白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
事件後の打ち上げで、達也は仲間への本当の想いを口にする。平穏が戻ったかに見えたが、花梨の迎えに現れたのは激怒した快斗だった。首の傷を見た快斗はコナンを「死神」と一蹴し、花梨を強引に連れ帰る。シャツを剥いだ一件まで把握していた快斗の嫉妬は収まらず、花梨は「お仕置き」を覚悟して――。

第127話
今回は快斗サイドのお話です。


127:快斗の嘘

 

 

 

 

 事件は幕を閉じ、花梨を抱えたままでカラオケ店を後にした快斗は、バイクまで戻る間に、これまでの出来事を伝える。

 

 

「――で、来てみたら警察車両に救急車だろ? 怪我人が出たって言うし、何事かと思ったぜ」

 

「ん……ごめん」

 

「軽傷だって警官たちが話してるのが聞こえたから、潜入はやめたけどさ」

 

「そういえばお店、封鎖されてたのに……よく入れたね?」

 

「“花梨の迎えです”って言ったら、通してくれた」

 

「そっか……迎えに来てくれて、ありがとう」

 

「彼氏が彼女を迎えに行くのは当然だろ?」

 

 

 快斗は、抱きかかえた花梨の額に唇をそっと押し当てた。

 花梨の頬が、ぽっと赤く染まる。

 

 ……花梨にそんな風に伝えた話は、実は嘘である。

 本当は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少々遡り、花梨が事件に巻き込まれていたその頃――快斗はというと。

 

 

「や~、今日は楽しかったねー! じゃあバ快斗。また明日!」

 

「……」

 

 

 ゲームセンターからの帰り道。

 快斗と青子は並んで歩き、青子の家の前までやってきていた。

 

 しかし快斗は、さっきからずっと心ここにあらず。

 手元のスマホに視線を落とし、ひたすら何かを気にしている。

 

 

「ちょっと快斗ー? なんで帰り道ずーっとスマホばっか見てんのよ! お別れの挨拶くらいちゃんとしなさいよ!」

 

「……ねーんだ……」

 

「は? なにが?」

 

「……花梨から連絡が、ねーんだよ……。何かあったんじゃ……」

 

「それは……カラオケ楽しんでて忘れてるんじゃないの~?」

 

 

 不安そうな顔でスマホを見つめ続ける快斗に、青子は苦笑をこぼした。

 

 ……まったく。

 この幼なじみは、彼女ができてからというもの完全に盲目だ。

 

 学校でもべったり。ゲームセンターでもべったり。

 恐らく、プライベートでもベッタベタに花梨に付きまとっているのだろう。

 

 

 “花梨ちゃんだって、たまには快斗から解放されたいでしょ……”

 

 

 心の中でそうツッコミつつ、青子はちょっとため息をついた。

 

 快斗は、重すぎるほど一途だ。

 その愛情を花梨がどこまで受け止めきれるのか、青子はそこが心配だった。

 

 快斗――大切な幼なじみには幸せになってほしいし、

 花梨――大切な友達にも、やっぱり幸せでいてほしい。

 

 ふたりのイチャイチャを見るのは正直、気恥ずかしい。

 けれどその一方で、見ているとほんわかした気持ちにもなるのだ。

 

 

 “……このままずっと、仲良くいてくれたらいいな。”

 

 

 そんな願いから、青子は快斗に「束縛しすぎはよくないよ」とやんわりアドバイスしている。

 ……が、どうやら当の本人にはあまり伝わっていないようで、いつも軽く空回りしてしまう。

 

 

「――は、平日だから大丈夫なはず……だよな?」

 

「は?」

 

 

 快斗がボソボソと、スマホの画面――待ち受けに設定された花梨の写真に向かって語りかける。

 

 ……うわ。この人、待ち受けの彼女に話しかけてるんですけど。

 これはちょっとヤバい。

 

 青子の眉が自然と寄ってしまう。

 

 

「……青子。また明日な」

 

「ん? あ、うん。バイバイ」

 

 

 快斗は唐突に顔を上げてそう言うと、すぐさま身を転じて自宅へと入っていった。

 その表情は、何かを思い詰めているようで――、家に戻ってすぐ花梨を迎えに行きそうな勢いだ。

 

 

「……ダメだこりゃ」

 

 

 隣家へと入っていく快斗の背中を見送りながら、青子は肩をすくめ、苦笑する。

 

 “ほどほどにね”――そんな心のツッコミを添えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 制服を脱ぎ捨てると、快斗はすぐに私服へと着替えた。

 手には、花梨用のアウター。

 それを片手に玄関を飛び出し、ガレージの愛車へと跨る。

 

 

「――よし、出発!」

 

 

 バイクのエンジン音が夜の街に響いた。

 行き先は、花梨が行くと言っていた米花町のカラオケ店。

 

 ……嫌な予感がする――。

 

 こういう予感は不思議とよく当たる。

 なら、迷ってる場合じゃない。

 

 現地に到着すると、店の前はすでに警察車両でごった返していた。

 黄色の規制線が張られ、店舗の出入口には制服警官が立っている。

 

 

「……やっぱり、何かあったな」

 

 

 快斗がそう呟いた、その時だった。

 

 

「や~~、バイト遅れちゃったなぁ……! 店長、怒るかな……」

 

 

 呑気な声とともに、鞄からカラオケ店の吊り下げ名札を取り出し、首にかけながら、青年がトコトコとやってくる。

 

 どうやら遅れて出勤してきたバイト君らしい。

 ところが、目の前の騒ぎに気づくと、彼は思わず立ち止まり、しばし唖然とする。

 

 

「……って、なにこの状況!? え? 営業停止……? あっ、じゃあ今日はもう休もっ♪ ラッキー!」

 

 

 そう言い残し、あっさりと踵を返して帰っていった。

 

 

(ふっ……運がいいのはお前だけじゃないぜ)

 

 

 快斗はスッと物陰に隠れると、迷うことなく彼に変装する。

 変装はもはや日常茶飯事。バイト服とキャップ姿に切り替え、すぐに現場へと潜入した。

 

 一方その頃、花梨は別室で静かに休んでいた。

 応急処置を終えたあと、「しばらく安静に」とのことで――。

 

 そんなこととは露知らず、快斗は“新米バイト”を演じながら、スタッフ用のトレイにドリンクを並べて皆のいる部屋へ向かう。

 

 

「失礼しま~~す、ドリンクお持ちしました~!」

 

 

 そう言って部屋に入ると、中では花梨以外のメンバーたちが集まっていた。

 コナン、蘭、園子、レックスのメンバー、カラオケ店長の隅井、そして数名の刑事。

 

 

「新人君! 来たのか。今日はもう休んでいいって言ったのに」

 

「いや~、けど、今月ピンチなんで」

 

「そうか、なら働いてけ」

 

「あざ~す!」

 

 

 隅井に声を掛けられ一瞬驚いたが、問題ない。

 

 

(……花梨の姿がねーな。トイレかな?)

 

 

 ドリンクを各自に配りながら、耳をそばだてる快斗。

 刑事たちの会話、メンバーの反応――事件の全貌を少しずつ把握していく。

 

 

(殺人未遂……しかも花梨がいた現場で……!)

 

 

 眉間にシワを寄せながら給仕していた、そのときだった。

 

 

「そこでね、花梨が達也さんのシャツを脱がせたの!! ボタンをパパパパーって取って~~……」

 

 

 園子の甲高い声が部屋に響く。

 

 

 ……ビクッ。

 

 

「……(な、なにぃぃぃいいい!?!?!?)」

 

 

 快斗の肩が小さく跳ねた。

 

 

(は……は……!? シャツ!? 花梨が!? 誰の!? なんで!?)

 

 

 トレイの上でグラスがカタカタと揺れる。

 手が震えているのだ――明らかに、ショックのあまりに。

 

 

(……おいおいおい、オレ以外の男のシャツなんて脱がせてんじゃねえよ!? 花梨、おまっ……マジで何やってんの!?)

 

 

 給仕役を演じる顔は引きつり、笑顔がひきつった営業スマイルと化す。

 

 

「……はい、アイスコーヒーです(無心)」

 

 

 声が若干裏返ったのは、きっと誰にも気づかれていない――、はず。

 給仕する快斗をコナンが不思議そうに見ていた。

 

 会話を聞く限り、花梨は事件に巻き込まれ、しかも男のシャツを脱がせたらしい。

 その話題が出た瞬間、手が震え、トレイの上のアイスティーを少しこぼしたのは秘密だ。

 

 給仕を終えると、快斗はふらふらと部屋を出て行く。

 そんな快斗の後ろ姿を、コナンがじっと見つめた。

 

 

(なんだあの人……)

 

 

 眉をひそめながら、コナンは心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 快斗はひとまず、花梨がトイレにいるものと思い込み、女子トイレの前でじっと待った。

 ……だが、5分、10分……一向に出てくる気配がない。

 

 

「……まさか」

 

 

 女子トイレに入るのはさすがにためらわれたが、今はそんなことを言っていられない。

 こっそり中を覗いてみると、そこには誰の姿もなかった。

 

 慌てて店内を走り回る。

 

 廊下を駆け抜けながら、空き部屋を一つひとつ確認し、調理場、スタッフルームも覗いて回る。

 ……それでも、花梨の姿はどこにもない。

 

 

「どこにいるんだよ……花梨!」

 

 

 焦りと苛立ちが入り混じった声が、思わず口をついて出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 快斗が店内を駆け回っていたその頃――。

 

 花梨は、事件後の打ち上げに戻り、蘭やコナンと談笑していた。

 しばらく楽しい時間を過ごし、園子の迎えが来た頃――ロビーに移動し、蘭が席を外すと、花梨とコナンのふたりきりになった。

 

 

「ん~ん、……タクシーで帰ろうかな」

 

「そっか。じゃあ、タクシー呼んで――」

 

 

 その時だった。

 

 

「その必要はねーよ?」

 

 

 快斗は花梨の背後、頭上から声をかける。

 

 

「ん……? あ、快斗!」

 

 

 目が合った瞬間、花梨の顔がパッと明るくなった。

 その笑顔に、快斗の胸がズキュンと撃ち抜かれる。

 

 

(うっ、可愛いぃ……♡)

 

 

 思わずニヤけそうになったが、必死に堪えた。

 いまは怒っている……というか、怒らなきゃいけない立場だ。たぶん。

 

 平静を装いながら、快斗は花梨をじっと見下ろした。

 

 隣に座っていたコナンも顔を上げ、「っ、黒羽……オメー……」と声を漏らす。

 “いつの間に店内に入ったんだ?”と、怪訝そうに眉をひそめていた。

 ……関係者以外は立ち入り禁止のはずなのだから、当然の反応だろう。

 

 

「ちょ、怪我したのって花梨かよっ!? なんでっ!?」

 

「あ……これは、ちょーっとトラブルに巻き込まれただけっていうか……。見た目ほど深い傷じゃないんだっ。ちょっとアイスピックの先が掠っただけっていうか……」

 

 

 花梨の首には、血が滲んだ包帯。手首にも包帯が巻かれている。

 その姿を目にした瞬間、快斗の目が大きく見開かれ、血の気がサッと引いた。

 

 対照的に、“あはは……”と苦笑いする花梨の無防備な笑顔――。

 

 

「ひぃっ、アイスピックだあ……!? 米花町嫌い。今すぐ帰ろう」

 

「え? わっ!? ちょ、ちょっと快斗!? 蘭ちゃんにまだ挨拶してな――」

 

 

 快斗は青ざめた顔のまま、突然花梨を横抱きに抱え上げると、そのままくるりと踵を返した。

 数歩歩いて、ふいに首だけを振り返る。そして――コナンを睨みつけた。

 

 

「……おい、ボウズ。オメー、死神でも憑いてんじゃねーの!? 花梨に近づくの、やめてくんない?」

 

「なんだと!?」

 

 

 バチッと、火花が散るような視線の交錯。

 

 ――だが、その睨み合いは一瞬だった。

 

 快斗はすぐに視線を戻し、抱き上げたままの花梨を見つめる。

 今度は、さっきとは違う――柔らかい笑顔を見せた。

 

 

(ああ、やっと花梨が戻ってきた……。けどオレ、怒ってるんだからな。)

 

 

「……帰るぞ」

 

 

 腕の中に彼女がいることで、ようやく安堵した快斗だったが――。

 怒っている気持ちは、ちゃんと伝えておく必要がある。

 

 彼は睨み顔をつくり、花梨をじっと見つめた。

 

 ……今夜は、離してやれそうにない。

 花梨がいくら泣いて謝っても、快斗の怒りはすぐには収まりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そんなわけで、花梨がシャツを剥いだところまでしか詳細までは聞けなかったが、それで十分だ。

 快斗は、花梨に何があったのか、ほとんど把握しているのである。

 

 青子には「花梨に構いすぎ」と小言を言われていることもあり、表向きには、ただ彼女を心配する“優しい彼氏”として振る舞っておかなければならない。

 

 だが本音は、ただ心配しているだけではない。

 快斗の中には確かに、花梨に対する強い――異常なまでの執着が根を張っていた。

 ……自分の異常な執着心など、彼女に悟られてはいけない。

 

 このまま、花梨が安心して、自分のもとに居続けてくれるのなら――、快斗は、嘘なんていくらでもつけるのだ。

 

 

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