白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
目暮警部と合流した花梨は、コナンの指示を受け「名探偵」として振る舞うことに。通信越しに届く新一の推理を代弁し、達也を狙った卑劣な毒殺トリックを暴いていく。命を救われた達也から感謝される中、花梨はついに、隣に立つ「犯人」を指差した。新一と花梨、二人の逆転劇が幕を開ける!

第123話
証拠が少ない中でも、新ちゃんの推理は冴えるのです。
まあちょっと弱いな~感は否めないですけども。


123:コナンの推理

 

 “寺原麻里さん……。”

 

 

 花梨が寺原を見上げると、彼女は目を見開いた。

 

 

「「ま、マネージャーが犯人……!?」」

 

「ま、麻里……!? ……」

 

 

 犯人だと名指しされた寺原に、芝崎と山田が驚愕する。

 達也も花梨から寺原に視線を移し、苗字ではなく名前で呼びかけると、それ以上は黙り込んでしまった。

 

 

「……どうして私が犯人なの?」

 

「それはわかりません!」

 

 

 絞り出すような寺原の声が、花梨に向けられる。

 ……花梨ははっきりと答えた。

 

 途端、その場にいた全員がガクッと肩を落とす。

 同時に、部屋の扉に何かがぶつかったような音が「ガタッ」と響いた。

 

 

「花梨ちゃん!?」

 

 

 思わず目暮警部が、いつもは“花梨くん”と呼ぶはずの彼女を、昔の呼び方で呼んだ。

 

 

「あ、すみません。ちょっと今、動機を探ってて……」

 

「は?」

 

 

 花梨はイヤホンをしている側の耳を押さえながら、目暮警部に微苦笑する。

 要領を得ない目暮警部は困惑気味だ。当然だろう。

 だが彼が花梨に向けるのは、ただの苦笑いだけ……。

 幼い頃の花梨を知っているせいか、目暮警部は彼女に少々甘い。

 

 他の面々も驚いた様子ではあったが、怒る者はいなかった。

 

 ……ところが、そんな花梨に苛立ちを覚えた人物が一人いる。

 

 

「ちょっと、あなたさっきから支離滅裂なんだけど? 達也に気に入られてるからって、さっき怒られた腹いせに嫌がらせするの、やめてくれないかしら」

 

 

 花梨の隣にいた、寺原だった。

 

 寺原は冷静でありながら冷淡な目で花梨を見下ろし、まるで言い聞かせるように迫ってくる。

 言葉の端々には棘があり、美人の冷視は中々に迫力があるもので……。

 名誉を傷つけられ憤っているのは一目瞭然――。

 その場の誰しもが“怖い”と思ったに違いない。「こわ……」と誰かの呟きが聞こえた。

 

 そんな時、不意にピピピピピ……。

 誰かのスマホが鳴る。

 

 持ち主は目暮警部だったらしく、彼は「失礼……」と一言断り、通話ボタンを押した。

 

 

「嫌がらせなんてしてないです。ただ……動機がわからなくって……」

 

「動機って……。私に達也を殺そうとする理由なんてないわよ? 確かに、達也には嫌われてるけど、仕事なんだから割り切ってるわ」

 

 

 かなり威圧感のある物言いをされたが、花梨は怯むことなくいつもの冷静な口調で返す。

 そのやり取りを、蘭と園子がハラハラしながら見守っていた。

 花梨の変わらぬ態度に、寺原も腹を立てたのだろう。すぐに反論してくる。

 

 ……ステージでは目暮警部が誰かと通話中で、「出たか!」の声が響く。

 そんな中、花梨は言葉を続けた。

 

 

「……、動機はまだわかりません。でも、殺害方法ならわかります。寺原さんは、達也さんを自殺に見せかけて殺そうとしました」

 

「なっ!? なんてこと言うの!? 人を犯人扱いするなんて……!」

 

 

 犯人は寺原だと主張し続ける花梨に、寺原は激昂する。

 かなり怒り心頭のようで、鋭い目つきで花梨を睨みつけた。

 ……それも当然だ。突然殺人犯扱いされたら、誰だって怒るに決まっている。

 

 

「ああ……そういえば、木村さんの車の中から、青酸カリの含まれたクリームが発見されましてね。木村さん、自殺しようとされていましたか?」

 

 

 そこでふと、通話を終えた目暮警部が会話に割って入り、達也に近づいて問いかけた。

 

 コナンの推理によれば、犯人は単に毒殺を狙ったのではなく、自殺に見せかけることで、事件そのものを隠蔽しようとしていた可能性がある。そこで、達也の身の回りを調べるよう、権堂を通じて伝えておいた。

 その結果――車内から、さっそく一つの証拠品が見つかったというわけだ。

 

 

「は? オレはこれからソロデビューが待ってる身ですよ? するわけねーだろ」

 

「……ですよね。実は事務所のあなたのロッカーを調べさせてもらったんですが……。遺書のような紙も見つかったんですよ……」

 

「へ? なんだそれ。そんなもん、オレは書いてねぇぜ? 遺書書く暇があるなら、作詞でもしてるっての」

 

 

 達也は「なんのこっちゃ」といった様子で、怪訝な表情を浮かべた。

 事務所のロッカーを勝手に調べられたのも気分が悪いが、それ以上に、心当たりのない物が出てくるのは気味が悪い。

 不可解な出来事に、達也は腕を組み首を傾げる。

 

 ロッカーから出た遺書らしき紙……。

 コナンの推理通り、これは自殺に見せかけた殺人だったことは、これで確定した――。

 

 

「……」

 

「……寺原さん。あの、さっき慌てて車に向かったのって、青酸カリ入りのクリームを回収しに行ったんじゃないんですか?」

 

 

 目暮警部と達也のやり取りを黙って聞いていた寺原に、花梨は先ほどコナンからイヤホン越しに聞いた、「寺原さんは犯行をやめて、証拠品を回収しに行こうとしてたんだ」の言葉をもとに尋ねる。

 

 

「っ……」

 

「私がジャンパーを羽織っていないことに気づいて、計画を中止することにしましたか……?」

 

 

 寺原が息を呑んだ。

 イヤホンからコナンの「花梨がジャンパーを羽織ってないことに気づいて、彼女は達也さんを殺すのをやめたんだ」の声――。

 花梨は静かに頷きながら言葉を続ける。

 

 ……コナンの推理は、ずっと花梨の耳元で続いていた。

 

 

「……なんでそんなこと聞くの? 私は犯人なんかじゃないわ」

 

 

 僅かに寺原の声が、震えたような気がする。

 

 

『……いいか花梨、続けるぞ(よし、もう少しだな)』

 

「……」

 

 

 もう一押しで決定打になりそうだ――。

 そう感じたコナンは、部屋の扉の窓ガラスから中を覗き込む。

 

 それに気づいた花梨は、そっと視線を向け、彼と目が合うと無言で頷いた。

 

 

「だって……寺原さんだけなんです。達也さんの曲が流れたときに、席を立ったのは。一回目のリクエストは歌えなかったけれど、もし達也さんがそのまま歌っていて、オニギリを手にしていたら……?」

 

 

 花梨の声は落ち着いていたが、その言葉は静かに追い詰めていくようだ。

 

 

「犯人は、自殺に見せかけて殺したい。でも、死ぬ瞬間は見たくない。だけど死んだ事実は確認したい……。だったら、中座すればいい。状況証拠だけですが、一番怪しい動きをしていたのは、寺原さん、あなただけなんです」

 

 

 コナンがひとつひとつ言葉を紡ぐ度に、花梨もまたそれをなぞるように語り続けていく。

 やがて、コナンの推理が終わる。

 

 

『……以上だ。動機だけは、オレにもわからなかった。でも、詳しく調べていけば他にも証拠は出てくるはずだし、動機もおのずと明らかになる。だから今回のオレの推理はここまでだ』

 

 

 花梨は、イヤホン越しのその言葉に深く頷いた。

 

 

「じょ、状況証拠だけで犯人扱いだなんて……そんなの、名誉毀損よ!」

 

「……寺原さん、どうして達也さんを……?」

 

 

 ――新ちゃん、あとは任せてね……!

 

 

 明らかに狼狽えた寺原を、花梨はまっすぐに見つめる。

 その瞳は曇りなく澄んだ金色で、じっと真実を見通すように彼女を捉えていた。

 花梨の視線に晒されながら、寺原の額にはじっとりと汗がにじみ、やがてそれが頬を伝って落ちていく。

 

 

「っ、見ないでっ! その目で私を見るのをやめなさい。なんで私を見るの!?」

 

 

 寺原は花梨の視線を遮るように、両手を自分の顔の前に翳して目を逸らした。

 すべてを見透かされているように感じたのか、たじろいだ彼女の足が半歩下がる。

 

 

「……寺原さん! 答えてください!!」

 

 

 決して追い詰めるつもりはないが、花梨は寺原から目を逸らさずに見つめ続ける。

 花梨の強い視線に、寺原は顔を隠すように手を翳したまま、ちらりとテーブルに視線を移した。

 

 視線の先には水割り用にと置かれた、氷の入ったアイスペールとトングがある。

 そして、その近くには氷を割るためのアイスピックが置かれていた。鋭い尖端が照明を反射してキラリと光り、存在感を放っている。

 

 

「……て、やめて……。きれ……な……をして……っ、許せないっ! その目で達也を篭絡したってわけねっ!!」

 

 

 ……寺原の動きは一瞬だった。

 彼女は花梨の視線から逃れるように身体を捻り、テーブルに置かれたアイスピックを手に取ると、次の瞬間には花梨の背後に回る。

 

 

「ぇ、あっ!」

 

 

 気づけば花梨は寺原に手首から片腕を捻られて動きを封じられ、首にはアイスピックが突きつけられていた。

 少しでも動けば、刺さってしまいそうだ……。

 

 

『花梨っ!!』

 

 

 園子と蘭の「花梨っ!!」「花梨ちゃん!!」という心配の声に混ざって、焦ったコナンの声とガタッという音が部屋の扉から響く。

 だが、部屋にいた全員は突然の緊迫状態に気を取られ、そちらを見る余裕はない。

 

 

「っ……」

 

「……あなたのせいで、何もかもめちゃくちゃよ……。こうなったらもうおしまい。達也のお気に入りのあなたを殺して私も死ぬわ」

 

 

 拘束された腕の痛みに、花梨は眉をひそめた。

 寺原は泣き笑いにも似た、複雑な表情を浮かべながら、アイスピックを持つ手を振り上げる。

 

 

「て、寺原さんっ! ヤケを起こしちゃいかんっ!!」

 

「動かないでっ! 誰か一人でも動いたら首を一突きするわよ!? 達也のせいで、可愛い女子高生が巻き添えで死ぬって、明日の新聞の一面を飾ってやるわ!」

 

 

 慌てて目暮警部が止めに入ろうとするが、ステージからでは距離があり届かない。

 寺原は大きな声で啖呵を切り、再びアイスピックを花梨の首に近づけた。その拍子に、鋭い尖端が花梨の首を掠めてしまう。

 

 

「っ、ぅ……」

 

 

 ……アイスピックが掠めた花梨の首からは、鮮血が流れ出した。

 真っ赤な血が、白い首筋を伝っていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (花梨……!!)

 

 

 扉の向こうから見えていたのだろう、コナンが目を見開いたまま花梨を凝視している。

 なぜ自分はそこにいないのか――。

 小さな手の指紋が、くっきりと扉のガラスに付着した。

 

 

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