白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
放課後の教室に現れたのは、秒刻みの予定をこなす名探偵・白馬探。個人情報を晒しながら花梨に接近する白馬に対し、快斗の嫉妬と消毒マジックが炸裂する!木曜日の「ゲーセン&カラオケ」への参加を強引に決めた白馬に、不機嫌MAXの快斗。焦燥に駆られ花梨の手を引く彼の姿に、幼馴染の青子は言い知れぬ不安を抱き始め……。


第102話
快斗と花梨の自宅最寄り駅は江古田という設定になっています。


102:混み合う車内で

 

「かーりーんーー! 何で断らなかったんだよ~! この浮気もの~!」

 

「えぇっ? だって青子ちゃんがOKしてるのに断る理由がないよー?」

 

「あいつ探偵なんだぜ? オレのこと心配じゃねーのかよ……」

 

 

 青子たちと別れ、教室から出た花梨と快斗は昇降口で靴を履き替え中……。

 快斗から、白馬が探偵だと告げられた花梨の目が丸くなる。

 

 

「えっ!? 白馬くんて探偵なの!?」

 

「おぅ。土曜に言ってた探偵、あいつだよ」

 

「ええっ? そうだったのー? そういえば、白馬くんロンドンにいたって……あ」

 

 

 ぷうっと頬を膨らませながら告げる快斗に、花梨はスケートリンクで青子が、“ロンドン帰りの名探偵”と言っていたことを思い出した。

 

 

「……あいつ、警視総監の息子なんだって」

 

「そう……警視総監の……。はぁ……すごい人なんだね」

 

「あいつの父さんがな?」

 

 

(……チッ、警視総監がなんだよ。オレの親父だって、世界最高のマジシャンなんだぞ! ……今は言えねーけどさ)

 

 

 それぞれ靴の履き替えを終えて、快斗が手を差し出すと花梨がその手を取る。

 

 

「そっか。白馬くん、探偵だったんだ……。だからか……」

 

「ん?」

 

「ふふふっ。探偵って妙に細かいよね」

 

 

 ――新ちゃんと通じるものがあるかも……。

 

 

 新一も探偵だからか、とにかく細かい。

 重要なことは細かくて当たり前だが、些細なことも気にして掘り下げようとする。

 

 ……白馬も時間や情報に細かかった。

 あれは恐らくだが、そういう性分。職業病と言っていいのかもしれない。

 探偵はみんなそうなのかと思うと、さっき花梨は白馬を警戒してしまったが、少しだけその警戒が緩む。自然と笑みが零れた。

 

 

「あっ、笑顔なんか見せて、嫌な予感。なあ花梨、あいつに興味持たなくていーからな?」

 

「え?」

 

「おめえはオレだけ見てればいいの!」

 

 

 ……新一を思い出す花梨の手が、ぎゅっぎゅっと強く握られる。

 頬を膨らませる快斗は今、どうやら嫉妬中らしい。

 

 

「そんなんじゃないよ? ただ、ちょっと幼なじみを思い出しただけ。彼も探偵だから、通じるものがあるなーって思って」

 

「あー! ますます嫌な予感!! それ思い出すのやめよ? な?」

 

「ふふふっ♪ は~い!」

 

 

 快斗の目がちょっぴり涙目だ。

 そんな快斗が可愛いと思った花梨は、応えるように笑顔で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の事件が米花町で起きたため、話は米花警察署ですることになった。

 学校を出た花梨と快斗は電車に乗り、米花町まで向かう。

 

 電車内は帰宅する学生が多く、かなりの混み具合だ。

 座れそうな席もないため、つり革に掴まり揺られる。

 

 

「混んでんなあ……」

 

「だね……」

 

 

 ――混雑する電車ってまだ苦手……。

 

 

 以前、痴漢被害に遭ったことがある花梨にとって、混雑する車内は不安だらけだ。

 特にこうして立っていると、背後が気になって仕方ない。

 

 

「花梨、こっちおいで」

 

「え?」

 

 

 ふと扉近くに立つ快斗が呼ぶので、花梨は言われるままにそちらへ移動。扉の前に立たされた。

 背中に扉があり、背後には人がいない。

 前方には快斗がいて、にっこり微笑んでいる。

 

 

「こっちしばらく開かねーし、まだまだ乗ってくると思うからさー、ここに居な? 転びそうならオレに掴まってもいーし。てーか掴まってよ♡」

 

 

 快斗は花梨を扉と自身の間に挟んで、扉の窓に手をついていて……。

 どうやら混み合う車内で人とぶつかることのないよう、庇ってくれているらしい。

 ……彼の背後にたくさんの人が見える。

 

 花梨が以前、痴漢被害に遭ったことを、快斗は知らないはずだが、これなら安心だ。

 

 

「あ……、ありがと……」

 

 

 ――快斗って、優しいな……。

 

 

 お礼を告げると快斗の目が穏やかに細くなった。

 けれど、時折彼の背に誰かの腕や鞄がぶつかるようで、そのたび、わずかに眉を顰めている。

 

 「痛い?」と聞けば、「平気、余裕余裕♪」なんてはにかむから、申し訳なくて花梨は、学ランの胸辺りに掴まり俯いた。

 快斗の懐に飛び込むような形でくっつき、筋肉質な胸に耳を当てる。

 

 電車のガタンゴトンという騒音さえ遠のいて、快斗のドクドクと早い鼓動だけが、耳から直接脳に響いてくる。電車の走行音とは違う、生きた心臓の音。

 ……鼓動が早くて、ドキドキしてるのがわかる。

 

 

「花梨ちゃん……?」

 

「快斗、すき……」

 

「っ、今、電車の中だからな? そういうのは……ぃてっ」

 

 

 胸元に囁くように告げると聞こえていたのか、上から快斗の声が降ってくるが、何かにぶつかったのだろう、瞬間身体が大きく揺れた。

 

 

「あっ、大丈夫?」

 

「平気平気、花梨こそ大丈夫だったか?」

 

「うん、私は平気。もっとくっついてもいい? ぎゅってしたいな~?」

 

 

 ――快斗は彼氏だから、甘えてもいいんだよね……?

 

 

 花梨が顔を上げじっと見つめると、快斗の顔が真っ赤に染まる。

 

 

「なっ!? っ、あー……いいけど、警察署なんて行かないで、このまま帰ろっか?」

 

 

 ……今日の花梨はなんだか甘えん坊だ。

 甘えてくる子猫が可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られた快斗だったが、生憎今は手が塞がっていてできない。

 さっさと帰って、早くいちゃついてやろうと思い、提案したのだが。

 

 

「それはだめ~」

 

「えー……生殺しなんだけど……。オレも花梨をぎゅーしたい」

 

 

 花梨からは即却下されてしまった。

 好きな女が密着してくるというのに、何もできないというのはこんなにも苦しいものなのか――。

 扉に添えられた快斗の手がぶるぶると震える。

 

 

「ふふふっ♡ 快斗って、抱きつくといっつもイタズラしてくるから、ゆっくりハグできないんだもの。だから抵抗できない今がチャンスだよね♡」

 

「くっ……♡♡ あー、さいですか。可愛いなあもう……♡」

 

 

 無邪気に微笑み、ぎゅっ、ぎゅっ、と一方的に抱きしめてくる花梨に、快斗は身動きの取れないもどかしさを誤魔化すように、せめてもと白い頭に頬を摺り寄せた。

 そして、耳元へ口を近づけ、普段より少しだけ低い、熱を帯びた声で囁く。

 

 

「……ったく、好き勝手しやがって。……帰ったらたっぷり『倍返し』だかんな? 覚悟しとけよ?」

 

 

 その吐息の熱さに、今度は花梨の肩がビクッと震えた。

 

 花梨の柔らかい感触に、下半身が少々反応してしまっているのは黙っておき、快斗の口からは「2、3、5、7、11、13……」と素数を数える声が続く。

 ……しばらくそのままの状態で電車の走行は続いた。

 

 

「……落ち着く……。しあわせって、こういうのを言うのかも……」

 

「んー? なんか言った?」

 

「ううん、なんでもないよ?」

 

「そっか」

 

 

 何気なく呟いた花梨の言葉は小さくて、快斗には聞こえなかったようだ。

 

 ……都会の男性は、皆優しいのだろうか。

 新一と電車に乗ったときも花梨は庇ってもらったことがある。

 

 

『花梨、オレがオメーの後ろに居てやっから、安心して窓の外見てろ』

 

 

 基本的に空いてる時間しか乗らないようにしている電車だが、買い出しに行ってたまたま遅くなった日、混み合う車内で新一が、今の快斗と同じように扉に手をついてくれた。

 ……違うのは、対面していないだけ。

 

 窓越しに新一の顔が見えたけれど、彼は俯いていて。

 あの時、痴漢に遭った時と同じ状況だったが、新一だと思うと安心できたっけ……なんて、ふと思い出す。

 

 上京してからというもの、優しい人にたくさん出逢った。

 この世は不幸ばかりではないなと、最近強くそう思う花梨だった。

 

 

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