白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
広田雅美を訪ねた花梨は、蘭から熱烈なデートの誘いを受ける。しかし「来月」の不在を予感する花梨は胸を痛め、返事を保留。護衛として潜入したホテルマン姿の快斗に励まされつつ、一人、雅美の待つ密室へ向かった。

第134話
蘭と快斗に見守られ、花梨は雅美のもとへ再び足を運ぶ――。
蘭ちゃん探偵になるの回。


134:蘭、部屋の隅々まで拝見!

 

 

 

 

 一方で部屋の中を確認する蘭たちは――。

 

 

「見ていただいても構いませんが、わ、私以外、誰もいませんよ?」

 

 

 おどおどした様子で、雅美は蘭たちを部屋の奥へと案内する。

 

 

「そうみたいですね~。わ~、いい眺め~! このお部屋、周りを一望できるって評判の絶景ルームですよねっ!」

 

 

 蘭は窓から見える景色に瞳を輝かせた。

 

 ……部屋は10階のツインルーム。

 12階のスイートルーム階の二つ下だが、手頃な料金で絶景が楽しめると評判で、カップルに人気なのだと、先日テレビの特集で取り上げられている。

 

 “ちょっと興味あったんだよね……”と、目の前の眺めに蘭はしばし見惚れた。

 

 

「蘭姉ちゃん!」

 

「あ、えへへ。そうだったね」

 

 

 怒ったようなコナンの声。

 ベッドの下を覗いて、誰かがいないか確認していたコナンが蘭を呼び戻す。

 注意された蘭も目的を思い出し、部屋の確認を再開した。

 

 

「誰もいませんね……」

 

「だ、だからいないって……言いました……」

 

「ふむ……、ちょっと失礼しますね」

 

「あっ、そっちは……!」

 

 

 今日の蘭は、まるで探偵気取りだ。

 そんな彼女は部屋を一通り見終えて、“失礼しますね”と言いながら、バスルームへと入って行く。

 

 

「あら」

 

 

 ガチャッとバスルームのドアを開けると、よくある三点式ユニットバス。

 ただし中は使用直後なのか、鏡は曇り、空気も湿っている。

 シャワーカーテンが広げられていて、浴槽内が見えなかった。

 

 

「すみません……。さっきまでシャワーを浴びていたので……」

 

「そ、そうだったんですか。すみません、プライベートを覗き見しちゃって」

 

「いえ……」

 

 

 そういえば、雅美からシャンプーの香りがしていたな……と、コナンはそのときになってようやく気づき、蘭が頭を下げる横で一人、赤面した。

 

 

「でも一応」

 

「あっ」

 

 

 花梨の心配しかしてないのだろう、今日の蘭はいつもよりも強引だ。

 シャッ! とシャワーカーテンを勢いよく開いて中もしっかり確認。

 ……やはり誰もいなかった。

 

 

「よかった~」

 

「……」

 

 

 雅美は恥ずかしいのか顔を手で覆ってしまう。

 「誰もいないって言ったのに……」とぽつり。小さな呟きが聞こえた。

 

 

「部屋の中を見せてくださって、ありがとうございました」

 

「いえ……」

 

 

 部屋の確認が済み、蘭は深々と頭を下げる。

 

 

「そういえば、あの後、お父さんとはどうでしたか?」

 

 

 頭を上げた蘭が、昨日の雅美の父親について尋ねた。

 

 小五郎が依頼を受けて捜索した、雅美の父・【広田健三】。

 余程気になるのか、雅美はその後も何度も探偵事務所に電話をかけ、進捗を確認していた。

 小五郎はあちこちで聞き込みを行ったが、なかなか彼の行方は掴めなかった。

 

 ところが昨日、事態は一変する。

 

 

『広田さんは、競馬好きだったのよ!! だから、自分の猫に馬の名前をつけたのよ!!』

 

 

 探偵事務所で、テレビの競馬中継を目にした蘭が言った。

 

 ……健三は猫好きで、飼っている四匹の猫の名前は【カイ】【テイ】【ゴウ】【オウ】。

 彼は猫と暮らしていたらしい。

 

 コナンがノートに猫の名前を書き出し、並び替えると、競走馬【ゴウカイテイオウ】の名前が現れたのだ。

 「まさかな……」とコナンは思ったわけだが、それを見た蘭のひらめきにより競馬場へ捜しに行ったところ、彼を発見。

 

 尾行して住所を突き止め、すぐさま雅美を呼び出し、父娘の再会を叶えた。

 

 

「あっ、はい。部屋がちょっと汚かったので、片付けてお茶をしました」

 

「ふふっ、せっかく会えたのに、親子水入らずの時間が短くてよかったんですか?」

 

 

 ――雅美さんのお父さんも、私のお父さんみたく、だらしないのかしら?

 

 

 積もる話がたくさんあるはずなのに、父親と再会したわずか二時間後に、また探偵事務所を訪れた雅美を思い出し――蘭は首をかしげた。

 

 

「はい、花梨さんとお会いしたくて……」

 

「……わかります。その気持ち……花梨ちゃんと会うと気分が良くなりますよね」

 

 

 頬をぽっと染める雅美に、蘭も胸に手を当て、口角をそっと上げて目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日――。

 探偵事務所を訪れた雅美は、必死な様子だった。

 

 

「どうか! どうか、あの時のお嬢さんに会わせて下さい!! お願いします!!」

 

 

 小五郎が留守のため蘭が対応したわけだが、ドアを開けた瞬間、雅美は膝を床につけて土下座をした。

 

 

「え……あ、あの時のってもしかして、花梨ちゃんのこと……? 髪が白くて瞳が綺麗な……? あっ、立って下さい。どうして土下座なんか……」

 

 

 雅美のあまりの様子に、蘭はやや引き気味になりながらも、彼女の土下座を慌てて止める。

 

 

「花梨さんて仰るんですね! はい! 彼女です! 明日、二人きりで会わせて頂けませんか!?」

 

「えっ、明日って、急過ぎません……?」

 

 

 花梨の名前が出ると、蘭に支えられ立ち上がった雅美の瞳が、光を宿すように輝いた。

 

 だが、いくらなんでも“明日会いたい”は急すぎる。

 花梨にも都合があるはずだ。

 

 

 ――私だって会いたいけど、木曜にも会ったばっかで、頻繁過ぎて引かれないかな……。

 

 

 本当は、毎日でも会えたら嬉しい。

 

 学校が同じだったら。クラスが同じだったら。

 毎日でも会えるのに――。

 

 けれど、蘭は帝丹高校。

 花梨は江古田高校。

 

 今では住む場所も違い、距離もある。

 だからこそ、誘うタイミングを見計らっているわけで……しつこいと思われたくない。

 花梨に嫌われたくない――それが蘭の本音だった。

 

 そんな蘭の躊躇いをよそに、雅美は深く頭を下げる。

 

 

「お願いします!」

 

「っ、困ったな……。じゃ、じゃあ連絡取るだけ取ってみますね。花梨ちゃんの都合が合わなかったら、諦めて下さいね?」

 

「……はいっ! どうしてもお会いしたいので、なにとぞよろしくお願いします!」

 

「えぇ……? でも、花梨ちゃんの都合が……」

 

 

 “無理だったら諦めて”と念を押したというのに、雅美は蘭の手を振り解き、またしても土下座。

 事務所では、ソファに座っていたコナンが、何事かと目を丸くして二人を見つめていた。

 

 ……そうして蘭は花梨にメッセージを送り、花梨が了承。

 

 

(やった~♡ 明日も花梨ちゃんに会える~~♡♡)

 

 

 連絡には“雅美”を強調しておいたから、きっと引かれることはない。

 毎日でも会いたい彼女に、すぐまた会えるなんて――夢みたい!

 

 

「明日、なに着て行こう……♡ 花梨ちゃんと写真撮らなきゃ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、そんなことがあり、今日の再会の運びとなったわけで。

 内心ウキウキだった蘭の今日の服装は、実はかなり気合が入っていたりする。

 

 

(うわぁ~~……♡ 花梨ちゃん、今日もめちゃくちゃカワイイ~~♡♡)

 

 

 花梨がロビーに現れた時、蘭はすぐに気がついた。

 確かに彼女は、見た目が一般人とは少し異なる。けれど、人混みの中でもすぐに見つけられる――蘭には、そんな自信があった。

 

 

『花梨ちゃん! ここ、ここ!』

 

『蘭ちゃん!』

 

 

 蘭が手を振ると、気づいた花梨が弾けるような笑みを向けてくれて――。

 

 

『に、日曜なのに呼び出しちゃって……ごめんね~! 雅美さん、花梨ちゃんにどうしても会いたいって言ってて~……』

 

 

 その時、声が多少上擦ったのは花梨に見惚れていたからだ。

 ……その瞬間を思い出した蘭の頬が、雅美と同じようにぽっと赤く染まった。

 

 

「蘭姉ちゃん。……なんか浸ってるところ悪いけど、花梨姉ちゃんずっと待たせてるけど、いいの?」

 

 

 ジトーッと、コナンの視線が下から突き刺さる。

 その痛さに蘭はハッと目を開けた。

 

 

「ハッ!? そうだった! 雅美さん! 確認が終わりましたので、花梨ちゃんを呼んできますね!」

 

「はい! お願いします!」

 

 

 雅美も、ぼんやりと立ち尽くす蘭の姿に戸惑っていたようだが、“花梨”の名が出た瞬間、ぱっと目を輝かせた。

 

 

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