ダンジョン配信のモデレータしてたらケダモノに乗っ取られた   作:灰ネズミ

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1.事故配信

時はDR(ダンジョン暦)514年。昔は西暦なんてものがあったそうだけれど、若い世代には関係の無くなってきた頃。

世界のあちこちで突如発生したと言う多次元、或いは異世界への入り口…”ダンジョン”は当時もの凄い被害を出したらしい。

内部を調べに入った昔の兵隊さん達が使っていた――今でいう後衛組が出すような火力を持っていたという――銃火器と呼ばれる旧式武器では閉所が多かった事もあり、弱い敵しか倒せず調査は滞った。

だから敵が外に出ないからと放置していたら、数年後には外にあふれ出る大災害を引き起こしたらしい。

そのせいで今でも世界地図には名前が空欄になっている箇所が幾つもある位だ。

 

反面、ダンジョンは恩恵ももたらした。当時主に使われていた電気に変わるエネルギー資源…魔素だ。

ダンジョンから産出される魔素の含んだ石(魔石)や、魔素を感知・操れるようになった人々は資源革命や技術革命となった。

公害も環境汚染もしないクリーンでセーフティなエネルギー資源。世界は沸き立ち、我先にと人々をダンジョンへと駆り立てた。

そのせいで無茶な攻略が、多くの犠牲者を出した…訳ではなかった。

 

幾つか理由はあるが、一つはダンジョンで発見されるアイテム(道具)達の中に、身代わり機能や緊急脱出機能があった点。

所持しているだけで致死性のある攻撃などに反応し、人の代わりに砕け散る身代わり人形。

ダンジョン入口をイメージして掲げると、対応した人一人を入口へと転送してくれる緊急脱出アイテム。

これらは比較的入口に近ければ近い程見つけやすく、今でも需要が途切れる事はない駆け出しの貴重な収入源だ。

 

もう一つは、攻略時の記録として今でも続く”配信”の規約が制定されていた点。

当時にもあった配信文明は攻略中の記録や透明性、リアルタイムでの状況把握と色々都合がよく、世界へ向けての平等性も担保されていたらしい。

生憎詳しい事は分からないが、ともかく「意図的に抜け駆けや秘匿なんてしませんよ」という事らしい。

噂ではこれを怠ったとある国が、それが原因で民族崩壊を引き起こしたとか。所謂(いわゆる)ダンジョン伝説…昔で言う都市伝説という奴である。

 

他にも色々あるが、前述などの理由で「ダンジョン内での」人的被害は外で出た被害よりも少なく、故に人々をダンジョンへと駆り立てていった。

今じゃ割の良い短期アルバイトと言えば、中堅処の荷物持ち(ポーター)と言われるくらいである。

それ位、人々の生活とダンジョンは密接な関係に変わっていった。

 

―――さて。現実逃避で歴史を振り返っていたが、もうそろそろ限界だ。

 

:逃げて逃げて

:これはもう、だめかもしれんね…

:いやああああああ

:今日のダン死会場(ダンジョン死亡事故配信)はこちらですか

 

コメント欄…ダンジョン配信にリアルタイムで打ち込まれた視聴者の悲鳴が荒ぶっている。

最後のコメントの通り、犠牲者は多くないが出ない訳ではない。

ダンジョン攻略専用配信サイトの規約通り、人の死もしっかり配信・記録される。

そういう経緯に至った理由の最後まで、明確に記録し公表するという意味でもある。

人々へ同じ過ちを起こさないよう、警告を怠らない為に。

――それでも、ダンジョンには未だ解明しきれていない不可解で、人にとっては理不尽な理由で死が訪れる。

 

「…モデレータ、ちゃんと視てるか(・・・・・・・・)?」

 

配信画面の向こう。ダンジョン内から死にかけの声で尋ねて来る。

俺は居た堪れない気持ちでコメント欄へ言葉を打ち込んだ。

 

⏉:視てる。お前はよく頑張った

:モデレーターさんすら諦めるしかないのか

:絶望

:やだやだやだやだ

 

視聴者達が暗くなっていく。俺だってどうにかできるならしたいが、モデレーターはそこまで万能じゃない。

配信画面外にある、パーティステータスを再度確認する。

バイタルデータ、レッド…を超えた、クリムゾン(終わりまで秒読み)ゾーン。今まで確認されている、ダンジョン産の如何なるポーションでも助かる見込みはない。

今にも止まりそうな小さく荒い息遣いが、ヘッドセットから聞こえて来る。

今後きっと一生、この息遣いは耳にこびり付くだろうと思った。

 

:他のメンバーは別な配信で安全確認できたけど、肝心のリーダーがこれじゃ…

⏉:お前が逃がしたメンバーは全員無事だ。お前は立派だよ

:何とかならないのか

:無駄無駄。だってここ「仕置層」だろ

 

最後のコメントを見て奥歯を噛み締める。罵倒の言葉を打ち込むのを必死にこらえて、権限で弾く(非表示にする)

今でも解明されない、時折強制転送されるダンジョンの未知のエリア…キルゾーン、仕置層など様々な名称で呼ばれている場所。

身代わり人形が機能を失い、緊急脱出アイテムすら特定の場所でないと使えないエリア。

その上、強力な敵達を初めとして悪辣なトラップ群が仕掛けられたこのエリアに迷い込んだ人々は送り込まれたら最後、殆ど(・・)生きて帰れない。

ダンジョン攻略中、唐突に放り込まれたこの配信のパーティは脱出可能場所へと何とか辿り着いたが、殿(しんがり)として残ったリーダーが瀕死の重傷を負ってしまった。

重傷を負わせたモンスターこそ相打ちで倒したものの、リーダーはもはや息も絶え絶えだ。

肝心の緊急脱出アイテムすら、そのモンスターから入手できなかった。

 

今北産業(今来た3行で説明頼む)

:1.強制転移でキルゾーン 2.トラップで脱出アイテム全ロスト 3.ここまで再入手は他メンバー分だけ

:最後の望みのエネミードロップもスカ。脱出エリアは目の前なのに…望みが断たれた

把握した(理解した感謝)

 

コメント欄に流れた通り、リーダーは唐突な強制転移でも冷静にメンバーを指示して脱出可能場所へと導いた。

そこまでの間に入手したこのエリアではレアドロップとなる脱出アイテムを、他の重傷者を含めたメンバーに託して残り…最後の賭けに負けた。

血塗れで横たわった身体を転がし、仰向けになる。

 

「そうか…後は…頼んだ…」

 

コメントが見えたのか、皆が無事だと確認できたリーダーはそう言い残して息を引き取った(バイタルデータ、ブラック)

…立派な、最後だった。

滲む視界。去来する様々な思い出と想い。

目からあふれる涙を荒っぽく拭い、最後の仕事をしようとユーザーインターフェースに手を伸ばす。

 

:動かなくなっちゃった。嘘、だよね

:人(合掌する両手)

⏉:ご視聴の皆様、今までありがとうございました。今後の活動については

:!?

:新しい敵!?

 

配信画面に割り込む影。それは人型をしていた。

背を向けたそれは全身が長い白っぽい毛に覆われており、腰には長い尻尾が生えている。

頭部には二つの天を向く三角形の獣耳を備え、肉球の付いた動物の手足が見えた。

そして――当然ながら、全裸であった。しかも女形。

 

:エッッッ

:違う意味でドボン(ダンジョン配信禁止)されちゃう

:何これどういう事!?切り札的なテイミングモンスター?

⏉:何だコイツ!?

:違うっぽい

:かなしいやらえっちやらもうかんじょうがぐちゃぐちゃだよ

 

ウェアウルフ(人狼)と思わしき敵はリーダーに近づき、しゃがみこんで眺め始める。

口元に手をかざし、手首を掴みあげて暫くじっとしていた。

相手が全裸で背中を見せている手前、下手に配信画面を動かす訳にもいかず様子を伺う。

やがて人狼は首を横に振ると、リーダーの身体を担ぎ上げた。

 

:まさか、持ち帰って食料にするつもりじゃ

:やめろやめろやめろやめろ

:やっぱりモンスターはクソ

:配信止めなくていいのか

⏉:概要欄記載の通り、リーダーの意思によって、いわゆる最後まで記録します

:そんなぁ

 

コメント欄では配信を止めなくて良いのかと不安が上がるが、打ち込んだ通りこれは予め言われていた事だ。

ダンジョン配信のモデレーターを務める事になった時に言われた事…最後まで見届けて(記録して)欲しいと。

リーダーを軽々と運ぶ人狼は、悪辣な筈のトラップ群に引っ掛かる事なく黙々と歩き続けていた。

 

 

数十分後。幾つかの転送陣を挟んで辿り着いた所の光景に息を呑む。

太陽に似た光が差し込む一面緑の森の中。

時折青空に似た天井が垣間見える其処はモンスターも見当たらなく、本当にダンジョンの中なのかと疑う光景だった。

 

:セーフゾーン?それにしては広すぎる気がするけど

:それに時折見える地面に刺さった木の棒の形からして、あれって…

:墓場?

 

コメント欄で静かに騒がられている(ゆっくり流れて行く)通り、そこは一見森のように見えるが墓場のようだった。

木々の合間に時々、十字にされた木の枝が地面に突きささっている。固定しているヒモはツルのような植物のようだ。

…まさか、森を形作るあれらの木々も元々、墓標の木の枝だったりするのだろうか。

人狼は少し開けた場所で立ち止まるとリーダーを下ろし、近くの穴を両手で掘り始める。

あっと言う間に一人分の穴を掘り出すと、そこへリーダーを横たえて土をかけて埋めた。

そしておもむろに腰にあった――今まで全くその存在に気付かなかった――くたびれたサイドポーチに手を突っ込むと、そこから二振りの枝とツルを取り出した。

 

:マジックポーチ!?

:Bag of Holding…物入れ袋が元ネタとかいうアレ?

:上級御用達アイテム

:あの大きさなら容量次第で上級どころか最前線クラスでは?

:というか持ってたの気付かなかったんだが

 

段々と騒がしく(流れが速く)なるのにも構わず――恐らく気付いてない?――人狼は枝を十字にすると地面に突きたてた。

そして両掌を合わせて、僅かに俯く…まるで死を見送り、リーダーに敬意を払うような仕草だった。

その姿にコメント欄がざわつき、やがて倣う様に合掌のコメント。あるいは黙礼しているのかコメントの流れが緩やかになる。

かく言う自身も、配信画面から見えるリーダーの墓標へ向けて、同じように合掌して拝んでいた。

暫くして合掌を解いて頭を上げた人狼が振り向くと、配信を映している画面へと近づいてくる。

 

:人人人(合掌する両手)

:あ、気付かれた?

⏉:おい待てやめろ。掴んで何する気だ

:唐突なダン相(ダンジョン相棒)距離

:おめめきれい

 

画面いっぱいに広がる人狼の掌(肉球)と顔面どアップに、コメントの流れが加速する。

人外を感じさせる伸びた鼻先(マズル)の先に湛えた瞳は人間を思わせるように落ち着いていて…いや好奇心を漂わせ光っているようにも見えた。

何とか振り払おうとモデレーター権限を使って動かそうとするが、わずかに画面を揺らすだけで逃げれそうにない。なんて馬鹿力だ

焦っていると、不機嫌になったのか眉を潜ませた人狼が画面越しに自身を見たかと錯覚するように目線を合わせた気がした。

それと同時に撮影機器へ送っている筈の魔素の流れに阻害を感じた瞬間、一瞬だけ切断されてモデレーター権限の一部が操作不能になった(ロックされた)

 

:コイツもこの場所も気になるけど、配信続けて貰っても良いのかな

⏉:…ロックされた

:え?

:どゆこと?

⏉:配信が閉じれない。画面も動かせない

:えっ

 

意味の分からない現象に嫌な汗が流れるのを感じる。

コメント欄も戸惑う中、勝手に配信タイトルが書き換えられていく。

訳も分からない状態に不安が膨らんでいく。

 

【事故配信】キルゾーン脱出【閲覧自己責任】

 

【】

 

【ダンジョン配信】うぇるかむ とう かそう(果層)

 

 

 

タイトルの変わった配信画面の向こうで、人狼は人懐こいような笑顔を浮かべていた。

 




ここまでご閲覧頂き、ありがとうございます。
モフケモ獣人のダンジョン配信モノが見たい&書きたくなったので筆を取りました。
スパナのマークに丁度良かった金槌マークがPCでは見えなかったので、罫線で代用…ぐぬぬ。
単発になるかどうか予定は未定という奴で…。
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