日常回。シデンジンバの下宿先の紹介。そこに美人姉妹のハクセツとジョセツ、ついでに飼い猫やんかぶが登場。
ズズゥ~~~~~~。
スープを絡めた麺を啜り、一息。
「……
「いやここ東京だから。九州じゃないよ」
九州ウマ娘・シデンジンバ。今日まで豚骨ラーメン一筋だった彼女の、地方外のラーメンへの一言目に祐四が事実を付けた。その言葉に悩ましく唸り、しかし無言でラーメンを啜り始める。すごく無表情で。
(味、合わなかったんだろうなぁ)
そう思いつつ、食事には好みはあっても好き嫌いと食べず嫌いをしない彼女は完食するだろう。そう考え、食事を再開し―――。
「
「そのためにここを選んだね?」
とは言え優しくも「スープだけね」と言って器を差し出す祐四。それをシデンジンバが啜って味を見ている最中、デビュー戦のレースが終わり、これからクラシック級以上のウマ娘たちのレースが三つ行われる。そしてその後に芝とダートのレースが2戦ずつ。特に芝にはGⅠのスプリンターズステークスだ。
しかし二人の目的はジュニア級OPの芙蓉ステークス。シデンジンバの同世代のウマ娘が走るレースだ。これはクラシックレースの登竜門ともいえ、それもシデンジンバ自身が観戦を強く希望したレースだ。祐四も10月上旬に開催されるレースだったので予定通りと言えばその通りだが、同時に何か縁のようなものが絡みつく感じがしており、祐四は芙蓉ステークスの出走表を取り出す。
そこにはオルフェーヴルの名があった。
「
「そこまで故郷の味が恋しいならお店探す?」
同じセリフを吐き、祐四はそれをフォローしてそんな事を返す。それをはたから聞いた上京した面々は「わかる」と頷いた。
色々あったが、腹ごしらえを終えた二人はパドックにやってきた。ただし始まるまでそう間もない頃に来た為、よく見える場所は確保できなかったが遠目とはいえ出走するウマ娘が見える場所を取れた。
《さあ、お待たせいたしました!秋空の下、中山競馬場は、ジュニア期のウマ娘たちの熱気に包まれています。いよいよ芙蓉ステークスのパドック、出走ウマ娘たちが姿を現します。大観衆の視線が一点に集まるこの瞬間、どのウマ娘も、デビューから積み重ねてきた努力の成果を、そのバ体で語りかけてくれているようです》
《そうですね。パドックでの雰囲気は、その日の出来栄えを映し出す鏡のようなものですから。ジュニア期のウマ娘たちにとって、落ち着いて堂々と歩けるかどうかは、その精神面の成長を示す重要なポイントになります》
実況と解説が始まり、出走ウマ娘の紹介が始まる。その声に二人もパドックへと注目する。
トレセン学園で二人はオルフェーヴルに会った事もないし、ましてや遠目で見たこともない。会おうと思ったことはないが偶然にも遭遇する事はなかった。とは言えシデンジンバの同世代として、間違いなく最強の壁として立ちはだかるのは間違いなかった。ちなみに同じく同世代でなんだかんだ仲良くなったブラウンワイルドとシゲルキョクチョウ曰く。
『天上天下唯我独尊の暴君。でも才能は間違いなく本物。デビュー前から取材は多いし、取り巻きも多いわ。私としては近寄りがたいし、と言うか態度がデカいから近づきたくないわ』
『契約しているトレーナーさんを振り回している所を見た事がありますし、走る姿も半ば本能の赴くままの印象がありました。とは言え彼女の実力は圧倒的です。正直、彼女と当たるレースは避けたいですね』
以上の評価を受けた。聞いたシデンジンバは「
《そして!そして!1番人気に支持されているのが、3番、オルフェーヴルです!》
『『『オオッ!!』』』
そして実況がそのオルフェーヴルの名を叫び、観客もそれに合わせて声を上げる中で二人は静かにパドックに登場したオルフェーヴルを注目する。
太陽の光を吸い込むかのように輝く、きらびやかな金色の髪。それはまるで、幾度となく嵐を乗り越えてきた、誇り高き王者の冠のようだった。瞳は深く、夜の闇を宿したような色でありながら、決して揺らぐことのない鋼鉄の意志の光を秘めている。そんな彼女は周囲の喧騒とは隔絶されたかのように、ただ静かに立っていた。
加えて体操服姿にもかかわらず、その存在感は際立っており、まるで王者のような威圧感と気品を放っている。無駄のない筋肉のついた脚は、これからターフを支配するであろう、絶対的な力を予感させた。彼女は誰とも視線を交わさず、孤高の眼差しで、ただ静かに自身の玉座へと向かう戦場を見据えていた。
《デビュー戦ではスタートから折り合いを欠いてまさに危なっかしい走りでした。しかし最後の直線、その非凡な才能を見せつけるように鋭い末脚で他を圧倒しました。パドックでも、その秘めたる闘志を感じます》
そこで観客が盛り上がる中で解説の声が聞こえた。思ってたより時間がたっていなかったようで、同時にオルフェーヴルと言うウマ娘の存在が強烈だったことを示した。
「
シデンジンバはただ一言、それだけで評価した。傍から見れば表情は変わらないが、長い付き合いのある祐四はそれを『緊張している』と見抜いた。
「彼女の路線は王道、クラシック路線へ進むハズだよ。ジン、キミは彼女と競い合えるかい?」
「
「必要だよ。僕はキミを、目標まで守る事もしなきゃいけないからね」
「……
「それじゃあパドックの紹介が終わったらいい場所が取れるようすぐにレース場に行こうか」
最大の敵を定めたとしてもレースは多人数から勝者は1人だけ。そして前評判や戦績だけで必勝になる世界ではない。誰よりもそれを理解している二人は最後までパドックを見続けた。
そして、レースが始まった。
《ウマ娘、ゲートを飛び出しました。揃ったスタート!さあ、先行争いです。おっと、2番ホエールキャプチャ、抜群のスタートを切りました。一気に先頭へ。早くも後続を突き放しにかかります》
《ホエールキャプチャ、出足がいいですね。自分のリズムでレースを進めたいのでしょう》
《1バ身半ほどリードをとったホエールキャプチャ。外から2番手にはレッドエレンシア、そして3番手にカトルズリップス。その後ろにはフレンドサンボ。内からは西ノクエーサー。さあ、そして、中団後方、オルフェーヴルはどのような位置取りか…》
《向こう正面に入りました。先頭ホエールキャプチャ。差なくレッドエレンシア。そのすぐ後ろにカトルズリップス。そして、ニシノクエーサー、フレンドサンボが続きます。オルフェーヴルは後方3番手、じっくりと機をうかがっています》
《オルフェーヴル、まだ仕掛けませんね。このあたりはベテランのような落ち着きを感じます》
《さあ、第3コーナーへ。ホエールキャプチャ、リードは1馬身。しかし、外からレッドエレンシアが迫る!内からはニシノクエーサーも差を詰めてきました!そして、オルフェーヴル!外から位置を上げてきた!》
《残り600メートルを通過。ホエールキャプチャのリードは、もうほとんどありません!レッドエレンシアが並びかける!》
《第4コーナーを回って、最後の直線!中山の長い直線です!わずかにホエールキャプチャが先頭!だが、外から!外から3番オルフェーヴルが、信じられない末脚で飛んできたー!》
《残り150メートル!ホエールキャプチャが懸命に粘る!しかし、オルフェーヴルがぐんぐん差を詰める!並んだ!並んだー!》
《ホエールキャプチャとオルフェーヴル、2頭が同時にゴールイン! これは、どちらが勝ったのか!?写真判定です!最後まで見事な競り合いでした!》
《素晴らしいレースでしたね。お互いに一歩も譲りませんでした》
《3着には1番西ノクエーサー。いやあ、見ごたえのあるレースでしたね。今後の活躍が楽しみです》
《1着、2着は写真判定となりました。先頭を譲らなかったホエールキャプチャか、それとも驚異的な追い上げを見せたオルフェーヴルか。結果は―――》
《1着はホエールキャプチャ! ホエールキャプチャです!! 文字通り首皮1枚の、クビ差で先頭を譲らなかったぁ!!!》
「少し慢心が過ぎたな」
それが2着となった、オルフェーヴルの一言だった。
彼女はウィニングライブの準備、その前の休息として控室に来ていた。彼女以外ここにいるのは彼女のトレーナーと、そしてチームメイトだった。
「そう言うんじゃありませんよ、オルフェーヴルさん。ホエールキャプチャちゃんだってティアラ路線を目指して頑張ってたんですから」
「なんだカレン。貴様はチームの余よりあやつに肩を持つのか?」
「カレンは油断大敵だよってオルフェさんに言ったつもりだったんだけどな」
豪君とも呼ばれている彼女に堂々、いや気さくに伝えているのはチームメイト・カレンチャン。クラシック期中で6戦3勝。現在休養中で次走は年明けを見積もっている。
「オル、カレンさんは交友が広いんだよ。贔屓じゃなくて平等なんだよ」
「姉上。……姉上がそう言うのであればそう言うことにしておこう」
「相変わらずジャーニーさんには素直ですね」
2人の間を取り持つようにフォローを入れたのはチームメイトにして実姉であるドリームジャーニー。シニア期2年目で、近況で言えば9月26日のオールカマー2着で現在28戦9勝の戦歴を持つ。
「トレーナー、貴様はどう思う?」
その中で三人から遠慮がちに離れていた男性が一人。まだ三十代前ぐらいの若々しさがあるがそこに何処となく軽い雰囲気がある。彼こそオルフェーヴルたちが貯属するチーム・アンタレスのトレーナー、勝添健一であった。
「えっ、僕に聞くのかい? うーん。そもそもオルフェ、ここでの敗北を気にするかい?」
「ほぅ」
「オルフェは自分に慢心があった。その裏には僕からのアドバイス、『第四コーナーまで足を溜めて一気にスパートを掛けろ』があったはずだ。内心はどうあれ、キミは結果として僕の作戦を遂行してくれた。なら負けた原因は――」
「待て」
飄々と端的に、そして敗因を断言しようとした勝添をオルフェーヴルが遮って止めた。勝添はそれを、呆気にとられることなくむしろ納得したように口元を釣り上げた。
「なんだい?」
「余が貴様如きの助言で左右されると思ったか。あれは余の慢心から選んだ策であり、それがトレーナーの貴様と偶々一致しただけだ」
「つまり?」
「
断言するオルフェーヴルに勝添はやれやれと黙って両手を上げる。
「ならそうするよ」
「そうしろ。では余はウィニングライブの準備をする」
「じゃあ僕は会場に行くよ」
「ああ。――――――ゴッ!?」
男性の勝添は控え室から出ようと立ち、その後にオルフェーヴルも立ち上がるとその尻に蹴りをお見舞いした。
「これは王の発言に異を唱え、しかし分を弁えたことに対する
「了、解……」
痛む尻を抑えながら(さすがにウマ娘の全力だったら立っていられなかった)勝添はライブステージの会場へ向かっていた。
「ふぅ……」
「相変わらず、彼が気に入ってるねオル」
「……余があ奴に罰を与える度、姉上はそう言っておるな」
「これは私もジャーニーさん側かな。だってオルフェさんはお兄ちゃんには気安い態度だし」
「貴様のほうがよっぽど気安いぞ。それに奴はトレーナーたる余の家臣、余が遠慮する相手ではあるまい」
「ふふっ。トレーナーたる、ね」
「何かあるのか姉上」
「いや」
ドリームジャーニーは笑顔でそれ以上の言葉は紡がなかった。姉であり、尊敬と親愛を数少ない相手にオルフェーヴルはそれ以上何も言わなかった。
ゆえにこの話題はここまでにしてそろそろウィニングライブの準備を、としたところでオルフェーヴルは今日の敗北を思い返す。一着を取ったホエールキャプチャの走りは中々の物であり、重賞どころかGⅠに届くかもしれない。ただカレンチャンと親しいことからティアラ路線を視野に入れている可能性があり、そうなるとクラシック路線のオルフェーヴルと同じレースを走ることはないかもしれない。
で、あればクラッシック期に自分と競い合うウマ娘はいないだろう。オルフェーヴルは予見した。ふと見た、珍しい飛行帽のウマ娘の事など記憶に残さずに。
ここでオルフェーヴルか登場、ですが最後のシーンを強調したかったのでレースは実況のみです。ごめんなさい。
チーム・アンタレスとチームトレーナーの勝添健一さん。どう見たってチーム池添です。アニメやるならこのメンツで出てほしいなと思う作者の願望。あと蹴るオルフェ様が見たかったから。
芙蓉ステークスて勝利したホエールキャプチャは11世代で代表的な牝馬で名前が挙がる競走馬です。カレンチャンとは父親が同じクロフネ(ウマ娘だとペリースチーム)で異母姉妹。トレセン学園だと仲のいい友達関係と想像してます。