彼は前世の記憶を有する
世間では転生者と呼ばれる存在だった。
そんな彼は、この世界の異常性を直ぐに認識した。
男女比率の一極化。
男が1人に対して女が100人。
何故人類が滅びなかったのか不思議なくらい、世界は歪んでいた。
“男性”は政府の手厚い保護対象であり、仕事をしなくても一生安泰。
食うに困らず、医療費もゼロ
税金は貰い手側。
最低でも五人の女性を娶らなければならなかったが
それさえ遵守すれば、何をしようが勝手だ。
人生イージーモード
だが、彼はそんな勝ち組の生き方を面白いとは思わなかった。
再び生を得たというのに、ぬるま湯に浸かるような真似はしたくない。
そんな彼は、前世には居なかったウマ娘という種族に強い興味を抱いた。
ウマ娘
耳と尻尾を持ち、容姿に優れ、力に富み、人類の上位互換とも呼べる存在
「ウマ娘に関わるのは危険だ」
「彼女たちとは距離を取れ」
そういう風潮が蔓延していたが
彼は惹かれた。
「ウマ娘に携わる仕事に就きたい」
そう決めた日から、彼の人生は動き出した。
その一歩目として、彼は合気道を習い始めた。
都内でも名の知れた道場。
師範の渋川剛気先生は、見た目こそ気のいい老人だったが、手首を軽くひねるだけで人を宙に舞わせた。
「柔よく剛を制すれば、ウマ娘に勝つことすら容易じゃ」
彼は真剣だった。
自衛のために
そして、ウマ娘と向き合うために。
道場には、途中からウマ娘の生徒も入門してきた。
その中でも印象的だったのは、一人のウマ娘
カレンちゃん
「お兄ちゃん、いっくよ〜♪」
その声と同時に、宙を舞った経験は、彼にウマ娘の力を思い知らせてくれた。
受け身が遅れたら、首が取れていたかもしれない。
それでも、毎日稽古に通い続けた。
投げられ、絞められ、転がされ、それでも立ち上がる。
やがて、彼の腕前は確かなものになった。
動きはしなやかになり、力の流れを読む感覚も掴めてきた。
そしてついに、師範の渋川先生からその言葉を聞く日が来た。
「よくぞ耐えきった。
お前さんほどの才能を開花できたこと、ワシは誇りに思う」
「ぐすっ……最後の実戦で勝ってれば、お兄ちゃんの大切なものを貰えたのに……」
苦笑いして別れを告げた。
そして今。
免許皆伝を得た彼は、勉学にも励み
正式にウマ娘を指導する資格も手にした。
「柔よく剛を制す。
ならば、ウマ娘の心も柔らかく受け止めてみせましょう」
こうして、“とある男”――後のトレセン学園トレーナーは
ウマ娘と共に走るための道を歩み始めたのだった。