▽前回のあらすじ
朝を迎え、昨夜の不機嫌が嘘のように甘える快斗。花梨は彼の執着に困惑しつつも、学校へ行こうと健気に促す。独占欲ゆえの「印」を刻まれ、甘く狂気的な愛に翻弄されながらも、花梨は隣にいる幸せを噛みしめる。
第131話
金・土は何もなく平和に過ごせたようですw
蘭ちゃんからメッセージが来たヨ!
◇
“ピコン!”
……土曜の夜、風呂から上がった花梨のスマホに、メッセージアプリの通知が届いた。
相手は蘭――。
どうしたのだろうと思いながら、メッセージを開く。すると……。
「え……、あ、私に、会いたい……?」
花梨はぱちぱちと瞬きをした。
蘭からのメッセージには、こうあった。
“水曜に会った広田雅美さんって覚えてる? 彼女が花梨ちゃんに会いたいって言ってるんだけど、明日うちに来れないかな? どうしても会いたいんだって”
“広田雅美”――。
たまたまぶつかった拍子に、彼女が近い未来で遭遇する“死”が視えてしまった。
花梨には、それを彼女に伝えることも、未来を変えてあげることも――何もできない。
その人の未来は、その人のもの。
その人自身が気づき、どうにかするしかない。
だからせめてもの思いで、花梨は雅美に、祖母から教わった“幸運のおまじない”をかけてあげた。
……祖母は花梨に精神修行と称して、四時間の正座をさせたあと、こう言った。
『いいかい、花梨。よくお聞き。お前は気に入った相手に、それだけやってやりゃいいんだ。あとは相手が勝手にどうにかするもんだ』
花梨は足が痛いわ、言っていることはよく分からないわで、祖母の言葉は半分しか頭に入ってこず……。
けれど、正座させられたのは花梨だけではなく、親戚の“彼女”もだった。
“彼女”は「お前のお役目をしっかり果たしなさい」と言われ、嬉しそうにしていたが、やはり足の痛みに悶絶していた。
(お婆さまって、みんなに平等に厳しい人だったなあ……)
……誰に対しても厳格な祖母を思い出し、花梨は微苦笑する。
「明日かあ……。会うのは構わないけど……快斗、米花町に行くの怒るんだよな~」
最近、毎週日曜になると米花町に行っている気がする……。
花梨は、風呂掃除を買って出てくれた快斗がバスルームから出てくるのを待って、相談することにした。
「は? ダメに決まってんだろ? また命狙われるだろ?」
下着姿でバスルームから出てきた快斗が、頭をタオルでガシガシ拭きながら眉をひそめる。
……土日のどちらかは、“彼女”から送り込まれた
米花町は犯罪率が高いのだから、他の事件に巻き込まれる可能性も大。
快斗の答えが“ノー”なのは当然だった。
「う、んー……。でも、どうしても会いたいって言ってるらしくって」
「は? なんでだよ。花梨は探偵でもなんでもねーだろ?」
花梨の話を聞きながら、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した快斗は、それを一口飲んで、濡れた口元をぬぐう。
「そうなんだけど、彼女ね……」
……どう言えば快斗は納得してくれるのだろうか。
“彼女、もう少ししたら死んじゃうから、会ってあげたくて”――なんて、本当のことはとても言えない。
なにか、うまい言い訳はないだろうか――。
花梨は、体裁のいい理由を探した。
「彼女がなに? それ、花梨の命とどっちが大事?」
「っ」
「オレは、花梨一択。とにかく米花町はやばい。花梨の脅威がなくなるまでは、近づかない方がいい」
「でも……」
快斗はペットボトルをキッチンカウンターに置くと、花梨に近づき、ぎゅっと抱きしめてきた。
心配してくれているのは痛いほどわかっているけれど――。
花梨はちらっと上目遣いで、快斗を見上げた。
「……うっ。そういう可愛い顔してもダメなもんはダメっ!」
「ダメ……なの?」
目が合った瞬間、快斗の頬がわずかに赤く染まる。
花梨は今度、快斗の腕にそっと触れ、じっと彼を見つめた。
……快斗の顔がみるみる真っ赤になっていく。
「……っあ、もー!! 花梨ちゃんはあざといなぁ~っ! ダメったらだぁめっ! めっ!」
真っ赤な顔のまま、快斗は花梨の鼻先を人差し指でツンと突いた。
「ン。ホントにダメ? 米花町じゃなかったらどうかな~? 大丈夫そうじゃない?」
「う……、っ、だからだめだって……」
「ね、快斗くん? 本当にダメなの?」
じぃ~~っと、花梨に見つめられている快斗から“はあー……”と諦めのため息が漏れ聞こえた。
――よし、もうちょっとかな……?
花梨は、快斗が自分に甘いことを知っている。
だから、あとひと押しすれば――。
「っ、……さ、さっき泊まりはダメだって言ってたけど……オレ、今日泊まってもいい? そしたら明日付き合ってやるよ」
ついに快斗が折れ、花梨を胸の中へと抱きしめる。
頭上から聞こえたその返事は、交換条件を満たせばOKということ――。
……花梨の勝利だ。
「快斗っ♡ うんうん! 蘭ちゃんに、会う場所は米花町じゃないところにしてもらうねっ♡ ありがとう、快斗! だいすきっ♡」
“チュッ!”
快斗の腕を引き、花梨は背伸びして頬にキスをした。
「くっ! ……くっそかわええ……♡ なんだよそのおねだり! ああ、も~、なんでも言うこと聞いちゃる!! ほら今すぐベッド行こ、ベッド!!」
――オレって、花梨に甘いよなぁ……。
可愛い笑顔を浮かべる花梨の背中に腕を回し、快斗はそのまま彼女をひょいっと抱き上げる。
「わっ!?」と、毎度のことながら驚く花梨の声に目を細めつつ、快斗は足を寝室へと向けた。
「ちょ、ちょっと待って! 先に、蘭ちゃんにメッセージだけ送らせて?」
「わかったっ♡ 待ってる♡」
ベッドにたどり着いた快斗は、さっそく花梨に覆いかぶさろうとしたが、あえなく制止される。
……まあ、報酬はあとでもらえる。ここは大人しく待つか。
快斗は、犬のように尻尾を振る気持ちで、蘭にメッセージを送る花梨を待った。
メッセージの送信が終わると、犬だった快斗は、狼へと変貌――。
二人は甘く、幸せな時を過ごしたのだった。