魔物と似た様な扱いでいけそうな怪獣と違って、喋るし皆んなと絡む奴を……悩みます。
side.M
いやあ、塩と胡椒が金貨十数枚になっちゃった……ぼろ儲けすぎて何度も効く手じゃないだろうけど、まとまったお金を入手する手段ができたのは心強い。
『昼飯は肉がいい』
「つってもよォ」
「そうだぞ。肉は昨日に全部ステーキにして食べちゃっただろ」
『お主のスキルで召喚できぬのか』
「ネットスーパーは召喚じゃなくて買い物なんだよ。塩と胡椒で稼げたとはいえ、肉ばっかり買ってたらキリがないし……どっちにしろ狩りには行ってもらわないといけないんだけど」
冒険者ギルド──なんだか見た目だけなら商人ギルドに似ているような気がしなくもないけど、どこか建物全体が傷んでいるようにも見える。
やっぱり商人と違って戦いに身を置く人たちは荒っぽい人が多かったりするのかな?少し怖気付きながら俺は引き戸の取手を掴んだ。
「まずは先にこっちだね」
「
『ム……お主の“料理”の肉には確かに骨や皮、羽はなかった』
「食べられなくはないんだろうけどね……進んで食べたくはないかな」
開けた扉の向こうでは、色んな武器や防具に身を包んだ人々の話し声や物音でガヤガヤざわざわと喧騒が渦巻いている。剛毅な笑い声も、
にしても冒険者なんて因果な職業、よくやっていけるよな──俺も今からそれに登録しなくちゃいけないんだけどさ。……オホン、あんまり気乗りしないけどこれもフェルの食料事情のため!
「おい、あんまビビらすなよなァ」
『フン。これしきで慄く方が悪い』
「お前さァ」
──やっぱり、すごく浮いてるよなぁ……。
カモの権化みたいな見た目の俺が、強そうな魔獣と強そうな人連れてんだもんなあ。手を出そうにも出せないだろうね。
受付窓口にて。
「冒険者の登録はこちらの用紙に記入を。書けないところは空欄で結構です」
「おォ。……向田も登録しとくかァ?」
「え、俺ですか?うーん」
「俺はアイテムボックスなんてねェからなァ、魔獣の持ち込みは頼みたいんだが」
「なるほど、じゃあ二人分でお願いします」
「ハァ……はい」
『この娘、なかなか度胸があるな』
「荒くれが多いンならこれくらいが丁度良んだろ」
結構失礼なこと言ってないか?ま、まあ確かにここの受付嬢はあんまり愛想良くないけどさ……美人さんなのに勿体無い、──いや美人さんだから許されてるのか?
「名前と武器……は後で買うとして。ベリアルさん、おすすめの武器とかありますか」
「いくつか思いつくが……一推しは棍だぜェ。教えやすいし、剣よりァ初心者が扱いやすい」
「じゃあ棍で。あとは従魔がいる、と……」
書き終わったぞ。
「記入が済んだらこのカードに血を一滴垂らしてください。登録料は一人銀貨5枚になります」
そう言って針とカードを渡される。うーん、ちょっと怖──……あれ。ベリアルさんて血でるの?前にチョロっと聞いた時には人の身体じゃないだとかなんとか……
「…………」「………………」
どうすんの?
「要は濃い魔力がありゃ良ンだろ?いや、そうであってくれ」
「ウワッ、どす黒い」
ベリアルさんのカードがものっすごく真っ黒にブワッと染まっていく。インクの染みの比じゃないくらい、なんというかカードが喰われてるんじゃないかってくらいの──
「……──向田、早くやっちまいなァ」
「あ、ハイ」
イテッ。
「なんこれ黒……これで登録完了です。ランクは一番下のGランクからで、受けられる依頼はF・Gランクのものとなりますのでご了承ください」
なるほど。
「………………」
「………………まだ何か?」
如実に嫌そうだな。
『此奴、ムコーダよりも顔に出るのではないか?』
「あのさァ思っても言うんじゃねェよ」
「ぎ、ギルドの説明はないんですか?そのGとかFとか」
「ハァ……」
如実に、あからさまに滅茶苦茶嫌そうな顔をありありと浮かべているな。
「……冒険者ギルドは国を越えた組織です。冒険者のランクはGからSまで、受注可能な依頼は自分のランクかそれの前後1ランクまでです」
「無謀な依頼を受けない為に、低ランクの食い扶持を潰しちまわねェ為にかァ」
「依頼を失敗した場合は違約金が発生します。あとランクによって定められた期限内に依頼をこなさなければギルドの登録が抹消され、再登録時は再びGランクから。殺人や略奪等の行為が確認された場合はギルドからの除名。その他行為、ケガ、死亡について当ギルドは一切責任を負いません。以上です……もういいですか?」
「あ、ありがとうございました」
つまり冒険者はすべてが自己責任ってことだね。
『用は済んだか』
「ああ。ついでに依頼も受けていこう……商人ギルドと違って、登録抹消は気をつけなきゃな」
「まァ最悪解体さえ出来りゃ良ンだ、重く捉えすぎんなよォ」
確かに。躍起になって無理しちゃあ本末転倒だよな!
「お、こーやって壁に貼られてる依頼書を剥がしゃ良ィのか?」
「そうみたいですね。えーと、GランクGランク……」
お、これなんか良いかも。薬草採取依頼!テンプレだけど、本当にこういうのってあるんだなあ。
冒険者に供給を任せちゃったら採り尽くしたり安定しなかったりするような気がするんだけど……栽培とかしないのかな?
「まあいいや。キアユ草5本で銀貨1枚、マージュ草5本で銀貨1枚と銅貨3枚。……キアユ草は生息地が街から近いな、こっちにするか」
依頼書を剥がして受付に渡し──
──俺たちは街の外じゃなくて、街の中の商店が並ぶ通りにやってきていた。その中でも特に鍛冶屋や武器屋が立ち並ぶ一角。
カーンカーンと金属を打つ音や、自店舗の作品を売り込む声が響いて活気に溢れているように感じるな。
「おお……ファンタジー」
俺は、ザ・異世界を感じる無骨な剣なんかを手に取りつつ、ベリアルさんと一緒に良さげな棍を探していた。
『武器など用意せずとも、我らが此奴を守ってやれば良いではないか』
「俺らが狩りに行ったり目ェ離したりしてる時ゃどうすんだ?向田はまだ狩りにはついてけねーんじゃねェか」
「フェル達がいない時に何か武器がなきゃ無防備すぎるだろ」
『む?結界を張れば良いではないか』
…………は?
「ほォ、結界ね。それァ持続的に張り続けられるもんなのか?」
『うむ。四六時中、年中ぶっ通しというわけにはいかんだろうがな』
「フゥン……だが、聞く限り中々便利そうじゃねェか。俺ァバリアは使えるがもっぱら一時的な盾みてェな使い方しかしねーんだよなァ」
『バリア?結界のことか……とはいえそういえば、おヌシには結界を容易く破られていたのであったわ』
「あァ?……あー、そォだったな」
いやいやいやいや話についていけてないんですけども。おま、そんな魔法使えるの?初耳なんですけど……あっそうだ“鑑定”!
【名前】フェル
【年齢】1014
【種族】フェンリル
【レベル】906
【体力】9843
【魔力】9481
【攻撃力】9036
【防御力】9765
【俊敏性】9684
【スキル】風魔法 火魔法 水魔法 土魔法 氷魔法 雷魔法 神聖魔法 結界魔法 爪斬撃 身体強化 物理攻撃耐性 魔法攻撃耐性 魔力消費軽減 鑑定
【加護】風の女神ニンリルの加護
…………げぇ……
凄すぎて一瞬言葉を失ったぜ。下手に鑑定結果がわかる分、『圧倒的な差』が可視化されてどれだけすごいのかがダイレクト飛び込んできた。待って、ベリアルさんってもしかしてこれより強いんですか???
レベルとか体力だとかまさに桁外れだし、女神の加護なんてのもあるし──というか神とかいるんだ??前に千年生きてるぞとか言ってたね、やっぱりあれマジだったんだな。普段は食いしん坊キャラでしかないのに……
「フェル……お前もすごい奴だったんだな……」
『何を当然のことを言っておるのだ』
「いやいや、俺は結界とか魔法だとかそんなもの使えないからさ。なんか差がはっきりすると改めてっていうか」
『この世界に来たばかりなのだろう?そうそう追い越されてたまるかという話だ。
「魔法っつうのは俺にも使えるモンなのかァ?」
『ム……おヌシの身体は魔力で出来ているのであろう?出来ぬ道理はないと思うがな』
そりゃそうか。普通は見えない、空気みたいな魔力ってものが歪んで濃くなって可視化されるくらいの魔力の塊が今のベリアルさんの身体なんだっけ?
おかしいよな、なんで俺の周りにはチートな奴ばっかり居るんだ?それなのに俺は──いやネットスーパーも別方向にチートか。
「お、これなんか良いンじゃねーか?向田。持ってみろよォ」
「あ、ハイ……へえ」
俺には武器の違いなんてわからないけど、俺の身長と同じか少し大きいくらいのこの棍。ささくれが手に刺さるわけでもないしツルツル滑るわけでもなく、石突で殴られたら鈍重ですごく痛そうだ。
「変に軽いわけでもないし、重すぎる感じもしないですね」
「良ンじゃねェの」
『刃が付いていない武器か……どう強いのか想像がつかんな』
おおー、税金なしでちゃんと街の外に出れたぞ。ギルドカードがあれば大丈夫だっていうのはわかっていたけど、やっぱり初めては不安があるものだろ?
「あァ゛〜…風が気持ちいいなァ」
「清々しい気分ですねえ」
『風は我の母なる存在でもあるからな、当然だ』
「あン?何の話だ」
「あ。……フェルはなんか風の女神様からの加護ってのを貰ってるみたいで」
「神かァ。本当の神か、とある種族が崇められてるみてェなモンなのか気になるところだぜ」
『ム、無礼な。女神様は女神様だ』
「居たら数百万年超えのご長寿ってワケだろ?そォなると俺ら以上だなァ、つってな」
なるほど。地球だと人類は700万年くらい前に原始人が生まれた(と言われている)んだっけ?その頃から神がいるならそりゃあご長寿さまだね。
「人の信仰から神は生まれるのか、神がいるから信仰が生まれるのかわかんないですね」
「ン……そういう考えもあんのか」
『フン、不敬なやつらよ』
「じゃあ俺たちは薬草を摘んでるから、フェルは獲物をとってきて」
『分かった』
この付近で獲れる魔物ってなんなんだろう。美味い奴らが多いと嬉しいんだけど……
「おォ、そうだフェル。試しに向田に結界張ってみてくれねェか?」
『ム?しかしおヌシは残るのだろう』
「試しだよ試しィ」
『フム、まあよかろう。我がいない間に何かあっては困るからな──そら』
キィン!
おお!俺の周りに光るドームみたいなのが一瞬見えたぞ、これが結界か……ありがたやありがたや。
『これならある程度の魔物に出くわしても傷一つつかないはずだ』
「ほォ〜」
『それでは行ってくる。昼の食事は用意しておけ』
……一瞬尊敬したけど、食いしん坊キャラは健在だったね。
「もう見えんぜ、フェルのやつァ側から見りゃやっぱ速えなァ」
「ベリアルさんも相当速いんじゃ……さて、俺たちも始めますか」
「キアユ草ってのはどんなんだったかァ」
「いやまあ、鑑定すればわかるんで実際のところは引き抜くだけなんですよね」
「ほォ、つくづく便利だな。ちと拍子抜けだが」
まあね。あ〜あ、元の世界でもこれが使えてたらなー……いや、あんまり役に立たないか。携帯でなんでも調べられるもんな。
「雑草ばっかりだなァ。薬草が育つ環境には思えねェが」
「うーん……雑草の中でも偶々薬になる成分だったんですかね」
「なるほどなァ」
にしても雑草ばっかりだね……おっ、キアユ草だ。
「キアユ草ってアザミに似てるんですね」
「5本で1組だったなァ、あと4本だぜ」
「鑑定が便利すぎる──お、マージュ草」
「俺のする仕事がねェなァ〜」
よーし、大漁大漁!
「あ、纏めてくれてたんですか?ありがとうございます」
「それくらいはさせろってんだァ逆に。つーかそろそろ飯作るんだろォ?今日は何にすんだ」
「肉は今切らしてるんで、なるべく安く仕上げます。ってことで……」
玉ねぎはまだ残ってたはずだから、これとこれと──
ゴトンッ。
「おォ?これァミンチ肉か。この缶詰は……トマト?」
「そう、ミートソーススパゲティにします」
「ォオ〜!良いじゃねェのっ」
ベリアルさんも中々朗らかに笑う様になったよね。こっちの世界に来たばっかりの頃はなんというか皮肉げな……難しい笑みだった。憎々しげなやつね。良い変化だよね?
「水は先に沸かしておきます」
「デカい鍋が欲しいなァ」
「寸胴鍋とかね」
「ズンドー鍋?」
ベリアルさんが玉ねぎをみじん切りにしてくれてるんだけど、滲みたりしないのかな?魔力の身体って便利だよね。
「玉ねぎはよォ、多めに切っても良いかァ?」
「?良いですよ」
「やりィ。肉も好きだが、なんか野菜っつーのが美味くってなァ」
へえ〜、ベリアルさんは肉より野菜の方が好みにあったのかな?フェルとはまた違うんだね。肉と比べて味が染みやすいとか?それとも食感かな。
「じゃあ、焦げない程度に透明になるまで炒めてもらって良いですか」
「おォ、任せなァ」
挽き肉と缶詰をもう開けておこうかな。適量よりは大分多めだけど──
「挽き肉を投入〜」
べっ、と塊で入った肉をほぐしつつ。トマト缶を投入して、コンソメを混ぜた水で水分を足します。
フェルが帰ってくる前に仕上げられるかな?
感想ありがとうございますッ!!
背中を押してもらうどころか、手を引いて頂いている心地です。沢山の感想をいただきまして、返答が遅れることが多い(私自身が返信したくてやっていますのでお気になさらず)ことが多いのですが、皆様がくださるコメント達はその日のうちにすぐ楽しませて頂いています。
ありがとうございます。
追記-「荒くた」が方言であることを知りませんでしたので修正しています
ムコーダさんは強くなる?あんまり強くならない?
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強くなる(割と本当にちゃんと強くなる)
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あんまり(ムコーダさんらしいですね)