願いしに来ました」
「あら、アイテムボックス」
麻袋に詰めたアレと、木筒に詰めたコレ。カウンターにどさっと置いてミカエラさんに見せた。昨日俺が詰める様子を見ていないベリアルさんが少し不思議そうにしている。
「これなんですが……」
「拝見いたします。……!これは……」
ん?あれ、反応が思ってたより鮮烈だ。「これはとても良いものですね、ぜひ買い取りを」くらいの返答が来るイメージでいたけど、「これは私の手に余るかもしれない」みたいなそんな仕草……
「失礼します、少々お待ちください」
そう言ってミカエラさんはぱたぱたとギルドの通路から扉の奥に行ってしまった。
あれ……マジでやっちまったかな?
『なにを出したのだ?』
「えーと……」
「香辛料、みてェな香りだったなァ。ンなら確かに高く売れそうだぜェ」
え、香りだけでなにかわかるんですか?すごい嗅覚だ……高く売れそうっていうのは?
「地球での話だがァ……限られた地域でしか生産されなかったこと」
『ほう』
「と、塩に胡椒に砂糖は香辛料として重要なこともあるが……なにより天然の長期保存料として、防腐剤としての効能が強力だからなァ」
まァあの量じゃ保存料としてよりかはシンプルに調味料としての質に驚いたみてェだがな、とベリアルさんはその後に続けた。
……そういえば、この世界はまだまだ運流がスムーズでない。陸路は幌馬車に頼っているし、そうなると海路が開拓されているとも思えない。
そうなると当然、長期間にわたる運搬コストも含めて各所で支払わなきゃいけない税金からも流通全体コストは高い……
「そら高ェわなァ」
「うおおぉ……」
「ムコーダ様」
「あ、はい」
ミカエラさんは駆け足で戻って来て、通路の奥のとある扉を指し示しながら言った。
「奥へご案内いたします、どうぞこちらへ」
Oh……。
「フッ」
フェルにはちょっと申し訳ないけど、待っててもらうことにした。ベリアルさんには着いて来てもらうけど、なにを言われるんだろうか?
「怖がりすぎだぜェ」
そうは言っても……ねぇ?え、怖くないの?
カチャリ。
思ったよりも軽い調子の音を立てて木の扉が開いて、俺たちは中に通された。
そこには──
「私は当ギルドのギルドマスターを務めております、ロベールと申します。どうぞお見知りおきを──ささ、どうぞお座りください」
恰幅のいい腹と、ゆたかな髭を鼻下にたくわえた50代に見える男性が座っていた。朗らかな笑みで……
うあ〜っ、
「良ィ腹してんなァ。あんた、やる商人の様じゃねェの」
「ほっほっほ、そう持ち上げてくださいますな」
俺もベリアルさんも取り敢えず対面の椅子に座ったけど、ぽっこりお腹のこと言って褒め言葉になるの?!?なんで??*1
ミカエラさんが厳かに塩の袋と胡椒の木筒をテーブルに置いた。そして、ギルドマスターが眼鏡をかける。
「拝見します。……ふむ」
蓋を開けて胡椒をまじまじと覗いている。
「ふむ……」
「向田ァ……顔に不安が出すぎだぜェ、落ち着けよ」
はっ!そ、そうだ。こんなに眉を顰めてちゃ買ってもらえるものも買ってもらえないかも。堂々としなくちゃな!
「フ──……。……私も長年商売にかかわってきましたが、」
ゴクリ。
「これほど品質の良い塩と胡椒は初めてです。濁りもない真っ白な雑味のない塩、鮮烈な香りと味の胡椒……素晴らしいとしか言い様がございません」
おおっ!
「それでは……」
「是非とも買い取らせていただきたい。しかし……これほどの品、一体どちらで入手されたのですかな?」
はい、ネットスーパーです!異世界産の塩に胡椒で、味や品質は保証いたします!──なんて言えるワケないよな。ちなみに塩は5キロに銅貨五枚で、胡椒は100グラムで銅貨五枚で仕入れましたー、とかね。絶対言えない。
「フッ、旅の道中でちっとなァ。悪いがこりゃギルマスにでも言えねーぜェ」
「私が野暮でしたな。商人がおいそれと仕入れ先を漏らすわけにはいきません」
「ククッ」
余裕だあ、カッケー……
「それで、金額の方なのですが──塩が金貨四枚で。胡椒が金貨十枚……どうでしょうか?」
「…………え゛?」
う、嘘だろ?元値2つ合わせても銀貨1枚程度だっていうのに──合わせて金貨十四枚??
いやいやいや、元値が元値だしそんな吹っ掛けると申し訳ないっていうかうーんでもお金はあるだけあった方がありがたいっていうかいやでもさそれでも罪悪感の方が勝るっていうか──
「だからァ声や態度に出すなってェ」
「あハイスミマセン……」
「──……やはり低すぎますか………」
「え?」
「では二つ合わせて金貨十五枚ではいかがですかな!?」
上がった?!
あっやべ、渋ってると思われたのか?
「ならば金貨十六枚」
「あ、あの」
また上がった!ヤバいヤバいロベールさんの高揚が止まらない!
「くっ……それでは二つで金貨十七枚!これ以上は上げられませんぞ!!」
「は、はいぃっ!!それでいいです!」
「クフッ、クククフッあー面白ェ」
はぁ、はぁ……ギルドマスターと俺は二人して肩で息をつきながら白熱したこの空間の熱を逃していく。……まあ俺はひたすら慌ててただけだけど……
「ククククッ、フッフッフッククク」
ベリアルさんはいつまで笑ってるのさ……てか知らないで見るとめちゃめちゃ怖いですよ。めっちゃ悪徳な商人みたいで。
俺はその場で金貨の乗ったトレーを差し出され、それを袋に詰めたそれを手に持って──ずしっとしたお金の重みを感じて一息ついた。これでしばらくはなんとかなりそうだなあ。
感想めっちゃ嬉しいです。ランキングから外れても感想を寄せてくださる読者様がいらっしゃって、それが活力となっております。
ずっと本州では暑い暑いと、秋がないと言われていましたのに近頃急に寒くなりまして、体調管理も難しい気候ではありますが、皆さまどうか病やけがのない様にご自愛ください。
ムコーダさんは強くなる?あんまり強くならない?
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強くなる(割と本当にちゃんと強くなる)
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あんまり(ムコーダさんらしいですね)