白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
花梨が嗅ぎ取ったのは、猛毒・青酸カリの臭いだった。新一(コナン)は彼女の無事を確かめ安堵すると共に、標的が達也であることを確信する。花梨の機転で惨劇は未遂に終わったが、犯人の殺意は消えていない。二人は真犯人を炙り出すため、警察を巻き込んだ「トラップ」を仕掛ける相談を始める――。

第121話
歌ってみればわーかーる~!


121:ブラッディビーナス

 

 

 

 

 

 犯人を罠に嵌める相談を終え、部屋に戻って来た花梨とコナン。

 

 ……部屋の中を見回すと、マネージャーである寺原だけがまだ戻ってきていない様子。

 スタジオに連絡を入れると言っていたが、遅れる交渉が上手くいっていないのだろうか……。

 

 部屋では園子がステージで歌っていた。

 

 

「おー、嬢ちゃん待ってたぜ。あれ? ジャンパーはどうしたんだ?」

 

「あ、シャツを洗う時に濡れちゃったので、とりあえず化粧室に置いて来ました。あとで回収に行きます」

 

「ははは、嬢ちゃんはおっちょこちょいなんだな」

 

「ははっ、そうみたいです」

 

 

 戻って来るなり、赤い顔の達也が手を挙げ歓迎してくれる。シャツをダメにしたというのに寛大な人だ。

 花梨がジャンパーを羽織っていないことに気づいて笑った。

 

 

「あー花梨! やっと戻って来た~! あなたも達也さんのヒット曲、聴きたいでしょ?」

 

 

 歌の途中ではあるが、ステージから園子が花梨を指差す。

 

 

「え? 聴きたい聴きたい!」

 

「だよねー! 今割り込みで入れました!」

 

 

 花梨が二度三度首を縦に振ると、ステージから園子が蘭に指を鳴らしてウインク。蘭はささっと達也の曲を割り込みで入力した。

 そして流れる、先ほど歌われることのなかった達也のヒット曲、“血まみれの女神(ブラッディビーナス)”……。

 

 イントロが流れ始めると、園子はステージから下りた。

 

 

「聴きたいってか……ははっ、素直な嬢ちゃん。悪くねえな」

 

「素直が一番ですよー?」

 

「……な、なんだよ……?」

 

「ふふふっ♡」

 

 

 達也は席から立ち上がり、ステージに向かおうとして、上目遣いの花梨と目が合い、眉を寄せて苦い顔……。

 

 

「フン……。驚くなよ?」

 

「へ?」

 

「いくぜ!! “血まみれの女神(ブラッディビーナス)”!!」

 

 

 ステージに立った達也がジャンパーを脱ぎ捨てると、蘭と園子が黄色い声を上げ熱狂する。

 達也は上半身裸で歌い出した。

 

 

「「キャー! 達也様ー!!」」

 

「「っ……!」」

 

 

 キィィィン……。

 蘭と園子の声に、花梨とコナンの耳がキーンと鳴り始める。二人は見つめ合って苦笑した。

 再びステージに注目し、達也の歌を聴いていたが、ある瞬間――。

 

 

「「あっ!!」」

 

 

 花梨とコナンは同じタイミングで声を上げる。

 

 

「……新ちゃん……。私、すごい。肘の意味わかったかも」

 

「はい、すごいすごい(新ちゃん言うなっての……)」

 

 

 熱唱する達也を見ながら花梨が小さく呟くと、コナンがジト目で見上げた。

 

 

「も~珍しくわかったんだから、もうちょっと褒めてくれてもいいんじゃない?」

 

「あとでな。……なあ花梨。もう目暮警部呼んでいいかもしれねー」

 

「え? 犯人わかったの?」

 

「……ああ、たぶんな」

 

 

 コナンには犯人がわかったらしい。

 ぽかんとした顔の花梨とは対照的に、コナンの表情は真剣そのもの。

 

 花梨は「この曲が終わったら目暮警部を呼ぶね」と告げた。

 

 

「……はあ、はあ……、へへへ……どうだった、オレの歌……」

 

「「とってもよかったですー!」」

 

 

 歌い終えた達也が再びジャンパーを着て席に戻って尋ねると、蘭と園子の声がハモる。「素敵でした!」と言った花梨の声は小さくて届かなかった。

 

 

「へへっ、だろ? 今度ソロで新曲を出すんだ。そっちもリリースされたら聴いてくれよな」

 

「「「絶対聴きますね!」」」

 

 

 ……今度は三人うまくハモった。

 女子高生三人に憧憬の目を向けられた達也は、鼻の下を人差し指で擦り嬉しそうだ。

 

 

「よぉ克己、オレにもそのオニギリ取ってくれよ」

 

「……」

 

 

 一曲歌い、腹が減ったらしい達也は、無言でオニギリを食べていた山田に「オレも」と催促する。

 山田は無言のまま、オニギリを一つ手にして達也に投げつけた。

 

 

「サンキュー……」

 

 

 達也がお礼を言って受け取ったオニギリに齧りつくが、山田はフイッと顔を背ける。

 

 

「ソロデビューですか……。達也さんのソロは楽しみだけど、レックスが好きだからなんだか淋しいですね……」

 

「まあしゃーねーよ、レックスはオレの居場所じゃなかったってーことさ」

 

 

 淋しそうに話す蘭に、達也はわずかに眉を寄せて笑った。

 

 

「新ちゃん、私そろそろ行ってくる」

 

「ん、アレ持ったか?」

 

「持ってるよ。すぐ戻って来るから、新ちゃんも準備よろしくね」

 

「おう」

 

 

 蘭たちが達也と話している間にコナンとコソコソ。これから犯人の炙り出しを始めるために花梨は席を立つ。

 

 

「ソロっていや、新曲の他に今、クリスマスに向けて曲を作ってんだけどさー……」

 

 

 一人離席し、目暮警部を呼ぶため扉に向かう花梨の前で、達也がクリスマスソングについて話し始めた時だった。

 

 

「た、達也……、ど、どうしたのその格好……」

 

 

 花梨が開けようとした部屋の扉が開き、寺原が戻って来る。

 達也を見た寺原は驚いた様子で目を丸くした。

 

 

「あ? 別にいーだろ」

 

「……」

 

 

 さっきまで機嫌のよかった態度が突如変化し、達也は寺原を睨み付ける。部屋の空気が一気に冷えていく……。

 睨まれた彼女は唇を噛み、黙り込んでしまった。

 

 

「すみません……私が手を滑らせてコーヒーを達也さんのシャツにかけちゃって……」

 

「そう……。困ったわね、達也が体調を崩したらどうするつもり? まだツアーは残ってるの。もし休演になったらお嬢さんは責任取れるのかしら」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 扉近くにいた花梨が頭を下げると、寺原が責任を追及してくる。

 大切なボーカルに風邪でもひかれたら、損害が出るから――と、鋭い瞳で詰め寄った。

 怒られた花梨は、しょぼんとただ頭を下げるのみ――。

 

 

「っ……(花梨……)」

 

 

 見ていたコナンは“おたくの大事なボーカルの命を救ったのは彼女なんですけどね!”と、言ってやりたかったが、今は言えない。

 ……花梨の側へと行き、慰めるように手を握った。

 

 

「「そんな風に言わなくても……」」

 

「そーだぜ、手が滑っちまっただけなんだからしょーがねーだろ。誰だって失敗はある。それにちょっと濡れたくれーで風邪なんてひくほど、オレの身体はやわじゃねーよ」

 

 

 蘭と園子が花梨を憐れみ、達也も擁護するように寺原に抗議する。

 

 

「っ……達也! そろそろ打ち上げは終わりよ。入口に車を回してくるからみんなも帰る準備をして」

 

 

 寺原は眉を顰め一瞬声を荒げ、そしてきびすを返して部屋から出て行こうとした。

 

 

「……花梨っ……姉ちゃん!」

 

 

 ……不意にコナンが花梨のスカートを引っ張った。

 

 

「へ?」

 

「あの人、一人で行かせちゃダメだよ!」

 

「……えっ? あっ、ちょ、ちょっと待ってください! 寺原さんっ!!」

 

 

 ――ちょっと新ちゃん、急に引き留めろってなにっ?

 

 

 コナンの意図はよくわからないが、引き留めろと言われればそうしましょう。花梨は寺原を追いかけた。

 

 

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