▽前回のあらすじ
快斗が語った「偶然の再会」は、愛ゆえの嘘だった。花梨を心配するあまり米花町へ急行した快斗は、バイトに変装して現場に潜入。そこで「花梨が男のシャツを剥いだ」という衝撃の事実を知り、嫉妬と不安に震える。彼女を安心させるために仮面を被る快斗だが、その心根には深く、重い執着が渦巻いており――。
第128話
今回はコナンサイドのお話です。
◇
「っ、黒羽……オメー……」
突然現れた“花梨の彼氏”に、コナンは一瞬、目を見開いた。
だが、次の瞬間には眉を寄せる。
――今は関係者以外、入れねーはずだろ?
ロビーのガラス越しに見える外には、まだ警官が立っている。
捜査が終わるまでは、店内は立ち入り禁止のはずだ。
園子の迎えが来たときも、彼女が外に出ていっただけで、迎えは一歩も中に入ってこなかった。
……じゃあ、黒羽はどうやって?
コナンが怪訝な顔をしていると、その間に花梨はあっという間に彼の腕に抱きかかえられ、連れ去られてしまった。
「あ……」
横抱きにされた花梨が、去り際に申し訳なさそうな顔でこちらを見てきた。
その視線を受けて、コナンは思わず苦笑し、軽く手を振って見送った。
(あいつ、やっぱ独占欲すごくね……?)
自分のものだと言わんばかりの手際の良さ。
花梨に対する異様な距離感の近さに、少しだけ背筋がひやりとする。
……厄介な相手に惚れられたもんだな。
コナンは花梨を少しばかり不憫に思った。
「花梨ちゃ~ん、コナン君、お待たせ! お父さん、今着いて、外で待ってるって。出よっか」
「あ、うん」
「あれ? 花梨ちゃんは?」
ふと、蘭が周囲を見渡す。
花梨の姿がないことに気づき、きょろきょろとロビーを見回した。
椅子には誰も座っておらず、静まり返った空間に、かすかな違和感が残る。
「花梨姉ちゃんなら、ついさっき、彼氏が迎えに来て帰ったよ」
「えっ!? 花梨ちゃんの彼氏!? え~~!? 会いたかったな~! イケメンだった?」
「……別に、……普通だと思う」
“イケメンだった?”
蘭に問われたコナンは、花梨の彼氏の顔を思い出しながら、無意識に頬を膨らませた。
……まあ、世間一般で見れば、確かに“イケメン”に分類される顔かもしれない。
だが、花梨の彼氏となると話は別だ。褒めてやる義理なんて、どこにもない。
それに――元の姿に戻れば、自分の方が絶対イケてるはずだし。
「え~、そうなんだ~。花梨ちゃんほどの美少女の彼氏でしょ? きっと格好いいんだと思ったんだけどな~」
蘭は無邪気に笑いながら、まるで芸能人の噂でもしているかのように軽やかな声で言った。
そんな蘭を見て、コナンはわずかに眉をひそめる。
「蘭姉ちゃん、夢見すぎ」
呆れたように言いつつも、コナンの胸の内には小さなモヤモヤが渦を巻いていた。
「だって、新一がそばにいて惚れなかった花梨ちゃんだよ? 彼氏さん、どんなタイプなんだろ……」
蘭は無意識のまま続ける。
その言葉が、コナン――いや、“新一”としての自分の胸に、ちくりと刺さった。
が――。
「ら、蘭姉ちゃん、それどういう意味?」
コナンは思わず問い返す。
しかし蘭は悪びれる様子もなく、ケロリとした顔で答えた。
「ん? 新一って格好いいじゃない! イケメンだよね!」
その言葉に、コナンの心臓が一瞬だけ跳ね上がる。
「へっ? ……そ、そうかなあ?」
とぼけるように返しながらも、コナンは頬が熱くなるのを感じた。
耳のあたりまでじんわりと赤くなっているのが、自分でもわかる。
「あっ、新一には内緒よ~? アイツ、ちょっと褒めるとす~ぐ調子乗るんだから」
蘭はいたずらっぽく笑い、唇に指を当ててウインクする。
コナンは咄嗟に頷くが、胸の奥がくすぐったくて、どこか落ち着かない。
「う、うん、わかった……」
声がほんの少しだけ裏返ってしまったのを、蘭は見逃さなかった。
「なんでコナン君が赤くなってるのよっ」
ツッコミ混じりにのぞきこまれ、コナンは慌てて視線をそらす。
「べ、別に……」
小さくむくれたように口をとがらせるが、顔の火照りは隠せない。
蘭の何気ない言葉が、こんなにも胸を熱くさせるなんて、自分でも思っていなかった。
――オレ、格好いいんだな……。
思わずこぼれた心の声。
誰にも聞こえないように、コナンは照れくさそうに頬を掻いた。
それでも口元には、どうしても隠しきれない小さな笑みが浮かんでいた。