傲慢たれ罪の王《リメイク》   作:もちゃもちゃの玉ねぎ

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一瞬の静寂の後、伊邪那美が動く。

片手を振るうと風が無数の刃となり、凄まじい速度で襲いかかる。

諸人ならば一撃にでも触れた瞬間身体が両断され、絶命するであろう。

 

だが、黎斗は一歩も動じず、砂煙の中に立ち続けた。

轟音が響き、砂塵が舞い上がる。やがて煙が晴れると、そこにいたのは無傷の黎斗だった。

 

「小手調べにしてもぬる過ぎないか?」

無傷のまま立っていた黎斗が伊邪那美に嘲笑を向ける。

 

「次はこっちから行くぞ」

その言葉の直後、黎斗の内から呪力が溢れ出る。

空気が震え、雷光が皮膚を焦がすように弾ける。

 

「『統べろ、雷纏いし天剣、汝が罪を焼き払え』」

聖句を告げる。発動した権能は賢人議会により【統べる雷剣】と名付けられたもの。まつろわぬ武甕槌命により簒奪した黎斗の第二の権能。

 

「まずは小手調べだ」

聖句を告げた後、黎斗の手には一振の直刀が収まっていた。

その剣を一振りすると雷の斬撃が放たれる。黎斗が放った雷の斬撃は、地を這う獣のように唸りながら伊邪那美へと突き進んだ。

一瞬で距離を詰める電撃の刃。だが、女神は眉一つ動かさず、ただ指先を軽く払った。

風が旋回し、嵐が唸る。

雷と風が衝突し、天地を裂く閃光が神社の境内を破壊する。

 

「其方こそ、この程度の攻撃で妾を倒せるとでもお思いですか?」

伊邪那美は先程の黎斗へのお返しとばかりに嘲笑を浮かべる。

 

「はっ!舐めるな。小手調べと言っただろう。」

伊邪那美の言葉を一蹴し黎斗は再び剣を構える。強大な呪力が剣に集まり、剣を覆った。

 

「『雷統十征』」

黎斗が踏み込む。

刹那、一瞬にして雷を纏った十の斬撃が伊邪那美に襲いかかる。

雷統十征、それは黎斗が生み出した至高の剣技の一つ。それほ十連撃にして十連撃にあらず、それは完全なる同時に十の斬撃を繰り出す技。

コンマ1秒でも斬撃が来るスピードに差があるならば至高の域に至った戦士には防がれてしまう。故に生み出した極技。いくら摂理を超越した神であっても全てを防ぐ事は不可能と言っていい。

 

「....ほう?」

黎斗が少し驚いた声をあげる。なぜなら伊邪那美にかすり傷1つ付ける事が出来ていなかったからである。

 

「どうやった?」

興味津々と言うように黎斗が問いかける。

 

「我が子が妾を守ってくれたのです。そして、其方によって尊き我が子の生命が十も失われました、」

伊邪那美の周囲には凄まじい血と、生物の残骸が横たわっていた。

 

「許せませぬ、其方風情が我が愛し子の生命をこうも容易く。」

伊邪那美は憎悪の瞳を黎斗に向ける。

 

「何故俺を睨む。お前のガキを犠牲にしたのはお前自身だろ。俺を恨むのはお門違いだ。」

黎斗は心底鬱陶しそうに伊邪那美を見る。

 

「流石は神殺し、傲慢不遜、其方にはやはり死では足りません!!其方の総てを辱め、我が子達への弔いといたしましょう!!」

伊邪那美の周囲の空気が震える。

 

「おいでなさい。我が愛し子達!」

その言葉と共に、伊邪那美の周囲で地面がうねり、裂け、生々しい影が這い出した。

 

初めに現れたのは、鹿の姿をした異形。角は花と骨で編まれ、眼は深い穴のように黒く、踏むたびに大地が枯れ、新たな花が咲く。

次に、清い水流が蛇の形を成しており、その巨大さは神社の本殿を簡単に包み込めるほどだ。

そして群れを為す狼の群、だがその毛並みは通常とは違い黒い影のようなもので覆われ、口からは炎が漏れる。どれもが母たる伊邪那美が産み落とした神獣であり、一体一体が脅威の力を誇る。

 

「おいおい、ここは動物園か」

しかし黎斗にとっては、いや神殺しは別だ。

確かに、諸人にとって神獣は己の命運全てをかけて立ち向かわなければならない脅威の相手である。しかし神殺しの相手には些か役不足である。彼らにとっては片手間に片付けてしまえる程度の相手でしかない。

 

「この程度の神獣を幾ら揃えようと俺の相手足りえない。」

 

黎斗が消えた。

いや、速すぎて見えなくなったと言った方が正しい。

次の瞬間には、鹿の背に雷閃が走る。

斬撃と同時に雷鳴。

その身を両断された鹿の神獣が咆哮を上げ、地を揺らす。

 

だが、首の断面から花が咲いた。

白い花弁が、血に染まりながら狂ったように広がる。

その中心に新たな頭が出現する。

 

「……やれやれ。再生型か。」

黎斗は額を押さえ、舌打ちする。

「面倒で奇っ怪な性質しているな。」

 

「我が子達を舐めないでいただきたい。この子達には我が力の一部を託してあります。」

伊邪那美が黎斗の疑問を言い当て答える。

 

「なるほどな、まあ退屈はし無さそうだ。」

黎斗の足元で影が動いた。

黒狼の群れが地を這い、獲物を狩るように包囲を狭めていく。

その毛皮は闇のように光を吸い込み、口から漏れる炎は地を焼く。

 

「群戦か、悪くない。久々に体が温まる。」

 

黎斗は微笑み、剣を構える。

その瞬間、狼たちが一斉に跳ね上がる。

影狼は牙に炎を纏い、黎斗目掛けて襲いかかる。

 

「『雷統瞬斬』」

言葉と同時に、黎斗の全身から雷が奔った。

十、二十、百もの雷光が瞬き、彼の姿が完全に視界から消える。

次の瞬間、雷鳴が重なり、狼の群れが一斉に爆ぜた。

 

焼け焦げた肉の匂いが風に混ざる。

だが、伊邪那美は笑っていた。

 

「終わりではありませぬよ。」

 

焼けた肉塊から、黒い影が滲み出る。

その影は互いに混じり合い、再び狼の形をとる。

 

「なるほどな、この狼共は影、実質的な物理無効、そして不死。」

再生する影狼達を見ながら呟く。

「その通りです。この子達には我が回帰の権能を混ぜ、産み落としました。」

出産、それこそが伊邪那美の本懐。国を産み、数多の神を産んだこの神の子供が普通の神獣と違うのも道理だった。

 

「面白い!!だが不死も永続的では無いだろう。絶え間なく殺し続ければいつかは崩れる」

 

「させるとお思いですか?」

伊邪那美の声と同時に全ての神獣が技を展開する。

鹿の神獣が嘶き、大地を踏み鳴らす。

その蹄が触れた場所から、蔦と花が噴き上がり、刃のように空間を切り裂く。

狼たちは影の中を跳躍し、黒炎を吐き散らす。

蛇の神獣は巨体をうねらせ、その巨大な口を広げ突進する。

そして、伊邪那美自身が両手を広げる。

その周囲に数多の呪文陣が現れ数多の呪術が同時に発動し、天地が悲鳴を上げる。

圧倒的質量の同時攻撃、それはもはや天変地異といっても過言では無い。

 

「『我は天聖にして堕天の王。天に座し魔を祓い、天を拒み魔に座する。』」

黎斗が聖句を言祝ぐ。【天聖にして堕天】と名されるその権能は黎斗の原初の権能。

まつろわぬルシファーより簒奪した二つの側面を持つ権能である。

 

「『魔に座し聖を滅ぼせ。』【堕天たる我が身】」

黎斗の右側に三枚の漆黒の翼が現れ、黎斗の呪力が重厚的で恐怖を感じさせるものに変質する。

 

「下らん児戯に付き合ってられるか」

黎斗に向かう攻撃が全て掻き消える

 

「一体何を、」

 

「簡単な事だ消滅させた。」

 

「なるほど、その権能の力ということですか。面倒ですね」

 

「飛べ」

漆黒の翼から無数の羽が神獣達目掛けて飛び立つ。

その速度は数百キロにもなり、避けることは不可能。

羽が身体に突き刺さり、神獣達が倒れる。

 

「無駄だと言っているでしょう。この子達は不死、いくら攻撃をしようが死にはしません。」

伊邪那美が黎斗のしていることが無駄だだと言うように嘲る。

 

「どうだろうな、?」

 

「...なっ?!」

黎斗の言葉を聞き、伊邪那美が神獣達を一瞥し、その後瞳が見開かれる。倒れ伏した神獣達が一向に立ち上がらない。再生するはずの身体は段々と灰になって消えていく。

既に息絶えていた。

 

「どうやって、我が不死を分け与えた子供達をどうやって!!」

伊邪那美が吠える。愛する子供を簡単に殺された事もあるが、自身の権能を簡単に破られたことに最も驚嘆していた。

 

「喋ってばかりで防御がお留守だぞ」

黎斗の姿が一瞬で掻き消えたかと思うと、次の瞬間には伊邪那美の目の前にいた。

 

「なっ」

刹那、黒閃が走る。

伊邪那美の身体を斜めに切り裂くように、黎斗の持つ剣から黒の斬閃が奔り、空間そのものを断ち割った。

 

「ぐっ……!」

伊邪那美が呻く。おびただしい血が流れ、地を染める。

しかしその血は地に落ちるよりも早く、怨嗟と呪詛の黒煙へと変わり、空間を腐食させていく。

 

「俺の攻撃に腐食属性なんかはついてないはずなんだが、」

黎斗は大地を腐食させた血に疑問を覚える。

 

「.....許せませぬ、いいえ、許さぬ!絶対に許さぬぞ!!」

伊邪那美の子供を殺されても崩れる事がなかった口調が崩れる。その瞬間にも血ほ流れ続け大地を穢す。その血には憎悪と瘴気が入り交じっている。

 

「この姿にはなりたくなかった...このような醜い姿に..!」

伊邪那美が変質する。荘厳で清廉で美しかった姿が変化する。

その身体に異変が起きる。

白く輝いていた肌が黒ずみ、腐り落ち、血肉が溶けるように流れ落ちた。

荘厳な装束はたちまち灰のように崩れ、代わりに禍々しい布のような呪が身体を覆う

 

「我が名は"黄泉津大神"冥府と死を司る神である。」

伊邪那美の声が低く響くたび、世界そのものが震える。

空は裂け、黒い月が姿を現す。地面は溶け、あらゆる生命の鼓動が鈍くなっていく。

かつて数多の生命を産んだ母なる神は、今や死を撒き散らす災厄の化身へと変貌していた。

その立ち姿はもはや神聖ではなく──禍々しく、そして圧倒的に美しかった。

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