白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
昼休み、屋上で手作り弁当を囲む快斗と花梨。穏やかな陽だまりの中、花梨は笑顔の裏に昨日の影を残しつつ、快斗に不器用な愛を注ぐ。違和感を抱きつつも膝枕で眠る快斗に、花梨は日よけとなるよう、翼のような影を落とした。

第148話
新ちゃん……。


148:午後、探偵は確かめに来た

 

 

 

 

「じゃあ明日ね~、花梨ちゃ~ん♡」

 

「またね~!」

 

 

 放課後になり、今日快斗は寺井の元へ行くため、花梨は青子たちと帰ることにした。

 ……青子と恵子が、手を振りながら去っていく。

 

 

「うん、また明日……」

 

 

 花梨が笑顔で手を振ると、青子は名残惜しそうに後ろ向きのまま歩いていた。

 そんな青子に、恵子が「青子、前見なさい、前っ!!」と注意すると、「うわぁっ!?」小石につまずき転びそうになる。

 

 

「あぁっ……! 青子ちゃん!?」

 

「だいじょぶだいじょぶ♡ ばいばーい!」

 

 

 驚いて駆けつけそうになった花梨だったが、青子は恵子に支えられ、転ばずに済んだ。

 そうして二人は「なにやってんのよ」「ごめんごめん。ギリギリまで花梨ちゃんを見ていたくて♡」なんて言い合いながら、そのうち角を曲がり、見えなくなった。

 

 

「……」

 

 

 花梨は二人の姿が見えなくなると、辺りを見回す。

 ……権堂の姿は少し離れたところにあるが、それ以外に人影はなかった。

 

 

「帰ろ……」

 

 

 青子たちと別れた場所から、自宅マンションまではそう遠くない。

 少し歩けば、近所の公園が見えてくる。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ――考えてもしょうがない……よね。

 

 

 昨日のことを思い出すたび、胸の奥が重くなり、深いため息がこぼれた。

 とぼとぼと歩き、公園に差し掛かると、子どもたちの騒ぐ声が聞こえる。

 

 

「だーかーらー、なんでオメーらまでついてくんだよ。オレの友達に会いに行くだけだって、言ったじゃねーか!」

 

 

 小学生一年生くらいの、小さな黒髪の男の子の声――聞いたことのある声だ。

 花梨は公園に目を向けた。

 

 すると公園では、四人の子どもたちが学校帰りの寄り道か、ランドセルを背負ったまま何やら話をしている。

 

 

(あれ? この声……?)

 

 

 その声を聞いた瞬間、胸の奥がひゅっと掴まれた。

 ……十二年前と変わらない、懐かしい声。

 

 声の主は、公園の入口に背を向けていて、誰かはわからない。

 でも、よく知っている気がする。

 

 

「そんなこと言ったって。この間も一人で行ってしまって、事件に遭遇したじゃありませんか!」

 

 

 黒髪の男の子の向かい側で、そばかすの利発そうな男の子が、キラキラと瞳を輝かせた。

 

 

「そうだよ、みんなで行った方が安心だよ!」

 

 

 そばかすの男の子の隣で、カチューシャをしたボブカットの可愛い女の子が同意する。

 

 

「そーだぞ。昨日ケーキ食べ放題に行ったんだろ? 今日は菓子食べ放題で事件に遭うかもしれねーじゃねーか」

 

 

 三角おにぎりを連想させる特徴的な頭の、ぽっちゃり体型の少年は「菓~子、菓~子」とワクワクしている様子。

 

 その少年たちに、なんとなくだが、花梨は見覚えがある気がした。

 

 

「ったく、菓子食べ放題ってなんだよ……って、あ」

 

 

 ふいに黒髪の少年が振り返り、花梨と目が合った。

 

 

「っ……やっぱり新ちゃん……」

 

 

 ぼそっと小さく呟くと、少年――コナンが駆け寄ってくる。

 

 

「花梨姉ちゃん……!」

 

「コナンくん……昨日ぶり」

 

 

 声をかけられた花梨は、すぐに笑顔を取り繕い、手を軽く振った。

 

 

「いま帰り? ボク、いま花梨姉ちゃん家に行こうとしてたんだ」

 

「……」

 

 

 ――うん、来るかな~と思ってたよ……。

 

 

 ジッと見上げてくるコナンを、花梨は見つめ返す。

 花梨が黙っていると、コナンも黙り込み、互いの腹を探るように見つめ合った。

 

 ……そんな二人の元へ、コナンの友達と思しき少年たち三人が駆けてくる。

 

 

「コナンくん待ってよ~……! あ~~! あの時のお姫さまだ~!」

 

 

 やって来た三人のうち、カチューシャの女の子が花梨を指差し、ぽっと頬を赤くして瞳を輝かせた。

 

 

「え? あ。本当だ! お化け屋敷の綺麗なお姉さん……!」

 

 

 追いついたそばかすの少年も、花梨をまじまじと見る。

 思い出したのか、彼もまた、ほんのり頬を赤く染めた。

 

 

「おー……! トロピカルランドの怖がり姉ちゃん……!」

 

 

 三角頭の少年が最後にやって来て、花梨を前に頬を赤くする。

 

 ……三人はもじもじと身体を揺らした。

 

 

「オ、オメーら、花梨――姉ちゃんを、知ってるのか……?」

 

 

(なんで三人とも顔赤くしてんだ? 照れてんのか? 緊張してんのか? ……どっちだ!?)

 

 

 確かに花梨は可愛いけれど――と、彼女を見慣れているコナンは、花梨が微笑まなければ緊張したりしない。

 初めて花梨と対面した人間は、大抵こういう反応をするのだと思い出した。

 

 

「えと……お姉さん、アイドルでしょ? 歩美、こんな綺麗な人、テレビでしか見たことないもん。ね、光彦君もそう思うでしょ?」

 

「え、ええ。前回はすれ違っただけだったので、お話はできませんでしたが、サインいただいてもいいですか? ……元太君は、どうされますか?」

 

「もっち、オレもオレも!!」

 

 

 ……コナンの問いには誰も答えなかった。

 

 カチューシャの女の子は、【歩美】という名前らしい。

 【光彦】と呼ばれたのは、そばかすの男の子。

 三角頭の子は【元太】。

 

 三人に囲まれ、花梨は目を瞬かせた。

 

 

「えと……あのね。私、アイドルじゃないんだ~。だからサインはごめんね」

 

「そうなの!? じゃあやっぱりお姫さま!? お姫さまでもいいよ! いまノート出すから、お姉さんのサインほしい!」

 

「お姫さまって……」

 

 

 歩美がランドセルから、自由帳と筆箱を取り出すものだから、花梨は困って頬を掻く。

 

 

「歩美ちゃん、花梨姉ちゃんとどっかで会ったことがあったの?」

 

 

 ひとり置いてけぼりのコナンは、再度歩美に尋ねた。

 

 

「うん。歩美ね、前にトロピカルランドに行ったとき、お化け屋敷の前で、このお姉さんとすれ違ったの。そういえば、王子さま、今日はいないんだね?」

 

「王子さまって……あ、(快斗のことかな……?)」

 

 

 ――そっか、この子たち……トロピカルランドで会った……。

 

 

 花梨は思い出して、自然に笑みを浮かべた。

 

 快斗と行った遊園地。

 トロピカルランドのお化け屋敷前で、この三人に会った気がする。

 

 あの時花梨は、腰を抜かして歩けず、快斗に抱きかかえられてお化け屋敷を出た。

 出た先で、通り掛かったこの三人に笑われたような……。

 

 思い出した花梨は、柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

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