野蛮なエルフの国はいかにしてただしいオークの国を撃退するに至ったか【完結】   作:只野夢窮

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女王戦死攻勢

 数日の後、本国から帰ってきた電報は以下の通りであった。

「市街地への砲撃、可なり。敵国女王エレンミア・アグラレスの生死問わず」

 

「やったっ! 政府の奴らもたまには話がわかるじゃねえか」

 この電報を受け取った時のグレーベン少将の喜びぶりときたら、尋常なものではなかった。しかし実のところ、この時のグレーベン少将と政府上層部の見解は、ほとんど一致していなかった。

 グスタフ王含む政府上層部の中で主流な考えは、「グレーベン君は、少ない証拠から連想ゲームに走っているのではないか」というものであった。「いくら優秀とはいえ、戦地のストレスで何でも怪しく見えているのではないか。一度本国で休養を取らせるべきではないか」という意見すらあった。「よしんば『P・P』がエレンミア・アグラレスだとしても、彼女が『未来予知』の内容を側近に話していれば今更彼女を殺害しても無意味であり、まただからこそ前線に来たのではないか」という分析もまた、多くの人の口に上った。では、なぜ市街地砲撃が許可されたのか。

 外交戦での負け筋を潰すためである。

 今、オルクセン王国は緒戦における外交戦の不利を猛烈に巻き返しつつあった。それは国王グスタフ・ファルケンハインとクレメンス・ビューロー外務大臣の二名体制で外交攻勢を仕掛けられたことが非常に大きい。『予言』ではグスタフ王は第一軍を直卒し、外交のことはビューロー外務大臣に一任していた。その時は外交が万事順調であったからこそ、それでよかったのである。しかし今は外交戦でもやや不利である。それを巻き返すべく、星欧外交の長老たるグスタフ王自身が外交戦の先頭に立っているのだ。

 一方でエルフィンド側の外交戦は、首相兼外相のラエリンド・ウィンディミアによるほぼワンオペ状態である。オルクセンの諜報網によって、どうも国内の決裁はエレンミア・アグラレス女王がある程度さばき、ウィンディミアは首相兼任とはいえ外相の仕事に重心を置いているということまではわかっていた。ゆえに、ここでエレンミア女王を殺害してしまえば、ウィンディミアは国内の決裁も行わざるを得なくなり、過労で倒れたり外交がおろそかになったりすればよし、そうでなくとも臨時の首相として首相の器でない者が首相になればエルフィンド側の国力低下につながってそれはそれでよし。

 もちろん、そのデメリット――――エレンミア女王が指摘した「国民のゲリラ化」という危険性を考えなかったわけがない。ゆえに軍上層部は、もはや遊軍と化しつつある第一軍と第二軍から、兵を抽出してモーリア市と鉄道網の警備に当てた。

 これがオルクセン王国の戦い方である。想定する。計画する。実行する。修正する。堅実。合理的。用意周到。

 しかし世に、狂気の乾坤一擲が合理を崩した例など、いくらでもある――――

 

 とまれかくまれ、年が明け、雪も降りだした星暦八七七年一月三日午前九時三十九分。

 ついに二十八センチ砲が、新年の祝い代わりだと言わんばかりに市街地に降り注いだ。

 

「おお」

「おおではないです、女王陛下」

 自らの民が建物ごと吹き飛ぶのを見ながら、女王は人ごとのような感想を述べた。隣に付き従うのは内務大臣プレンディル。今回の”攻勢”には秘密警察も関わるゆえに、彼女も前線に来ている。とはいえ本来は軍人でないから、おっかなびっくりという節は否めない。

「ここは危険ですので、どうか、地下司令部までお下がりください」

「ええ、そうさせてもらうわ。しかし、オルクセンのことを敵ながら見直したわね。まさかゲリラのリスクを承知で市街地砲撃を強行してくるとは。ならばこちらも次の一手ね。ノアトゥンに連絡しなさい」

「連絡済でございます」

「さすがね」

 もう少しぐらい褒めていただいても、バチは当たらないだろうに。まあしかし、一年前までの何も考えていない女王のためよりは、働き甲斐があるな。そう思った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ノアトゥンはエルフィンド北部の漁業都市である。沿岸に近いところで鯨が獲れるために、北部にしては暮らし向きがよい。

 そこにはベラファラス湾海戦でのオルクセン海軍捕虜たちが収容されていた。収容、と言っても割と形だけのものである。なぜなれば、彼らはおんぼろの船と釣り具を渡され、「自分たちの食べる分は、自分たちで用意しろ」と言われたからである。船乗りだから、船に乗って食い扶持を稼がせようという腹である。確かに捕虜を労働させること自体は、戦時国際法で認められてはいる。しかし船を渡して自由に釣りをさせるというのは前代未聞である。「荒れに荒れる冬の北海に、このぼろ船で乗り出せないことは、同じ船乗りならわかるだろう?」ということだった。さすがに、自分たちで釣った魚しか食べられないということはなく、多少の穀物は支給された。しかしやはり、量は足りない。それでもオルクセン海兵たちは、律儀に規律を守った。どうも白エルフの連中たちも、俺たちの飯を意図して減らしているわけではなさそうだ。自分たちと同じだけの量を支給した上で、足りない分は釣れと来た。それならやってやろうじゃないか、オルクセン海軍の意地を見せてやろう。支給されたぼろ船に、ゲバルト、だのパンテル、だの名前をつけて、毎日必死に漁に励んだ。慣れない土地と寒さで病没するものは残念ながらいたが、愈々この冬を、餓死者を出さずに乗り切れそうだった。

 そんな折に、「お前ら、輸送することになったから列車に乗れ」と言われた時には、誰もが喜んだ。話を聞けば南方の前線に輸送されるらしい。大飯食らいのオークたちを、物資の足りない前線に送るのだから、これはもう捕虜交換だろうと誰もが思った。気の早い者などは、「今年の春には実家に戻って、種まきの手伝いをしたいなあ」などと言って、周りの者に笑われたりした。

 そんな調子だから、一週間もかけてわざわざ輸送された捕虜収容所がやたら簡易的で狭い施設でも、疑問に思う者はほとんどいなかった。どうせ数週間しかいない場所だから簡素に作ったのだろう、と思ったのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 アルトリア市に設営された捕虜収容所を、二十八センチ砲が無慈悲に破壊した。

「想定通りね。じゃあウィンディミアに、遺体交換のための休戦を申し入れるよう連絡して。あとは従軍記者どもに取材の許可を出すように」

「承知しました」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()() 衝撃的なニュースは従軍記者を通じて、三日ほどで世界中に伝わった。オルクセン世論はなお沸騰した。

「前線に捕虜収容所を作って砲撃に巻き込むとはいったい何事だ!」

 これに対するエルフィンドの公式見解は極めて冷ややかであった。

「捕虜というものが戦闘で発生する以上、前線近くに捕虜収容所ができることは極めて自然。そもそも、捕虜収容所を自国のどこに作ろうが、エルフィンド王国の勝手。市街地に兵士ではない人物がいることは予想できるにもかかわらず、そこに砲弾を撃ち込んだオルクセン側に全ての責任がある。なお捕虜収容所はアルトリア市の他の場所にも存在することを申し添えておく」

 遺体収容のための休戦は成立しなかった。オルクセン世論は邪悪なエルフの粉砕と、捕虜の保護の両方を求めていた。

 グスタフ王は前線のグレーベンに電信を打った。

「捕虜収容所以外を狙って砲撃できない限り、これ以上の市街地砲撃は許可できない」

 返信はこうであった。

「捕虜収容所以外を狙った砲撃は、もちろん可能であります」

 

 理屈はこうである。

 航空偵察小隊のコボルドが、魔術探知で建物内にいる生き物の数を確認する。捕虜収容所というからには、少なくとも数十人はまとめて収容しているだろう。十人以上いる建物の中には、砲撃を行わないこととする。もちろん砲撃による戦果は減るだろうが、物だけが入っている倉庫を破壊できるのでも、全く違う――――

 グスタフ王はしぶしぶ許可を出した。シュヴェーリンからの報告では要塞周囲の塹壕線は未だ健在で、そこに兵を突っ込ませれば大損害を覚悟しなければならないとのことだった。市街地砲撃で敵が降伏してくれるのなら、多少の被害には目をつぶらざるを得ない。これは戦争ゆえに。

 

「頻繁に鳥どもが飛んでくるようになりましたわね、ほら、私の言ったとおりだったでしょう」

「ここまで一致するとちょっと怖いですな」

 隣にいるマルリアンの言葉は、けして阿諛追従の類ではなかった。媚びる笑いではなく、純粋な驚きがそこにはあった。

「『予言』だけでは説明がつかない気がしますが、まあ勝った後に教えてください」

「ええ、約束しましょう。それで、例の部隊の練度には期待してもよいのですね?」

「はい。『鳥撃ち(ハンチング)部隊』、対空射撃準備!」

 小銃を持った一個中隊が、大空を舞う大鷲たちに銃口を向けた。彼らの回避行動が緩やかだったことを、誰が責められようか。エルフィンド軍の小銃の射程は千メートル。千メートルの高さを保って飛んでいれば、弾が重力に引かれる以上当たりようがない。念のため、少し距離をとれば――――

「撃て!」

 一斉に小銃が火を噴き、数秒後、二羽の大鷲がフラフラ、クルクルと回りながら落下してくる。他の大鷲たちはなんとか助けようとするが、二度目の小銃の一斉射に追い払われ、無念の内に去っていく。

 そう、空の支配者たる大鷲に、エルフィンド軍の小銃は当たらない。()()()()()()()()()()()()

 鹵獲エアハルトGew七四小銃による対空射撃中隊。射程は()()()()()()()。対空射撃も運が良ければ当たることは、オルクセン軍も演習の前提として認めている事実である。戦争もこのころになると、エルフィンド側がオルクセン側の兵器を鹵獲したものもある程度の数は揃えられるようになってきた。ゆえに、射撃の腕に覚えのあるもの、戦前はハンターをしていたものなどを集めて、即席の対空中隊を用意したのである。これをマルリアン大将直属の部隊として、航空偵察が来るたびに迎撃させる予定であった。当たるか当たらないかは、この際よい。対空射撃など、今この瞬間戦史に現れたような戦法である。それを失敗したとて兵を責めるつもりは一切ない。航空偵察が、「一方的な覗き」から「死の危険がある任務」になれば、それでよい。それで敵の動きもだいぶ制限できるだろう、あわよくば空中観測に頼った砲撃を止められれば、というところである。

「まあ相手も次は警戒するでしょうし、簡単には当たらないでしょうが。敵に好き勝手覗かれるよりはよほどよいでしょう。あなたたち、よくやりました」

 そう褒めると、なんと彼女はピカピカの勲章を懐から取り出した。

「今日あなた方がなしたことは、戦争の歴史にも残ることであるし、また、毎日の砲撃に苦しむ同胞を助けることでもあります。これを賞して、あなたがたにこの勲章を授けます」

 世界初の、対空部隊勲章である。兵士たちは、女王陛下直々に褒められるどころか、専用の勲章さえ手渡しされるという巨大すぎる名誉に、大変恐縮した。そしてこれを意気に感じて必死に対空射撃を行い、多くの兵、市民の命を救い、そして対抗手段として大鷲が投下した爆弾で沢山死んでいった。わずかな生き残りたちが今日のことを、一生の自慢として何度でも話した。彼女らが倒したと称する大鷲の数を合計すると、オルクセンが編成した偵察部隊の数を優に超えるというのは、戦後の笑い話である。

「さて……これでも止まらなければ、いよいよ攻勢の季節になりますわね」

 兵たちに聞こえないよう、そう独り言ちた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

星暦八七七年一月十三日午後四時七分

エルフィンド王国 アルトリア要塞

地下司令部

 

 ひんやりとした狭い全面コンクリの地下室には、女王、マルリアン大将、プレンディル大臣しかいない。クーランディア元帥はアルトリア市が失陥した後の陸軍の指揮を執るべく後方に、ウィンディミアはキャメロットで外交中、ファラサールは海軍の指揮を執るべくタスレンにいる。

「……敵の航空偵察にはある程度制限を加えましたわ。とはいえ完全に封じられたわけではない。市街地にも未だ二十八センチ砲が降り注いでいます。全く、捕虜を粉々にして鳥どもを落としてやれば、流石に止まると思ったのだけれど。オークどもは同胞を大事に思わないのかしら」

「想定より敵方の火力に対する執着は高いですな。まあ、塹壕線に突っ込みたくないという気持ちはわかりますが」

「このままひたすら砲撃されれば、じり貧ですわ。つまり、打って出るほかはない」

 あくまであの手この手で市街地砲撃を止めさせ、グロワール帝国が参戦するまで足止めをする、というのが本筋の計画であった。市街地砲撃さえなくなれば、あと半年は戦えるだけの兵数と予備物資があった。しかし敵は市街地砲撃を止めるつもりはないらしい。いくら倉庫を分散させて軍需物資の被害を減らしても、市民や兵の側が耐えられなくなる。

 ならば、次善の策は攻勢しかない。

「……私は、正直なところ、あまり賛成はできません」

「それはなぜですか、マルリアン?」

「あなたを……女王陛下を敬愛し、そのために命まで捧げる民に、嘘をつくのですよ! 大嘘を!」

 マルリアンが珍しく感情をあらわにした。やめておけ。プレンディルはそう思った。この転生者(ヴィラ)がイカれているのはとっくに知っているし、手を切るタイミングはこれまでにいくらでもあっただろう。陸軍大将という立場なら、マルリアンが反対すれば女王は何もできなかったはずだ。でもそうしなかった。私たちはこの女王にオールインしたんだ。後はショウダウンするだけだ。

「……負けるよりは。負けるよりはよいのです」

「女王陛下?」

 その時の女王の顔は、民に向ける屈託のない笑みでもなく、側近に向ける悪い笑みでもなかった。どこか遠くの――――本当にどこか遠くの生国を思い出すアンニュイな表情だった。

「無条件降伏というのが、どれだけ惨めで、どれだけ酷い仕打ちなのか……それを彼のオルクセン王は知っているはずです。それを知っていてなお行うような人間に負けてはいけない。それが私の、民に負う唯一の責任です」

「陛下……」

「これが二十……三十パーセントですわ」

「陛下?」

「残りの七十パーセントは、単に私が負けたくないというだけですわ」

「陛下……」

 照れ隠しのニュアンスを、プレンディルは見逃さなかった。

「とにかく、例の攻勢の準備はできているわね? プレンディル、マルリアン」

「秘密警察、準備ぬかりなく」

「陸軍、問題ありません」

「よし。この作戦以降、言うまでもありませんが、わたくしは表には出られなくなります。ウィンディミアは外交に専念させてあげないといけない。この攻勢では二人が頼りです。頼みましたよ」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

星暦八七七年一月十四日午後八時

エルフィンド王国 アルトリア要塞

 

 この日、アルトリア要塞司令部は、一つの重大発表をなした。それはアルトリア市のみならず、秘密警察による魔術通信や電信を用いて、即座にエルフィンド全土に伝達された。

「本日、我らが女王エレンミア・アグラレスは、わが国に侵攻せるオルクセン軍との最前線たるアルトリア市にて国民を鼓舞激励されていたところ、本日午後四時ごろ、オルクセン軍の卑劣な市街地砲撃に巻き込まれ、息を引き取られた。我々エルフィンド王国は、この屈辱をけして忘れることなく、侵略者たるオルクセン軍を一兵残らず国境の外にたたき出すまで、戦闘を止めてはならない……」

 国民の悲しむところ際限なく、滂沱の涙止まらず、脱水症状で倒れる者が街ごとに十、二十と言わずいた。捕虜収容所の前は一触触発となり、全ての家が弔意を示すべく明かりを消した。

 その裏で、占領下でのモーリア市では命がけで潜入した秘密警察が火炎瓶や拳銃、小銃などを配り、蜂起を扇動。女王の戦死に憤る市民数万が軍需物資の倉庫を襲撃。これはオルクセン軍の想定の範囲内であり、数時間で鎮圧され、軍需物資に被害はほぼなく、生き残った市民は半分もいなかった――――

 

「むろん、それは陽動」

 ちょうど夜闇に紛れて列車で後送される直前のエレンミア・アグラレス女王本人がそう言うのだから間違いない。

「二十八センチ砲……当然、直撃すれば生き物はバラバラになって痕跡を残さない。だからわたくしが任意のタイミングで死んだことにするのは容易」

 

 後の世の歴史家たちは、ここに陰謀の匂いを感じ取る。どうしてこれだけの数による攻勢が、女王が死んだ直後の、政府が混乱するはずのタイミングで行えたのか。女王は内部抗争で暗殺されたのか? 女王が死んで、好戦派をマルリアン大将が止められなくなった?

 真実はいつだってシンプルである。「女王が死ぬ日時が決まっていて、それに合わせて攻勢を発起したから」

 午後九時、総勢十万名、アルトリア市に籠る兵力の過半数による攻勢が発起された――――後の世に言う、女王戦死攻勢(Queen's Death Offensive)である。

 貴重なグロワール製後装砲と鹵獲したヴィッセル砲による徹底的な攻勢準備砲撃の後に、敵両翼から夜目の利く白エルフ族の兵たちが怒りに燃え、死兵と化して殺到した――――

 オーク族は夜目が利かない。利かないとはいえ、流石に百戦錬磨のオルクセン軍、その中でも最良の誉れ高い第三軍である。猛将シュヴェーリン上級大将の指揮のもと、一瞬で態勢を立て直し反撃に映る。突撃破砕射撃が文字通りエルフたちを粉砕する――――

 

「そして、これも陽動」

 女王もマルリアンもバカではない。アルトリア市を包囲する第三軍の数は約二十四万。そこに十万で突っ込んで勝てると思っているほど愚かなら、今生きてはいない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「全く、同胞たちが命がけで戦っているというのに、我らのすることといえば火薬遊びか」

「そうぼやくな、これが一番大事な任務だ。説明しただろう」

 エルフィンドは、騎兵戦力の豊かな国である。そのほぼ全てが、アルトリア市とモーリア市をつなぐ鉄道に群がっている。事前に闇夜に紛れて敵包囲を抜け、近隣の村に泊めてもらったり、アルトカレ平原の西や東にある森林地帯に潜んだりしていた騎兵部隊が、作戦開始の合図を受け一斉に鉄道に取りついている。その中でも最もモーリアに近く、したがって最も危険な区域が、黄金樹(マルローリエン)旅団に割り当ててある。

「……敵鉄道警備部隊を発見。中隊規模」

「そうか、よし。突撃して敵警備部隊を排除後、工兵隊に習った通り鉄道を爆破だ。黄金樹(マルローリエン)旅団、前に」

 

 確かにオルクセン軍は、鉄道への襲撃までは想定していた。しかし長い鉄道をニ線級の部隊で警備しているところに、騎兵旅団が突撃してきたら、どうか。ましてやそれが星欧最強の騎兵旅団であれば。

 モーリア市では、二万の市民が死亡した。女王戦死攻勢では、三万の兵士が死に、一万が重傷を負った。そしてオルクセン兵は死者と重軽傷者を合わせても一万に届かなかった。

 けれども日が昇り、朝一番目の列車が出ようとした時、オルクセン軍は初めてエルフィンドの真の戦果に気づいた。

「線路が……線路がありません!」

 線路が破壊されているとか、壊れているとかであるならばまだわかる。ないとはいったいどういうことか。運転手からの悲痛な連絡を受け、慌ててかけつけたモーリア市駐在部隊が見たものは――――

 地平線の彼方まで、ひたすらに爆破されつくした線路の残骸であった。

 オルクセン第三軍が持つ食糧は、操典通りに七日分。

 

 第三軍総勢二十三万名、餓死へのカウントダウンが開始された――――

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