野蛮なエルフの国はいかにしてただしいオークの国を撃退するに至ったか【完結】   作:只野夢窮

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国土の要塞化計画を首相に知らせずに!?できらぁ!

 一方そのころ、エルフィンド王国首都ティリオン、女王の館の一室では――――

 

「……つまり、以下の三つは必ず行わなければならないと。

一、ファルマリアの防衛設備強化。

一、タスレンの軍港化。

一、アルトリア要塞の近代化改修。」

「そうだ、まず第一にベラファラス湾での海戦に勝利するまでは、ファルマリアを落とされるわけにはいかん。第二に、そうはいってもファルマリアはいずれは陥落するから、そのあとに艦隊が利用する軍港が必要だ。第三に、いくら最終防衛ラインを峠に引くとしても、アルトリアをあっさり落とされるのでは到底持久はできんからな」

「しかしですね、元帥。予算はまあなんとかします。タスレンの軍港化もまあ、『キャメロット向けの交易を強化するための港湾設備投資』とか言ってごまかせましょう。しかし陸上の防衛施設と言いますと、流石に金の出所を怪しむ人間がいるかと……」

「ふーむ、まあお前の言うことも尤もだな、秘密警察大臣」

「……」

 

 クーランディア元帥、マルリアン大将、ファラサール大将、内務大臣プレンディルの四名が、日夜戦争準備を進めていた。プレンディルによる横領は、驚くほどうまくいった。何もエルフィンドのセクショナリズムが他国に比べてあまりにも酷いというわけではない。本当に国のためを思う、セクショナリズムに囚われていない官僚たちは、みな改革案を出しては秘密警察によって牢屋送りにされていたのだ。それは彼女らが自由に動くことを助けてはいたし、陸海軍はまだ信頼のおける将校がわずかではあるが、いた。

 しかし有能な官僚は本当にほとんど払底していたのである。

 自然プレンディルはほとんど全てを自分で決裁せねばならず、過労死寸前、美しかった金髪はよれよれ、肌はボロボロ、事情を知らぬ他の大臣たちには「体調でも悪いのか、少し療養でもしたらどうか」と純粋な親切心で勧められる始末。

 自業自得である。

 

「……むしろ、だれにも何も言わずに工事を進めてしまうのはどうでしょうか。どうせ高官たちはティリオンから出ることなんてありませんよ。ばれたら、老朽化の更新工事とでも言えばよろしい」

「……まともな政府ならそんな命令通らないだろうな。しかし、うちの政府は……」

「まともでないから、こんな苦労をしょい込むことになるんだ」

「お前が言うな。……まあ、方針としてはそれでいいだろう」

 アルトリアの城塞の拡張工事――――簡易的なものではあるが、市街地から半径10㎞ほどの塹壕線が全周に引かれる――――が承認される。これが一番費用をかけられた計画であった。

 タスレンの軍港化――――最低限のクレーンやドック、石炭保管庫等の設備投資――――が承認される。しかし、これは予算が足りておらず、また立地や工期の面からも、エルフィンド海軍全てを収容できる規模にはなっていない。

「かまわん」とファラサール大将は述べた。

「オークどもと一戦交えれば、一隻も沈まないということはないだろう。残った船を収容できればそれでいい」

 ファルマリアの城塞の追加工事――――ファルマリアを守る城塞は、驚くべきことに一周すらしていない――――これも予算が不足しており、規模を縮小せざるを得なかった。それでも三重に塹壕を張り巡らせることはできた。少なくとも、港湾設備や鉄道駅を爆発して整然と撤退する時間を稼いでくれることぐらいは期待できるだろう。

 

「これでいくらかは持久できればいいのですが」

「少なくとも、ないよりはマシだろう。お前は横領というリスクを取って、国防に貢献した。次は私たち軍人が気張る番だ」

 案外、他人の労苦はねぎらうたちなのか、この人物は。とプレンディルは思った。まあそうでなければ非主流派にもかかわらず元帥にはなれないのかもしれない。

 

 ところで、怪しげな予算での工事は――――

 秒でバレた。

 

「なにコレ?」

 閣議の場で、ダリンウェン首相はプレンディルにアルトリア要塞化について問いただした。山中やひなびた寒村ならばまだしも、鉄道が通る都会での出来事を全て隠し通すことなど不可能ごとだったのだ。

 しかし、流石にプレンディルも伊達や酔狂で秘密警察の長になどなっていない。堂々と胸を張って反論する。

「これは王室費を用いた政府設備の改修でございます。かつて女王陛下が国内を巡幸された際、設備が古びていることに御心を痛め、私に王室費を用いての改修を命じたのです。嘘だと思うなら、陛下がお戻りになられてから確認していただいても一向にかまいません」

 嘘ではない。横領で足りない費用の穴埋めに王室費”も”用いているのは間違いなく事実だ。女王が古い設備に心を痛めていることも、女王の指示で改修していることも事実に違いない。

「しかし、それにしては工事の規模が大きすぎないか」

「それはおそらく、女王陛下の指示で働けることを喜びとした労働者たちが自発的に長時間労働していることで、労務費が節約できているのでしょう。また地元の名士からも自発的な寄付がありまして」

 これも嘘ではない。一年弱という短い期間で完成させるために、3交代制のシフトを敷いて一日に働く時間を長くしているし、噂を聞き付けた地元の名士から寄付があったことも事実だ。 

「ふん……まあ、女王陛下が不在の間にお前を辞めさせるわけにもいくまい。しかし女王陛下が戻ってきた時に、この工事のことを知らぬようであれば、わかっているだろうな」

「もちろんでございます」

 

 悠長なんだよ。プレンディルは内心そう思った。本当に権力争いがしたいなら、閣議で私を問い詰めることなんてする必要がない。消してしまってから、不正の証拠として工事の話を出せばよい。本当の奸臣は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()

(……まあそうしないのは、証拠不十分で私を消したら、秘密警察が怖いからだろうが……)

 帰還した女王がプレンディルの背中を刺すわけがない。この場ではプレンディルが一枚上手であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ところでこのややお粗末な国土要塞化計画、オルクセンにもさっぱり筒抜けであった。ファーレンス商会の伝手のあるキャメロット商人が、ファルマリアとアルトリアの工事を視認していたのである。タスレンの工事も直接見てはいないが、噂レベルでは届いていた。

「するとやはり、奴さんたちはこちらの意図には気づいてるってことでしょうな」

「むろんそうだろうとも、グレーベンくん」

 参謀本部の薄暗く、煙に満ちた部屋で、参謀本部兵要地誌局長カール・ローテンベルガー少将と国軍参謀本部次長兼作戦局長エーレッヒ・グレーベン少将は互いに顔を見合わせた。

「しかし、ファーレンス商会の情報によると――――アルトリアの要塞化はコンクリなどを十分に用意できておらず、手堀りに毛が生えたようなもの、ファルマリアの防衛線はそれよりも規模が小さく、タスレンにしたってエルフィンド海軍の全ては収容できない規模だというじゃないか。油断は禁物だが――――攻略が一週間、あるいは二週間程度伸びるぐらいにしかならないんじゃないか?」

「いいえ、俺が懸念しているのはそんなことじゃないんです」

「ほう、君にはどんな景色が見えてるんだい?」

 同じ少将ではあるが、ローテンベルガーのほうが先任である。しかし、彼はグレーベンの天才ぶりに、ある種の経緯を払っている。この牡の立てる作戦次第で、戦死者は一桁違ってくるのではないかとすら思う。

「いいですか、ここで重要なのは――――ファルマリアの要塞化と、タスレンの軍港化です」

「ほう」

「アルトリアを固めること自体は、全くおかしくはない。ごく自然なことです。俺がエルフィンド側で戦略を立てるとしても、オルクセンは必ずここを通ってくると判断しますから。ファルマリアを固めることも、それ単独では自然なことです。こちらの海軍力は劣っていますから、ファルマリアを攻め落としてエルフィンド海軍をたたき出す戦略をとるだろうと予想することは、まったくもっておかしくない。でも――――だったらなんでタスレンなんだ? なんでわざわざ遠い港なんだ? エヴァンマールでもネヴラスでもいいだろうに」

「単に、北上してまたたたき出されることを恐れたんじゃないかね?」

「だとしても、あの国はそんなに豊かじゃない。ましてや質のいい石炭は温存したいはず。それに、俺たちがファルマリアから北上するなら、兵站は――――海運。そう、海運だ!海運にならざるを得ない! だとすれば、エルフィンド海軍が我らの海軍に優越すると思われている以上、近くの港から輸送路に襲撃をかければ、北上を阻止できるはずだ。だったらやはり、ファルマリアに近い港ほどよいはずなんです」

「しかし我々には魚雷も電光弾(ブリッツ)もあるではないか」

「少なくとも電光弾のことを、エルフィンドの連中が知ってるはずはないんですよ。まだ公開していませんし、実戦でも使っていませんから。魚雷はまだ信頼性の低い兵器ですし」

「ふむう……それはそうか」

「つまりエルフィンドの奴らは、こちらが奇襲をかけて電光弾でエルフィンド海軍を壊滅させ、海運で兵站を維持してファルマリアから北上する可能性がある、と考えているのだと思います」

「……君の言うことは」

「ええ、スパイがいるかと。参謀本部内に。そうであれば先日のエルフィンドの同盟を求める動きも説明がつきます」

「君は敏いが、短絡的に結論を導きすぎじゃないか? ほかにも可能性はあるだろう。第一に、白エルフは粗食に耐えられるが故、我々ほど兵站を重視していない。そのため、ファルマリアから現地調達で北上することが可能だと考えている。第二に、一年か二年で決着をつけようとしているのは、こちらの都合だ。向こうからすれば、国力差もあるのだし、長期戦でもオルクセンが有利なのだから、アルトリア~アルヴィン~ティリアンと北上できればよし、できなければ時間をかけてアーンバンドーファルマリア間に鉄道線を引き、第二戦線を作ってくると想定している」

「……」

「とにかく、確たる根拠もなしにスパイがいると言うべきではないよ。しかし君の懸念は国王陛下に上申しておこう。それでいいかい」

「…………ええ、構いません」

 

(あるいは、スパイではないとすれば――――()()()()()()()()()()()()そうに違いない。これまで戦争に備えてこなかったエルフたちが、ここ数カ月で急にここまで的確な対応を取り始めるわけがない。そいつは――――俺ですら思いつかなかった、エルフィンド海軍を壊滅させて、ファルマリアから海運で兵站を支えて北上するルートを、当たり前のように認識して、それをふさごうとしてやがる。その上――――そんなに戦略の解る奴が、わざわざ国境警備隊を兼ねている黒エルフを追い出すわけがない。とすれば、黒エルフの追放が始まった昨年秋よりも後に権力の座について――――あのクソ閉鎖的なエルフィンドで、少なくとも要塞化工事の予算を得られる立場についた。何者だ? 政変なんて話はファーレンス商会のやつらから全く出てないぞ。)

 

 国力差、兵力差、兵器や操典や外交力の差。いまだオルクセンはエルフィンドに、圧倒的な優越性がある。にもかかわらずグレーベンは、寒気を覚えずにはいられなかった。

 あの半島で、何が起きている?

 

 

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