ウマ娘 ロード・トゥ・イノセンス   作:Celtmyth

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前話の内容
 サガトレセン出身のシデンジンバが中央のGⅢ小倉ジュニアステークスに勝利した。


第02話『その名は』

 

 ここまで来た。シデンジンバはそれを今強く実感していた。

 地方に籍を置いている身で中央の、しかもGⅢと言う重賞レース。そこに国際レースに指定されたばかりとくれば称賛と嫉妬と言う注目を向けられるだろう。今年ではこの九州で話題になるのは間違いないだろう。

 しかしシデンジンバはその祝杯を煽るでもなく、ワイングラスを回るか如くじっくりと眺めるように、これからの未来へ想いを向けていた。彼女の目的はその未来の、自身が切り開かなくては見えない闇の先にしかない。一度でも迷い、転べば見失う程の未来を。

 とは言え、レースの勝利後にそんな切羽詰まった心境は相応しくない。デフォルトな仏頂面も事前に笑顔のチェックをしたのだ。最後の最後も油断せずに気を引き締める。

そして、楽曲が流れ始めた。

 

 

 

 

開け 今日も 今日も

光るGATE(トビラ)

勝利も負けも次の スタートライン

 

Oh here we go! Oh let's go!

 

 

 

 

「二度目だが、今度は堅さがなくなったわね」

「フェニックス賞の時ですか? 練習は続けてましたし、流石に本番は慣れたのでは?」

「センターの栄光をそんな軽く言うんじゃない」

「失礼しました」

 

 盛り上がるライブ席の一角で静かにシデンジンバを眺める幸子と祐四。ただ祐四の表情は言葉に反して「そこまで言わなくてもいいじゃないですか?」と言う感じだ。幸子もそこは察していた物の、今後を考えあえて指摘はしなかった。

 幸子は笑顔だがほぼ演技としての振付にため息1つ。その後に周囲の盛り上がりを肌で感じる。かなりの熱だが、地方ウマ娘が勝利したという事実も理解できる。それも国際レース化、GⅢの格付けとなって最初のレースを奪ったとなれば。そして九州のファンも、()()()()()()も興奮を隠せない。

 

「全く……」

 

 ()()()()()()()()()()()()、とは思ってても口にはしなかった。

 

 

 

 

今日(きょー)んレースを――、失礼、訛りが。今日のレースを観てくださいました皆様に伝えたいことがあります」

 

 ライブが終わった直後、センターのシデンジンバがマイクから、なんか可愛らしい切り出しだったがそれを言い直して言葉を紡ぐ。両脇にいるブラウンワイルドとシゲルキョクチョウが平然としているのでこのマイクパフォーマンスは事前に伝えていたのだろうが、ブラウンワイルドは吹き出しシゲルキョクチョウは堪えて肩を震わせていた。

 

「私は今日のレースで勝利しました。この事実には感動も称賛もあり、逆に嫉妬や怨恨を抱いた方々ばかりでしょう。しかしそれでも共通する想いがあるでしょう。『私のこれから』と言う疑問です」

 

 少しばかり他のウマ娘やレースファンに対する挑発とも取れた発言があったが最後の言葉で誰もが静かに耳を傾ける。

 

「前置きはしません。私は、中央に行きます」

 

 その宣言に驚きも動揺も、そして納得の声が出た。そこからファンからの一言を――と思った所でシデンジンバのパァンッ、と鳴った一拍。話はまだ終わっていないと言う事だろう。

 

「今回のレースでは大まかに二つ。私と言う地方のウマ娘がGⅢを取れるかもしれない期待と同時に、中央のウマ娘が意地を見せてくれるだろう期待があった事でしょう。そして私が勝った。それに喜び、逆に落胆した方々もいるでしょう。なら今度は『次』と『先』でしょう。私にとってのそれは中央へ行くこと。更なる上へのステージへ上がる事。ならあなた方ファンは何を思う?」

 

 それは宣伝と言うより問いのような物だった。内心、地方ウマ娘と蔑みの念を持っていた人々すら彼女の言葉を静かに待った。

 

「レースには夢がある。その夢は……あー、これじゃあ気持ちの出てこんがよ(あぁ、これじゃあ気持ちが出てこないわ)

 

 と、思ってたら風向きが変わった。

 シデンジンバはマイクを下ろし、大きく深呼吸し、

 

 

大胆不敵じゃとか、(大胆不敵、)夢見がちじゃとか、(夢見がち、)そげなこっはよか!(大いに結構!)じゃっどん、所詮は今日の競走に(所詮はまだ今日のレースに)勝っただけのウマ娘じゃっど!(勝っただけのウマ娘!)こんで期待しろち言うたっちゃ(ここで期待しろとは)無理な話じゃろが!(無理な話よ!)

 

 

 マイク越しのスピーカーに負けないほどの声量だった。それに彼女の後ろのウマ娘2人を含め大半は度肝を抜かれ、1人の老婆は感心し、1人の少年は目元を覆って上を仰いだ。

 

こんで期待も応援もいらん!(ここで期待も応援もいらない!)どっちにしろ、わいは中央へ行く!(どっちにしろ私は中央へ行く!)じゃっどん、そげな者を(でも、そんな私を)見送るだけでよかとね?(見送るだけでいいのかしら?)

 

 そしてガチガチの薩摩弁で何を言ってるのか正直ファンはよくわかっていない。出来て単語一つ一つから予想する程度だ。しかし最初は中央へ行き、挑戦する旨を伝えていた。ここからはシデンジンバの熱意を、意気込みを言っているのだと。

 

もう一辺言うど。(もう一度言うわ。)期待も応援もこいではいらん!(期待も応援もここではいらない。)じゃっどん、そげなもんたぁ(でも、そんなあなた達は)わいを見送るだけでよかとね?(私を見送るだけでいいのかしら?)

 

 流石にシデンジンバも伝わり辛いとは思っていたようで標準語でそう叫んだ。

 そして一瞬の静寂、

 

 

「じゃあやってみせろや!!」

 

 

 どこかの一人が応えた。口は悪いが、それには期待が込められていた。

 

 

「そもそもサガトレセンの、九州生まれのウマ娘が国際レースの勝利なんて今までなかった功績だ。そこから中央へ殴り込みってんならやってみせろや!!」

 

 

「……確かに、もしかしたらやってくれるかもしれないな」

「今回だけじゃなくフェニックス賞も勝ってるしね」

「可能性はあるかもしれない」

 

 

 ただそれが呼び水になって他の期待の声が聞こえ始める。その逆ももちろんあったが、()()声が少しでも挙がった事が重要だった。

 だからこそシデンジンバは追い込みをかける。

 

わいが中央に行くいっちゅーこっに(私が中央に行くことに)否はね?(否は?)

『ない!』

わいがエリートに挑戦状を(私がエリートに挑戦状を)叩っつけっちょるこっは(叩きつける事は)無茶じゃとか!?(無謀か!?)

『ないっ!』

わいが活躍せんち、思いもすっか!!(私が活躍しないと思うか!!)

『ないィッッ!!!!!』

 

 

なら、わいの背中ば(なら私の背中、)押す代わりに、声ば上げもはんか!(押す代わりに声をあげなさい!)そいが、おはんたちの送り出しじゃ!!!(それが貴方達の送り出しよ!!!)

 

 

 

 

『おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 

 

 

 

「すみませんでした」

 

 暴走と言ってもいいスピーチを終えてステージから降りたウマ娘3人。そして文字通り舞台裏で、シデンジンバはブラウンワイルドとシゲルキョクチョウに頭を下げた。流石に前後の差があったのでギョっとする反応を見せた2人だが、頭を下げ謝罪の言葉を口にしたシデンジンバはそれ以上の動きを見せない。要するに“待ち”の姿勢であった。

 

「……まぁあのくらい身勝手で挑戦的の方が中央でもやっていけるか」

「ブラウン!?」

「私たちは負けたのよシゲル。私は勝つ気で走って負けた。あんたはどうなの?」

「う、ん……。私も勝敗は納得しますし、ジュニア期とは言え地方所属の彼女にとっては大きな実績を手に入れました。そして実際のレースで彼女は運も味方につけた」

「幸運があったとしても?」

「私たちにとってはそれも重要の要素じゃありません。運がなければレースにも出れませんから。―――ですのでシデンジンバさん、頭を上げてください。あと素の口調で話してて構いませんから」

 

 その言葉にシデンジンバは素直に聞いて頭を上げた。

 

あいがと(ありがとう)

「何となく言ってる事がわかる」

「私も……。ところで私がレース前に声かけた時はより訛りが強くありませんでした?」

ああ、わいは、(ああ。私、)|ちっこい頃は南九州市の頴娃町ちゅーとこにおったとよ。《小さい頃は南九州市の頴娃町って所にいたの。》鹿児島でもことに訛りが強か地方じゃっど(鹿児島でも特に訛りが強いの地方なの)

「小さい頃は南九州の頴娃町にいて、そこは特に方言が強いって事?」

じゃっと(そうです)

「標準語で話して貰った方がよくない?」

「いや、でも流石に強制はよくないかなぁ~って」

 

 

 

「なら私が言おう。ジン、話がスムーズになるからこの場では標準語で話しなさい」

 

 

 

 しかし流石に鹿児島弁は標準語に慣れしたんだ二人には困難であり、加えてシゲルキョクチョウが言った手前訂正もし辛い状況だったがそれを打破するかのようにその声が響いた。

 

「あ、先生」

 

 真っ先に声を、その声の持ち主にシデンジンバが気付いた。他の二人も見てみれば、なんかアメリカでロードバイクしてそうなお婆さんと、その後ろに控えるようにアイドル張りにイケメンな少年がいた。

 

「えっ、先生……?」

「……?」

「ええ、私がそこのチェスト娘の担当トレーナーよ。こっちのガキは私の弟子」

「どうも」

「あっ、はい。初めまして。それでチェストって、いわゆる示現流ですか?」

「『知恵を捨てろ』の訛りらしいわよ。レースで迷わずスパートを掛け、今回のライブステージでも堂々と宣言する。頭がぶっ飛んでるでしょ?」

「ええ……」

 

 トレーナーとして自分のウマ娘に対して何とも言えない発言だが、当の本人は『イエイ』と言わんばかりにダブルピースで応えていた。シゲルキョクチョウは信頼関係をしっかり築けているのだと察してそれ以上は何も言わなかった。

 

「改めて、私は中央で挑戦させてもらいます」

「あっ、うん。頑張んなさい。……いや、こう言うのは酷かもしれないわね」

「? 何でですか?」

 

 応援したと思ったらそれが辛い言葉と言ったブラウンワイルド。首を傾げるシデンジンバにブラウンワイルドはシゲルキョクチョウを一瞥し、その彼女は頷く。

 

「正直、私たちはジュニア期で成果を目指してるの。それ以降の栄光は()()()()

「?」

「ほぉ」

 

 答えたブラウンワイルドの言葉に、納得したのは幸子だった。そしてその言葉の意味を答えたのも幸子だった。

 

「時代を作るウマ娘、いや間違いなく頂点に立つだろうウマ娘がいるのね」

「……ええ、そう。かなり傲慢で、それ以上の走りをするあの人も、8月にデビュー戦を終えたの」

「クラシック三冠を取ると豪語し、私たちもそれは妄言じゃなく成し遂げると確信するウマ娘」

「……そのウマ娘の名前はなんていいますか?」

 

 諦めと言うより達観したと言える二人の評価にシデンジンバはその名前を尋ねた。彼女もまたこの時期にデビューを果たした為、そして中央に行けばクラシック期は二人の言うウマ娘と当たることにあるだろう。ただし地方から殴り込む彼女にとって、今の時点で実力の差を考えても仕方がない。そもそも彼女にとって、自分は下から登っていくのだと重々承知していた。

 

 

 

「オルフェーブル。自分を“王”と自称する、間違いなく私たちの世代の頂点に立つだろうウマ娘よ」

 

 

 

 シデンジンバはその名前をしかと頭に刻んだ。

しかしこの時、シデンジンバ(緋色の刀剣)こそがオルフェーブル(真我たる黄金)に傷をつけるとは本人すら知らずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、中央に行っても恥は晒すんじゃないわよ」

「「はい、先生」」

「……?」

「……あれ?」

 

 




 シングレのオグリやキタハラほど上手い台詞が思いつきませんでした。ついでにブラウンワイルドの名前をよく逆に間違えることが多い。
 そして次回からシデンジンバ、中央のトレセン学園生活のスタートです。


簡単プロフィール
・ワイルドブラウン
 高等部

 (史実)通算成績13戦2勝、勝鞍:10'小倉2歳S(GⅢ)
 フェニックス賞・小倉ジュニアステークスの人気ツートップの片割れ。シデンジンバに勝鞍を盗られた被害者その2。
 まだヤンチャが抜けきらない年頃。オルフェーブルと言う絶対王者の存在にレースの灯が消えかけている。



・シゲルキョクチョウ
 高等部

 (史実)通算成績45戦5勝、勝鞍:10’フェニックス賞(OP) 4歳以降、障害レースへ転向。
 フェニックス賞・小倉ジュニアステークスの人気ツートップの片割れ。シデンジンバに勝鞍を盗られた被害者その1。
 真面目が根付いて大人びてきた年頃。オルフェーブルと言う絶対王者の存在あっても長くレースを走りたいと願う。
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