白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
松田に送り届けられた翌日、快斗と花梨は甘いお泊まりのやり直しを試みる。しかし「倍返し」が最高潮に達した瞬間、松田が部屋に乱入!さらに合鍵を持つコナンにも現場を目撃され、ラブラブな時間は一転して大修羅場に。

第105話
黒ずくめったって色々いるわけです。


105:色んな黒ずくめ

 

 

 

 

 

「コナンくーん、どこ~?」

 

 

 コナンはリビングに向かったらしい。追いかけた花梨は部屋を見回す。

 リビングはダイニング兼キッチンのLDKだから、キッチンにも回ってコナンを探した。

 

 探しているうちに、玄関から松田の声と快斗の呼ぶ声も聞こえたが、すぐに玄関ドアの閉まる音がする。

 そのあとは静かになったため、部屋を出て行ったのだとわかった。

 

 

「コナ……新ちゃん? どこにいるの?」

 

 

 部屋に残ったのは花梨と小さな新一……コナン。

 二人の時は新一と呼んで欲しそうだったなと思い至り、花梨はコナンを“新ちゃん”と呼び直す。

 

 ……コナンを探すものの、すぐに見つけられない。

 物も多くないため、隠れるところなんてそうないはずだが、一体どこへ行ったのやら。

 

 

「……こっちに走ってったよね……」

 

 

 部屋を見回し、窓に近付く。

 すると閉じられたカーテンの一部に、小さな子どもが入れるくらいの不自然な膨らみを見つけた。

 膨らみのそば、床にはなぜか小さな向日葵(ひまわり)が一輪落ちている。

 

 

「……、新ちゃん?」

 

「っ……花梨、ちょっとそこで待て」

 

「え?」

 

「……目にゴミが入って痛いんだよ。今、窓見ながら取ってっから」

 

 

 膨らみにそっと声をかけると、カーテン越しに返事が聞こえた。

 (まぶた)を擦っているのか、カーテンが不自然に何度も揺れて、花梨の目が大きく見開く。

 

 

「大変っ! そんなに擦ったら眼球が傷ついちゃう。私が取ってあげるから見せて!」

 

「なっ!? いいよ!! オレに近づくな!」

 

「えぇー?」

 

 

 目を乱暴に擦ると眼球が傷ついてしまう。

 視力が良い花梨は、正しいケアを……と、コナンが心配でカーテンを捲ろうとしたが、強い口調で制止されて止まった。

 

 花梨の手はカーテン手前でウズウズ。

 相変わらずコナンの考えていることはよくわからないが、嫌そうだということはわかる。

 

 

「……っ、すぐ取るから。座って待ってろ」

 

「わかった、じゃあ、目薬用意しておくね」

 

「……」

 

 

 コナンに言われたことには、つい素直に従ってしまいがちな花梨。

 昔からの条件反射なのかもしれない。

 

 再度コナンから止めが入り、やっぱりカーテンを捲って欲しくないのだと理解した花梨は、落ちていた向日葵を拾い、救急箱を取りにテレビ台の引き出しへ。

 ……コナンから返事はなかった。

 

 

「……あー……痛かった」

 

「大丈夫? これ、目薬……、新しいやつだからあげる。持って帰って」

 

「……悪いな」

 

 

 しばらくして、コナンがカーテンの中から出てくる。

 かなり痛かったのだろう、両目が真っ赤に充血していた。

 

 ……コナンはチラッと花梨を見て目薬を受け取ると、すぐに目を逸らす。

 

 

「ううん。目、両方赤いね?」

 

「……はは、そうか?」

 

「うん……泣いたあとみたい」

 

「涙は出たけど泣いてねーし」

 

「そ?」

 

 

 ――それを泣いたって言うと思うんだけどなぁ……。

 

 

 目を逸らしたのは、泣き顔を見られたくないというやせ我慢では? ……なんて、眼鏡をテーブルに置き、目薬を差すコナンを見守る花梨の口角が上がる。

 

 小さくなった新一……コナンが泣いたところで、別に変だなんて思わないのに、変なとこプライド高いんだよね――と、男の子のその辺の事情は女の自分にはわからないから触れないでおいた。

 

 

「つーか、両目同時にゴミが入るとかついてねー……」

 

 

 ……目薬を差し終えても、コナンと目が合わない。

 チラッとだけ花梨に視線を送ってはくれたが、すぐにそれは手元の目薬に移る。

 その彼の頬がなんとなく赤いような気がするのだが、気のせいだろうか……。

 窓から夕日が差しているからそう見えたのか――。

 

 

「ふふ、すごい確率だね。あ、温かいタオルもいる? ちょっと待ってて、すぐできるから、ソファに座ってて」

 

「え」

 

 

 両目同時にゴミが入るなんてこと、そうあることではない。

 

 だがコナンがそう言うならそうなのだろう。

 コナンの言うことに、なんら疑問を持たない花梨はタオルを水で濡らし、レンジで数十秒温め持ってきた。

 

 ……そんな花梨を目で追って、コナンがふと見たカウンターテーブルには、いつの間にか向日葵が一輪挿しに活けられている。

 

 

「あちち……はい、まぶたが少し腫れてる気がしたから当ててみて。気持ちいいよ?」

 

「……、オメーはホント……親切っつーかなんつーか……(あったけぇ……)」

 

 

 優しい笑みを向けながら、花梨は湯気の立つホットタオルを適温まで下げて、コナンの閉じた瞼に当てた。

 

 

「あー……気持ちいい……」

 

 

 目を閉じ、肩の力がふっと抜け、コナンから少し脱力したような声が漏れる。

 ……花梨がそばにいてくれるだけで、なんだか安心できた。

 

 しばらくそのまま目を閉じ、深呼吸をひとつ。

 

 

「ね、新ちゃん。そのままでいいから答えてくれる? 今日はどうしたの?」

 

「……、日曜の話を訊きに来た」

 

「やっぱり……?」

 

「……のと、小魚アーモンドが届いたから礼も言いに」

 

「あはっ♡ もう届いたんだ? 食べた?」

 

「おぅ……、蘭も喜んで食べてた。ありがとな」

 

「そっか! よかった♡ あれおいしいよね! カルシウム大事だよー♪」

 

 

 ソファに腰掛け、天井に顔を上向けてタオルを目に当てるコナンに、花梨は問う。

 ホットタオルで脱力したからだろう、コナンは静かに受け答えをしてくれた。

 ……今日のコナンはそれほど機嫌が悪くなさそうだ。

 

 

 ――やっぱ、カルシウム不足だったのかな?

 

 

 日曜ポチッた小魚アーモンドはすでに届いて、蘭と一緒に食べてくれた様子。

 慣れない小さな身体でストレスの多い生活だろうし、ピリピリしていたに違いない。

 

 日曜はずっと不機嫌だったから、やはりカルシウム不足だったのだと花梨は勝手に解釈する。好き嫌いせずに何でも食べて大きくなるんだよ……と、生温かい目でコナンを見つめた。

 

 

「……花梨、訊いてもいいか?」

 

「ん? 日曜のこと?」

 

「ああ……、オメーを狙ってるのは誰だ?」

 

 

 ――昨日、目暮警部に聞いたらはぐらかされたんだよな……。

 

 

 昨夜目暮警部に連絡したが、部外者に教えるわけにはいかないと断られたコナンは、目に当てていたタオルを取り払い、隣に座る花梨と目を合わせた。

 真剣な瞳で真っ直ぐ見据えられて、花梨は黙り込む。

 

 

「……、うーん……」

 

 

(なんて答えよう……?)

 

 

 曇りのないコナンの追究の瞳に今度は花梨から目を逸らし、足元のラグに視線を落とす。

 

 彼氏である快斗はしつこく訊いてこないが、幼なじみのコナンは別だ。

 彼は探偵――。

 嘘をついたところで簡単には信じないだろうし、恐らく騙されてはくれない。

 

 それに花梨自身の事情をおおよそ知っているコナンなら、きっと少ない情報でも真実に辿り着いてしまうはず……。

 

 

「……、これはオレの推測でしかねーけど……。オメーの親戚が絡んでるって思っていいか?」

 

「っ! さすが新ちゃん鋭い」

 

 

 迷っている間にあっさり事実を言い当てられて、花梨はパッと顔を上げコナンに視線を戻した。

 

 

「やっぱりか……。けど腑に落ちねーんだよ」

 

「ん?」

 

「黒ずくめの男が絡んでるって、犯人は言ってたろ?」

 

 

 ――黒ずくめの奴らがなぜ花梨を……?

 

 

 コナンが腕組みして首をかしげる。

 思案するコナンに花梨はふっと口角を上げた。

 

 

「……ンとね、新ちゃん。黒ずくめって言ったって、色んな黒ずくめがあってね」

 

「ん? 色んな黒ずくめ?」

 

「……私を襲ったのは多分、新ちゃんを襲った人たちとは違うと思うの」

 

「え?」

 

「新ちゃんは、自分を小さくした黒ずくめの人たちを思い浮かべたと思うんだけど……、その人たちが私を狙う理由、ないよね?」

 

「あ」

 

 

 花梨の話にコナンは、虚を突かれたように口をポカンと開ける。

 

 

「私、トロピカルランドで新ちゃんと一緒にいたわけじゃないし、コナンくんとも、一昨日、初めて会ったという設定なんだし。そもそも大きな新ちゃんならまだしも、コナンくんは黒ずくめの人たちとは無関係でしょ?」

 

「っ、言われてみれば……」

 

 

 ――確かにそうだ……オレとしたことが……!

 

 

 黒ずくめと聞いて、すっかり奴らだとばかり思っていたが、黒い服を着ていただけの別人とも考えられるじゃないか――。

 解決を急ぐあまり見落としてしまったかもしれない。

 

 白昼堂々と不特定多数の集まる公園で犯行に移すなんて、逃げるにしても足もフラフラしていたし、凶器も簡単に持ち歩けないもので……諸々考えると杜撰過ぎる。

 あの黒ずくめの奴らなら証拠など残さないよう、こっそりやっただろう。

 

 ……花梨が言うことはもっともだ。

 コナンの喉がこくりと唾を呑み込んだ。

 

 

「亡くなった犯人に依頼した黒ずくめの人が、どういう人なのかはわからないけど……たぶん九割がた、一昨日の黒幕は、親戚で合ってると思うの」

 

「根拠は? オメーのことだから勘とか言うんじゃねーだろうな? ちゃんと事実に基づいた説明をしねーとオレは納得しねーぞ」

 

 

 一昨日の黒幕は花梨の親戚――。

 推理下手なくせにほぼ言い切る花梨に、コナンは一旦“黒ずくめの奴ら”の組織と花梨を狙った奴らとは別物として考え直す。

 

 だが、花梨はいつも勘に頼るところがある。

 その勘は大体冴えているのだが、根拠がなければコナンは信じることができない。

 

 

「うん……、先週の日曜にも……」

 

 

 花梨は少し言葉を切り、微笑むように間を置いた。

 

 

「……襲われたから」

 

「は……?」

 

 

 コナンの目が大きく見開かれ、息が止まったように一瞬固まる。

 

 

 ――今、なんっつった? ……襲われた?

 

 

 何でもないことのようにカラッと笑って答えた花梨に、コナンの眉が歪みを見せた。

 

 

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