前話の出来事。
シデンジンバと祐四は世代最強と噂されるオルフェーヴルのレースを見に行った。現時点で交流を築いていないのでレース描写はほぼない。
それからは平凡に、しかし堅実にトレーニングを続けたシデンジンバと祐四。しかし寮住まいではなく下宿暮らしなので家事手伝いもあるシデンジンバと未成年なので深夜業務ができず、資料豊富なトレセン学園で長く居られない祐四の2人。編入生と新人トレーナーと言う担当同士で時間のハンデを持つ2人。
だが今日、練習をしていなかった。それは休息日でもシデンジンバが怪我や疲労したわけでもない。そもそも、ほかのウマ娘たちも練習はしていない。理由は今が10月。祐四が一度、中央のレースを見に行くと言った月ではあるがそれは芙蓉ステークスで済んでいる。であるなら今日は何があるのか?
今日はトレセン学園の年間行事、秋のファン大感謝祭「聖蹄祭」の開催。いわゆる文化祭の日であった。
「もぐもぐ……」
そんな日にシデンジンバは屋台で買ったたこ焼きをのんびり頬張っていた。賑やかな感謝祭の眺めながらベンチでポツンと。
「何やってるのよあんた?」
「んぐぅ?」
そこをブラウンワイルドが現れた。背の低いシデンジンバから高く見上げる形であり、呆れた彼女の顔が大きく見えた。あと看板を背負ってた。
「あんた、出し物とかどうしたのよ?」
「
「うん? ああ、なるほど。確かに今からどこかに参加するには遅すぎるわね。それにあんた自身、浮いてるし」
「
「強めの方言で、しかも中央行きにGⅢの冠をつけてくるんだから。あんたの事は学園じゃ有名よ。悪い方向で」
ブラウンワイルドの言葉を詳細にするなら『地方所属のまま中央のGⅢに勝利したウマ娘。気にはなるけどいつも仏頂面で表情は変わらないし、あと方言が強すぎて近寄りがたい』である。ちなみにそんな彼女に関っているブラウンワイルドとシゲルキョクチョウも一時期、その枠に入りかけたがフェニックス賞と小倉ジュニアステークスで競い合った仲という形に誘導できたので問題なし。
「って言うかあんた一人? あのトレーナー君と一緒かもと思ってたけど」
「
「あら、折角の聖蹄祭なのに残念ね。さみしい?」
「
ちょうどたこ焼きを食べ終わったシデンジンバは丁寧に割り箸やパックを片付ける。
「
「私の所はシゲルを含めて4人で軽食店。料理自体は簡単だけどそこそこお腹を膨らませるのはちょうどいいと思ってね。飲み物も完備よ」
「
「……うん、オグリ先輩やスペシャルウィークとかの事ね。うんまぁ、うん。売れ残るよりは、うん」
シデンジンバは会った事はないがそういう意味で有名なウマ娘の事は耳に届いていた。特にオグリキャップの名前は九州にいた彼女でも届くほどに有名だった。ついでに彼女のトゥインクルにいた頃、マスコミがマスゴミだったと先生から聞かされている事から内心、
「まぁそれはそれとして、折角だからあんたも来る? 今頃は小休憩で――」
「ブラウーン!!」
ここで担いだ看板を見せようとしたブラウンワイルドに叫んで駆け寄るウマ娘が。シゲルキョクチョウであり、こっちは出し物の軽食屋の関係でエプロンとバンダナキャップをしていた。
「シゲル?どうしたのそんなに慌てて」
「調理班が、ぶっ倒れました!!」
「……はぁ!?」
軽食屋を、食事を提供するということは書き入れ時は昼時である。であるならそれを提供する側はその時間帯から外れる。その上でウマ娘の個人差はあるがよく食べる方である。なので今回は事前に腹ごしらえをして書き入れ時に臨む、その予定であった。
「まさか腹ごしらえ用の料理が傷んでいたなんて」
「提供する物に気を配ってて自分たちの分を疎かにしてました。それで……」
三人(シデンジンバも場の流れで)は保健室におり、そしてシゲルキョクチョウの視線の先にはベッドの上で青い顔で寝込むウマ娘が二人。聞こえる唸り声からも、どう見たって動けそうにないほどであった。
「
「でもどうしましょうか?私とブラウンは下手とは言いませんがお客様に出せるほどではなく、バイト経験のあった2人に頼んだ訳なんですが」
「食えないこともないし、見た目はそれなりだがお客に出すとなるとなぁ……」
二人そろって「出すほどでもない」と考えているのだろう。ただしこれは接待の意味ではなく、ほかの出店に対する競争から来ている。学生の文化祭なら自分とお客が楽しく出来たらそれでいい、となるかもしれないがウマ娘たる彼女たちの大半には生まれつき闘争心がある。この聖蹄祭であっても「最高の物を!!」と言う熱意を持つものが多い。具体的には重賞レース勝者のウマ娘とか。
ブラウンワイルドとシゲルキョクチョウにもその気持ちがあるが、トップを狙う意味では熱量の差がある。ブラウンワイルドは上旬に出走したOPいちょうステークス*1に勝利してシデンジンバと同じ朝日杯FSを目指しているがシゲルキョクチョウはジュニア期はもう走らずクラッシック期まで力を蓄える予定であるが、そこでも戦績が振るわなければと、障害レースにも視野を広げている。しかし、彼女たちは縁に恵まれていた。
「
「「えっ?」」
それは戦闘機のパイロットのような飛行帽を被った、一見して料理には遠そうなウマ娘だった。
用事を終え、準備も終えて祐四は聖蹄祭が行われているトレセン学園にやってきた。彼にとって
「………」
そして何やら周囲を気にしていた。準備というもの何時もの雑誌顔負けのファッション姿ではなく一般的な格好の上に眼鏡。加えてニット帽を深々と被っている。
視線を気にするように自分の視線がせわしなく動いて、と、ここで警戒しすぎだと自己反省して気持ちを切り替える。
「さて、運転中は見れなかったけどジンからの連絡は……」
ポケットから端末を取り出してチェックすると案の定、連絡が来ていた。友達と一緒になって待ち合わせ場所から離れたかな? その程度の連絡と考えた祐四はそのままメッセージを開いた。
『友達のお店の助っ人をしてきます』
「なんで?」
思わず声が出た祐四だった。
「
「ジンさん! 次にんじんホットサンド3人前です!」(※チーズ入りホットサンドに軽く茹でて湯切りしたニンジンスティックを挟んだもの)
「
「ごめん! ついでのおにぎり追加して!私は付け合わせのニンジンの漬物を補充するから」(※たくあんの代わり。市販品)
「
軽食3品と飲み物数種程度を提供していた出店が世話しなくフル稼働していた。曰く。
『軽食だけど美味い』
『味付けが絶妙でまた食べたい』
『シンプルなのにお店以上だった』
こんなコメントがあった上、『材料がなくなり次第終了します』とあったのでより人が来るようになった。あと『多くのお客様に提供するため、1名1人分の提供とさせていただきます』もあったので一部ウマ娘が泣く泣く一人分を購入、もしくは両手両膝をついて項垂れる光景もあった。
そんな料理を作っているのはエプロンに飛行帽を被ったウマ娘シデンジンバである。そんな彼女は黙々と作業をしていながらそのスピードは手早く、且つ手際に無駄がなかった。
「
「「もう!?」」
「
「「確かに!!」」
ちなみに無洗米は普通米より割高だが糠が取れた分粒は多くなっているし、ついでに洗う手間が減って水道代もかからない。ただし普通米のほうが本来の風味が強い意見もあり、販売している種類も豊富である。話を戻すと今回の場合、単純におにぎりが人気だっただけであり、同量だけど割高だったから少なかったというのは三人の勘違いである。
「………」
そんな彼女たちを眺めていた祐四。様子を見に来たのだが行列が出来ていたので遠目から確認。そして声を掛けられる状況じゃないことと、そう長い間続かないという判断をした。なので静かにその場から離れた。
「「終わった……」」
「
「そっちはカフェへ再利用が決まっていますから問題ありません。あと少しだけなら私たちで消費して構いません」
「
捌き切って、力なく椅子に腰を落とす二人と違ってシデンジンバはなんて事もなく残った飲み物のお茶を紙コップに注ぐ。
「あんた、給仕していた私たちよりなんで平気なの?」
「
「この子間違いなく女子力高いわ。うん、間違いなく」
ブラウンワイルドは二度負けたと実感した。思えば薩摩弁、飛行帽でコッテコテの薩摩隼人をイメージしていたが制服にキッチリしていたし食事も奇麗だった。あと千切りしたキャベツやニンジンが切られて飛んでボウルに入ってく光景なんてアニメの中だけだと思っていた。授業態度も静かに受けていた上に先生への質問だって何時もの方言じゃなくて標準語を使って真面目を超えて礼儀正しかった。
(あれ、もしかしてこの子、思ってたより女の子らしいウマ娘じゃない?)
その可能性に思い至って彼女の方を見ればお茶を、それも奇麗な所作で口にしていた。あ、これ優等生とかじゃなくてもう大和撫子とかのレベルだわこれ。と、ブラウンワイルドは思った。
「ジンちゃんって奇麗な飲み方をしますね」
「
「ご両親は習い事の先生ですか?」
「
「ああ、武士の方々は教養も必要と聞きますからね。長く教えを守っているという事ですね」
「
「そう……ん? 老舗の料亭?」
「え?」
またなんか聞き捨てならない事実が、とした所で扉を叩く音が部屋に響く。
「どうぞー」
ブラウンワイルドが許可を出すと扉は開かれ、そこ先からシデンジンバのトレーナー、祐四が現れた。ただし何時もの格好ではない。
「お疲れ様」
「
「まぁね。忙しそうだったから声を掛けなかったよ。だから終わってから労いに来たわけ。これはちみー」
「……じゃっど」
片腕に3カップのはちみー。おそらくこの聖蹄祭の屋台で販売されていた物だろう。それを真っ先に担当であるシデンジンバに渡したが、受け取ると同時に声を掛けなかったと言う事に関して意味深に返した。
「はい、2人にも」
「ありがとうございます。ですが、こちらは迷惑をかけた側ですよ?」
「迷惑、迷惑かぁ」
「ブラウン?」
シゲルキョクチョウの言葉にちょっと同意できなかったブラウンワイルド。2度目だが、自分たちと比べてシデンジンバはなんて事もなさそうにしているからだ。
だからか、そんな考えをごまかす様に彼女は聞いた。
「ねぇ、シデンジンバ。貴方の目標って何?」
地方、それも本州を飛んで九州のサガトレセンから中央トレセンにやってきたウマ娘シデンジンバ。世間の見方でも地方出身のウマ娘が中央で活躍する事は稀。挑み、しかし泣いて去る。それが地方と中央の差だった。
GⅢの重賞レースに勝ったとはいえまだジュニア期。これからのクラシック、シニア期で頭角を現すウマ娘だっているだろうし、何より彼女たちの世代にはオルフェーヴルと言う唯一無二のウマ娘がいる。後者は不幸とも言えるが前者は中央所属であっても一般共通の壁ではある。その上で、シデンジンバはその壁の存在を認識している。だからこそ目標も明確だと考えた。
「
しかしシデンジンバは即答しなかった。これまでの彼女ならその方言もあって強気に答えたが今回は言葉を濁していた。目標がない、とも考えたが表情と視線が泳がず三人をチラチラ見ている。
「ごめん、二人とも」
それに助け舟を出したのは担当トレーナーの祐四だった。
「ジンの目標には事情があってね。詳しくは教えられないんだ。ただ、少しごまかした言い方なら答えられる」
そう言ってシデンジンバにアイコンタクト。彼女もそのサインに気づき、揺れていた瞳も落ち着いた。しかし2人、シデンジンバはブラウンワイルドの質問に答えない。なんで、と思ったが祐四が『少しごまかした言い方
「私はそれでも聞いてみたいですね。ブラウンはどうします?」
「えっ? あ、ああ。私もそれでいいわよ。意外と予想できるかもしれないし」
しかしすぐに察せなかった所をシゲルキョクチョウがフォローし。ブラウンワイルドはそれに便乗する。
「だ、そうだよ」
そして祐四がシデンジンバへ繋げる。彼女もそれを理解し、呟くように静かに。
「
そして、どこか重い覚悟を告げた。
ブラウンワイルドとシゲルキョクチョウの予定内容を変えています。ブラウンの方はシデンジンバのリベンジとして朝日杯を目指す流れです。シゲルキョクチョウの方は史実と変わらない流れになるでしょう。
あとレースを開けたので次話は丸々書き直しです。
※改稿前からあるもの
あと学年はここから参考にしてます。
U-toolsのウマ娘の同室/クラスの項目です。