傲慢たれ罪の王《リメイク》   作:もちゃもちゃの玉ねぎ

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「我が名は”黄泉津大神”冥府と死を司る神である。」

伊邪那美の声が低く響きわたる。その声は大地を揺らし、天空を裂き、世界そのものが死の領域へと変貌したことを告げていた。空には黒い月が浮かび、花窟神社の境内は瞬く間に黄泉の国の様相を呈する。美しかった伊邪那美の肌は爛れ、肉は腐り落ち、禍々しい装束と瘴気がその身を覆う。しかし、その醜悪さの裏側には、原初の死の神としての圧倒的な美しさが宿っていた。

黎斗の顔から嘲りが消え、真剣な笑みが浮かぶ。

「伊邪那美、やはりお前はそうでなくては。大地母神などという、下らん仮面を被っている女に用は無い。ようやく、神と呼ぶに相応しい姿になった。」

黎斗は右側に現れていた漆黒の翼が主の感情を現すように羽ばたく。三枚の翼は、夜空の闇よりも深い漆黒を纏い、凄まじい呪力を撒き散らす。

 

「その姿、その力――存分にこの俺を楽しませろ。」

黄泉津大神となった伊邪那美は、憎悪と歓喜がない交ぜになった咆哮を上げる。

 

「貴様如き傲慢な小童に、妾の全てを受け止められると思うな! 我が子を殺した罪、その総てを背負い、永遠に苦しみながら死に絶えよ!!」

黄泉津大神が右手を振り上げた。その手から放たれたのは、怨嗟と呪詛が凝縮された「死」そのものを纏う黒い奔流。触れただけで命の灯が消え失せる、純粋な死の権能である。

 

「『虚粛剣嵐風』」

黎斗は剣を上段に構え、雷光と共に一瞬で空間を断ち切る。雷剣から放たれたのは、第六天波旬より簒奪した第四の権能を剣技に落とし込んだ絶技、その第四式。虚空を操る力と雷の切断力が融合し、死の奔流の「概念」そのものを削り取る剣嵐を創り出す。

黒い奔流は消失し、黎斗は一歩も動いていない。

 

「…ッ!この我が放った死の奔流を、一瞬で虚無に変えただと…!」

黄泉津大神は驚愕に瞳を見開くが、即座に次の手を打つ。その腐り落ちた指が地面を指し示すと、大地がさらに深く裂け、黄泉醜女が這い出した。その姿は醜悪な女の姿をとり、全身から黄泉の瘴気を噴き出し、狂ったように黎斗目掛けて突進する。

 

「貴様はまだ、妾の質量の暴力を理解していない!!妾は黄泉の統率者!我が軍勢にひれ伏せ!」

黄泉津大神の背後には、醜女に続き、八つの雷鳴を司る八雷神が顕現した。大雷、火雷、黒雷など、朽ち果てた伊邪那美の肉体より生まれいでたとされる八柱の神達が、伊邪那美の眷属神として顕現した。それぞれが異なる性質の雷を纏い、黄泉津大神の命に従い黎斗を取り囲むように布陣する。

 

「黄泉醜女よ!あの傲慢な小童を引き裂け!八雷神よ、その神雷をもってその命脈を焼き切れ!!」

黎斗は一瞬、その巨大な質量に圧倒されるが、すぐに口角を吊り上げた。

 

「面白い。確かに質量は暴力だ。だが、速度は全てを凌駕する」

「『天翔る蒼瞳』」

黎斗の左眼が、第三の権能である【輝ける開闢の瞳】の第四能力を発動し、神速の蒼色輝く。ホルスより簒奪したこの能力は、黎斗に神速を付与する。

瞬間、黎斗の姿は再び視界から完全に消滅した。

八雷神の雷が黎斗のいた場所を焼き尽くす一瞬前、黎斗は既に群れを成す黄泉醜女の只中に飛び込んでいた。

 

「『御空飛斬』」

雷剣が唸りを上げる。天魔神功第一式。虚空を操る力による絶対的な加速と雷剣の切断力が組み合わさった神速の剣技。一閃ごとに、黄泉醜女は黒い煙を上げて霧散していく。

しかし、黄泉醜女は黄泉津大神の呪力により無限に湧き出す眷属であり、倒しても倒しても、地を這いながら数を増やしていく。

 

「無駄だ神殺し!その醜女たちは黄泉の呪力により無限よ!貴様の剣技で捌ききれるものでは無い!!」

黎斗は舌打ちし、空中に跳躍する。

 

「無限?ならば、無限を凌駕する一撃で全てを焼き尽くす!!」

黎斗の身体に、雷剣と堕天の権能の呪力が集中する。雷光と漆黒の闇が混じり合い、一振りの剣に収束していく。

 

「『連閃魔剣霊』」

天魔神功第二式。連なる雷の刃が、魔を滅する漆黒のオーラを纏い、百を超える斬撃となって波状攻撃を仕掛けた。その斬撃は黄泉醜女の群れを根こそぎ薙ぎ払い、無限に湧き出る黄泉の呪力を物理法則を無視した破壊力で一瞬にして消費し尽くした。

 

「我が子を!」

黄泉津大神の怒りが頂点に達し、その全身から凄まじい瘴気が噴き出す。

怒る母を横目に八雷神達が黎斗に向かい突撃する。

 

「グルルルグガァ!!」「ギシャー!!」

雄叫びを上げ、自身の持ちうる力を全て使い、母の敵を殲滅しようと雷撃を放つ。

大雷が放つ重厚な黒鉄の雷が、重力そのものを伴って黎斗の真上から叩きつけられた。それは雷というよりも、質量を持った鉄塊の落下であり、大地が悲鳴を上げて沈下する。同時に、火雷の灼熱の赤雷が黎斗の退路を断つように地面を焼き、黒雷の漆黒の呪雷が光を吸収しながら黎斗の影を狙う。

八雷神の複合的な雷撃は、黎斗が逃げ場を失い、重圧に潰されることを目的としていた。

 

「チッ、蜥蜴の分際で、連携だけは覚一丁前だな。」

黎斗は空中で身を捻り、天翔る蒼瞳の神速を展開しつつ右目に【輝ける開闢の瞳】の第一能力『見透す銀瞳』を展開する。『見透す銀瞳』の能力はその名の通り”見透す”こと、敵の弱点を見透す。しかし最大の能力、それは未来視。未来視の能力を使い八雷神達の攻撃を見透す。大雷の重圧のわずかな隙間、火雷と黒雷の合間を縫うように、黎斗は幾何学的な軌道を描きながら回避した。その速度は、八雷神の神雷の予測速度すら凌駕していた。

回避と同時に、黎斗は剣を上段に構える。彼の身体を流れる呪力は、建御雷神より簒奪した雷剣の権能を最大限に引き出していた。

 

「『雷統十征』」

刹那、黎斗の周囲に十の雷の斬撃が同時発生した。それは十連撃にあらず、完全なる同時攻撃。黎斗はそれを防御ではなく、カウンターとして放った。

十の斬撃は、最も回避性能の低い大雷と、黎斗の影を狙っていた黒雷の本体へと突き刺さった。

 

「グアアアア!!」

神雷を纏う彼らの身体に、黎斗の雷の刃が食い込み、呪力の奔流が迸る。八雷神の肉体は朽ちて黄泉の呪力を纏ってはいるが、その防御さえも黎斗の攻撃は打ち砕く。

しかし、黄泉津大神の眷属は容易には滅びない。傷口からはさらに激しい瘴気が噴き出し、雷の神々はその身を震わせながら、より強烈な雷撃を放つ準備に入る。

 

「グルルルルルラァァア!!」

鳴雷の青雷は、空間そのものを刃のように細断する。黎斗の周囲の空間はガラスが割れるかのように砕け、若雷の予測不能な黄雷が、砕けた空間の隙間から狂ったように跳ね回る。

黎斗は太刀筋で空間の刃を避けるが、予測不能な黄色の雷は未来視と神速をもってしても容易には捌ききれない。右肩に黄雷の直撃を受け、漆黒の装束が焦げ付く。

 

「……チッ。この服高かったんだがな。」

黎斗は右肩を押さえながら、その瞳に戦いの熱を宿す。彼は一度、天翔る蒼瞳の発動を解除した。まつろわぬホルスより簒奪した『輝ける開闢の瞳』は黎斗の所持する権能の中で最も多様な能力を持つ。しかし全てを同時に使用することは不可能で、一つの瞳に一つまでという制約を持つ。

天翔る蒼瞳を解除した彼の右眼が黄金の輝きを放つ。

 

「『荒ぶる金瞳』」

輝ける開闢の瞳の第二能力。黎斗は狙いを、鳴雷と若雷の後ろに控える黄泉津大神へと定めた。

それに気付いた析雷と若雷は母を守ろうと動こうとする。しかし黎斗の瞳を見た二体の龍は硬直する。その隙を狙った黎斗の瞳から放たれた破壊の光線が、母を守ろうと飛来した咲雷を蒸発させ、黄泉津大神の胸元を狙う。

「させぬ!!」

黄泉津大神は、腐り落ちた手を光線に突きつける。手のひらから死の瘴気が凝縮された黒い渦が生まれ、破壊の光線を受け止めた。

 

「我が肉体に、貴様の穢れた力など…!」

黄泉津大神の腐り落ちた皮膚はさらに爛れ、肉が溶け落ちる。しかし、死の神としての回帰の権能が働き、溶け落ちた肉は即座に再生する。

この膠着状態を利用し、黎斗は再び『天翔る蒼瞳』を発動。神速をもって黄泉津大神の眼前へと肉薄した。

 

「喋ってばかりで防御がお留守だぞ、伊邪那美。」

黎斗の剣に、膨大な量の呪力が集中する。雷剣は虚空と欲を纏い、総てを穿つ一撃を放つ。

 

「『一突欲剣道』」

天魔神功第三式。黎斗の持つ膨大なまでの欲望を糧として物理法則を無視した質量を剣に与え、そしてその欲をたった一度の突きに込める極技。

完全に虚をつかれた黄泉津大神は攻撃を諸に喰らう筈だった。地面に潜り、機会を伺っていた伏雷が地面より這い出て伊邪那美を庇う。伏雷の奮闘も虚しく、その身体は簡単に刺し貫かれ、消滅する。しかしそれにより生まれた僅かな時間で伊邪那美は防御を完成させた。

黄泉津大神は破壊の光線を片手で受け止めながら、叫ぶ

 

「我が子達!来なさい!!」

母の叫びを聞き取り、硬直したままだった完全に消滅した咲雷、伏雷を除く、六体の眷属神達が一斉に伊邪那美に向かう。

伊邪那美の頭に大雷、胸に火雷、腹に黒雷、左手に若雷、右手に土雷、左足に鳴雷に吸収され、伊邪那美の身体に神雷が纏い、迸る。

 

「我が子達、妾の身体におかえりなさい。」

その声からは確かに母性を感じた。

 

「折角の数の利を捨てたのか?」

合体の衝撃波を交わし、後方に着地した黎斗が伊邪那美に問いかける。しかしその瞳には今日の中で最も色濃い警戒の色が宿っていた。

 

「これこそが我が究極体。貴様が我が子を二体も滅した故完全体とはいかんがそれでも先程の妾と同じだと思うなよ!!」

言葉に呼応するように伊邪那美の身体より数多の雷が飛び放つ。

一つ一つは先程の八雷神達と同等の威力だが、一つの意志により操られた雷の緻密さは先程とは比べ物にならない。

 

「チッ、『連閃魔剣霊』」

第二式を放ち、全ての雷を撃ち落とす。しかし撃ち落としても撃ち落としてもキリがない為、黎斗は後方へと飛ぶ。

 

「確かに鬱陶しさが増したな。」

黎斗の左眼には見透す銀瞳が宿り、伊邪那美の攻撃パターン、そして彼女の力の根源である「日ノ本の命脈」の未来を視ていた。

 

「無駄だ。貴様のその瞳では、妾の死の概念は見透せぬ。そして貴様には、もはや妾を滅する決定的な一手は残されていないだろう?」

伊邪那美は黎斗の疲弊を見透かし、六種の雷を全身から放出しながら突進した。彼女の頭から放たれる大雷は、黎斗の真上に重力の壁を作り、その動きを数瞬止めようとする。

 

「舐めるな。『聖なる天を纏いて魔を祓え』【光輝たる我が身】」

黎斗が唱えたと同時に展開していた黒翼が消え去る。そして左側に白銀の翼が三本現れた。それは彼の第一権能たる【天聖なる堕天】の第二能力。

ルシファーが天に住み、主に付き従っていた時の姿。

 

「今のお前は死と冥府を司る。つまりは不浄。この能力は不浄への特攻をもつ。」

白銀の翼から放たれた純粋な光の呪力が、伊邪那美の全身を覆う黄泉の瘴気に激しく反応した。伊邪那美の肌の爛れ、腐り落ちた肉、全てを覆う呪詛の装束が、まるで酸を浴びたかのように激しく蒸発していく。

「ぐっ……!?この光は、妾の黄泉の呪力を……!?」

伊邪那美は突進を止め、後ずさった。彼女の六雷神を吸収した身体は、大地母神の生命力と、黄泉津大神の死の穢れによって成り立っている。その不浄こそが、光輝たる我が身の最高の標的だった。

 

「どうした、動きが鈍いぞ。不浄なる猿の母神よ。」

膝を着いた伊邪那美を見るその瞳には嘲笑が宿っていた。

それに気付いた伊邪那美は激昂する。

 

「舐めるなァァァアア!!!!!」

激昂した伊邪那美は総ての雷を束ねた極大の雷を黎斗に向ける。その雷は地面を抉り、標的を消滅させんと突き進む。

 

「『滅劫破天勢』」

黎斗が放ったのは【天魔神功】その第六式。終技たる七式を除いた技の中で最も強大な力を持つ技。滅びという概念を纏うその技を持って、伊邪那美の大技を受け切る。

 

「...チッ!」

凄まじい衝撃音と砂埃の中、黎斗の舌打ちが聞こえる。砂埃が晴れた先には、不快の表情を貼り付けた黎斗が立っていた。

今まで傷といった傷を追わなかった黎斗が上着は消え去り、剣を持つ右手は無惨にも血に染まっていた。

 

「これでも終わらぬか神殺し!!」

怒りが収まらぬ伊邪那美が吼える。

しかし、既に満身創痍。【光輝たる我が身】の能力によって回復を阻害され続けている伊邪那美は傷の修復すらままならない。

 

「...認めよう日本の母神よ。今の攻撃は下手をすれば死んでいた。」

傲慢を絵に書いたような黎斗が初めて伊邪那美を認める言葉を口にした。

 

「貴様!まだ妾を愚弄するか!!」

それを挑発ととった伊邪那美は更に吼える

 

「故に、我が最大の力でお前を駆逐してやる!」

黎斗が手を広げる。

 

「【天より堕ちし光輝は獄にて無明となりて天上を見上げる。我を畏れよ。我を見上げよ。我が名は讃え、我が名によって滅べ】」

黎斗の背に漆黒の翼が顕現する。

 

「有り得ぬ、!!有り得ぬぞ!光と闇は相克!!同時に存在するなどあってはならぬ!!」

その異常に伊邪那美は吼える。しかしその叫びに籠っているのは困惑、そして純粋なる恐怖であった。

 

「我が最強にて滅べ【明けの明星】」

【明けの明星】それは黎斗の最終奥義。

【天聖なる堕天】相反する二つの能力を融合させ、全てを無に還す極大技。

強大なるそれは伊邪那美に向かい、堕ちる。

 

「妾がこんなところで終わるなどあっては、ならぬ!!ならぬのじゃぁああ!!」

その言葉を最後に伊邪那美に【明けの明星】が衝突する。

一瞬の静寂、その数瞬後この世のものとは思えぬ轟音が木霊し、伊邪那美ごと神社、そして山は崩壊する。

 

「はぁ、はぁ、やはりこの技は堪える。」

神殺しの強大なる呪力を持ってしても襲ってくる倦怠感に黎斗はそのまま目を閉じた。

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