白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
ロッカーの封筒には、盗撮された花梨の写真と不気味なメモが入っていた。戦慄を覚える花梨だが、機転を利かせて男たちの追及から逃れる。松田は異変を察して写真を一枚回収し、コナンは花梨のはぐらかしに敗北感と執着を募らせた。快斗の腕の中で一人秘密を抱え、花梨の心には暗い影が落ちていく。

第146話
ペロっとめくってみれば裏側…。


146:眩い笑顔の裏側

 

 

 

 

 次の日――。

 

 

「おはよー、花梨♡」

 

「おはよう、快斗。いいお天気だね」

 

 

 花梨がマンションのエントランスを出ると、快斗がいつものように朝陽に輝く爽やかな笑顔で待っている。

 ……いったい、いつから待っていたのだろうか。

 

 特に一緒に行こうと誘ったりはしていないが、いつの間にか、快斗は“お仕事”で学校を休まない限り、毎朝こうして迎えに来ていた。

 

 

「ん」

 

 

 快斗は手を差し出す。

 

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「いいからいいから」

 

 

 「鞄貸して」と、荷物まで持ってくれようとするため、花梨は申し訳なくて毎度断りを入れているが、快斗は軽やかに彼女の鞄を奪う。

 

 

「……重いのに……いつも、ありがとう」

 

「どーいたしまして!」

 

 

 花梨がお礼を言うと、空いた手が彼女の手を取った。

 手を繋いで登校することが増えたのは、クラスに花梨の真の姿がばれてから。

 

 教室に入るまで、周囲に見せつけるように堂々と歩くものだから、学校ではすっかり公認カップルになってしまった。

 

 ……今日は晴天。

 ここのところ、晴れが続いていて気持ちの良い朝だ。

 

 

「ん、あれ? どした?」

 

 

 学校に向かい始めた二人だが、快斗はふと足を止めた。

 

 

「ん?」

 

「花梨、昨日泣いた? 目、腫れてない?」

 

 

 繋いでいた手を放し、快斗の人差し指が花梨の顎を捉えて上向かせると、覗き込む。

 今日の彼女の目は泣いたのかどうか――、少し腫れぼったい。

 

 

「えっ!? あ~……夜、ちょっと感動する映画観ちゃって……」

 

 

 えへへ……と、微笑んだ花梨は目を擦った。

 

 ……その声が、いつもよりわずかに掠れている。

 快斗の親指は、彼女の頬に触れる寸前で止まった。

 

 

「……へえ、どんな?」

 

「へっ? ど、どんなって……ンー……。あはっ、タイトル長くて忘れちゃった♡」

 

 

 快斗に突っ込まれ、花梨は顎に人差し指を当て視線を彷徨わせる。

 ど忘れしてしまったと笑顔を見せた。

 

 ……白い睫毛が上下に揺れ、朝陽がその金の瞳をきらめかせる。

 

 

(は~。花梨は今日も綺麗だなぁ~♡)

 

 

 感動した映画のタイトルを忘れるとは……まあ、花梨ならありうるか――と快斗は妙に納得しつつ、今日も眩い彼女を見下ろした。

 

 

「なーんだ。オレも観てみようと思ったのに」

 

「思い出したら教えるよ」

 

「ああ、よろしく~。じゃあ、行くか♡」

 

「ぁ……うん……」

 

 

 快斗が改めて差し出した手に、花梨は一瞬躊躇する。けれど、そっと手を取った。

 

 

「花梨……?」

 

「ん?」

 

「いや……なんでもねえ……」

 

 

 花梨の態度が何か引っかかる。

 昨日の写真が気になっているのかもしれない。

 

 快斗の胸に、少しだけ不安がよぎった。

 

 ……花梨は胸の奥のざらつきをそっと押し込めるように微笑む。

 

 

「ね、快斗」

 

「ン~?」

 

「……金曜、楽しみだね」

 

 

 朝の冷たく澄んだ空気を吸いながら、住宅街を歩く。

 話題は今週金曜の旅行のこと――。

 

 

「だなっ♡ まあ、お邪魔虫の青子もいるけど♪」

 

「青子ちゃんがいるの、うれしいよ?」

 

「え、そうなのか!?」

 

「うんうん。青子ちゃん大好き♡」

 

 

 ……そもそも、ロイヤル・エクスプレスの切符を頼んでくれたのは青子である。

 快斗の態度は失礼過ぎやしないだろうか――。

 

 花梨は快斗との列車旅行も楽しみだが、青子と一緒だということが嬉しくて仕方ない。

 青子、彼女は高一の時から花梨によくしてくれる大好きな女友達である。

 彼女が一緒なら、最期に楽しい思い出作りができそうだ。

 

 

「……はあ、なんかがっかり。絶対オレと二人きりの方がいいじゃん。けどあれだな、オレずっとそばにいらんねーし、青子がいた方が安心か……」

 

 

 嬉しそうに花梨が話すためか、快斗はガクッと肩を落とす。

 

 だが、今回はキッドの仕事も兼ねているからしょうがない。

 信用の置ける青子がそばにいてくれれば、それはそれで安心というもの。

 

 きっと権堂もついてくるだろうし――花梨の守りは問題なしだ。

 

 ……チラッと背後を窺うと、柱の影から権堂がサムズアップでこちらを見ていた。

 

 

「ふふふ♡」

 

「金曜は、あんま相手してあげられないと思うけどごめんな? 大阪着いたら埋め合わせすっから」

 

 

 にこにこと微笑んでいる花梨へ、快斗は軽く頭を下げる。

 

 この埋め合わせは大阪で……。

 せっかく大阪に行くのだから、一泊して帰ってくればいい。

 

 花梨は大阪に住んでいたこともあると聞いているから、観光――は、あまり興味がないかもしれないが、その土地を離れてから観光客として訪れると、また違った魅力も見えてくるはず。

 

 当日は夕方出発だから、大阪に着いたらすぐにホテルに向かう予定だ。

 高校生という手前、部屋は別々に取ったが、一泊した翌日は土曜――。

 

 ……大阪まで、暗殺者が現れるかは定かではない。

 

 そもそも今回、快斗は花梨と離れたくなくて彼女を連れていく。

 トロピカルランドでは、危険な目に遭わせてしまっているから、警戒は怠らず、彼女が行きたそうな場所に連れていってやりたいと思っている。

 

 

「んーん。いいよ~、怪我に気をつけて、お仕事頑張ってね」

 

「花梨ちゃん……♡ 花梨が応援してくれるから、オレ、がんばっちゃう♡」

 

 

 花梨から、ふんわり柔らかい優しい笑顔が返ってきて、快斗の表情はデレデレと――緩みに緩んだ。

 

 花梨が笑えば、それだけで世界が明るくなる気がする。

 ……その笑顔を疑うことが怖かった。

 

 だからこそ――その奥に、何が隠れているのかを、快斗は怖くて訊けなかった。

 

 

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