▽前回のあらすじ
面会室で達也が贈った新曲は、麻里の素顔を肯定する愛の歌だった。二人の絆を繋ぎ止めたのは、5年前に出会った「たこ天」こと幼い日の花梨。絶望していた若き達也たちを救った「金色の瞳の少女」との再会が、今回の事件を救済へと導いた。花梨への感謝を胸に、達也と麻里は未来を誓い合う――。
第130話
事件は終わり…。
今回はいちゃらぶ注意♡(あ、いつもか)
◇
カーテンの隙間から差し込む朝日が、やわらかく花梨の頬を照らす。
じんわりと温かい光にまぶたが刺激されて、彼女はゆっくりと目を開けた。
「ん……おはよう、快斗……」
「おはよ、花梨♡ 今日も可愛いな♡」
目の前には、彼氏・快斗の蕩けるような笑み。
昨晩はあんなにも不機嫌で、周囲を黙らせるほどのオーラを放っていたというのに、今はまるで別人のように機嫌がいい。
「……はあ、やっと機嫌直ったぁ……」
「へへっ、花梨が無事でよかった……!」
花梨が安堵とともに肩の力を抜くと、快斗は彼女をぎゅっと抱きしめる。
その温もりは心地よかったが――同時に、ズキッと、腰と股関節に鈍い痛みが走った。
(……昨日の怪我よりも、こっちのほうが痛いってどういうこと?)
肌が直接触れ合って、快斗の体温が伝わってくることで、今の状況をはっきりと思い出した。
ベッドの中、二人とも――素っ裸。しかも、今日は平日。
こんなふうにまったりしている場合ではない。
「権堂さん、いなかったじゃねーかよー」
頭の上から降ってきた快斗の声は、少しだけ棘が残っている。
「ああ、うん。警察署に行ってもらってたから……」
花梨はそう答えながら、もぞもぞと快斗の腕の中から抜け出そうとしたが、その腕は鉄のように強く、びくともしなかった。
「彼女、花梨の警護人だろ? ちょっと隙だらけ過ぎねーか?」
「ん~……でも、昨日のは私が軽率だったからね……」
言いながらも、花梨は小さく笑った。
そして――。
(よし、くすぐっちゃおっ……!)
腕から抜け出すチャンスを狙い、快斗の脇腹にこちょこちょと指を滑らせる。
「ちょっ、っ、くはっ! はあ……ホントだよ。花梨はもうちょっと自分を大事にしねーとな?」
くすぐったさに耐えきれず、快斗の腕が緩む。
その隙をついて、花梨はするりとベッドから抜け出そうとした――が。
「大事にしてるんだけどな~?」
「そうは見えねーんだよなあ~?」
今度は手首を掴まれてしまい、完全には自由になれなかった。
しかも、それは昨日痛めた左手首で。
快斗は患部を避けて掴んでいるため、花梨も「痛い」とは言い出せずにいた。
次の瞬間、彼はその手を自分の顔に引き寄せ――薬指の根元を、がぶり。
「ぃっ!」
じくじくとした痛みに、思わず顔をしかめる。
「ね、快斗……そろそろ起きよ?」
――まだ、ちょっと不機嫌みたい……。
薬指にはくっきりと歯形が残り、じんわりと赤く腫れていた。
……それだけではない。
首筋や肩、胸元――あちこちに赤い痕が残っており、しばらく襟元の広い服は着られそうにない。
(……怒ってたのは分かるけど、ちょっと狂気じみてない?)
少し恐れを感じながらも、花梨はぱっと笑顔を浮かべた。
笑って誤魔化すのは、自分の得意技だ。
「んー、サボるか! さて、花梨も目を覚ましたことだし……もっかい……」
「ちょっ!? だ、ダメだよっ! 今日はお仕事じゃないんでしょ?」
快斗が身体を反転させ、どさっと花梨の上に乗ってくる。
花梨は思わず腕をクロスさせて、拒否のポーズを取った。
「お仕事て」
「出席日数足りなくなったら困るよ。だから学校行こ?」
「はー……花梨ってマジメちゃんだよな~。まあ、そういうとこも好きなんだけど♡」
「あ、ありがと……」
「フッ、まだ照れるか! かわいいヤツめ♡」
からかうような口調の中にも、愛情が滲んでいる。
快斗は目を細め、頬を赤らめる花梨の様子をじっと見つめた。
まるで大事な宝物を眺めるように、優しい眼差しで。
「うう……面と向かってそんなこと言われたら、照れるに決まってる……」
花梨は顔を背けて、枕に半分埋もれながら呟く。
羞恥心からか、耳の先まで真っ赤になっていた。
「へへっ、今日も愛してるよっ♡」
快斗は花梨の耳元に唇を近づけ、ストレートに迷いなく言葉を届ける。
軽いノリに見えるが、その声色には本気の想いがにじんでいた。
「ンっ♡ も、もうっ!」
顔を上げられない花梨の耳元に、チュッというリップ音が届いて、快斗の吐息が“フゥ~”っと耳をくすぐる。
甘くくすぐられて、びくりと肩が震えた。
……わかりやすい反応をしてしまい、恥ずかし過ぎて顔を上げられない。
快斗にされること何もかもに、敏感に反応してしまう自分の身体が憎い。
これ以上顔を見られたくない。
嬉しさと恥ずかしさが胸の奥でせめぎ合い、くすぐったい気持ちが膨らんでいく。
――でも、本当はとっても嬉しい。
こんなふうにまっすぐ好きを伝えてくれる人が、隣にいるなんて――。
そう思うだけで、心がじんわりと温かくなった。
(へへっ♡ ホント、敏感なんだから、かんわいぃ~~♡)
……枕に顔を伏せて照れる花梨の様子に、快斗はますます笑顔になる。
こうして彼は、花梨の心を支配するのだ。
甘く、時に狂気的な愛情で――。