白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
蘭から届いた「広田雅美に会ってほしい」という願い。雅美の死の運命を知る花梨は、快斗の反対をあざといおねだりで突破する。「お泊まり」を交換条件に折れた快斗と、運命を憂いながらも恋人と甘い夜を過ごした。

第132話
雅美が花梨に会いたがっている――蘭に誘われ花梨は、会うことに決めて……。
コナン抜きで蘭ちゃんといつかお出かけしたいよね~。


132:蘭のもうひとつの願い

 

 

 

 

 ……そして迎えた、日曜日。

 

 

「花梨ちゃん! ここ、ここ!」

 

「蘭ちゃん!」

 

 

 待ち合わせは米花町ではなく、隣町の杯戸町。杯戸シティホテルのロビーで合流することになった。

 

 中に入ると、蘭がコナンと並んで椅子に腰かけていた。

 花梨に気づいた蘭は、ぱっと立ち上がって手を振る。

 

 

「に、日曜なのに呼び出しちゃって……ごめんね~! 雅美さん、花梨ちゃんにどうしても会いたいって言ってて~……」

 

「ううん、大丈夫だよ~。別に予定もなかったから……」

 

 

 “うそつき。オレと「おうちデート」する予定だったくせに。”

 

 

 笑顔で手を振る花梨の耳に、不機嫌そうな快斗の声がイヤホン越しに届いた。

 

 雅美の希望で、花梨は“ひとりで来た”ことになっている。

 だが実際には、命の危険を考慮して、少し離れた場所で快斗と権堂が控えていた。

 

 快斗はホテルマンに変装。権堂は……スーツ姿のボディーガード――いつもの格好だ。

 

 

(……いやいや、約束はしてなかったはずなんだけどなぁ?)

 

 

 そう、花梨は今日、快斗と約束はしていない。

 ただ、快斗が朝から居座っていただけだ。

 本来なら今日はひとりで、家で本を読みながら大人しく過ごすつもりでいたのだから。

 

 買い出しは昨日近所で済ませたし、自分が家で大人しく過ごしていれば、命を狙われる心配はない。

 たまには一人になりたいし……と思っていたが、呼び出されてそうもいかなくなった。

 

 恐らく快斗は心配でついて来たのだ。

 快斗の休日を奪ってしまって申し訳ないと花梨は思っていたが、当の本人は、実は“花梨と過ごせて満足”していたりする。

 

 

「花梨姉ちゃん、こんにちは!」

 

「あ、コナンくん、こんにちは~!」

 

 

 満面の笑みで挨拶するコナン……。

 花梨に会えてうれしい気持ちが、隠しきれていない。

 

 けれど、花梨はそんなこと知らない。

 

 

 ――新ちゃん、小学一年生が板についてきたね……あざとかわいいよっ!

 

 

 花梨も負けじと笑顔で応じる。

 小さな新一は、本当に可愛かった。

 

 

「ケガ、大丈夫? って、薬指どうしたの?」

 

「あ、これ? ちょっとね。ふふふ♡ ケガはすっかりよくなったよ。心配してくれてありがとう♡」

 

「う、うん……」

 

 

 今日の花梨は、ふんわりとしたお嬢様風のガーリーワンピース姿。

 首にはチョーカーをつけていて、その下には木曜にできた傷を隠す絆創膏が貼ってある。

 もうほとんど傷は塞がっているが、念のためだ。

 

 薬指に絆創膏が貼ってあるのは、快斗に齧られた分――。

 何度か齧られ、輪っかのような痕が付いてしまった。

 

 齧られる度「痛い」と訴えたが、快斗は指に輪っかを描き終わるまで止めてくれず……。

 指に輪っかが刻まれると満足そうにやっと花梨を解放した。

 痛いし、恥ずかしいから絆創膏を貼ってある。

 

 ……心配してくれたことが嬉しくて、花梨がしゃがんでお礼を言うと、コナンの頬がほんのりと赤く色づく。

 

 

「ふふっ、コナン君てば、赤くなっちゃっても~」

 

「えっ……ホントだ! 大変っ、熱でもあるの!?」

 

 

 茶化すように蘭が笑い、花梨はコナンの赤くなった顔に気づいて、小さな額にそっと手を当てた。

 

 

「ちょっ!?(花梨っ!?)」

 

 

 間近に迫った花梨から、ふわっと甘い匂いがして、コナンの顔がぼっと一気に火が点いたように真っ赤に染まった。

 

 

「えっ、やだ~、花梨ちゃん違うよ~! コナン君は花梨ちゃんのことが――」

 

「ら、蘭姉ちゃんっ! もう時間だよっ!!」

 

 

 蘭に何かを言わせる前に、コナンは花梨の手をそっと払い、“約束の時間”だと話題を変えた。

 

 

「……そうだったね~?」

 

 

 急にムキになったコナンに、蘭はにこにこしながら同意し、それ以上は言わずにおく。

 

 

「時間……あ、そうだ、雅美さんは……?」

 

「うん、雅美さんね、部屋で花梨ちゃんが来るのを待ってるの。一人で来てほしいって言うんだけど……大丈夫?」

 

 

 蘭によれば、雅美はホテルの一室を借りていて、そこで一人きりで待っているらしい。

 しかも、花梨に“ひとりで来てほしい”と希望しているという。

 

 

(……なぜ?)

 

 

 不可解な点はある。

 けれど――雅美が刺客ではないことは、花梨にはわかっていた。

 彼女の“未来”を視たとき、花梨の親戚との接点はなかったからだ。

 

 ならば、会っても問題ないだろう。

 

 

「うん、大丈夫だよ~。何階かな?」

 

 

 イヤホンからは、すかさず『一人で行くなっつーの!』とのお叱りの声――。

 

 

 ――うん、快斗の言いたいことはわかってるよ、でもね。

 

 

 雅美が何を考えているのかはわからないが、求められれば応じたい。

 来月には自分も“虹の橋(にじのはし)”を渡る身なのだ。

 せめて、できるだけの善行を積んでおきたい。

 

 

「部屋まで案内するね。行こっ♪」

 

「あっ、蘭ちゃん!?」

 

 

 突然、蘭が花梨の手をぎゅっとつかみ、そのまま駆け出す。

 

 背後からはコナンの「蘭姉ちゃん!?」という驚いた声。

 イヤホン越しには、快斗の「花梨っ!」という焦った叫び。

 そして柱の影から、権堂も急いで二人の後を追いかけてきた。

 

 

「はあっ、はあっ……花梨ちゃん、今日の格好すっごく可愛い! 今度一緒にお洋服買いに行こ? お揃いコーデしたいな。二人きりでデートしよっ!」

 

「はあっ、はあ……えっ……で、デート?(ふたりきり?)」

 

 

 エレベーターホールに着いたところで、蘭は手を握ったまま、まっすぐ花梨を見て言った。

 その手はぎゅっ、ぎゅっと嬉しそうに力がこもっていて、まるで本当に楽しみにしているかのようで。

 

 

「うんっ♪ だって、いっつもコナンくんとか園子とかいるでしょ? だから、保育園の頃みたいに、二人きりで過ごしたくて」

 

 

(……なるほど。新ちゃんの前じゃ言いにくくて、わざわざ連れ出したのね)

 

 

 蘭は今、かつての“葵”を見ているかのような、まるで、ずっと探していた宝物をようやく見つけたような――そんな光を宿した瞳で花梨を見ていた。

 あの頃の記憶を重ねているのだろう。

 

 

「ら、蘭ちゃん……。でも私、女で……」

 

 

 ……もう、男の子のフリはできないよ?

 

 蘭の我儘を聞いてあげたいが、彼女よりも小さい背に、長い髪、ふくよかな胸のふくらみと、細い腰。

 あの頃のように、少年になるにはすっかり難しい身体になってしまっている。

 

 快斗に頼めば変装くらいはできるかもしれないけれど……と、少し考えてはみるものの、蘭は――。

 

 

「えへへ♡ ダメ?」

 

 

 照れくさそうに笑う蘭の瞳は、性別なんてどうでもいい――今の花梨とデートがしたい、そう語っていた。

 一度握ったその手を、二度と離したくないとでも言うように、強く――どこか必死に握りしめてくる。

 

 

「ううん、お誘いはうれしいよ。でも……」

 

「あっ、彼氏さんが怒る? 女同士だから怒らないよね?」

 

「へ? あ、うん……たぶん大丈夫だと思うけど……、ね?」

 

 

 花梨がぽつりと「ね?」と呟いたその直後、イヤホンからは『うーん……』と、快斗の微妙な声が返ってきた。

 

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