白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
部屋の安全を確認するため、探偵さながらに踏み込む蘭とコナン。実はこの再会、雅美(明美)が土下座してまで蘭に頼み込んだものだった。急に始まった「お部屋確認」に戸惑っていた雅美だが、「花梨」の名が出ると瞳を輝かせた。

第135話
蘭によるお部屋チェックが終わり…。
単独で乗り込む花梨さん。


135:静寂に響くノイズ

 

 

 

 

「お待たせ♡ 花梨ちゃん、雅美さんの部屋にどうぞ」

 

「あ、うん」

 

 

 部屋のチェックを終えた蘭とコナンが出てきて、入れ替わりに花梨が部屋に入る。

 

 事前の説明では、面会は三十分もかからない。

 お茶を飲みながら、少し付き合う程度でいいという話だった。

 

 

「お邪魔します……」

 

 

 パタンとドアが閉まると同時に、イヤホンからザザッと雑音が走る。

 

 

「花梨さん……!」

 

「あ、どうも、雅美……さん?」

 

 

 奥へ進むと、コーヒーテーブルでお茶の準備をしていた雅美が破顔して駆け寄ってきた。

 花梨は嬉しそうに近づいてくる彼女に小さく首を傾げ、にこっと微笑む。

 

 

「……やっぱり……」

 

「……へ?」

 

「花梨さんは――」

 

 

 花梨の顔を見つめながら、雅美が目を細める。

 そうして彼女が再び言葉を発しようとしたその時――。

 

 

『――、――りん!? 聞こ――!? ――が――くて――――えねえ……! ――か!?』

 

 

 快斗の声がイヤホン越しに微かに聞こえたが、電波が悪いのか音が途切れてしまっていた。

 

 不思議に思いつつも、話し始めた雅美からは敵意も警戒も感じられない。

 花梨は、彼女の話を真摯に聞き続けた。

 

 ……話は、十分もしないうちに終わりを迎える。

 

 

 ドンッ! ドンッ! ドンッドンッ!!

 

 

 不意に部屋のドアを激しく叩く音が響いた。

 

 

「誰か来たみたいですね」

 

「心配されてるんでしょうか……。大丈夫だと言ったんですけどね……」

 

 

 花梨は、雅美の淹れてくれたお茶を飲みながら、ドアの方に目を向ける。

 雅美も同じように視線をやった。

 

 

「ですよね。……ふふっ、過保護な人が多いみたい。ちょっと失礼しますね」

 

 

 ――ドアを叩いているのは、たぶん……。

 

 

 思い当たる人物がいた花梨は、雅美に一声かけてドアを開く。

 

 

「っ、お客様っ! お寛ぎのところ失礼いたします! 先ほど機械室で、この部屋のスプリンクラーに異常が確認されまして、点検させていただきたいのですが!」

 

 

(あ、やっぱり快斗!)

 

(あ……無事?)

 

 

 ドアの外には、脚立を肩に担いだホテルマン姿の快斗。

 その顔には、明らかな焦りが浮かんでいた。

 

 花梨の姿を見た瞬間、その張り詰めた表情がふっと緩み、笑顔になる。

 

 

「ふふっ、点検ですか? 私はこの部屋の人じゃないので、聞いてみますね」

 

「あ、はい……」

 

 

 ――無事で、よかったぁああああ……!!

 

 

 花梨はくるりと踵を返し、右手をそっと後ろに回して快斗の手を引いた。

 

 それに気づいた快斗も、そっと彼女の手を握り返す。

 そのぬくもりに、張り詰めていた心がほぐれていくような気がした。

 自然と快斗の口元にも、安堵の笑みがこぼれる。

 

 だがその瞬間、イヤホン越しに聞こえた『あの声』が頭をよぎり、快斗の思考がざわつき始める――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それは、花梨が雅美の部屋に入った直後のことだった。

 

 

 ザザッ。

 

 

「ん……? ノイズ……?」

 

 

 それまでクリアに聞こえていたイヤホンから、急にノイズが混じり始めた。

 リネン室で控えていた快斗は、眉をひそめる。

 

 ……このノイズ音――聞き覚えがある。

 

 

「はは……まさか、な……?」

 

 

 “ザザッ、ザザッ、ザザッ”と、定期的に繰り返される雑音。

 これは妨害電波(ジャミング)だ――。

 キッドとして電波傍受をしていた時、同じようなノイズに妨害されたことがあった。

 

 ツーッと、冷や汗が頬を伝う。

 

 さっきチラッと見えた女性――広田雅美。

 おとなしく控えめな印象の彼女が、こんな妨害を仕掛けてくるなんて?

 

 

 ――ありえない。でも、偶然にしてはタイミングが良すぎる……。

 

 

「花梨!? おい、聞こえるか!?」

 

 

 花梨の動きでマイクにノイズが走っただけ……。

 そうであってほしいと願いながら、快斗はマイクに呼びかける。

 

 ……ノイズに混じってかすかに声が聞こえてくる。

 

 

『私も詳しいことは知らないのですが……ピッ、ザー――しが、――きる、――家の、――と言われて――い、ではない――か? ザザッ……』

 

 

 花梨の声は聞こえない。

 どうやら、黙って雅美の話を聞いているようだ。

 

 だが――本当に“話をしているだけ”なのか……?

 

 快斗は不安に駆られ、イヤホンを押さえる。

 

 

『――ろみ――ザァァ――ぇっ、――んな……ザザッ……』

 

 

 やがて、ノイズは一層強まり――。

 

 ザザッ、ザザッ、ザザッ、ザァーー……!

 

 完全に、音声が遮断された。

 

 

「花梨っ! おいっ、花梨っ!? 無事か!? 無事なのか!? ……って、こうしちゃいられねえっ!!」

 

 

 血の気が一気に引いた快斗は、すぐさま近くの脚立を抱え、リネン室を飛び出す。

 

 そして、花梨がいる部屋のドアを――勢いよく叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スプリンクラーの異常みたいです」

 

「まあ、そうですか」

 

 

 花梨が快斗を伴って戻ると、雅美は少し驚いた様子で目を見開いた。

 

 

「……点検してもよろしいでしょうか? お邪魔にはなりませんので、そのままお話を続けてください」

 

 

 部屋のコーヒーテーブルには、紅茶の入ったカップが二つ。

 どちらも、少し飲まれた形跡がある。

 

 

(出されたものを普通に飲むなんて、軽率だぞ、花梨……)

 

 

 そう思いながらも、彼女の様子に異常は見られない。

 落ち着いた様子で話をしていたみたいだ――と、快斗はひとまず安心する。

 

 快斗はスプリンクラーの真下に脚立を設置し、点検作業のフリを始めた。

 

 

「……では、花梨さん。そんな感じで進めます」

 

「はい、がんばってくださいね」

 

「はい……」

 

 

 雅美の声に、花梨が胸の前で両手を小さく握って応える。

 その顔は真剣で、どこか優しげだった。

 

 

(……なんの話をしてたんだ……?)

 

 

 快斗には内容こそ分からなかったが、花梨が雅美を励ましていたことだけは伝わってくる。

 

 

「では、私はこれで」

 

 

 どうやら、話はすでに終わっていたようだった。

 花梨は立ち上がり、席を離れる。

 

 

「花梨さん! 今日はありがとうございました。またいつかお会いできたら、その時はきっと――」

 

「……ふふ、私も……」

 

 

 雅美の言葉に、花梨がそっと手を差し出す。

 二人はしっかりと握手を交わし、花梨は静かに部屋を後にした。

 

 

「……確認できました。問題ないようです」

 

 

 快斗も脚立から降りると、雅美に一礼して部屋を出る。

 

 

 ――花梨が無事で、本当によかった。

 

 

 だが、雅美の言葉の真意も、電波妨害の目的も、いまだに掴めないままだった。

 

 

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