バングル・リセット〜TS探索者によるダンジョン攻略RTA〜   作:畑渚

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第5話

 私はギルドの受付嬢。今年なりたての新人ギルド嬢だ。

 今日も今日とて探索者の皆様のお手伝いをすべく、姿勢を正してカウンターに座っている。

 

 「……っ」

 

 すべての探索者に平等に接すること。これは見習い時代から口を酸っぱくして言われることだ。

 私とて差別主義者ではないので、平等な対応を心がけている。

 

 しかし、最近どうしても顔の端が引きつる相手がいる。

 

「よお。それじゃあいつものよろしく」

 

 眼の前の少女がそうだ。

 彼女は突如として現れた期待の新星と言われており、実際ダンジョン攻略回数は記録級で、推定資産もすでにランキング入りするレベルだ。

 しかし、私にはこの見た目はかわいらしい少女が、実は少女のガワを被った化物に見えて仕方がないのだ。

 

「ん?なんか顔についてるか?」

 

「い、いえ。失礼しました」

 

「まあそんなに気にしてないし、いいよ」

 

 いつもの、つまりは魔法ドリンクを一つとダンジョン入場券を2つ。毎度のごとく彼女が頼む注文だ。

 

「それではお気をつけて」

 

「おう、ありがとな」

 

 可愛らしい声とは裏腹な口調が、余計に奇妙さを増長させていた。

 

 

 

「お、おかえりなさいませ」

 

「うっす。まあすぐに出るんだがな」

 

 ダンジョンから出てきた彼女は、いつものごとくどこかを怪我していた。

 前回は右腕だったし、今回は左半身の火傷。一番酷かったときは両足が折れており這いずってきたこともある。

 

「で、ではお気をつけて」

 

 ダンジョンに入っていって数刻も立たぬうちに、今度は蘇生室の扉から出てくる。

 蘇生室から出てくる人間は3種類いる。

 

 一つは死の恐怖に怯え震える者。

 

 一つは物品のロストに悔しさを隠しきれない者。

 

 そして最後の一つは……死んだということをまったく意にもせず次の攻略のことにしか目がない狂人。

 

 その狂人の中でもほんの一握りなのが、『死に戻り』を道具のように使う連中だ。

 

 生傷の絶えない攻略において、万全の状態まで体を治癒してくれるのは確かに優秀な機能かもしれない。しかし死はあくまで死だ。たとえどんなに即死したとしても、あの言いようのない痛みは脳に刻み込まれる。だから大半の探索者は、ダンジョンでしないように立ち回るし、死んだ際にはメンタルケアを利用したりする。

 ただあの狂人たちは、体の良いリセット装置として死に戻りを使う。

 

 ましてやあの少女は最近潜り始めた新米探索者のはずである。

 なのに立ち振舞は熟練の探索者のそれだ。

 

「えっと、換金たのむ」

 

「あ、はい。承知しました」

 

 どさりと置かれたのは他人の装備。また探索者を殺して帰ってきたらしい。

 

 ギルドとして、同業を殺して装備を奪うことを咎めはしない。

 しかし、個人的にはその頻度と迷いのなさに引く。

 

「あ、あの」

 

「ん?なんだ」

 

「これはギルドからではなく個人的な意見ですが……」

 

 あくまでも私からの話だと強調しておく。

 

「あまり殺しすぎると、恨みを買いますよ?」

 

「ああ、わかってるさ」

 

 実際に、ダンジョン内での出来事がきっかけでダンジョン外で報復をうけた話は珍しくもない。中には顔を覚えられるのを恐れて仮面をして潜る人もいるくらいだ。

 

「俺なんかのこと恨む人なんていないって。顔すら覚えられないだろうし」

 

 この子はなにもわかっていない。毎日のようにダンジョンに通う少女なんて特定は難しくはない。ましてやソロで動いてる少女なんて彼女くらいだ。

 

「なに、いざとなったら憲兵に泣きつくさ」

 

「……はぁ。あくまで私の意見です。忘れてください」

 

「心配してくれてありがとな、それじゃ」

 

 軽く手を降って去っていく彼女は、それはもう無邪気な少女そのもので、でもダンジョン内とはいえ人を殺してきた後なんだよなぁと考えるとすごく複雑な気持ちを抱かざるを得なかった。

 

 

 

 

「これで最後っす!」

 

 私はモンスターにトドメを指して声を上げる。

 

「ロシェ、アイシャ。怪我はないっすか?」

 

「問題ない」

 

「私もかすり傷程度です」

 

 思わぬ遭遇だったために、その報告を聞いてほっと安心する。

 自分も被害を確認しつつ、同時に残弾も数える。

 

「私はまだ行けるっすけど、二人はどうっすか?」

 

「……私は問題ない」

 

「私もですが……そろそろ帰っても良いかと思います」

 

 体の調子も残弾も、問題ないようだった。

 

「アイシャは慎重すぎ」

 

「なっ、あのですね!高層は慎重すぎるくらいがちょうどいいって隊長さんも言ってましたよね?」

 

「隊長……」

 

 最近、ふとした際にでるこの話題で一気に空気が重くなる。

 

「ロシェの気持ちもわかるっすよ!私もまだ潜りたいっす。でも私達はパーティなんだから、皆で方針を決めるっす」

 

 結局、帰路につくことで全員納得した。

 最近はこんなことが続いてばっかでさすがにフラストレーションが溜まってきた。

 

 それもこれも、たいちょーのせいだ。たいちょーが全部悪い。

 罠にかかっておきながら勝手に自分だけ犠牲になろうとしたり、得体も知れぬバングルを勝手に起動させたり、そしたら女の子になったりーー

 

 全部全部たいちょーのせいだ。

 

「というわけでこうやってモフる権利があるわけっす」

 

「あっこら髪をわしゃわしゃするな!」

 

「はー、たいちょーさんいい匂いするっす」

 

「おい嗅ぐな!」

 

「唯一の癒しっす」

 

「あーそのなんだ。俺が抜けて苦労かけてるみたいですまんな」

 

「謝んないでくださいっす。体調代理も好きでやってるっすから」

 

「そ、そうか」

 

「はー。美少女になってくれてありがとうっす」

 

「こらっ!だからわしゃわしゃするなって!」

 

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