白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
事件が揉み消された真相を聞くため、花梨と快斗は米花警察署の松田を訪ねる。そこで松田が語る「女神の権能」と、四年前の死線を越えた予知の記憶。守護を誓う松田に見送られ、快斗の独占欲はついに限界を迎える。

第104話
何を見られたんですかね。


104:見られちゃった

 

 花梨たちがマンションに着く頃には日もすっかり暮れて、時刻は十九時を回っている。

 マンションのエントランス近くに車を停めた松田は、運転中ちらちらとルームミラーを確認していたが、快斗と目が合うことがあっても花梨と合うことはなかった。

 

 

「花梨ちゃーん、ごめんな? 悪気はなかったんだ、許してくれよ」

 

「……、送って下さってありがとうございました」

 

 

 運転席で松田が手を合わせ苦笑いを浮かべる。

 車から降りた花梨は助手席の開いた窓に向け、他人行儀に頭を深々と下げた。

 

 

「こないだ気に入ったっつってたスイーツ、また買ってやっからさ~……!」

 

「……快斗、行こっ」

 

「あっ! なー花梨っ」

 

 

 松田が食べ物で釣ろうと試みるも、花梨は快斗の袖を引いてマンションへと歩き出し、呼び止めても振り返らない。

 

 

「花梨……へへっ、松田さんどうも~! 送ってくれてありがとうございましたっ!」

 

 

 袖を引かれて歩く快斗だけが松田に振り返り、べろべろば~と変顔を晒し片手を振った。

 花梨が怒っているのは快斗、自分に可愛い姿を見せたいからで、やめてと言うのに、しつこく髪をいじった松田に対して本気で怒っているから。

 

 これほど痛快なことがあるものか。ポーカーフェイスなんて気取ってる場合じゃない。

 嬉しくて仕方ない快斗の表情は松田を挑発する。

 

 

「黒羽、お前って奴はーーっ!(花梨の部屋に泊まろうったってそうはさせねーぞ)」

 

 

 松田がイラっとしたのは言うまでもなく……。

 

 

「おい、高校生! 十分やる。部屋まで送ったらすぐ戻って来い。来なきゃ逮捕だからな、ここで待ってるぞ!」

 

「なんだよおっさん! 人の恋路の邪魔すんなよなー! なー花梨~?」

 

「黒羽くぅ~ん?」

 

 

 大きな声を張り上げ、松田はどこから出したのかジャラジャラと手錠を左右に振ってみせ快斗に笑顔を贈る。

 

 快斗は前を行く花梨に声を掛けたが、花梨は振り返らず……。松田の笑顔を見てぎょっとした。

 目が合った途端、花梨が見ていないことに気づいた松田の視線が鋭さを孕み、鬼の形相で睨んでくる。

 

 

「っ、職権乱用だっつーのっ! なあ、花梨もそう思うだろ?」

 

「……ん、うん……」

 

「花梨?」

 

「あ……今日はなんだか疲れちゃった。早く休みたいかも……」

 

 

 ……花梨は心ここにあらずだ。

 

 帰りの車内で、流れゆく街の灯りを瞳に映しながら今後のことをあれこれと考えていると、残りの日々をどう過ごすのが正解なのかわからなくて、行ったり来たり。

 言葉通り疲れて、松田と快斗のいがみ合いに付き合うのが少々辛く、もう休みたかった。

 

 

「そっか、それもそうだな。わかった! じゃあ部屋まで送ったらすぐ帰るよ」

 

「ん、ごめんね」

 

「んじゃー、明日は?」

 

「うん、明日なら」

 

 

 ――今日ゆっくり眠ったら、いい答えが出るのかな……。

 

 

 快斗に明日と言われて花梨は笑顔で了承する。

 

 警察署で気づかされた快斗や寺井のことは、一日二日で答えを出せるものじゃない。

 もう少し快斗と一緒にいたいと思った花梨に、彼からの誘いを断る理由はなくて――。

 

 

「やった♡」

 

 

 快斗は嬉しそうに破顔した。

 

 松田の視線を背に、二人はマンションのエントランスを抜けエレベーターへ。

 その日快斗は花梨の部屋に泊まろうと思っていたものの、松田の命令により、部屋まで上がることができずに、泣く泣く帰宅することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日――。

 花梨は(つつが)なく授業を終え、いつものように快斗と帰宅する。

 

 

『はい、これ』

 

『あっ、炭酸水! 憶えててくれたの!?』

 

『昨日は送ってもらったから、コンビニに寄れなかったろ? せっかくスケジュールに入れてたのにすぐオフにしてたもんな』

 

『ん、ありがとう快斗、うれしい♡ 冷蔵庫に冷やしておくね! 帰ったら一緒に飲も♡』

 

『うんっ♡』

 

 

 ……朝のことだが、迎えに来た快斗に炭酸水を渡された花梨は、笑顔で受け取り、それを冷蔵庫に入れておいた。

 昨日、弁当に入っていたしそ巻きあんずの蜜を割って飲もうということだが、帰って来たらまずは手洗いに着替え――。

 

 リビングに快斗を通し、先に着替えてくるからと花梨は自室へ向かう。

 もそもそと部屋着に着替えていると、ドアがガチャリと開いた。

 

 

「かーりん♡」

 

「あ、まだ着替えて……」

 

「着替え手伝おうか?」

 

 

 誰かと思えば、当たり前だが快斗だ。彼が顔を覗かせ部屋に入ってくる。

 着替えの手伝いなんて言っているが、部屋着はゆったりしたTシャツと短パン。背中側にファスナーの付いたワンピースじゃあるまいし、そんなに時間の掛かる着替えじゃない。

 

 もうすぐで着替えは完了だ。

 けれど快斗の目的は恐らくそれじゃない。

 

 

「え~? わぁっ!?」

 

 

 彼は部屋に入って来るなり、花梨の背と膝裏に腕を回して横抱きに抱き上げた。

 

 

「びっくりした……もぅ、強引なんだからっ」

 

「花梨♡ ね、抱いていい? 今すぐ花梨を抱きたい」

 

「ふふっ、もぉ~、快斗ってば早速なの~?」

 

「昨日お預け食らっちまったし……ダメ?」

 

「ふふっ、私、まだいいよって言ってないんだけど?」

 

 

 あっという間にベッドに寝かされ、快斗が覆い被さってくる。

 初めて関係を結んでからというもの、快斗はすっかりその行為に嵌ってしまったようで、子犬のように尋ねたくせに、手はすでに花梨のTシャツの中。

 花梨はTシャツの中に滑り込んできた快斗の手を見下ろした。

 

 

「花梨といるともう堪んなくて♡」

 

「ンッ♡」

 

「ほら、そういう声出されちゃうとさ?」

 

「っ、もぉ~♡ ぁっ」

 

 

 首筋にちゅっと口づけられて、花梨の鼻から甘い吐息がこぼれる。

 素肌を撫でる快斗の手が次第に背中に回り、あっさりブラを外されてしまった。

 こういう時、快斗は手先が本当に器用で困る……なんて、花梨は身体をびくつかせる。

 

 

「はっ……あ~、あちぃ。興奮したら暑くなってきた」

 

「……制服、脱いだら?」

 

「だな……!」

 

 

 快斗の額に汗粒が見えて、暑いのなら脱げばいい。

 

 ……そういえば今日は快晴。気温が高くて教室で学ランを脱いでいたっけと花梨は思い出した。

 提案すると快斗が「脱がせて♡」と目を細くしてニヤリ。艶っぽく誘うので請われるままにボタンを一つずつ外してやる。

 

 

「……シャツもお願い♡」

 

「快斗のえっち……」

 

 

 学ランのボタンが全部外れると、快斗はバッと豪快に脱いで椅子にポイッ。今度は中のカッターシャツもとせがまれた。

 脱がせっこは何度かしているが、未だに慣れず、花梨の頬は紅潮し、指先が震える。

 

 

「花梨ってシャツのボタン外す時、いっつも照れてるよな~?」

 

「そんなことないもん……」

 

 

 またボタンを一つ一つ外すと、快斗の素肌が徐々に露わになってゆく……。

 快斗は決してマッチョではないが、程よく筋肉がついて、薄っすら腹筋も割れ、花梨を魅了するのに充分。

 均整の取れた肉体にいつもドキドキさせられて、心が落ち着かない。

 

 

「……できた、ょ?」

 

「ん、さんきゅー♡」

 

「ンぁっ!?」

 

 

 全てのボタンを外し終え、カッターシャツを脱ぐかと思われたが、急に快斗の顔が花梨の首あたりに再び埋まって口づけられた。

 強く吸われ、ピリッとした痛みを感じて花梨は眉を寄せる。

 

 

「はあ……、もう脱ぐのもめんどくせー。今すぐ花梨を食べたい……」

 

「ん、快斗……」

 

「花梨……」

 

 

 花梨の白い首に赤い印が付き、快斗は一度顔を上げて満足そうに目を細めるも、すぐに舌なめずりをして唇を重ねようと顔を近づけた。

 花梨もそれを受け入れるように静かに目を閉じる。

 

 

 ……その時、廊下から小さな足音と、どこか聞き覚えのある子どもの声が聞こえたような気がした。

 

 

「ん……?」

 

 

 花梨は首をかしげ、ベッドから身体を起こす。窓の外は静かだが、ドアの方から微かな物音が……。

 

 

「誰か……?」

 

 

 そして次の瞬間、ドアがゆっくり開き、信じられない姿が目に飛び込んできた。

 

 “ガタンッ!”

 大きな音とともにドタドタと部屋に足音が響いた……と思ったら。

 

 

「くぅおぉおお、くぅおぉおお、せええええっっ!!」

 

「……えっ? ちょっ……!?」

 

 

 “うわぁああああっっ!?!?”

 

 

 昨日聞いた声とともに快斗のカッターシャツ、襟部分が急に斜め後ろに強く引っ張られ、叫び声とドッスンッ。尻から落ちたであろう音が部屋に鳴り渡る。

 

 

「いってぇええええっ!! ちょ、なんなんだよ……!?」

 

「黒羽、お前っ! 俺、昨日言ったよなっ!?」

 

「っ、松田……!」

 

「松田さんな!? 人生の先輩だぞ、敬称を付けろ敬称を!」

 

 

 ベッドから引き摺り落されたことに気付いた快斗が、尻を撫でながら声の主を見上げれば仁王立ちの松田が……。

 なんでここにいるのかは不明なものの、松田は眉を吊り上げ、憤怒の顔で快斗を見下ろしている。

 

 

「花梨! お前も前に言っただろ! 未成年の不健全性的行為は断固阻止する!」

 

「っ、陣平さん……って、えっ、コナンくんっ!?」

 

 

 快斗を剥がされた花梨が身体を起こすと、松田の背後、開いたドアの先にコナンの姿があった。

 

 

「……」

 

 

 コナンは信じられないものを見たという様子で、目を見開き固まっている。

 

 

「コ、コナンくん……?」

 

「っ……!」

 

「あっ、待って!」

 

 

 花梨がコナンに向け声を掛けると、コナンはフイッと顔を背け、逃げるように走り出した。

 

 ……一体何しに来たのだろう。

 新一には合鍵を預けてあるが、勝手に鍵を開けて入って来るなんて初めてだ。

 しかも逃げ出すなんて行動、彼らしくない。

 

 わからない花梨はベッドから飛び下りてコナンを追いかける。

 

 

「花梨っ!」

 

「黒羽! お前はこっち! 説教すっからな!」

 

「いでっ!? いででで……! マジで痛いんすけど……!」

 

「逮捕されたくなきゃついて来い! そこの上着と玄関にあった鞄も持ってけよ!?」

 

「えぇ~!? またかよ~~!!(しかも今回はオレだけ~?)」

 

 

 コナンを追いかける花梨について行こうと、快斗も追従しようとしたものの、松田に耳を引っ張られ、あれよあれよと花梨の部屋を強制退室させられた。

 このままマンションも出るようで、快斗は松田に連れられて行く。

 

 玄関から出る際、松田が「花梨ー! 昨日言ってた限定スイーツ、玄関に置いといたからなー!」とリビングに走って行った花梨に声を掛けてから後にしている。

 

 

『花梨~! かりんちゃーん……! かーりーんー!! かりー……』

 

 

 快斗の花梨を呼ぶ声が途中で途切れ、玄関ドアは閉じられた。

 

 

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