▽前回のあらすじ
華やかなケーキバイキング。蘭と花梨が女子会を楽しむ傍ら、ウェイターに変装した快斗が忍び寄る。彼は花梨の分だけ「愛情てんこ盛り」のチョコアイスを給仕し、彼女の笑顔を独占。その甘い光景を、コナンは複雑な想いで見つめていた。
第139話
チョコアイスおいしいよね!
◇
「あっ、蘭ちゃん、コナンくん、おかえり~!」
トレイを抱えて戻ってきた二人に、花梨はパッと明るい笑顔で手を振った。
その頬はほんのり桜色に染まり、目元はとろけそうなほど優しくほころんでいる。
彼女の前には、丁寧に盛りつけられたチョコアイス。
その見た目だけでもすでに美味しさが伝わる一皿を、ちょうど一口食べ終えたばかりだったらしい。
……蘭が笑顔で近づく。
「花梨ちゃん、すっごく幸せそう~♡ あ、アイスもあるのね! 私もあとで食べようっと!」
「うんっ、これね、すごく濃厚で……なのに甘すぎなくて、口どけもなめらかでね? 舌にふわって広がるの。ちょっとビターなとこがまたおいしくって……♪」
花梨は目を細めて、幸せそうにうっとりと微笑んだ。
その表情に、コナンの目が自然と吸い寄せられる。
(……ホント、こいつ……)
――幸せそうだ。
いや、幸せすぎる。
こんな風に心の底から美味しそうに、無邪気に笑ってアイスを食べる姿なんて――まるで、子どものような、でもどこか大人びていて、目が離せない……。
「……花梨姉ちゃんって、おいしいもん食べてる時、ほんと、幸せそうだよね……」
思わず、心の声が口から漏れていた。
そのくらい、無防備で、飾らなくて――可愛すぎる笑顔で。
花梨は「えへへ」と照れたように笑う。
「だって、本当においしいんだもん。ここのウェイターさんが『おすすめです』って持ってきてくれたんだよ。チョコアイス。自分じゃ気づかなかったかも」
「へぇ~、優しい人だね。そんなサービスしてくれるんだ?」
「うん。すごく自然な感じだったから、このバイキングを監修したお店のスタッフさんなのかな~って思って」
「……(あのウェイター……)」
ふと、コナンの中に引っかかる違和感がよぎった。
花梨の言っている“ウェイター”という男――さっき、トレイを持ってテーブルの間をさりげなく歩いていた男だろうか。
数時間前に見た、“スプリンクラーの点検”をしていたホテルマンとは、格好も声も違っていた。
けれど、なぜか気になって視線を追ってしまう。
そして、ウェイターの視線を追っていると、時々花梨の方をちらちらと見ているような気がした。
(……気のせい、か?)
――いや、違う。
確証はないけど、あの目の動き、距離感の取り方。
まるで、見守っているような、でもそれを気取らせないように振る舞ってる。
それは単なる店員の“気配り”というより……“個人的な関心”を感じる。
(……あいつ、花梨を狙ってるな。気に入らねえ……)
コナンの視線が鋭くなった。
まだ名前も知らない、正体もわからない。
でも、なぜか警戒したくなる男だ……。
(なんだろうな……どこかで見た気もするけど……)
視界の隅、すっと後方に下がっていったウェイターの背中を、コナンはしばらく見つめていた。
「コナンくん?」
「あ、ううん。なんでもない」
花梨が不思議そうに覗き込んでくるのに、慌てて視線を戻す。
……いけない、今はカフェタイムだ。
そう自分に言い聞かせて、コナンは空いていた椅子にちょこんと腰を下ろした。
だけど、頭の片隅では、すでに“仮説”が立ち始めていた。
(変装か……? まさかな。でも、あの仕草……何かが引っかかる……)
探偵の勘が、何かに触れ始めている――そんな予感だけを残して。
そのとき、不意に――
「はい、あーん♡」
「あ、あーん……、……っ!?」
――甘いっ……! ってそうじゃねえぇぇっ、また反射的に!!
スプーンにのせられたチョコアイスが花梨の手によって、コナンの口元へ……。
反射的にコナンは口を開け、美味しくいただいてしまった。
「ふふっ♡ コナン君てば、花梨ちゃんだとすぐ口開けちゃうんだから♡」
「ふふ、雛鳥みたいで可愛い~♡」
くすくすと蘭と花梨が嬉しそうに笑っている。
「か、花梨姉ちゃんっ!!」
――オレは雛じゃねえっ……!!
今まで花梨に餌づけされ続けたコナンに、彼女からの不意打ち“あーん”を避けることは無理らしい。
ぽっと頬が赤くなるが、花梨がそのスプーンでまたチョコアイスを食べ始めると――。
(スプーン……花梨がさっきまで使ってたやつじゃねーか……。これじゃ、実質、か、間接……キ、キス……!?)
“ボフッ!!”
脳内の温度が一気に沸点を超え、コナンは音を立てて知恵熱が出そうなほど赤くなった。
花梨の口が開いて、スプーンが運ばれていく。
チョコアイスが溶けて少し唇の端に垂れ、彼女はぺろっとそれを舐め取る。
「おいしい♡」――うっとり上機嫌で可愛く言うその姿。
それが艶っぽく見えて、コナンはごくりと息を呑んだ。
「あら、やだコナン君ってばどうしたの? 顔真っ赤。熱でもあるの?」
「な、なんでもない……」
――し、刺激が……強過ぎる……。
蘭がコナンの額に手を当てるが、コナンは恥ずかしくなって顔を俯けてしまった。
……その光景を、ドリンクカウンターの陰で、指が白くなるほどトレイを強く握りしめて見つめていた快斗。
「子どもだからって、あーんは駄目だぞ、花梨……」
ボソッと、誰にも聞こえない声で恨みがましく呟く。
花梨を喜ばせようと用意した渾身のアイスが、まさか目の前で他の男(※見た目は小学生・中身は高校生)の口に運ばれるなんて――。
快斗は、幸せそうに爆発しているコナンをジト目で見据え、内心で「あとで覚えとけよ、くそボウズ……」と、八つ当たりに近い宣戦布告を送り続けていた。