ウマ娘 ロード・トゥ・イノセンス   作:Celtmyth

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※執筆しながら『ウマ娘プリティーダービー』と競馬を調べていましたがジュニア期=2歳馬のクラス分けで出走できるできないレースがあったを初めて知って、そこの部分を修正しました。(獲得賞金が足りないと重賞には出走できない事は知っていたけど、逆に多すぎると出走できないレースがある事を初めて知りました)内容が変わるものなので、改稿の形で再投稿しました。
 ご迷惑をおかけします。





前話のあらすじ
 シデンジンバ。ライブ後の宣誓から中央へ。


第03話『ネクスト・ステップ』※改稿

 

 日本においてトレセン学園と言えば東京の府中にある『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』の事である。全国から集まった約2000人ものエリート(噂では筆記・実技が悪かったが面接一本で合格したウマ娘もいるらしい)が在籍する。そこにはレースからウィニングライブまでに必要な物が揃いに揃い、加えてウマ娘のメンタルケアや維持の為にある程度の要望も受け入れる。ざっくりまとめれば『走るウマ娘の学園』と言えた。

 

そいに比ぶれば、サガトレセンは地元の、(それに比べてサガトレセンは地元、)ひいては九州地方のおはんたちの為じゃ。(ひいては九州地方のファンの為ね。)1万台も入る駐車場は、まず目に付く。(1万台収容の駐車場はまず目を引く。)じゃっどん、一緒に(ただ同時に)URAの場外販売所があっとじゃっで(URAの場外販売所があるから)中央の競走はそげな縁遠かわけじゃなかとよ(中央のレースはそんなに縁遠い訳じゃないわ)

「それって皮肉?」

よかや(いいや)?」

「ブラウン。これは彼女の素直な感想だと思います。元々、中央を目指していたらしいですし」

「事前試験で先生に『現状、不足も不足。これ以上の芽がなければお前はサガに根を張れ』と言われた、へっぽこじゃっど(と言われた雑魚です)

 

 そんな中央のトレセン学園のカフェテリアの、当に目立つ事もない周囲の生徒たちに溶け込んで食事をするウマ娘が三人。二人は今年デビューをしたブラウンワイルドとシゲルキョクチョウ、そしてもう一人は無事に転入を済ませて中央の学生服を着たシデンジンバである。

 シデンジンバが中央に来て数日。彼女の達観したような性格と薩摩弁がその存在を浮かせ、しかも地方に所属したままGⅢの一勝を手にしている事で『下剋上からの中央への殴り込みをしたウマ娘』として遠巻きにされていた。そんな彼女はそれでも学園のダートコースと芝コースを交互に走っていた所、ブラウンワイルドとシゲルキョクチョウが声を掛け、それ以降なにかとつるむようになった。

 

「あの人かぁ。まぁ元・中央トレーナーの言葉なら確かなんでしょうね。そう言えばシゲルはあの人の経歴がないか調べたんでしょう? どうだったの?」

「すごい人でしたわ。GⅠ勝利も経験しているうえにアメリカの経験からウマ娘優先主義、私たちウマ娘と同じ目線と気持ちを汲み取って育ててきた別名『名手』。ちなみに自分では勝利主義じゃないと言いながら中央での最多勝記録にも名が残す方でした」

「マジで? あのリアルサラさんが?」

 

 ブラウンワイルドがイメージするのはタバコを加えてショットガンを担ぐ姿である。トレーナー像としては似つかわしくないが、トレーナーは内面外面に問わず結構個性が強い。十分に許容範囲だった。しかし逆に、そこまでの実績があるのに地方の、最南端のトレセンでトレーナーをやっているのが不思議だった。

 そう考えていたらふと、先ほどの会話にある事を言っていたのを気づいた。

 

「シデンジンバ、さっき事前試験って言ったわよね? もしかしてあの人とは入学前から交流があったの?」

じゃっど(そうです)

「そう……」

 

 特別、とブラウンワイルドは思わなかった。なぜならここ数日、シデンジンバの練習風景を見て気づいたのだ。

 彼女は努力型である事。もちろん中央に入れる以上は素質があったに違いない。その代表例とも言えるのはアイドルウマ娘のオグリキャップであり、実力を示して中央にスカウトされた。対し、シデンジンバが小倉ジュニアステークスに勝利するまでの公式レースは2回。一つは自分たちを下したフェニックス賞。もう一つはそれに参加するためのURAジュニア認定レースで2着以上に入る事。しかもこのレース、佐賀レース場で行われるので必然とダートレースである。地方のダートコースで勝利し、その後の中央の芝コースで2勝。中央のウマ娘であってもこのプレッシャーを超えられるか難しい所だった。

ちなみにこの場合における佐賀のURAジュニア認定レースは新馬戦にあたる『ルーキーステージ』と未勝利戦にあたる『アゲインステージ』。フェニックス賞に出場するなら早くて5月下旬から行われるルーキーステージ。アゲインステージは早くても7月中旬ごろになるため、ルーキーステージで勝利する事を前提するのは必然。シデンジンバはルーキーステージで勝利して出走条件を獲得。そして今年のアゲインステージはまだ7月10日しか開催されていない為、8月14日にフェニックス賞が開催された事を踏まえるならコンディションやダートから芝への調整を含め、入念の準備をしてきたと考えられる。ルーキーステージで負け、仮にアゲインステージ勝利して出生条件を達成したとしても1か月で万全に出来たか怪しい所だった。

 

(これは実力の証明ですね)

 

 シゲルキョクチョウはそう分析した。実の所、中央移籍には編入試験を突破すれば出来る事である。シデンジンバが行ったのは地方ウマウマ娘が重賞に出走するための流れだ。小倉ジュニアステークスに出走するにはフェニックス賞で2着以内、そしてフェニックス賞に出走するにはURAジュニア認定レースで勝利する事。

 だからこそシデンジンバは無茶をしたと判断した。だがそれは中央を戦い抜くため、かの名手が出した挑戦、いや試練とも言える。恐らく、出来なければ中央で勝つ事は出来ないから。

 

(……でも)

(だからこそ)

「?」

 

 2人はシデンジンバを見つめるが、当の本人はそれが何の意味か分からず首を傾げる。

 この時の2人の心境は同じだった。ここまでもかなりの功績を持つシデンジンバを導いた、岡部幸子と言うトレーナー。

 しかしこの中央に彼女は来なかった。代わりに――。

 

 

 

 

 

「完了ッ! これでキミは正式にこの中央のトレーナーだ、()()()()君!」

「はい、感謝します秋川理事長」

「気にするな! 生徒たちはもちろん、彼女たちを支えるトレーナーのため私は全力で尽くす所存であるからな!」

 

 理事長室。その主である秋川やよいと対面しているのは岡部幸子の弟子と言える和田祐四であった。

 そう、彼は今日付けで中央のトレーナーの肩書を得る。そして担当するのはシデンジンバである事が決定事項である。

 

「いえ。秋川理事長には僕の個人的な事情を受け入れて下さり、その上で要望を全て聞き入れて下った。十二分に迷惑を掛けていますから」

 

 そんな祐四はそう返した。

 中央のトレーナーには中央のトレーナーライセンスが必要であったが、彼はシデンジンバが編入するよりも前に条件を達成して所有していた。それでもまだ指導をしていない状況になっていなかったのは彼自身の事情と、シデンジンバの願いの為。周りが()()()()()()()()()根回しが必要だった。

 

「……シデンジンバの目標とキミの事情は岡部トレーナーとキミの()()()からそれぞれ聞いた。キミが抱えた物は複雑で、そしてシデンジンバの目標はそれこそ霞を掴むような物。しかし、それでも彼女は目指し、キミはそれを支えるのだろう?」

「はい」

「……以上ッ!! 話はここまでにしよう! ではこれからもどうか励みたまえ!!」

 

 これ以上の言葉は必要ないと察し、やよいは話を切り上げて激励を告げる、同じく祐四も彼女の意図を、気遣いを察して一礼して部屋を退出していく。その扉が完全に閉まる直前、彼がスマホを取り出したのを見たので、恐らくシデンジンバに連絡するために取りだしたのだろうとやよいは結論付けた。

 その後は各諸関係のやり取りや書類仕事をしていると部屋に入ってくる人物が。それは秘書の駿川たづなであった。

 

「ただいま戻りました理事長」

「感謝ッ! 今回ばかりは難しい頼みごとをした! それで、どうだったか?」

 

 朝の校門での挨拶やトレーナーとの報告等を行っている彼女ではあるが同時にやよいのそばに控えている事も多い。今回は前述といった理由で席を離れていたが中途で入ったトレーナーがいて、業務の説明や施設の案内をしなかったのは彼女の役割からかけ離れていた。

 

「はい、問題ないかと。流石に接触した場合、向こうが気付く可能性がありますが」

「十分ッ! 和田トレーナーも長く誤魔化されるとは考えていない。短くて二、三か月、長くてクラシック期の三冠の最中だと」

「それは、シデンジンバさんの路線を考慮してですか?」

「うむ、正解ッ! ……しかし、どうあっても困難の道のりとなるだろう。だからこそ私たちも彼らをサポートしていこう」

「あまり贔屓も出来ませんが、私も出来る事をします。なので理事長、あまり目立つような事はやめてくださいね」

「……承諾っ!」㍵(>ω<。)…グスン

 

 心なしか、扇子の文字に涙のオプションがあった。

 

 

 

 

 

 中央に就任したトレーナーには1人一室の部屋を与えられる。これは好待遇、と言うわけではなくウマ娘がレースで勝つ為の育成プランや本番レースの打ち合わせ内容が他に流れないようする為の対策もある。実際地方のトレセンでもその配慮がされている。

 もちろん祐四にもトレーナー室が与えられていた。とは言え受け取ったばかりの部屋にはホワイトボードやデスク、接待の机とソファ2つが目立ち。それ以外は何も置かれていない棚などがある。

 

「なのに玉露が飲めるなんてね」

借りてきたと。茶葉は自前じゃっどんね(借りてきた。茶葉は自前だけど)

 

 学園備品としての電気ポットと急須と湯呑。しかし茶葉だけは『鹿児島県 知覧茶』と、シデンジンバの自前と思われる袋が置かれていた。それを挟んで祐四とシデンジンバは作法に乗っ取ってお茶を啜っていた。

 

「それじゃあジン、このジュニア期の残りをどうするか話し合おうか」

「わかった」

「じゃあまずこれからのレースだけど……」

 

 湯呑みを置いた祐四はホワイトボードを引っ張り出し、そこにレースの名前を書いていく。大きくGⅠ・GⅡ・GⅢ・OPと分け、その下に行われるレース名と距離、そして開催時期を書いていく。開催月を書いて行われるレース名と続く。

 

「佐賀の1勝も合わせてジンはこれまで3勝の勝ち鞍を持ってる。だからPre-OPのレースは出走できない。重賞かOPのレースから選ぶ」

 

 10月から書きながら説明を続け、12月までのレースを書き終える祐四。

 

「これらが今後、ジンが出走できるレースだけど、10月は中央の適正に合わせるための練習に充てるから走らせないよ」

じゃあ、なんで書いたとな?(じゃあなんで書いたの?)

「中央のウマ娘を見に行くためだね。ただ中山レース場の開催はないから見に行くのは東京レース場になるけどね」

 

 『10月』の横に『見学予定』と赤ペンで書く。対し見学と聞いたシデンジンバが思い浮かべたのは小倉レース場で見た小倉記念の事だった。フェニックス賞、引いては小倉ジュニアステークスを短期目標にしていた事で、同じGⅢの小倉記念の緊張感を直に感じ取るために観戦した。その時はニホンピロレガーロが勝利し、加えて初の重賞勝利だったハズだ。ほかに覚えている事と言えば、その日のデビュー戦で勝利したウマ娘の名前がウインバリアシオンだったことぐらいだ。

 

「まぁ、必ず出走しなきゃいけない理由はないよ。()()()()()()()()()に備えて年末まで練習する方針もアリだよ」

課題は、何いがあるごわすっか?(課題は何があるの?)

「芝の適正と距離の伸ばしが大前提。先生も言っていたけどサガトレセンの、九州生まれのウマ娘にとって中央の壁は何より高い。フェニックス賞、小倉ジュニアステークスに勝ったとは言え、実績と資質は別物だからね」

実感しちょいもす(実感してる)

 

 それは皮肉で自虐だった。

 九州に生まれたウマ娘は地方(ローカル)シリーズで最も()()。これまで中央に挑戦し、しかし多くが敗北している。決して全敗と言う訳ではないが全体と見れば少なく、記録も詳細に残らないほどの一瞬の煌めき。彼女がGⅢを勝利したウマ娘として見られているのはそんな背景もあってだった。

 

「そしてサガで慣れているダートは年末のここだけ」

 

 祐四は赤ペンのまま、12月の枠に書いた一つのレースを丸で囲む。

 

 

 全日本ジュニア優駿

 

 

 ジュニア級における、唯一の重賞でGⅠのダートレース。ボードには書いていないが他はPre-OPのレースしかない為、シデンジンバにとっても唯一走れるダートのレースだ。日本のレース業界が芝路線なので仕方がないと言えば仕方がないとしか言いようがない。しかし世界に目を向け、ダートがメインのアメリカやドバイの海外レースの挑戦も行われているので決して蔑ろしている訳ではない。

 

「……もし出走すっなら、(もし出走するなら)どんレースいなりもすか?(どのレースになる?)

「そうだねぇ。だったら同じ12月のこの三つのレースかな」

 

 シデンジンバの質問に祐四はさらに三つのレースを丸で囲む。

 

 

 阪神ジュベナイルフィリーズ

 朝日杯フューチュリティステークス

 ラジオNIKKEI杯ジュニアステークス

 

 

「距離は最初の2つがマイルで最後は中距離。どちらかと言えば練習でどれだけ適性を上げられたかの挑戦になるだろうし、何よりここのレースに勝利したウマ娘はクラシックの期待も大きくなる。特に阪神と朝日杯は」

「ラジオNIKKEI杯は?」

「ジュニア期における中距離の頂点を決めるレースだから、勝てればクラシック三冠のうち2つは適正ありになる。あと小倉ジュニアステークスと一緒で今年から国際レースに認定されて注目もある」

 

 今年からの国際認定は他の二つもだけどね、と付け加える。

 とりあえず、ジュニア期の次なる目標を定めるなら12月のこの4つから選べばいいとシデンジンバは考え、逆に出走せずにクラシックのために力を蓄えることも頭に残す。どうする、と考えて胸に手を当てる。自分が目指す先を、どんな足跡を残すか? それを軸に考える。

 

あといっ、聞っせむうよかごわすっか?(あと一つ、聞いていい?)

「なに?」

強かウマ娘は、おもすか?(強いウマ娘はいる?)

「それは、難しいね。ウマ娘はジュニア期でしか勝ち鞍を手に入れられなかった子もいればシニア期で名を挙げた子もいる。明確に強いウマ娘の名前が挙がるのはクラシック期から。だから今のジュニア期で強いウマ娘は、前評判が大きい子だね」

「オルフェーヴル……」

 

 ブラウンワイルドとシゲルキョクチョウが揃って挙げたその前を呟く。ただし彼女にオルフェーヴルに対する印象は特にない言っていい。元々が地方からの移籍組であり、何よりレースどころかこの学園でも遭遇したことがない。遭遇しないのはそれぞれ中等部と高等部に分かれているのが原因である。

 その上でもう一度考える。考えて、決めた。

 

 

 

 

 

「朝日杯」

 

 

 

 

 

 その一言で次なる目標が決まった。

 

 12月前半、中山レース場の芝1600mの右回り、GⅠ朝日杯ヒューチュリティステークスへの出走、決定。




《ここは前と同じあとがき》
 なんだが主人公と仲が良くなってきたワイルドブラウンちゃんとシゲルキョクチョウちゃん。
 ちなみに祐四君はダブル主人公もしくは準主人公として立ち回していきますが中心はシデンジンバです。

《ここは追加したあとがき》
 オルフェ世代なので11世代。なのでレースのクラスは2010年当時に合わせています。
 ・朝日杯が中山レース場で行われている
 ・「ホープフルステークス」ではなく旧名「ラジオNIKKEI杯ジュニア(2歳)ステークス」で表記。
 目標レースが変わったのでこの後の話も一部修正、一部削除しています



 シデンジンバのトレーナー。まだ10代。中央ライセンスは筆記と幸子さん含む数名の推薦。加えて中央トレーナーの実績のある人物に一定期間指導を受ける条件で取得した。取得しやすそうだが通常の試験と難易度は変わらない。
 ウマ娘たちと並んでも劣らないイケメン。年が近いのでトレセン学園の出勤は生徒と遭遇しない時間帯に来る。

・岡部 幸子さん

 祐四君のトレーナーの先生に当たる人。シデンジンバがサガトレセンにいたときには彼女が担当トレーナーとして契約していた。趣味は中央時代のレース記録の干渉。健康の秘訣はタバコと運動(※サバゲ―でオーバーキル)。
 サガトレセンにいるのはシデンジンバと出会ったから、指導するのに九州へ引っ越しと移籍をした。

 モデルは岡部幸雄。ただし本作に反映した経歴は一部のみ。
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