白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
花梨の命がけの叱咤を受け、達也はついに麻里への本当の愛を叫ぶ。すれ違っていた二人の心が重なり、麻里は自ら凶器を置いた。未遂に終わった事件の後、安堵から泣きじゃくる蘭と園子に抱きしめられる花梨。そこへ、連行される麻里に向けた達也の「待ってる」という誓いが響き渡り――。

第125話
エピローグが長いんだな。これが。


125:よくできました!

 

 

 

 

 

 寺原が逮捕され現場に残った花梨たちは、目暮警部が立ち去った後、ほかの警官の誘導でそれぞれ別室へと移動させられた。

 

 警部の言葉通り、救急車もすでに手配されていたようで、到着までは蘭が花梨の患部を押さえてくれていた。やがて救命士が到着し、花梨は別室に運ばれて治療を受けることになった。

 

 出血は思いのほか多く、止血に少々時間を要した。

 とはいえ、血がタラタラと少量ずつ漏れ続けただけで、傷自体はそれほど深くない。

 

 

「しばらくは安静にしてくださいね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 救命士は止血を済ませたあと、腕を捻った際に痛めた手首に湿布を貼り、他には大きな問題はないと診断して帰っていった。

 

 今回の事件で被害者となった花梨は、後日改めて事情聴取を受けることになっている。

 ……今ごろ、皆も話を聞かれている頃だろう。

 

 安静にするよう言われた花梨は、一人で別室の椅子に身体を横たえ、ぼんやりと天井を見上げていた。

 

 

「ふぅ……私、がんばったよね……!」

 

 

 新一の導きがなければ、寺原が犯人だとは気づけなかった。

 ……さすがは名探偵。我が幼なじみながら、やっぱりすごい。

 

 彼のすごさは認めるとして、それはそれ。

 またも事件に巻き込まれてしまったことに、花梨の胸には何とも言えない感情が湧き上がる。

 

 

「……新ちゃんといると、やっぱ危険な気がする……。それとも、米花町だからなのかな……」

 

 

 そういえば快斗が、米花町がどうのこうのと言っていたような……。

 そんなことを思い出しながら横になっていると、次第にまぶたが重くなってきた。

 

 

「……あ、快斗に連絡してないや……」

 

 

 ――怒るかな……?

 

 

 なんとなく、プリプリと怒る快斗の顔が思い浮かび、花梨は“ふっ”と笑みをこぼす。

 ちょうどそのタイミングで、頭上から「ガチャッ」と扉の開く音が響いた。

 

 

「はあっ、はあっ、花梨姉ちゃん! 大丈夫!?」

 

 

 コナンの声だ。

 見上げると、駆け込んできた彼が息を切らして立っていた。

 

 花梨の他に誰かがいるかもしれないと思ってのことだろう、「姉ちゃん」と敬称付きで呼んでくるあたりが彼らしい。

 寺原が逮捕されたときは、駆けつけた警官に部屋への立ち入りを止められていたが、その後は蘭と一緒にいたはず。

 ……トイレに行くふりでもして、様子を見に来たのかもしれない。

 

 

「……あ。新ちゃん……うん、大丈夫だよ~。ちょっと……いや、けっこう出血してるけど、平気平気。出血のわりに傷は浅いから、元気だよ~」

 

「……っ、ごめん。オレのせいで……」

 

 

 花梨は寝たまま両手を振って、笑ってみせた。

 けれど患部を目にしたコナンは表情を曇らせ、視線を落としてしまう。

 

 

「ううん、私も、ちょ~っと彼女を挑発しちゃったとこあるから、自業自得ってやつ」

 

 

 ――これは……起きた方がいいかな?

 

 

 救命士からは、血が止まるまでは横になっているようにと言われていたが、もうそろそろ止まっていそうな気もする。

 

 花梨はゆっくりと身体を起こした。

 そして、隣に座れとばかりに椅子の横を“ポンポン”と叩くと、コナンは無言で頷き、大人しく腰を下ろす。

 

 

「新ちゃんの言った通りだったね!」

 

 

 隣に座ったコナンを見下ろしながら、“さすがは名探偵!”と花梨は手を叩き合わせた。

 ……実は、コナンが推理を終えたとき、花梨の耳にはまだ彼の声が届いていたのである。

 

 

『動機は男女のすれ違いか、仕事上の恨みか……どっちかなんだと思うんだけどな……』

 

 

 小さく聞こえたその声は、いつも自信たっぷりのコナンとは違った。

 判断材料が少なすぎたため、あの時点で動機を特定するのは難しい。

 

 だからこそ、花梨は自身の能力を使って、寺原に自白させるよう誘導することにしたのだ――。

 

 

「……まあ、男女間の殺害目的が痴情のもつれって、よくあるパターンだけどさ。でも彼女、そんな様子まったくなかったから、確信が持てなかったんだ。達也さんの態度があんな感じだったし、普段から罵倒されてたなら恨んで当然だろ? 腹に据えかねて……って線も考えたんだよな」

 

「なるほど~」

 

「……なあ、花梨」

 

「ん~?」

 

「なんでオメーは、木村さんが寺原さんを好きだってわかったんだ? それに……寺原さんも……」

 

 

 “迷宮なしの名探偵”を名乗る自分が、殺害動機を断定できなかったこと――。

 コナンにとっては、それが気になるところで。

 推理が得意とは言えない花梨が先に気づいたなんて、ちょっとした探偵の名折れだ。

 

 どうしても理由を聞き出しておきたかった。

 

 

「ん~……女の勘?」

 

 

 花梨は顎に指を当て、にっこりと笑う。

 

 ……実際には、ふたりの過去を“視た”のだ。

 垣間見えた過去では、互いを想い合っているのが花梨にもわかるくらい、お互いばかりを目で追っていた。

 

 けれど、それをコナンに話すわけにはいかない。

 非現実的すぎるし、彼のような現実主義者にはとうてい信じてもらえないだろう。

 

 誤魔化せるかどうかはわからないが、勘と似たようなものだからそれでいい。

 

 

「はあ? なんだよそれ……。オメー、途中まで全然そんな素振り見せなかったじゃねーかよ。気づいてたなら教えろよな」

 

「そうだっけ? まあ、私は余計なことは言わない主義ですから。今回はたまたまだし、許してもらえると思う~」

 

 

 ――ほんと、ほんと! 今回はたまたま運命を変えてしまったかもしれないけど……しょうがないよね?

 

 

 コナンは納得のいかない顔で、ぷくっと頬を膨らませている。

 だが実際、今回花梨が視たのは“未来”ではなく、二人の“過去”だけ。

 

 しかも達也については、偶然視えてしまったにすぎない。

 彼の“本来の未来”がどうだったのか──それは花梨にもわからない。

 

 ……もしかしたら、達也が殺されていた未来もあったのかもしれない。

 

 けれど──花梨は、死者を視たくなんてない。

 

 予定された未来を当人以外が変えた場合、強い反動が返ってくる。

 でも今回は首の傷も浅かったし、大丈夫だろう。

 

 だから、花梨はこれでよかったと思っている。

 

 

「はあ? ……ったく、毎度わけわからんことばっか言いやがって……。あ、そういや、木村さんが花梨にお礼言ってたぞ」

 

 

 コナンはまだ釈然としない様子だったが、花梨の柔らかな笑顔に、頬がぽっと赤く染まった。

 誤魔化されてくれるようで、達也からの伝言を口にしてくれる。

 

 

「そ?」

 

「今度ソロライブをやることになったら、招待したいから住所教えてくれってさ」

 

「えー……お礼なんて別にいいのに~。でも、達也さんの新曲、ちょっと聴きたいかも~。でもなー、住所教えるのはなー……」

 

 

 住所を教えるのはいいが、その頃に自分はもう、そこにはいない。

 だから教えるべきではない。

 

 せっかくつながりかけた縁なのに……少し寂しさを感じつつも、花梨は笑顔で腕を組む。

 

 

「そう思って、蘭の家に送ってくれって言っといた」

 

「ありがとう!」

 

 

 ――さすが、察しがいいな! 新ちゃん!

 

 

 コナンの気遣いに、花梨は元気いっぱいにお礼を言う。

 すると彼は、靴を脱いで椅子の上に立った。

 

 

「……ん?」

 

「……よくできました! 褒めて遣わす」

 

 

 不意に、コナンの小さな手が花梨の頭を撫でてくる。

 「いーこいーこ」と見下ろす目が、やさしく弧を描いていた。

 

 

「わ~♡ 新ちゃんに褒められた~♡ やったね~♡」

 

「かっわ……っと。……しっかし、オメーを探偵に仕立て上げるのはめんどくせーな」

 

「え~? 私、超役立ってたよね!?」

 

「……」

 

 

 “新ちゃんの言う通りに動きましたけど?”

 

 ピースしながら満面の笑みで主張する花梨に、コナンは無言で再び頭を撫でてくる。

 

 

「ん?」

 

「……オメーは、傍観者でいたほうがいいんだ。……怪我させて、悪かった」

 

「だから大丈夫だってば~、そんな心配そうな顔、しないでいいよー」

 

 

 花梨が怪我をしたことで、罪悪感を感じているのだろうか──、コナンの眉はハの字に下がっていた。

 包帯の巻かれた首と手首をちらちらと見ては、心配そうな視線を向けている。

 

 

「ん……うん。ところで、もう一つ聞いていいか?」

 

「ん? どうぞ?」

 

「オメー、なんであれが青酸カリだって気づいたんだ? オレならともかく、普通は気づかねーだろ」

 

 

 ジャンパーに付着していた毒が青酸カリだと、なぜ分かったのか。

 コナンはそこが気になっているようだった。

 

 花梨の、あののほほんとした性格からして、そんな猛毒に気づけるとは思えない。

 もちろん、見下しているわけではない。ただ、青酸カリと花梨という組み合わせが、どうにも結びつかないのだ。

 ……「真面目な話だから、青酸カリン」なんて、そんなジョークを飛ばすつもりはないけど。

 

 

「あ、それはね、ただの経験則だよ? 前に盛られたことがあるの」

 

「え……?」

 

「へへっ、やーっぱ経験に勝るものはないよね! 達也さんが無事でよかったよかった♡」

 

「ちょ、花梨、前にって……!」

 

 

 笑顔でさらりと言ってのけた花梨に、コナンは目を見開く。

 

 “オメーは今、何て言った? 盛られたってどういう意味だ!?”

 

 言葉にならないほどの動揺が、彼の口をパクパクと動かすだけだった。

 

 

「うん、秘密♡ 新ちゃんには関係ないことだからねっ!」

 

「え……」

 

「この話はこれでおしまいねっ♪」

 

「ちょ、花梨、まっ──!」

 

「私、トイレ行ってこよっかな~。体冷えちゃっててさ~」

 

「おい、待てよ花梨!」

 

 

 ……コナンが止める声を背中で受けながら、花梨は溢れんばかりの笑顔を浮かべて、部屋を後にした。

 

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