野蛮なエルフの国はいかにしてただしいオークの国を撃退するに至ったか【完結】 作:只野夢窮
原作で名前不明なれば、二次創作者の身で勝手につけることこれ憚られるがため、不自然を承知で名前のあるメンバーと並べる際にも名前だけの表記としております。
以下、原作で苗字しか判明していない人物についても同様とします。
「ここに記載あったよ!」というのがあればご教授いただけますと大変助かります。
星暦八七五年十月三十日二十三時五十七分。
首都ティリオン、首相官邸、第二会議室。
人払いは当然済んでおり、ごくわずかな政府高官しかこの場にはいない。
柔らかな間接照明の明かりに照らされる顔ぶれは――――
エルフィンド王国女王。エレンミア・アグラレス。
エルフィンド王国陸軍大臣。ラエリンド・ウィンディミア。
エルフィンド王国陸軍元帥。サエルウェン・クーランディア。
エルフィンド王国陸軍大将。ダリエンド・マルリアン。
エルフィンド王国海軍大将。トゥイリン・ファラサール。
エルフィンド王国内務大臣。プレンディル。
「恐れながら……どのようなご用件でございましょうか」
重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのはクーランディアであった。
陸海軍の重鎮を集めている以上、軍事の話題であろう。というのが推測つかぬような人物の集まりでもない。しかしそうであるならば、なぜプレンディルがいるのか。
「私が昨日、受けた予言についてです。かくかくしかじか――――」
プレンディルに話したことと全く同じことを伝える。私が短いOL生活で得た教訓のうちの一つだ。
『自分が専門にしていないことで、専門家に助けを求める時は、第一に一秒でも早いほうがよい。第二に、隠し立てをしないほうがよい。』
女王がすらすらと信じがたい予言の話を続けるのを聞いて、一堂みなこう悟った。
一昨日までの、温和さと優しさと、政治的無能力とで象徴として国をまとめる女王は、もういないのだと。
予言を全て話し終えた時、室内は気まずい沈黙に包まれた。ようやっと口を開いたのは、マルリアンだった。
「それでは、我々は一年後にオルクセンの侵攻を受け――――質量ともに勝る陸軍に圧倒され、海軍は奇襲攻撃で全滅させられ、さらに空からの防御不可能な攻撃も受け、外交的にはこれまでの鎖国政策とレーラズの森事件で完全に孤立、国家歳入も10倍ほどの差がある上に農作物の不作もあって国力差も当然隔絶、最終的には一年もたたずに全周包囲の辱めを受け、全土併合および同化されると」
「はい、素晴らしい要約をありがとう」
「それで女王陛下におかれましては」
ウィンディミアが割り込む。
「どちらの国に亡命されますか? やはりキャメロットでしょうか」
「口が過ぎるぞ!」
「まあまあ、クーランディア、矛を収めて。これを聞いてウィンディミアがそう思うのは無理もありません。しかし私は……亡命するつもりもありませんよ」
「しかしお言葉ですが女王陛下、伺ったお話が正しいのなら、わが国が勝利する可能性は万に一つもございませんよ」
「本当にそうかしら? 『困難は分割せよ』という言葉が、私の転生前の世界にはあったわ。どんな難題でも、要素ごとに分割して、一つずつ解決すれば思ったより難しくないという意味よ」
異常な量のノルマを課してくる部長の口癖だったことはとりあえず黙っておこう。
「今日集まってもらったのは――――現状を整理して、いつまでにどんな手を打つのかを整理するためよ」
そう言って女王は、机の戸棚から大量の紙とインクと万年筆を取り出す。
OL時代の教訓その2。会議の目的は最初に明らかにせよ。
無言で各人が手元の紙に問題点を書き出していく。重複したものを消していき、追加し、修正し、そして意見の一致を見たころには、深夜3時を回っていた。
○陸軍
・敵方よりも兵器の質量ともに劣る。特に、銃と砲の射程について明白に劣る。
・動員能力においても敵方は我が方を優越しており、最大で150万体の根こそぎ動員が可能。
・国内の要塞はすべて陳腐化しており、敵方の攻勢に耐えがたい。
・戦争継続能力(兵站)についてもオルクセンが我が方を圧倒している。
○海軍
敵方の新兵器を使用された場合、大きな被害を受けることが予想される。
○「空」軍
我が方に防空能力なし
○外交
・我が国にキャメロット以外の外交関係国なし、キャメロットは今次戦争において中立を宣言する公算高し。
・「レーラズの森事件」が公表されれば我が国の立場はさらに悪化する公算高し。
○国力
・明らかに敵方に分あり。国家歳入、十倍の差あり。
・軍需物資の製造能力もほとんどが国外(キャメロット)頼り。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……やっぱり亡命しませんか? キャメロットあたりにかけあって」
「あらウィンディミア、くどいですわ。わたくしは亡命する気などありません。それに、これぐらいならひっくり返せないこともないでしょう」
全員が正気を失った人間を見る目で女王を見た。
「要は、オルクセンに対してはどう見ても一国で対抗することはできませんわ。
「つまり同盟されると? しかし我が国と同盟するほど関係の深い国はありませんぞ」
「同盟などしなくてもよいのです。我が国がオルクセン精鋭部隊に対して防衛を行っている間に、
「存在しなければ?」
「我が国はしょせん、滅ぶ運命にあるというわけですわ。せいぜい1年であれだけの軍事国家と対抗できる国を作れるわけがありませんから」
「なるほど」
女王は自分が選んだ配下たちを見渡す。
「いいですか? オルクセンが多くの優位性を持っているのと同じように、わたくしたちの持っている優位性もまた、存在します。一つには『予言』。このままいけばどのようなことが起きるか、知っているという知識のアドバンテージ。しかしこれは一度しか使えないものと思ってください」
「オークどもはもはや120年前のように愚かではない……こちらが対策をとれば、即座に『対策の対策』を打ってくるからですね」
「その通りです、マルリアン。そして二つ目の優位性は、海軍。確かにオルクセンの新兵器は脅威ですが、それは決して無限の射程を持つ、万能の弾丸ではありません。奇襲さえかけられなければ、海軍は勝利できると私は考えています。そうですね、ファラサール?」
「むろん、勝利してご覧に入れます」
「よろしい。いいですか? オルクセンは兵站を重視します。それは彼らがオークであるが故、大量に食べなければ生きていけないが故です。『予言』では、こちらの海軍を壊滅させた後の敵は、ファルマリア港を用いて海運で兵站を維持し、北上してきました。そうなれば量と質で劣る我らが二つの戦線を抱えることになり、負けます」
女王自ら、棚から軍用地図を取り出して熱弁する。
「したがって、『予言』の使いどころは、ベラファラス湾沖での艦隊決戦です。ここでなんとしてもオルクセン海軍を粉砕する。そうすれば敵軍はファルマリアから北上することはできず、モーリア~アルトリア~アルウィン~トール砦もしくはエレド峠のラインで北上することしかできません。自然、ぶつけられる兵員の数も減る。このラインで防衛戦闘を行いつつ、開戦前に密約を結んだ他国の動員完了を待つ。理想的な奇襲を許し、ファルマリアから北上された『予言』ですら、陸軍のキルレシオは1対2を超えていないのです。陸軍の二人にとっては白銀樹に水やりをするようなもの(註:釈迦に説法のエルフィンド的表現)でしょうが、本質的に陸上の戦闘というのは防御側が有利なのです。『予言』の状況ですら7カ月はもったのですから。」
「陛下、おっしゃられることはよく理解しました。しかし、恐れながら外交まで含めた国家戦略となりますと、ここには首相や外務大臣も呼んでおいたほうがよかったのではないでしょうか」
プレンディルがそう口を挟むと、女王はまるで冬のフィヨルドのように冷たい眼を向けた。
「あのね、プレンディル。『予言』の状況で、無為無策で国を滅ぼしたのがあの二人よ。何を任せられるというの?」
「それは……」
「かといって、クーデターでも起こして女王親政でも敷こうものなら、戦う前から国内ガタガタよ。少なくとも内政では、大きな失点があるわけではないからね、鬱陶しいことに。だから外交は私が行う。私は国家元首よ? 何の問題かしら?」
「……」
「開戦したら、オルクセンの宣戦布告を見抜けなかったことを口実に、首相と外務大臣を更迭して、女王親政を敷くわ。あれらが文句を言うようならプレンディル、あなたが消しなさい」
「それは……」
「乗りかかった船よ。あなたはもう降りられないの。万が一この内容を漏らしてみたとしても、女王を処刑する気概がやつらにあるわけないでしょう。いやそれ以前に、信じようとしないでしょうね。これまで政治にほぼ参加していなかった女王が、親政まで見据えているなんて」
「それは……そうなのですが……」
「ああそうだ、『レーラズの森』の隠蔽はどうなってるかしら」
「それが……『思い出せない』と」
「はぁ。」
「つまり、黒エルフどもを埋める時に、いちいち目印なども用意していないから、どこに埋めたかわからぬと、そう国境警備隊の担当は申しております」
「あなたは秘密警察で拷問するときにわからないで済ませるのかしら?」
「いえ、しかし、実際あの陰気でうっそうとした森の中ではわからなくてもおかしくはないかと」
「黒エルフたちは白銀樹の気配を感じて、埋めたことすら知らなくても見つけ出したのよ? なぜ白エルフができないのかしら」
「はい、申し訳ございません。再度調べなおさせます」
「そうしなさい…………はあ」
大きなため息。一応、次善の策はすでに考えてあるが、まさか使うことになりそうだとは。
「ああ、あともう一つ」
まだあるのか、という顔をプレンディルがする。そんなに表情が顔に出て、よく政争生き残れたわね。
「あなた、横領しなさい」
「どういう意味でしょうか、陛下」
「文字通りの意味よ。一年後に開戦なら、軍需物資を買い込んでおかないといけないでしょう? でもエルフィンドの軍需予算に余裕はない」
「その通りでございます」
「戦争が始まってから買いあさっても、足元を見られるのが落ちだし、敵の残存海軍に襲撃されないとも限らない」
「その通りでございます」
「だからと言って今から予算を変更することもできない。だから別の名目の予算から横領して、軍需物資をため込んでおくのよ」
「その、横領は犯罪でして」
「官僚の横領を調査するのは誰かしら?」
「秘密警察にてございます」
「その元締めは誰かしら?」
「私めでございます」
「なら、あなたが横領したら、だれが気づくのかしら?」
「……財務系の官僚がいずれは気づくでしょう」
「いずれはね。一年持たせればいいのよ、一年」
「………………」
「もし捕まったら、長年の功績がなんとかとか言って、軟禁で済ませるようにしてあげる。そしたら戦争が始まった時のごたごたで、逃がしてあげられるわ」
「…………御意」
「物分かりのいい部下は好きよ。どうしても足りなければ、怪しまれない程度には王室費を足しにしてもいいわ。実際に購入する軍需物資の量と種類については、クーランディア、マルリアン、ファサラールと打ち合わせてね」
「かしこまりました」
クーランディアもマルリアンもファサラールも、にやにやした顔でプレンディルを見つめている。こいつら絶対、無理難題を要求してくる気だ。プレンディルはそう思った。なんでこんな船に乗ってしまったのだろう。
「それで、将軍の皆様と、プレンディル殿が呼ばれた理由はわかりました。なぜ私がここにいるのでしょうか、陛下?」
「あら、ウィンディミア、貴方は戦争が始まって親政になったら、首相兼外相をやってもらうわよ。もちろん戦前の外交交渉にも、私の名代として走り回ってもらうわ」
「そうでございますか」
「あなたもまあ、プレンディルほどではないけど、清廉潔白でもないというのは知っているわ。けれども今、有能で信頼できてエルフィンドに忠誠を尽くす高官は、全員働いてもらうしかない。私には忠誠を尽くさなくてもいいわ。エルフィンドという国家を残せると判断するのなら」
「まあ……モリンドの奴を据えるよりはマシでしょうな」
「あの教義大臣にそんなことをさせたら、血圧の上がりすぎて大変なことになりますわね」
「あははははは……」
「ふふふふふふ……」
降りたい! この船! 今すぐ! 私はただ平和な国で秘密警察を作って遊んでいただけなのに……プレンディルはそう思った。
「そして三つ目、最後の優位性はね」
優位性がまだあるとは思えなかった、その場の誰にも。
「オークたちには家族がいるのよ」
「……はあ、そりゃまあ、そうらしいですが」
「我々は言ってしまえば木の根から生まれる。でもオークたちには家族がある。戦えば戦うだけ、弟が、兄が、子が、親が、物言わぬ躯になって帰ってくる。それは白エルフには一生わからない感覚でしょうね。確かに我々はこの国で
「そのような……誰にも戦争理由を明かさずに戦争など、できるものでしょうか」
「それができるのが彼の国の中央集権の凄まじさよ。ともかくも、もしキルレシオを1対1で推移させ続けることが、可能であったなら――――」
「我が国は勝てるわ」
その後も話し合いは長々と続き、覚書レベルでの行動指針がようやく完成したころには、すでに日が昇っていた。
【対オルクセン戦略概要 覚書】 ※最重要機密 女王陛下の特段の指定がある者以外、閲覧不可。
本覚書は、一年後に『予言』されているオルクセン軍の全面侵攻に対する防衛策を検討したものである。
○開戦前
一、外交によって「オルクセン王国のエルフィンド侵攻時に、オルクセンに攻め入る機会を提供する」旨の提案を、グロワール、アスカニア、オスタリッチ、ロヴァルナに行う。
またこれのみならず、最大限に外交を活用し、エルフィンドを有利になさしめるためのあらゆる方策を検討する。
主担当:エレンミア・アグラレス 副担当:ラエリンド・ウィンディミア
一、軍需物資を「必要なだけ」備蓄するために、必要な予算の「移転」措置を行う。
主担当:プレンディル 副担当:エレンミア・アグラレス
一、オルクセン陸軍がモーリア~アルトリア~アルウィン~トール砦もしくはエレド峠のラインで進軍する際の、防衛戦闘の戦略および戦術について検討する。
主担当:サエルウェン・クーランディア 副担当:ダリエンド・マルリアン
一、オルクセン海軍の用いる新兵器に対する研究、およびベラファラス湾における決戦の必勝の策の研究。
主担当:トゥイリン・ファラサール
一、所謂「レーラズの森」事件の「事後処理」を行う。
主担当:プレンディル 副担当:エレンミア・アグラレス
一、ファルマリアが敵の手に落ちた後に軍港として利用できる港もしくはフィヨルドの選定
主担当:トゥイリン・ファラサール
○開戦後
基本方針として、モーリア近辺の橋を落としながらアルトリア~アルウィンで防御戦闘を行う。
同時にベラファラス湾での開戦には必勝を期すこと。
敵は陸軍でファルマリア港を制圧したのち、港湾機能を破壊するものと想定される。
海軍は事前に準備しておいた予備の軍港に逃げ込んだのち、適宜状況に合わせて任務を行うこと。
ただし星歴八七七年二月ごろには、敵方の新造艦「ラーテ」が進水することに留意すること。
陸軍はトール砦およびエレド峠を最終防衛ラインとして、狭い峠で耐久戦を挑むことを前提とする。
遮蔽物に乏しいネニング平原に進出された場合、純軍事的にも経済的にも致命的になるためである。
一日でも長く時間を稼ぎ、一兵でも多く敵の出血を強い、以て有利な講和を結ぶことを目標とす。
星暦八七五年十月三十日 緊急国防委員会
「……いいわね。緊急国防委員会。この集まりに、何かしらの呼び名が必要だと思ってたのよ。ナイスアイデアね、クーランディア」
「はい、なにせこれが事実であれば、実際のところ緊急事でございますから」
「……
「「「「「弥栄!」」」」」
(弥栄ってやりたかったんだよな~)