野蛮なエルフの国はいかにしてただしいオークの国を撃退するに至ったか【完結】 作:只野夢窮
記憶を取り戻したのですが、よりによってエルフィンド女王でした
鳴り響く救急車のサイレン。
失われる血潮。
遠のく意識。
「ああ……オルクセン王国史のコミカライズ、最後まで読みたかったな……あと欲を言えば3クールぐらいでのアニメ化と映画化も見たかったな……」
残業の帰り道、降りしきる雨の中、スリップした4トントラックが私を轢いた。走馬灯が走ることがすでに奇跡のような状態だ。もっとこう走馬灯って、親の顔とか彼氏の顔とか流れるもんじゃないのか。そういえば私彼氏いたことないわ。あはは。人の声が遠のく――――
「はっ……!」
エルフィンド王国女王、エレンミア・アグラレスは、首都ティリオンの居室で、汗だくになりながら飛び起きた。部屋はチリ一つなく清潔で、白色の家具で統一されている。心臓は早鐘を打ち、『完璧』を持って任ずる白エルフの女王たちとは思えないぐしゃぐしゃの顔をしている。
「女王様……?」
長年仕えてくれている侍女が、心配そうにこちらを覗きこんでいる。
「ああ、なんでも……ありませんわ……ちょっと悪夢を見ただけです」
とっさに平静を装う。これまで白エルフの女王として暮らしてきた記憶、人格がなくなったわけではない。ただ少しばかり、『悪夢』という形で前世をOLとして生きた30年の記憶が流れ込んできただけである。
ついでに好きすぎて100回読み返した「オルクセン王国史」の知識も。
だけ、ではないだろ。というか死に方が悲惨なだけで悪夢扱いなのひどくない?死ぬまでにいいこともいくつかあったよ、さすがに。
ともかくこの世界は、私が愛してやまない「オルクセン王国史」の世界で、私はその世界でエルフィンドの女王である「エレンミア・アグラレス」に転生したのだろう。
もしくは私が単に走馬灯を見ているだけとか。
つまり。もうすぐ。私の愛するオークたちが攻めてくる。
まあ。さすがに。立場もあるので。
黙って侵略されるというわけにもいかないだろう(20%)
グスタフ様と戦えるなんて最高すぎる(80%)
それに白エルフがいくらロクデナシが多いと言っても、白エルフの女王を30年もやっていれば、まあさすがに情も沸く。あんまり転生者が干渉するのはよくないって本編でも言ってたけど、さすがに自衛の範囲なら許されるだろう。
正直、オルクセンに勝てるとは思わない。勝てるとは思わないが、無条件降伏なんて無様なことにならないように。あと
たとえ内戦がひどかろうが、差別主義がひどかろうが、それが宣戦布告の理由になどならない時代だ。
それまで、このエルフィンドという国を残したい。これは私の偽らざる本心だ。ふふふ、たったの100年ですって。私も心の底から白エルフになったものですね。
こちらを心配そうに眺める侍女に、声をかける。まさか私がこんなベタなセリフを吐く側になるとは。
「ええ、そうね。水を一杯ちょうだい。それと……」
「今は星暦何年何月かしら?」