白月の君といつまでも   作:はすみく

108 / 189
-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
襲撃を明るく語る花梨に、コナンは「なぜ頼らない」と激昂。ソファに立ち、兄貴分として守護を誓うが、快斗との情事の痕跡を見つけ複雑な胸中に。そんな中、花梨はコナンが事前に送っていたメッセージに気づく。

第107話
コナンくんと仲良くしたい。


107:別にいーよ

 

 

 

 

 

 ……つい三十分ほど前のことである。

 

 

「……、どうすっかな……」

 

 

 学校帰りに花梨のマンションまで一人でやって来たコナンは、マンションのエントランス前で、花梨の部屋のインターフォンを押すかどうか迷っていた。

 呼び出しボタンを押しかけて、指が止まった。

 迷っているうちに部屋番号が解除されるのは、これで三度目だ。

 

 昨夜目暮警部に電話し、日曜の件をそれとなく尋ねたら歯切れが悪く、外部の人間には話せないと拒否されてしまった。

 

 被疑者死亡で幕を閉じた事件だから、それ以上の捜査はすぐには進まないだろうことはわかっている。

 少しでも何か進展はないか……と、期待したわけだが何も教えてもらえず、工藤新一が目撃者でないと言ってしまったことを後悔した。

 

 被害者本人に訊くよりも、警察の方が花梨に心理的負担が掛からないからいいと思い目暮警部に電話したというのに、こうなっては仕方ない。

 

 ……こうなった以上、花梨に直接訊くしかない。

 

 そう思って来たわけだが、花梨がまだ落ち込んでいたらどう声を掛ければいいのやら。

 あの日、探偵事務所の屋上から見送った花梨は、憔悴しきっていた。黒羽が支えてなかったら、歩くことすらままならなかったんじゃなかろうか。

 

 ……事件直後に涙を零しながら震えていた彼女を思い出すと、躊躇してしまう。

 だが黒ずくめの男たちに関する情報を持っているのは花梨しかいないわけで。

 

 合鍵はあるが、勝手にオートロックを解除するのは少々気が引けるし、インターフォンを押すのも迷うところ……。

 コナンの指先は未だ宙に留まったまま。

 

 

「……おっ? ボウズ、花梨の知り合いかー?」

 

「ん……?」

 

 

 不意にコナンの頭上を大きな影が覆い、降ってきた声に顔を上げる。

 

 

「はー、花梨の奴。こんなちびっ子にまで慕われてんのかよ。さすがは俺の女神さまってか」

 

 

 ……コナンの手には向日葵が一輪握られていた。

 

 それは小学校の花壇に咲いていたもの。

 帰宅時、用務員が花壇の手入れをしていて何となく目に入り、花梨がまた向日葵のように笑ってくれたらいいのに……なんてぼーっと見ていたコナンにくれたのだ。

 それを手にしていたわけだが、どうやら花梨への手土産だと勘違いされたらしい。

 

 

「……おにーさんは?」

 

「んー? 俺? 俺は花梨ちゃんと仲の良いオトモダチで、警察のお兄さんだよー♪」

 

「……おにーさん本当に警察官なの? 怪しいんだけど……」

 

 

 シャツの第一ボタンを外しネクタイも緩め。スーツのボタンに限っては一つも留めていない。そんな姿の男へコナンは訝し気にジト目を送る。

 警察官と主張する男の歳は二十五~三十くらいだろうか、サングラスに銜え煙草まで……。火は点けていないが、ガラが悪そうに見えてどうにも胡散臭い。

 

 しかも手には最近話題のスイーツ店の手提げ袋。

 女子高生に人気の店で、いつも行列ができているとタイムリーなことに今朝のニュース番組で見たばかり。

 ……男の見た目と手荷物がなんだかチグハグだ。

 

 まさか花梨のヤツ、パパ活なんてしてねーだろうな……なんて穿った見方をしてしまうのは、これまで散々説教してようやく止めさせた花梨の夜歩きが原因かもしれない。

 

 花梨から“警察官のお兄さんたちがたまに顔を出しに来る”と聞いてはいるが、コナンは彼らにまだ会ったことがなかった。

 

 

「っ、怪しいって失礼なガキだなー。そんなこと言うなら警察手帳を見せてやろうか? ……ほれ。どうだ? 怪しいもんじゃないだろ?」

 

 

 男はコナンの目線に合わせるようにしゃがみ、スーツの内ポケットから警察手帳を取り出してコナンに見せる。

 手帳には“巡査部長・松田陣平”と書かれていた。

 警視庁の刑事なのだそうだ。

 

 

「……本当だ、松田さんて言うんだね」

 

 

 ――よかった、本当に警官だった……。

 

 

 男の見掛けはともかく、少々くたびれ使い込まれた警察手帳は偽物には見えない。

 松田が本物の警察官だとわかり、コナンは警戒を少し緩める。

 

 

「お、もう漢字読めるんか。偉いな~! で、ボウズは花梨のなに?」

 

 

 サングラスをしたままだったな……と気付いた松田は、サッとそれを外してコナンの頭を撫でた。

 サングラスを外すと松田の顔がはっきり見えて、コナンは目を見開く。

 

 

「ボクは江戸川コナン。花梨姉ちゃんのとっても大切なお友達だよ。花梨姉ちゃんから合鍵を預かってるくらいとぉ~っても仲良しなんだ~♡ 松田さんよりもきっと仲良しだと思うよ♡」

 

 

 ――この松田って人、結構イケメンだな……。

 

 

 先ほど松田が花梨を女神さまなんて言うから、きっと彼は花梨に気があるのだろう。

 気付いたコナンは、無意識に自身の方が仲が良いとマウントを取っていた。

 

 

「ほぉ~。合鍵預かってんのか。ならなんでインターフォン鳴らそうとしたんだ? そのまま入ればいーじゃんか」

 

 

 コナンの仲良しマウントなんてなんのその。松田は大人の余裕からニヤッとほくそ笑んで、勝手にお宅訪問しようと(そそのか)してくる。

 

 

「うーん、そうなんだけど、本人が不在だったら悪いじゃない?」

 

「サプライズできるじゃねーか。この時間ならもう帰ってるはずだし、俺もコレ渡しに来たから、こっそり行って驚かせてやろーぜ♡」

 

「……松田さん、それ不法侵入にあたらないの?」

 

 

 ――オイオイ……警察官が不法侵入を唆すってどうなんだよ……。

 

 

 松田は手に入りにくい限定スイーツを買ってきたから、それで花梨を驚かせたいらしい。

 彼の提案に呆れてコナンは半目だ。

 

 

「合鍵預けるくらい仲がいーんだろ? 花梨ならそれくらいじゃ怒らねーよ。むしろ突然来たら喜ぶんじゃねーの?」

 

「……、まあそうなんだけど……」

 

 

 ――花梨の性格をよくわかってんなこの人……知り合いってのは本当みたいだ……。

 

 

 勝手に訪問を推奨する松田の言う通り、恐らく突然訪問したとしても、花梨は怒ったりしない。

 そして驚きはするが喜んでくれるだろう。

 

 花梨の性格をわかっている松田に、彼女の知り合いだというのは本当だと理解し、コナンは残っていた警戒心を解いた。

 

 

「じゃあボウズ、オニーサンとこっそり行って驚かせてやろうぜ!」

 

「ええ~……、わあっ!? ちょっと松田さん!?」

 

 

 まだ勝手に入ると決まっていないのに、急に松田の肩に担がれコナンの視界が広がる。松田がそのままエントランスの扉に近づくと自動で開いた。

 

 

「ハンズフリーキーって便利だなー!」

 

「……」

 

 

  ――一応、メッセージ送っとくか……。

 

 

 松田の肩に担がれながら、コナンは花梨にメッセージを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね」

 

「別にいーよ」

 

 

 花梨がしゅんとして謝るとコナンがニッと笑ってくれる。

 怒ってはいないようで、ちょっとおませな笑顔が可愛い。

 

 小さな新一……、コナンはなんて可愛いのだろう……。

 昔大好きだった新一を思い出し、花梨の胸がきゅんと疼いた。

 

 

「お花のおみやげもありがとね♡ ひまわり可愛い♡」

 

「っ、……もらいもんだし、別に礼なんていーよ」

 

 

 弾けるような笑顔でお礼を言う花梨に、コナンの頬がぽっと桃色に色付く。

 見たかった笑顔が見れて嬉しかった。

 

 

「うふふ♡ なに照れてるの~? 可愛いなあ~もうっ♡」

 

「っ、照れてねーっ!」

 

 

 花梨はリビングテーブルに手をついてソファに座るコナンに近付き、ツンツン。頬を優しく突っつくと、コナンの顔が真っ赤に染まった。

 

 コナン曰く、「くそっ、好い匂いがする……!」んだとか。

 高校生の姿の時は一定の距離を保つよう努力していたというのに、日曜自覚してしまった想いのせいで、花梨を前にすると変に意識してしまい鼓動が逸って仕方ない。

 

 そのうち花梨がリビングテーブルに手をつき立ち上がると、コナンは一息ついた。

 

 

「……ね、新ちゃん。せっかく来たんだし、よかったら晩ごはん食べてく?」

 

「……、いいのか?」

 

「小学生のコナンくんに衝撃的な光景を見せてしまったお詫びに………」

 

 

 ……時刻は十七時を過ぎ、外で僅かに防災無線スピーカーから流れるメロディが聞こえて、そろそろお腹が空いてくる頃だ。

 

 コナンが可愛くてつい夕食に誘ってしまったが、さて理由はどうしたものか。

 そうだ、刺激の強いシーンを見せてしまったお詫びにして……と、花梨が提案したらコナンは突然耳を塞いで叫び出した。

 

 

「あーあーっ! 忘れた! オレはなんにも見てねーっ!」

 

「新ちゃん……」

 

 

 ――妹の色事を目撃なんて、すごくびっくりしたよね……。

 

 

 花梨は気まずさに微苦笑する。

 

 そうか――。

 さっき、コナンが快斗のことを訊いてすぐやめたのは、この気まずさからか。

 

 コナンも気まず過ぎてどう言えばいいのかわからなかったのだろう。

 けれど注意だけはしておきたくて、清い交際をどうのと口にした……ということか。

 

 避妊はちゃんとしているよと伝えた方がいいのか……。いや、でも、快斗のようにはっきり言うのは恥ずかしいし、下手にお説教スイッチを入れて藪蛇したくないし……と、花梨は思い迷う。

 

 

「腹減ったー」

 

「……なにが食べたい?」

 

 

 ――あ、もういいんだ? いつも根掘り葉掘り聞いてくるのに珍しい~。

 

 

 花梨が迷っているうちに食事を所望され、もう快斗とのことに触れなくていいのだとホッとする。それならと夕飯のメニューを尋ねた。

 

 

「オメーが作るものならなんでもいい、どれ食べても大抵うまいし」

 

「なんでもいいが一番困るんだよねー」

 

「……じゃあ、チーズハンバーグ!」

 

「チーズハンバーグか~。材料あったかな~」

 

「ないなら買いに行こうぜ!」

 

 

 家にある材料を確認すると、致命的かなチーズと肉が無かった。

 近所のスーパーに買いに行くことにして、花梨は念のため今日も警護してくれている権堂にメッセージを送る。

 権堂からは“問題なしです”との一文と、OKのクマのスタンプが送られてきた。

 

 メッセージ一覧を見ると快斗からのものもあり、「イケメン刑事のマツダサンにおいしい晩飯をご馳走して頂いているから今日はもう行けそうにない。ごめんな」とのこと。

 

 いつもほとんど短文な快斗のことだから、「松田に捕まって帰れねー」くらいで済ませそうなものなのに、かなり丁寧で妙な文章だ。

 不自然に松田の名前がカタカナになっているし、イケメン刑事などと褒め称えているのを見ると、目の前で打たされたのだろうか……。

 

 続くメッセージには、大泣きするネコのスタンプが三つも連続して送られている。

 

 花梨もちょっぴり残念だが、コナンがいる今、戻って来られても困るからこれでいい。

 元々今夜、快斗もお仕事(・・・)があるから早めに解散予定だったわけで……結果オーライだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。