白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
コナンに手を引かれ買い物へ向かう花梨。かつての「ヒーロー」との時間を楽しみ、特製ハンバーグを振る舞う。夜が更け、自らの「可愛さ」を武器にお泊まりを勝ち取ったコナンは、無自覚な花梨の接近に翻弄される。

第109話
今夜はコナンくんと語り明かそう。


109:今夜は語り明かそう

 

 食事を終えたあとは、いつも通り一緒に片づけをしてから各々好きなことをして過ごす。

 花梨はゲーム、コナンは読書。ともにソファで寛ぎ楽しむ。

 

 始めは快斗ともよくやるカーレースゲームを一緒にしていたのだが、コナンのゲーム操作はある意味天才的だ。

 クラッシュとコース外への落下の連続。毎度最下位という不名誉な成績しか残せず、花梨の圧勝。

 一プレイにつき四コースのため、文句も言わずに最終レースまで続けたコナンだったが、最終レースの最後の周ではプルプルと手を震わせ、テレビ画面を睨みつけていた。

 

 花梨は毎回一位でクリアしていたため、気まずくて居た堪れなくなりやめた(快斗とはいい勝負でデッドヒートを繰り返し、楽しんでいたりする)。

 

 “こうなったらそれぞれ好きなことをしよう……!”

 

 ……というわけで、花梨もコナンも好きに過ごすこと一時間――。

 

 

「ふわぁああ……」

 

「はっ、でけーあくびだな」

 

 

 花梨が大きなあくびをすると、隣のコナンにツッコまれた。

 

 

「ン~、ちょっと眠くなってきたかも……」

 

「寝れば? 明日も学校だろ?」

 

「新ちゃんこそ。私のベッド使っていいよー、私、ここで寝る~」

 

 

 目を擦り擦り、花梨はゲームのコントローラーをテーブルに置いて、ソファに背を預けたまま下へ下へ。ズルズルと床に滑り落ちてゆく。

 こんなだらしない恰好を快斗に見せたことはないが、コナンならまあいいかと気にしない。

 

 足元のラグがふかふかだからこのまま床で寝るつもりである。

 昔は床で寝ることも多かった花梨に、寝れない場所はなかった。

 

 

「んなわけにいくか。オレはソファでいいし、まだ眠くねーよ。

てか床で寝るな。ったく、上から下に流れて……オメーは液体かっ!!」

 

 

 コナンの手が花梨のシャツを引っ張り、床で寝るなと止められた。

 

 

「え~、そうなの~? じゃあ私もまだ起きてる~。せっかく会えたんだし、今夜は語り明かそうじゃないか~」

 

 

 仕方ない、コナンに付き合ってやろうじゃないか。

 

 花梨はソファに座り直してコナンに身体を向け、笑顔で肩をポンポン。

 目は半開きである……。

 

 

「ハッ! 眠そうな顔して何言ってんだか」

 

「いいからいいから。近況教えてよ~。私の近況は警護の人がついたーって話したでしょー」

 

「近況? 近況っつってもな~。さっき言っただろ?」

 

「あ、博士の発明品だっけ? なんかすごそうだよねえ……」

 

 

 食器を洗っている際、権堂について尋ねるコナンに、花梨は伝手で雇った警護人なのだと改めて教えた。

 あの人すげーなと感心されて、花梨も肯定。

 他の近況に関して、快斗とのことは下手に話して何か勘づかれても困るから、あまり話したくない。

 そのため花梨の近況は以上だ。

 

 そうして食器の片づけも終わり、それぞれ好きなことをする前に、コナンの小学校での様子を少し聞いてみた。

 ……様子もなにも、当然だが授業はつまらないらしい。

 

 そりゃそうかと苦笑する花梨に、コナンは「博士にキック力増強シューズを発明してもらった」と言って、どんなものなのか教えてくれた。

 なんでも、電気と磁力で足のツボを刺激し、筋力を極限まで高める優れもので、これを履いてキックしたボールが当たれば、犯人はひとたまりもないそうな。

 身体が小さくなって脚力も下がっているため、これさえあれば犯人を逮捕できると嬉しそうに語るから、花梨は“犯人を逮捕?”と首をかしげつつ、阿笠の発明は凄いなと改めて感心した。

 

 

「あー、あとはあれだな。おっちゃんについて行った先で事件を解決してやったりとかな」

 

「解決してやってる(・・・・)って……どういうこと? 小五郎のおいちゃんが解決してるんでしょ?」

 

「それがなー、おっちゃんは推理がからっきし駄目でな」

 

「んん?」

 

 

 どういうことなのだろう。

 コナンの話が花梨には難し過ぎてわからない。

 

 以前、新一が事件を解決したという話は阿笠に聞いて知っているが、新一は今コナンで、小学一年生。

 大の大人が小さな少年の話を毎回素直に聞き入れるとは思えないのだが……。

 

 

「へへっ。一昨日教えてやるって言ったもんな♡ オメーには特別に教えてやるよ」

 

「へ? わーい♡ 新ちゃんの特別! うれし~♡ やったー!」

 

「っ、っとに、不意打ちがかわぃ……っ、コホンッ!」

 

 

 ――頼むから、あんま可愛い笑顔見せないでくれよ……。

 

 

 コナンから“特別”を与えられた花梨が喜び余って、手を合わせ弾けるような笑顔を見せると、コナンの頬は赤く色づいた。

 天使のような花梨の見た目は目の毒だ。

 この笑顔に落ちない男はいないんじゃないかと、コナンは慌てて咳払いをする。

 

 

「ん?」

 

「っ、実は……」

 

 

 実は……と、コナンはこれまで解決してきた方法、その全てを花梨に伝えた。

 

 

「ええっ!? 麻酔針で眠らせて!? おいちゃん大丈夫なの!?」

 

 

 コナンの説明によると、腕時計型麻酔銃で小五郎を眠らせ、彼の代わりに推理し解決してきたという。

 何度か使用しているとのこと……。

 

 それを聞いた花梨は小五郎の身体が心配になった。

 

 

「え? おっちゃん元気だし、たぶん……? そんなとこ気になる?」

 

「えぇ……、だって……」

 

 

 ――麻酔ってそんな何度も刺して大丈夫なのかな……いやそれより、新ちゃんが打っていいの!?

 

 

 コナンに小五郎を心配する様子がなく、花梨は若干引いてしまう。

 

 そもそも麻酔は医療行為。医者でもないコナンが打つのはよろしくないのではなかろうか。

 

 安全な麻酔薬だから使ってるんだよね……?

 ね、新ちゃんそうだよね?

 おいちゃん、本当に元気なんだよね?

 

 うん、きっと大丈夫……だと思いたい……!

 

 ……コナンを信じたい花梨は自身に言い聞かせた。

 

 事件の推理を始めると命は大事にするが、それ以外の優先順位が著しく下がる新一は変なところが抜けていると思う。

 

 

「で、この変声機を使って……見てろよ?」

 

 

 小五郎を案じる花梨をよそに、コナンが今度は首に付けた蝶ネクタイを取り外して裏側を見せた。

 蝶ネクタイの裏側にはダイヤルが二つ。それらをコナンはカチカチと回してスゥッと息を吸い込み声を発する。

 

 

『ホッホッホッ♡ 新一~、またお手柄じゃったのう~』

 

「あっ! 阿笠博士の声!?」

 

『まだまだ……ちょっと新一、たまには連絡寄越しなさいよー!』

 

 

 驚き目を見開く花梨にコナンは再びダイヤルをカチカチ。

 今度は蘭の声で発声し、花梨の大きな瞳は更に大きく丸くなった。

 

 

「蘭ちゃん!? そっくり! すごーい! かい……っ、スゴーイ!」

 

 

 「快斗みたい……」、言いかけて花梨は“すごい”を繰り返す。

 なるほど、その変声機でコナンが代わりに推理したというわけか……。

 納得した花梨は小さく手を叩き、得意げに語るコナンを称賛した。

 

 

「だろ? これも博士が作ってくれたんだ」

 

「そっかあ、それで新ちゃんが事件を解決してるってことだったのね」

 

「そういうこと! けどあれなんだよな~」

 

 

 花梨が理解したとわかったコナンは、蝶ネクタイ型変声機を襟元に戻しふと花梨をじっと見つめる。

 

 

「ん?」

 

「オメーの声だけはどうも上手く再現できねーみてーで」

 

「へ~、そうなんだ? なんでだろ……」

 

「オレにもわからん。博士も首をかしげてたよ」

 

「不思議だね~」

 

 

 なぜか花梨、自分の声だけは真似できないというコナンに花梨も首をかしげる。

 一応近い声にはなるらしいが、花梨を知ってる人間からすると、違和感を覚えるレベルなのだそうだ。

 風邪気味だからとかで誤魔化せばどうにかなるかも、とのこと。

 

 快斗ならそっくりそのまま真似できたりするのだろうか……。今度訊いてみようかな、なんて花梨が考えていると――。

 

 

「……、あ、留守電のメッセージありがとな」

 

「ん? あ、ホームズの?」

 

「そうそう。最初は何かと思ったけど、たまに聞いてるぜ?」

 

「そうなんだ? よろこんでもらえたならよかった~♡」

 

 

 コナンが頬を掻き掻き照れ臭そうにお礼を言ってくる。

 大したことはしていないが、声が気に入ってるという彼に、せめてもと小説の序文の読み上げ音声を、留守電に吹き込んでおいたのだ。

 

 癒しになってくれているならそれでいい。

 

 

「……明日、だけどさ」

 

「ん? 明日?」

 

「蘭と遊ぶんだろ?」

 

「あっ! そうだよ。そうだった! 明日探偵事務所に行くのに新ちゃん、どうして今日来たんだろ~ってずっと不思議だったんだ~」

 

 

 急に話題が明日の話に転換。なぜコナンが家に来たのか違和感を感じていたのはこれだったのかと思い至り、花梨は気分がすっきりする。

 明日会うのだから明日話せばいいと思っていたのだが、コナンはそうではなくて。

 

 

「バーロ、蘭がいるのにオレと一昨日の話なんてできねーだろ。蘭はオメーが襲われたこと知らねえんだぞ」

 

「へ? ……ああっ! 本当だ! 新ちゃん賢い! エライエライ♡」

 

「っ、バカにすんな、オメーが抜けてるだけだろーが」

 

「えへへ♡ だね~、ごめーん」

 

 

 ヘラヘラ笑う花梨にコナンは呆れ顔だ……。

 

 

「けど、ま、来てよかったよ」

 

「ん?」

 

「久々にゆっくり話ができたしな?」

 

「ふふふ。それもそうだね。来てくれてありがとね♡ うれしかったよ♪」

 

 

 ――もうこんな風に話せないと思ってたから、すごくうれしい……。

 

 

 穏やかな笑顔を見せるコナンに、花梨も答えるように微笑む。

 

 

「……ああ」

 

 

 オレも嬉しかった――と、コナンは口には出さなかった。

 

 

「明日は朝早く起きて始発で送ってくね」

 

「いや、明日は学校休むからいい」

 

「へ?」

 

「オメー、どうせ探偵事務所に行くんだろ? オレ留守番してっから、学校終わったら一緒に行こうぜ」

 

「わ~、新ちゃんもおサボり?」

 

 

 ――明日快斗もお仕事でお休みなんだよね……。

 

 

 明日の水曜、快斗は次のターゲットの下見で学校を休むと聞いている。

 

 花梨のことが心配でどうしようか迷っていたようだが、快斗には自分のことに集中して欲しいから下見に行くよう背を押した。

 普段は影から警護する権堂と並んで歩くことを条件に、彼は学校を休み、キッドのお仕事へ――。

 

 ……なんてタイミングだろう。

 コナンと鉢合わせることがないなんて神の采配としか思えず、花梨はにっこり。

 

 

「新ちゃん()ってなんだ?」

 

 

 花梨の様子にコナンは眉を寄せ首をかしげた。

 

 

「ん? ふふふ。なんでもない♡ まあ新ちゃんはお勉強できるもんね、一日くらいサボっても大丈夫か~」

 

「花梨……、オレ中身は高校生のまんまだぞ? オメー、ちょいちょい失礼発言するよなぁ?」

 

 

 ちょっと失礼だっただろうか……。

 花梨に見せつけるようにコナンは拳をにぎにぎ。目つきも少々鋭い。

 

 

「あははは……、そんなつもりはなかったんだけど、そう不機嫌にならないでよ~」

 

「……まあ、いいけど?」

 

「わぁ、今日の新ちゃんはなんだか優しいね」

 

「いつも優しいだろーが!」

 

「そうでした! そうでしたっ! 新ちゃんはいっつも優しいっ!!」

 

「うむ!」

 

 

 ……それからは他愛のない話をしていたが、次第に花梨は寝落ちした。

 

 

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