白月の君といつまでも   作:はすみく

131 / 189
-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
面会室で達也が贈った新曲は、麻里の素顔を肯定する愛の歌だった。二人の絆を繋ぎ止めたのは、5年前に出会った「たこ天」こと幼い日の花梨。絶望していた若き達也たちを救った「金色の瞳の少女」との再会が、今回の事件を救済へと導いた。花梨への感謝を胸に、達也と麻里は未来を誓い合う――。

第130話
事件は終わり…。
今回はいちゃらぶ注意♡(あ、いつもか)


130:幕間・囁く影と甘い痛み

 

 

 

 

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、やわらかく花梨の頬を照らす。

 じんわりと温かい光にまぶたが刺激されて、彼女はゆっくりと目を開けた。

 

 

「ん……おはよう、快斗……」

 

「おはよ、花梨♡ 今日も可愛いな♡」

 

 

 目の前には、彼氏・快斗の蕩けるような笑み。

 昨晩はあんなにも不機嫌で、周囲を黙らせるほどのオーラを放っていたというのに、今はまるで別人のように機嫌がいい。

 

 

「……はあ、やっと機嫌直ったぁ……」

 

「へへっ、花梨が無事でよかった……!」

 

 

 花梨が安堵とともに肩の力を抜くと、快斗は彼女をぎゅっと抱きしめる。

 その温もりは心地よかったが――同時に、ズキッと、腰と股関節に鈍い痛みが走った。

 

 

(……昨日の怪我よりも、こっちのほうが痛いってどういうこと?)

 

 

 肌が直接触れ合って、快斗の体温が伝わってくることで、今の状況をはっきりと思い出した。

 

 ベッドの中、二人とも――素っ裸。しかも、今日は平日。

 こんなふうにまったりしている場合ではない。

 

 

「権堂さん、いなかったじゃねーかよー」

 

 

 頭の上から降ってきた快斗の声は、少しだけ棘が残っている。

 

 

「ああ、うん。警察署に行ってもらってたから……」

 

 

 花梨はそう答えながら、もぞもぞと快斗の腕の中から抜け出そうとしたが、その腕は鉄のように強く、びくともしなかった。

 

 

「彼女、花梨の警護人だろ? ちょっと隙だらけ過ぎねーか?」

 

「ん~……でも、昨日のは私が軽率だったからね……」

 

 

 言いながらも、花梨は小さく笑った。

 そして――。

 

 

(よし、くすぐっちゃおっ……!)

 

 

 腕から抜け出すチャンスを狙い、快斗の脇腹にこちょこちょと指を滑らせる。

 

 

「ちょっ、っ、くはっ! はあ……ホントだよ。花梨はもうちょっと自分を大事にしねーとな?」

 

 

 くすぐったさに耐えきれず、快斗の腕が緩む。

 その隙をついて、花梨はするりとベッドから抜け出そうとした――が。

 

 

「大事にしてるんだけどな~?」

 

「そうは見えねーんだよなあ~?」

 

 

 今度は手首を掴まれてしまい、完全には自由になれなかった。

 しかも、それは昨日痛めた左手首で。

 快斗は患部を避けて掴んでいるため、花梨も「痛い」とは言い出せずにいた。

 

 次の瞬間、彼はその手を自分の顔に引き寄せ――薬指の根元を、がぶり。

 

 

「ぃっ!」

 

 

 じくじくとした痛みに、思わず顔をしかめる。

 

 

「ね、快斗……そろそろ起きよ?」

 

 

 ――まだ、ちょっと不機嫌みたい……。

 

 

 薬指にはくっきりと歯形が残り、じんわりと赤く腫れていた。

 ……それだけではない。

 首筋や肩、胸元――あちこちに赤い痕が残っており、しばらく襟元の広い服は着られそうにない。

 

 

(……怒ってたのは分かるけど、ちょっと狂気じみてない?)

 

 

 少し恐れを感じながらも、花梨はぱっと笑顔を浮かべた。

 笑って誤魔化すのは、自分の得意技だ。

 

 

「んー、サボるか! さて、花梨も目を覚ましたことだし……もっかい……」

 

「ちょっ!? だ、ダメだよっ! 今日はお仕事じゃないんでしょ?」

 

 

 快斗が身体を反転させ、どさっと花梨の上に乗ってくる。

 花梨は思わず腕をクロスさせて、拒否のポーズを取った。

 

 

「お仕事て」

 

「出席日数足りなくなったら困るよ。だから学校行こ?」

 

「はー……花梨ってマジメちゃんだよな~。まあ、そういうとこも好きなんだけど♡」

 

「あ、ありがと……」

 

「フッ、まだ照れるか! かわいいヤツめ♡」

 

 

 からかうような口調の中にも、愛情が滲んでいる。

 快斗は目を細め、頬を赤らめる花梨の様子をじっと見つめた。

 まるで大事な宝物を眺めるように、優しい眼差しで。

 

 

「うう……面と向かってそんなこと言われたら、照れるに決まってる……」

 

 

 花梨は顔を背けて、枕に半分埋もれながら呟く。

 羞恥心からか、耳の先まで真っ赤になっていた。

 

 

「へへっ、今日も愛してるよっ♡」

 

 

 快斗は花梨の耳元に唇を近づけ、ストレートに迷いなく言葉を届ける。

 軽いノリに見えるが、その声色には本気の想いがにじんでいた。

 

 

「ンっ♡ も、もうっ!」

 

 

 顔を上げられない花梨の耳元に、チュッというリップ音が届いて、快斗の吐息が“フゥ~”っと耳をくすぐる。

 甘くくすぐられて、びくりと肩が震えた。

 

 ……わかりやすい反応をしてしまい、恥ずかし過ぎて顔を上げられない。

 快斗にされること何もかもに、敏感に反応してしまう自分の身体が憎い。

 

 これ以上顔を見られたくない。

 嬉しさと恥ずかしさが胸の奥でせめぎ合い、くすぐったい気持ちが膨らんでいく。

 

 

 ――でも、本当はとっても嬉しい。

 

 

 こんなふうにまっすぐ好きを伝えてくれる人が、隣にいるなんて――。

 そう思うだけで、心がじんわりと温かくなった。

 

 

(へへっ♡ ホント、敏感なんだから、かんわいぃ~~♡)

 

 

 ……枕に顔を伏せて照れる花梨の様子に、快斗はますます笑顔になる。

 

 こうして彼は、花梨の心を支配するのだ。

 甘く、時に狂気的な愛情で――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。