白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
バイキングを楽しみつつ、快斗と秘密の通信を続ける花梨。ロッカーの鍵に「爆弾」の可能性を懸念する快斗に対し、花梨は爆弾処理班の松田陣平を呼ぶことを提案。快斗は松田への激しい嫉妬に身を焦がしながらも、花梨の安全のために苦渋の決断を下す。

第142話
ミャウ、ワン!!


142:白猫の油断、黒犬の焦燥

 

 

 

 

「やっほー、かーりんちゃん♡」

 

 

 蘭と別れ、杯戸駅にコナンとともにやって来た花梨は、混み合う駅前で、片手を振る松田の姿に目を瞬かせた。

 

 

「えっ、陣平さん!? もう着いてたんですか!?(早くない!?)」

 

 

 ……事情を入力したメッセージを送り、詳細を電話で話したのが、たった五分前。

 快斗が“秒で来る”と言っていたが、まさかまさかの、そのまさかである。

 

 松田のもとへ小走りで駆けつけつつ、花梨はポシェットのショルダーストラップを両手で掴みながら深く頭を下げた。

 

 

「あ、松田さんだー」

 

 

 花梨の隣でコナンが失礼にも松田を指差す。

 人に指を差しちゃいけないことなんて、きっとコナンはわかっているだろう。

 注意されたくもないだろうし――と、余計なことは言わず、花梨はコナンを見下ろし微苦笑するだけ。

 

 

「お? コナンじゃん! 二人一緒か。なんだ、デートじゃねえのかよ」

 

「デートって……花梨姉ちゃんから事情、聞いてないの?」

 

「聞いた聞いた。俺、さっきまで杯戸ショッピングモールにいてさ。ちょうど帰ろうとしてたとこだったんだよ。ほら、花梨にこれをやろう」

 

「え? これ……?(温かい……? なに?)」

 

 

 花梨は松田からほいっと、手提げの紙袋を手渡される。

 小ぶりな紙袋は、手のひらにすっぽり収まるほどのサイズ。

 縦20センチ、横15センチ、マチは10センチほどで、ちょうど餃子のパックが入るくらいの大きさだ。

 

 袋を覗き込むと、中には焼きたての餃子がきちんと収まっていた。

 

 

「一口ギョーザ♪ なんか中華フェアやってて、うまそうだったから買ってきた。花梨ちゃんにお裾分け。晩飯にどーぞ?」

 

「わ~♪ ありがとう陣平さん! 晩ごはん助かっちゃう。うれしい♡」

 

「へへっ。素直なお前はかーいーなー! じゃあ、コインロッカーだっけ? 行くか?」

 

 

 花梨に手土産も渡したし……と、松田は早速用件に入る。

 彼女からの呼び出しメッセージには――。

 

 

 “杯戸駅のロッカーの鍵を見知らぬ人から貰いました。これから開けに行こうと思ってます。よかったら陣平さんも来ますか? 来ませんよね。忙しいですもんね! 来なくて大丈夫でーす♡”

 

 

 と、書かれていた。

 ……メッセージを受けた際、松田は往来の真っ只中にもかかわらず、大声を上げた。

 

 

『はぁ!? なんじゃそりゃー!(見知らぬ人から貰っただと……?)』

 

 

 今まで返信こそしてくれていたが、初めて花梨発のメッセージは誘っているのか、いないのか――。

 

 ……今日、松田は半休を取っている。

 午前中に三年前の事件について、再調査をして午後は直帰。

 ショッピングモールで昼飯を食べ、辺りをブラついていた。

 

 花梨への手土産を買い、帰るか――と、杯戸駅に向かっていた矢先のことだ。

 即、“もっと詳しく”と返信したが、既読はついたが返事はなかった。

 

 

『……し、ろっ、ねっ、こぉおおおおっっ!!』

 

 

 ――警戒心がなさすぎんだろっ……!!

 

 

 身辺警護人をつけているというのに、警戒心がまるでない花梨に松田は苛立ちを覚える。

 

 

(……あいつ、自分がどれだけ『美味そうな獲物』か自覚してねーのかよ……!)

 

 

 見知らぬ人間にもらったコインロッカーの鍵――。

 ロッカーに入っている物が安全な物の可能性の方が圧倒的に低い。

 

 青筋を立てながら、松田は花梨に電話をかけるべく、携帯番号をタップした。

 

 プルルルル……。

 プルルルル……。

 プルルルル……。

 

 

(……電話に出ろ、白猫)

 

 

 プルルルル……。

 プルルルル……。

 

 

(……出ろよ、花梨)

 

 

 プルルルル……。

 プルルルル……。

 

 

(頼むから……)

 

 

 プッ。

 長い呼び出し音の後、ようやく花梨と繋がる。

 

 

『……もしもし、陣平さん……?』

 

『やっ……花梨ちゃ~ん、何があったか、詳しく教えてくれるかな~? 陣平さん、心配になっちゃって~。……嬢ちゃん、命狙われてるの、わかってる?』

 

『あ、実は――』

 

 

 怒鳴らないように牙を潜め、松田(黒犬)は白猫……否、花梨の話をしっかり聞き取る。

 

 ホテルで突然呼び出されたこと、差出人不明の謎の封筒、そしてロッカーの鍵――すべてについてだ。

 もし爆弾が入っていたら対処できないから来て欲しいと思っていたが、無理には呼び出したくなくて……と花梨。

 

 そうだ、今日は日曜日だ……。

 

 

『……すぐ行くから待ってろ』

 

 

 ……そうして電話を切り、松田はやってきたというわけだ。

 花梨の顔を見た途端、ついほっこりして怒りは忘れた。

 

 

(──まったく、白猫は油断ばっかしやがって)

 

 

 そんなことを思いながら、松田は楽しそうに紙袋を覗く花梨を優しい目で見つめる。

 

 

「あ、もう一人来るんです」

 

 

 ロッカーへ向かおうとする松田を花梨は止めた。

 

 

「ん。あー……黒羽か?」

 

「あ、わかっちゃいますか?」

 

「あいつ、花梨の側に必ずいるからな~。はー……やっぱデートじゃねーんだな。せっかく花梨から初めて誘ってもらったっつーのに……」

 

 

 頭をくしゃくしゃと掻きながら、松田は辺りを見回す。

 人混みの中に快斗を探すがぱっと見、見当たらなかった。

 

 そんな時――。

 

 

「当たり前っすよ。松田サン!」

 

 

 にゅっと、松田の真後ろから快斗が突然姿を現した。

 

 

「おわっ!? お前っ、どっから出てきたんだよ!? 急に現れんじゃねえよ、びっくりすんだろ……(全く気配を感じなかったぞ……?)」

 

「へへっ、マジックすよ、マジック。オレ得意なんで♪」

 

 

 “いつの間に真後ろに立っていたんだ!?”と驚愕する松田に快斗はヘラヘラと笑みを浮かべて鼻の下を擦る。

 

 ……そんな快斗にコナンが近づいた。

 

 

「……黒羽」

 

「……よぉ、ボウズ。元気だったかー?」

 

 

 ――黒羽って呼び捨てすんな! ったく生意気なガキだな~。

 

 

 低い声で呼び捨てしてくるコナンに、じっと睨む様に見上げられて、快斗は笑顔で彼の頭を撫でる。

 

 ホテルで見ていたが、花梨とコナンは、歳の差はあれど仲の良い友達らしい。姉弟のように随分親しそうに見えた。

 花梨から聞いた話じゃ、今日一緒にいた、彼女の幼なじみの女の子の家に行ったとき、懐かれたのだとか――。

 

 ……確かに先週日曜も妙に距離が近かった。

 

 しかし、花梨はともかく、コナンの彼女を見る目は、とても姉を慕う目じゃなかったように思う。

 花梨を一人の女として見ているような……。

 

 ……内心面白くないが、快斗は得意のポーカーフェイスで応対。

 花梨が大事にしている子どもなら、丁寧に扱ってやらねば……。

 

 

「早かったね~、いつからいたの?」

 

 

 コナンは先ほど出した声とは違う、柔らかい声で快斗に尋ねた。

 

 

(花梨の彼氏か……面白くねえ……。なんでこいつを呼んだんだよ花梨……)

 

 

 ……花梨がホテルを出る直前、「快斗も呼ぶね」と言いだし「ダメだ」とは言えなかった。

 

 顔には笑みを浮かべ、心の中では悪態をつく。

 彼氏がいるのはわかっているが、いざ目の前に現れると、心が乱されてならない。

 

 

「ん? 今来たとこだよ。電車が混んでてさ~、やっと降りれたよ。遅れて悪ぃな」

 

「ふ~ん?」

 

 

(本当に今来たばかりなのか? 電車……今遅延して止まってるんだが?)

 

 

 快斗の言葉にコナンは疑いの目を向ける。

 ……黒羽の言っていることは嘘だ。コナンにはすぐにわかった。

 

 

「……快斗お兄ちゃん、今、強風で電車止まってるけど……本当に電車で来たの?」

 

 

 コナンは改札の電光掲示板を指差し、逃げ場のない正論を突きつけた。

 

 電光掲示板には『強風の影響により、現在車両点検を実施しております。列車に遅れが発生しております。お客様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご了承ください。』……と書かれている。

 

 快斗は一瞬だけ頬を引きつらせたが、すぐに完璧な笑みを貼り付ける。

 

 

「あ、いや……止まる直前のやつに滑り込みセーフだったんだよ。運が良かったな~♪」

 

「(……嘘つけ。ずっと後ろにいただろ。匂いが漏れてんぞ)」

 

 

 コナンの視線が、快斗を射抜いた。

 彼の身体から香るスイーツの甘い匂いに、コナンが気づかないわけがなかった。

 

 そもそも、電車遅延に関しては今知ったことじゃない。

 ホテルを出る前から知っていた情報を、あえてこのタイミングでぶつけたのだ。

 

 

(……名探偵を舐めるなよ、黒羽)

 

 

 コナンの瞳の奥に、子供らしからぬ冷徹な光が宿った。

 

 

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