ウマ娘界のインフルエンサー、カレンチャン。
そのフォロワー数は、実に三百万人を超え
もはや下手な著名人よりも世間の知名度は高い。
ちなみに自己紹介文は
Currenこと、カレンチャンでーす!
世界を“カワイイ”で包んじゃいます☆
よそ見はめっ。カレンだけを見ててね♪
――とかいう、この世界の住人にとっては理解に苦しむ文章だったりする。
しかし、フォロワー300万人という数字に噓偽りはない。
投稿のたびにハートマークが爆発し、コメントで溢れかえる。
一見すれば、立派なウマスタグラマー。
だが、実態はまるで異なる。
カレンちゃん家の溜まり場
通称、“独身喪女の集い”
或いは、恋愛競争のスタートラインにすら立てなかった敗北者たちの集会所。
――類は友を呼ぶ。
イカれた自己紹介文には、イカれたフォロワーが群がる。
ウマ娘という社会的に風当たりの強い存在を見下すことで、なんとか自尊心を保てる魑魅魍魎の女性たち
そんな連中が、己のコンプレックスを誤魔化すためにフォローしていたりする。
フォロワー数三百万。
そのうちの純粋なファンは、一割にも満たない。
この世界が終わっている証拠である。
しかし、そんな世の中でも、カレンチャンはめげなかった。
画面の向こうにいる人たちに向けて、今日も笑顔を発信する。
おはよ〜!
カレンチャンだよ〜♪
今日は前日に募集したマシュマロを見ていくよ☆
―― ロシアのお酒さん より
――幼体テイオーさん より
季節限定で出してほしいですわ!!
――パクパクしたい、MANさん より
どうすればいいんだ?
――シンデレラしたいさん より
あまりにも酷い内容である。
しかし、通報しても誰も文句を言わないマシュマロにも、律儀に返信していくカレンチャン。
人の心に寄り添える、聖人の心を兼ね備えたウマ娘は伊達ではない。
たとえゴミのような内容であっても
彼女はきっかり返事を返し、相手の心をフォローする。
人生これからだよ!
いつか、きっと、たぶん、もしかしたら、出会いがくるかもねっ☆
原材料が絶滅寸前だから~販売は無理だよ♡
ゲートは抽選制だから、
次の開催までに運試ししとこっ☆
カワイイようで、まったくカワイくない返事をするカレンちゃん
ちなみに、一つ目のマシュマロに対し、彼女は返信をしなかった。
代わりに――あと一歩を踏み出せない緋色のティアラを被ったウマ娘に、こうメッセージを送った。
『同室の子が外で寒い思いをしてるよ!
急いで人肌で温めてあげて☆』
小悪魔どころか、もはや悪魔の所業
後ろでそれを眺めていたトレーナーは、ただ苦笑するしかなかった。
「こらこら、カレンさん。あまり虐めてはかわいそうですよ」
「だって、“お兄ちゃん”が構ってくれないからぁ〜♡」
小首を傾げながら甘えるように言うその仕草に
トレーナーも少しだけ困った様子である。
「確かに、貴方との時間が確保できなくなっていることは謝ります。
ですが、スピーディーに事を運ばなければ、どこで情報が漏れるか分かりませんからね」
そして、少しだけ真顔になって忠告する。
「貴方もSNSの取扱いには気をつけてくださいね。
……からかい過ぎた結果、いつか痛い目を見ても私は知りませんよ?」
その言葉は、ただの冗談で終わらなかった。
やがて現実となって、近い将来――彼女を直撃する。
フォロワーが全員、アンチと化す――。
そんな前代未聞の大事件が起こる日も、もはや遠くなかった。
残り二話で完結します。