▽前回のあらすじ
蘭から届いた「広田雅美に会ってほしい」という願い。雅美の死の運命を知る花梨は、快斗の反対をあざといおねだりで突破する。「お泊まり」を交換条件に折れた快斗と、運命を憂いながらも恋人と甘い夜を過ごした。
第132話
雅美が花梨に会いたがっている――蘭に誘われ花梨は、会うことに決めて……。
コナン抜きで蘭ちゃんといつかお出かけしたいよね~。
◇
……そして迎えた、日曜日。
「花梨ちゃん! ここ、ここ!」
「蘭ちゃん!」
待ち合わせは米花町ではなく、隣町の杯戸町。杯戸シティホテルのロビーで合流することになった。
中に入ると、蘭がコナンと並んで椅子に腰かけていた。
花梨に気づいた蘭は、ぱっと立ち上がって手を振る。
「に、日曜なのに呼び出しちゃって……ごめんね~! 雅美さん、花梨ちゃんにどうしても会いたいって言ってて~……」
「ううん、大丈夫だよ~。別に予定もなかったから……」
“うそつき。オレと「おうちデート」する予定だったくせに。”
笑顔で手を振る花梨の耳に、不機嫌そうな快斗の声がイヤホン越しに届いた。
雅美の希望で、花梨は“ひとりで来た”ことになっている。
だが実際には、命の危険を考慮して、少し離れた場所で快斗と権堂が控えていた。
快斗はホテルマンに変装。権堂は……スーツ姿のボディーガード――いつもの格好だ。
(……いやいや、約束はしてなかったはずなんだけどなぁ?)
そう、花梨は今日、快斗と約束はしていない。
ただ、快斗が朝から居座っていただけだ。
本来なら今日はひとりで、家で本を読みながら大人しく過ごすつもりでいたのだから。
買い出しは昨日近所で済ませたし、自分が家で大人しく過ごしていれば、命を狙われる心配はない。
たまには一人になりたいし……と思っていたが、呼び出されてそうもいかなくなった。
恐らく快斗は心配でついて来たのだ。
快斗の休日を奪ってしまって申し訳ないと花梨は思っていたが、当の本人は、実は“花梨と過ごせて満足”していたりする。
「花梨姉ちゃん、こんにちは!」
「あ、コナンくん、こんにちは~!」
満面の笑みで挨拶するコナン……。
花梨に会えてうれしい気持ちが、隠しきれていない。
けれど、花梨はそんなこと知らない。
――新ちゃん、小学一年生が板についてきたね……あざとかわいいよっ!
花梨も負けじと笑顔で応じる。
小さな新一は、本当に可愛かった。
「ケガ、大丈夫? って、薬指どうしたの?」
「あ、これ? ちょっとね。ふふふ♡ ケガはすっかりよくなったよ。心配してくれてありがとう♡」
「う、うん……」
今日の花梨は、ふんわりとしたお嬢様風のガーリーワンピース姿。
首にはチョーカーをつけていて、その下には木曜にできた傷を隠す絆創膏が貼ってある。
もうほとんど傷は塞がっているが、念のためだ。
薬指に絆創膏が貼ってあるのは、快斗に齧られた分――。
何度か齧られ、輪っかのような痕が付いてしまった。
齧られる度「痛い」と訴えたが、快斗は指に輪っかを描き終わるまで止めてくれず……。
指に輪っかが刻まれると満足そうにやっと花梨を解放した。
痛いし、恥ずかしいから絆創膏を貼ってある。
……心配してくれたことが嬉しくて、花梨がしゃがんでお礼を言うと、コナンの頬がほんのりと赤く色づく。
「ふふっ、コナン君てば、赤くなっちゃっても~」
「えっ……ホントだ! 大変っ、熱でもあるの!?」
茶化すように蘭が笑い、花梨はコナンの赤くなった顔に気づいて、小さな額にそっと手を当てた。
「ちょっ!?(花梨っ!?)」
間近に迫った花梨から、ふわっと甘い匂いがして、コナンの顔がぼっと一気に火が点いたように真っ赤に染まった。
「えっ、やだ~、花梨ちゃん違うよ~! コナン君は花梨ちゃんのことが――」
「ら、蘭姉ちゃんっ! もう時間だよっ!!」
蘭に何かを言わせる前に、コナンは花梨の手をそっと払い、“約束の時間”だと話題を変えた。
「……そうだったね~?」
急にムキになったコナンに、蘭はにこにこしながら同意し、それ以上は言わずにおく。
「時間……あ、そうだ、雅美さんは……?」
「うん、雅美さんね、部屋で花梨ちゃんが来るのを待ってるの。一人で来てほしいって言うんだけど……大丈夫?」
蘭によれば、雅美はホテルの一室を借りていて、そこで一人きりで待っているらしい。
しかも、花梨に“ひとりで来てほしい”と希望しているという。
(……なぜ?)
不可解な点はある。
けれど――雅美が刺客ではないことは、花梨にはわかっていた。
彼女の“未来”を視たとき、花梨の親戚との接点はなかったからだ。
ならば、会っても問題ないだろう。
「うん、大丈夫だよ~。何階かな?」
イヤホンからは、すかさず『一人で行くなっつーの!』とのお叱りの声――。
――うん、快斗の言いたいことはわかってるよ、でもね。
雅美が何を考えているのかはわからないが、求められれば応じたい。
来月には自分も“
せめて、できるだけの善行を積んでおきたい。
「部屋まで案内するね。行こっ♪」
「あっ、蘭ちゃん!?」
突然、蘭が花梨の手をぎゅっとつかみ、そのまま駆け出す。
背後からはコナンの「蘭姉ちゃん!?」という驚いた声。
イヤホン越しには、快斗の「花梨っ!」という焦った叫び。
そして柱の影から、権堂も急いで二人の後を追いかけてきた。
「はあっ、はあっ……花梨ちゃん、今日の格好すっごく可愛い! 今度一緒にお洋服買いに行こ? お揃いコーデしたいな。二人きりでデートしよっ!」
「はあっ、はあ……えっ……で、デート?(ふたりきり?)」
エレベーターホールに着いたところで、蘭は手を握ったまま、まっすぐ花梨を見て言った。
その手はぎゅっ、ぎゅっと嬉しそうに力がこもっていて、まるで本当に楽しみにしているかのようで。
「うんっ♪ だって、いっつもコナンくんとか園子とかいるでしょ? だから、保育園の頃みたいに、二人きりで過ごしたくて」
(……なるほど。新ちゃんの前じゃ言いにくくて、わざわざ連れ出したのね)
蘭は今、かつての“葵”を見ているかのような、まるで、ずっと探していた宝物をようやく見つけたような――そんな光を宿した瞳で花梨を見ていた。
あの頃の記憶を重ねているのだろう。
「ら、蘭ちゃん……。でも私、女で……」
……もう、男の子のフリはできないよ?
蘭の我儘を聞いてあげたいが、彼女よりも小さい背に、長い髪、ふくよかな胸のふくらみと、細い腰。
あの頃のように、少年になるにはすっかり難しい身体になってしまっている。
快斗に頼めば変装くらいはできるかもしれないけれど……と、少し考えてはみるものの、蘭は――。
「えへへ♡ ダメ?」
照れくさそうに笑う蘭の瞳は、性別なんてどうでもいい――今の花梨とデートがしたい、そう語っていた。
一度握ったその手を、二度と離したくないとでも言うように、強く――どこか必死に握りしめてくる。
「ううん、お誘いはうれしいよ。でも……」
「あっ、彼氏さんが怒る? 女同士だから怒らないよね?」
「へ? あ、うん……たぶん大丈夫だと思うけど……、ね?」
花梨がぽつりと「ね?」と呟いたその直後、イヤホンからは『うーん……』と、快斗の微妙な声が返ってきた。