ダンジョン配信のモデレータしてたらケダモノに乗っ取られた   作:灰ネズミ

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* Tips *
ダンジョンは上層・中層(下層)下層(仕置層)、そして果層(未知層)が存在する。
人類が認知しているのは、未だ一部に過ぎない。



2.ケダモノの森

配信権限が乗っ取られた事をダンジョン組織に延々と説明…報告し終えて、通話を切る。

―――ダンジョン組織とは、ダンジョンに潜る資格の承認から入手したアイテム売買の取り決めなどを引き受ける組織の総称だ。

国によって様々な組織形態があるが、日本は国営の「ダンジョン省」と役所のように各地にある、窓口である「ダンジョンギルド」がある。

この窓口も場所により名前が違うが、よほど地元愛がない限り総称であるギルドとしか言われないのは御愛嬌という奴である。

配信に関しても取り扱っている(ダンジョン攻略時には必ず配信する為)ので、問題が起こって困ったら窓口に一報入れるのが一先ずの流れになる。

…24時間受け付けているが、すぐに返ってくるとは限らないので「一先ず」なのである。

モデレータ権限の一部が今だロックされたままの、配信画面を改めて見る。

画面の向こうでは相変わらず至近距離の人狼の顔面が覗き込むような姿勢で映っていた。

目線は忙しなく上下左右に泳ぎ回って…いや。まさか、コイツ…?

 

:あっちこっち視線がすごい勢いで動いとる

:画面さんもうちょい下!

:ギリギリ見える谷間だけでも一向に構わんッッ

:でも、もし動かせたら?

:山頂が見えても一向に構わんッッ

:草

 

一部の怪しいコメントが多くなってきた頃、人狼の目が細められる。

所謂ジト目という呆れた様な表情を浮かべると、片手は胸を隠す様に引き寄せられ、もう片方の手で画面を上空へと向けた。

緑の木々の隙間から綺麗な青空と、柔らかい日のような光が画面一杯に広がる。

 

:うおっ、(日差が)まぶしっ

:見えないなった

:画面さん上じゃないのよ下なのよ!

:おまへらの自業自得なんだよなぁ…

:いやだってコメントなんて読めないと思って…あれ?

⛏:出荷よー

:そんなー(凹んだ表情)

残当(残念ながら当然)。それとモデさんお帰りなさい

 

とりあえず卑猥な要求が激しすぎるものへ苦笑いしながら牽制し、先程の行動を顧みる。

…もしかして目線が激しく動いていたのは、上下はコメントの流れを追っていて、左右はコメントの詳細を読んでいた?

うちのパーティは無所属の零細程度だが、それでもそこそこのコメント数がある。

ましてや事故配信中――もう直後というべきか。故に普段より人が多いため、流れは早い筈。

それでも目に留める程、動体視力が良い…という所は問題ではない。

コメントの意味を理解(・・)している点だ。

テイミング…人に使役されたダンジョン内モンスターがコメントを目で追う事はあるにはある。

しかしよほど教え込まれない限りモンスター達が理解する事はないし、そう見えても定型文が見えた際に躾けられた通りの反応を返すだけが大半だ。

それに表記言語についても最新機器の場合、外国語も自動翻訳で表示されるものもあるが、今使っている奴は違う。

つまり何故か野生のモンスターが、日本語で表示されたコメント群を見て、理解している。

更には羞恥という、心情やハラスメントに対する反応すら見せている。異常だ。

着ぐるみを着込んだ日本人だと言われた方がまだ理解できる。

下手をすれば自動生成されたAI(人工知能)動画が流されていると誤解しかねない。

最もダンジョン配信に関して悪意ある編集は運営元から規制されているので、流した瞬間にDungeon Bomb…通称ドボン(ダンジョン配信禁止)となる。

だから配信に映る人狼の行動はリアルタイムの映像であり、故に異常極まりない。

ぶわりと嫌な汗が浮かび、流れるのを感じる。

コイツは一体…何者なのか。

 

:あ、画面戻ってきた

:何かの皮をなめした胸帯と腰巻、かな?

:ノゾミガタタレター

:卑猥なコメントは焼き飯(チャーハン)にすべきか

:そんなー(凹んだ表情)

:でもボロボロで千切れかけなのはエッツィオでいいかも

:(刃物とオタマ、フライパンのマーク)

:ブヒッ

 

肉球付きの手が配信画面を戻すと、そこには胸帯と腰巻を巻いた姿の人狼が居た。

これでどうだと言わんばかりに煽り顔で鼻息を吐き、腰に両手を当てて胸を張っている。

先程よりもマシだが、野性味あふれる様相なのは変わりない。

目元を抑えながら、センシティブとそれを牽制するコメントがちらほら散見されるのを目の端に捉える。

頭痛が痛い(困惑)。

人狼は流れるコメントを見て満足したように頷くと歩き出し、画面を振り返りながら木の一本一本を指さして行く。

――まるで一基ごとに誰の墓なのかを紹介しているように。

 

:十字架を指さしながら歩いてってるね

:やっぱり誰かの…なのかな

:生えてる木々もって事は、つまり…

:でも鳴き声だけじゃ誰のだかわからんな

ダンジョンタグ(認識票)でも残ってればなぁ

 

コメントで流れている通り、ダンジョン探索の資格を取得する際に交付される認識票…ダンジョンタグ(認識票)があれば照会の申請ができる。

ダンジョンタグ(認識票)には名前の他に、個人を照合する為に必要な魔素が込められているそうで、ギルドに問い合わせれば、上組織であるダンジョン省へと申請が送られ、そこで情報照会が行われるらしい。

らしい、というのも聞きかじった知識だからであり、実際に申請した事も必要に駆られる事も無かった。

万が一ダンジョン探索中、「そういうもの」を拾った時に備えてそういう手続きがあると調べた事があるだけだ。

十字架を指さして回っていた人狼が残念がるコメント群に気付くと、ムッとしたように表情を歪める。

気に障ってしまったのだろうか。

雰囲気を変えるべきかと悩んでいると、画面の両端にまた両手が伸びて来る。

撮影機器を掴まれた後、人狼が少しの間両目を閉じていると、機器から繋がる魔素の流れにまた阻害を感じた。

正確には今度は断絶する感覚である阻害ではなく、干渉という表現に近いもの。

一体次は何をするつもりなのかと息を呑んでいると、思わぬ形で結果が現れた。

 

:せめて名前だけでもわかればなー

:○○ 太郎

:…え?

:○○○ 花子

:○ 次郎

:もしかして、家名…いや名前?!

:ジェームス=○○○

:外人の分もあるのかよ!?

 

困惑するコメント欄の最中に、配信者コメントという形で表記されていく名前の数々。

これらの名前はまさか、墓標となった人々の名前だろうか?

何をどうやった…!?待て待て早い早い多い多い!!

閉じていた目を開き、撮影機器を手放すと人狼はまた歩き出す。

十字架と木々を指さしていく人狼が放って置いても次々に現れる名前群に、慌ててモデレータ権限を操る。

幸い一部の機能はまだ扱えるようで、コメント欄に流れる文字群の内から名前と思しき部分を抽出・メモアプリへエクスポート(出力)するよう繋げる。

記録措置を行った後、流れる嫌な汗を拭いながら確信した。

この人狼、人間の言語どころか文化を知っている。

撮影機器付近に浮かぶコメント欄を読解するのもヤバいし、機器に干渉するのも激ヤバだ。

だが何よりも、恐らくダンジョンタグ(認識票)という文字だけから個人照会へと繋げてみせる理解力が恐ろしい。

人一人の身には絶対余る人狼から得られる情報群に、心底震えあがる。

震えあがっていたのだが…。

 

:あ、転んだ

:はしゃぎする子供かな?

:可愛い

:和む

:みえ、みえ…

火炎放射器(汚物は消毒)(火のマーク)

:うおー!あっちィー!

 

木の根に足を取られて盛大にスッ転ぶ姿に、盛大に気が削がれてしまった。

燃やし燃やされているコメント欄の流れに、顰めた眉をほぐす為眉間を揉む。

…野生どこいった。

 

 

 

一本一本指さしながら進んでいると、やがて聳え立つ崖と行き当たる。

そこそこの高さと斜面があるむき出しの地層が見て取れるそれらは一見、ただの少し開けた場所と唯の崖だけに見える。

しかし撮影機器の設定を切り替え、魔素によるスキャンモードにすると洞穴らしきものが映し出された。

どうやら穴自体に魔素による偽装が施されているようで、コメントにその旨の説明を打ち込む。

コイツの住処だろうか。

 

:ちょっと開けた所に出たと思ったら、崖だねぇ

⛏:魔素偽装されていたようで、設定を変えました

:モデさん有能100億万点

:洞穴住居!そういうのもあるのか

:リアル視点のままだったら、気付かんわこんなの

 

洞穴へと進んでいく人狼だったが、ぴたりとその歩みが止まる。

今まで(比較的)朗らかだった笑顔が止み、真剣な表情が浮かぶ。

獣耳をぴくりぴくりと何度も震わせ、匂いを嗅いでいるのか鼻先もスンスンと動く。

何かあったのだろうか。

やがてスッと片足を上げ、その足裏を上へと向けた。

様子を伺うべく撮影機器を操作し、背後から覗き込むように場所を移動する。

 

:これは…排泄物!

:排泄物。おお、排泄物

:この先、排泄物があるぞ

:発見と表示が遅すぎたコメント達

:この先、排泄物はないぞ

:嘘コメントまで混ざってて草。いや糞

:御排泄物っていいなされ

 

人狼の肉球が垣間見える足裏には、小型動物のものらしき排泄物が付いていた。

その様にコメント欄が匂い立って行く。排泄物だけに。何でだよ。

人狼は先程までの真面目な顔が一変、慌てた様に片足で跳び跳ねながらその場を離れた。

近場に生えた草の葉へ擦り付けて、踏んづけたものを落とす。

その後ろ姿からは恐ろしさは消え失せ、代わりに間抜けさがにじみ出ていた。

だから野生どこいった?

ある程度落とし終えた後、片足を両手で体勢を保持し確認していた人狼が片手を放す。

指をさす様に人差し指のみ伸ばすと、そこへ魔素が集いだす。

集った魔素はやがて変化し、何と水球へと形作られた。

 

:へ、魔法?

:このモンスター、魔法まで使えるのか

:青魔法使いかな

:水棲系でもないのに青系は珍しいな

 

ふわふわ浮かぶ水球へと片足を突っ込み、水洗いを始める人狼。

それを見てコメント欄が少しだけ驚いている。

ダンジョン出現によりもたらされた技術の一つ、魔素を集め発現する摩訶不思議な法則…魔法。

ざっくりそれは、色ごとに得意分野を分けられている。

 

赤…火を初めとした、赤色をイメージするものが多い

青…水は勿論、氷も扱える

黄…地に接するものが多く、石や植物などがここに入る

緑…風が関わる現象を主にし、雷もこの系列

 

珍しいものとしては。

 

白…回復系が豊富だが、時間操作もできるという噂がある

黒…黒い煙幕や毒の他、影を操る魔法もある(らしい)

 

あやふやなのは又聞きの情報なので、確証を取っていないからだ。

珍しいものの殆どがキルゾーンに居たモンスターの目撃情報からなので、そこまで精査していないし情報も少ない。

そもそもキルゾーンへ行かない事が、生存条件である――生存条件であった――なのだから。

兎も角。その中でもモンスターが扱う青系の魔法は、水棲系が扱う事が多い。

やたらにでかい魚や人面魚、岸部にまで上がって襲ってくる貝類など。

例外がない訳ではないが、それでも珍しい事には変わりない。

そう考えていると、人狼がおもむろに近場へ手をかざす。

かざされた場所から唐突に何かの草が成長し始めたと思えば、それは糸へと変化していきシュルシュルと編み上げられ――タオルになった。

…何で?

 

:…へ?

:なん、タオル。ヘアッ!?

:植物操作、って事は黄魔法も!?

⛏:待てまて何をどうやって何した

:モデさんも混乱しておる

:ちゃんと足拭けて偉いねー(思考放棄

 

コメント欄も荒ぶっている通り、モンスターが二色以上の魔法を使う事はまず無い。

それ所か人間の間でも、あそこまで即座に複雑なものを作り出す何て聞いた事がない。

だがそれよりも何よりも、叫びたい事がある。

―――だから、野生は、どこいった!

 




ご閲覧、お気に入りを頂き、ありがとうございます。
評価も頂きまして、ありがたき幸せで御座います。

モデレータのマークについて、ツルハシっぽい印がPCで見れたので試験的に使ってみました。
「見えないが?」という方が居ましたらどこでも良いのでその旨、教えて頂ければと思います。

現実のモデレータはコメントに関するもののみですが、本作品はダンジョン配信モノという事もあり他にも間接的に様々なサポートができるものとしています(バイタルデータの確認など)
視聴者も閲覧可能か、モデレータ限定か…考え出すと楽しくなっちゃいませんか?
皆さんがイメージするサポートが他にもありましたら、教えて頂けましたら幸いです。


筆者の作品ではお気に入りなどの御名前記載をさせて頂いております。
もしも問題ありましたら一言、頂けますと幸いです。
また、一部時間順ではない場合もありますが御了承の程、お願いします。
(閲覧、しおり、ここすきは御名前が表示されず、感想は今の所個別で返信する予定の為、割愛とさせて頂く事になりますが、頂ければとても嬉しいです)

凛斗様、安喜夫様。
御評価頂き、ありがとうございます!
頂きました評価を胸に、これからも執筆を続けさせて頂けましたら幸いです。


凛斗様。
お気に入りも頂きまして、ありがとうございます!
ひと時の楽しみになれましたなら、筆者冥利に尽きます。
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