白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
コナンの追及をかわすように、少年探偵団の子供たちと打ち解ける花梨。元太の空腹に、かつての自分を重ねた彼女はファミレスへと誘う。完璧な笑顔と気遣いで主導権を握る花梨に、コナンは焦燥を募らせていく。

第150話
彼女の笑顔に気を取られて。


150:Distracted by Her Smile

 

 

 

 

 公園近くのファミレスは、まだ夕暮れ前とあって、そこまで混雑はしていない。

 花梨は子どもたちを席に着かせ、連絡先を教えてもらい、彼らがメニューを見ている間に、それぞれの家へと連絡を入れてくると席を立った。

 

 

「うん、そうみたい。なんかみんなで来ちゃってて。うん……」

 

 

 店の外に出て、歩美、光彦、元太……と連絡が済み、最後はコナン――。

 ……通話相手は蘭だ。

 

 

『昨日帰って来たときも、コナン君、ずっと考え事してたのよ。あれ、花梨ちゃんのこと考えてたんだと思うのよね~。また一緒に、ケーキバイキング行きたいのよきっと。また行こうね!』

 

 

 優しい蘭の声に、花梨の声も明るくなる。

 

 

「ふふっ、そうだね~、また一緒に行けたらいいね。それじゃあ……」

 

 

 ピッ。と通話終了ボタンをタップし、通話を終えた。

 

 

「ふぅ……。これで連絡はオッケーだね」

 

「花梨」

 

「ん……? あ、コナンくん」

 

 

 ふいに背後から声をかけられ、花梨が振り向くとコナンがいる。

 抜け出して後を追って来たのだろう。

 

 

「あの、さ――」

 

 

 今なら二人きりだ。昨日の話を聞ける。

 そう思ったコナンが口を開いたその時――。

 

 ……店の扉が開いた。

 

 

「花梨お姉さん! 注文してもいい!? 歩美、いちごのスペシャルパフェがいいなって思って! 元太君はステーキセットだって! あ! コナン君、こんなところにいた! トイレに行ったんじゃなかったの!?」

 

 

 扉の奥から歩美が呼びに来た様子で、ひょっこり顔を出す。

 「早く早く!」と席に戻るよう促してきた。

 

 

「あ。うん! もちろん。私も今行くね!」

 

「早くね……!」

 

 

 花梨の返事を聞いて、歩美が店に戻って行く。

 

 

「コナンくんも、行こ?」

 

「っ、ああ……(くそっ……タイミングが……!)」

 

 

 ……話をするタイミングが掴めない。

 笑顔の花梨に手を差し出され、コナンは眉を寄せながらその手を取った。

 

 花梨とコナンが席に戻ると、メニュー端末を操作する歩美たち。

 元太が「これとこれもつけていいか?」なんて、光彦に訊いている。

 

 メニュー端末を覗き込む三人に花梨は声をかけた。

 

 

「決まったかな?」

 

「あ、花梨さん。すみません。元太君がいろいろ注文してしまったみたいで……」

 

 

 元太の注文の多さに恐縮しているのか、光彦が恥ずかしそうに頭を下げる。

 

 

「ふふっ、好きなもの注文していいよ。お腹いっぱい食べて帰ってね」

 

「天使!! 姉ちゃん天使だな!! エビフライもつけていいか!?」

 

「ふふふっ♡ いいよ~」

 

 

 子どもにはお腹いっぱい食べて欲しい――。花梨はそう願って、元太が嬉しそうにトッピング追加ボタンを押すのを見つめた。

 

 

「じゃあ、みんなドリンクバーを付けて……。コナンくんはどうする?」

 

「ボクはドリンクバーだけでいい」

 

「そ? じゃあ私と一緒にポテトでも食べよっか♪」

 

「っ……う、うん……」

 

 

 花梨に笑顔を向けられたコナンの頬が、赤く染まる。

 

 

(不意打ちで笑顔向けてくんじゃねーよ……)

 

 

 眩しいくらいの、ふんわり優しい花梨の笑顔。

 彼女の笑顔を見ると、コナンはいつも胸の奥がきゅっと掴まれた気がしてならない。

 

 諦めたいというのに――。

 

 ……メニュー端末に全員分のドリンクバーと、皆でシェアできる山盛りポテトを追加し、注文を終えた。

 

 

「わーい。楽しみ~♪ 期間限定いちごスペシャルパフェだって~! 花梨お姉さんありがとうっ♡」

 

「「ありがとうございまーす!」」

 

 

 歩美がニコニコとお礼を告げると、光彦と元太の明るい声がハモった。

 

 

「ふふふっ♡ どういたしまして。みんな、ドリンクバーに行っておいで?」

 

 

 注文した品がくるまで、ドリンクバーを楽しもう――ということで、花梨は子どもたちに勧める。

 

 

「おう、そうだったな! 行って来る! 歩美、光彦、コナン、行くぞ!」

 

「はーい!」

 

「あっ、はい。元太君、待って下さーい!」

 

 

 元太、歩美、光彦の三人は、さっさとドリンクバーに行ってしまった。

 

 

「コナンくんは行かなくていいの?」

 

「……これ、オレの会計……」

 

「ん? いいよいいよ。ここは私にまかせて! ほら私、お金持ちだし!」

 

「けどっ、だな……」

 

 

 席に残ったコナンは、自分の分のドリンクバー代金を花梨に差し出す。

 だが、花梨は受け取らなかった。

 

 

(好きな女に奢らせるなんて、格好わりぃじゃんか……)

 

 

 花梨が金持ちなことは承知しているが、奢られるのは気にくわない。

 

 その小さなプライドを、花梨は「お姉さん」の余裕で軽やかにいなしていく。

 ……小学生という『仮面』を被っている限り、彼女と同じ土俵にすら立てない。そのもどかしさが、新一の胸をチリリと焦がした。

 

 

「だいじょぶだいじょぶ♡ 新ちゃんは今、小学生なんだから。泥舟に乗ったつもりで、お姉さんにどーんとまかせなさいっ!」

 

 

 拳で胸をどんと叩いて、花梨はにっこり微笑む。

 そんな花梨に、黙り込んだコナンの目が細くなった。

 

 

「……」

 

「あ、なあに、その目。頼りないな~って思ってるでしょ!?」

 

「別に……泥舟は沈むなと思ってな?」

 

「あ」

 

 

 コナンの指摘に、花梨が“大船か!”と気づくがもう遅い。

 

 

「フッ、オメーって、ホント……くくっ……! あはははっ!!」

 

 

 腹を抱えて笑いながら、コナンは心のどこかで、言い知れぬ愛おしさを感じていた。

 

 

(……ったく。自分から『泥舟』なんて……。……でも、もしお前が本当に泥舟に乗っちまったら……。その時は、オレが泥まみれになってでも引きずり出してやるよ)

 

 

 冗談まじりに浮かんだその誓いが、後にあまりにも残酷な現実となって自分を襲うことなど、この時の新一は知る由もない。

 

 

「ちょ、新ちゃん、笑わないでよ~……! 人間、誰しも間違うことってあるよね……!?」

 

「アハハハハッ!!」

 

 

 花梨の天然ボケにコナンは盛大に笑い続け、恥ずかしいのか、彼女は顔を真っ赤にして涙目になった。

 

 

(駄目だ……花梨がアホ可愛い……!)

 

 

 花梨から「そんなに笑わなくてもいいのに……」と嘆きの声がして、コナンは腹を抱えながらも、彼女をじっと見る。

 ……好きだと自覚したからだろうか。こんな彼女を見ると胸が痛んだ。

 

 

「もぅ……泥舟でいいじゃん。焼けば沈まないかもしれないじゃない」

 

「いや、沈むだろ」

 

「うう……」

 

 

(可愛いやつ……)

 

 

 コナンのツッコミに、ぷうっと頬を膨らまし、人差し指を突き合わせる花梨が可愛く思えて仕方ない。

 このままずっと見ていたいが、そんな時間はないだろう。

 

 

「……ありがとな」

 

「ん?」

 

「あいつらの我儘聞いてやってくれて……」

 

「あ、ふふっ、みんな素直でいい子だね」

 

「ああ……いい奴らなんだ」

 

「新ちゃんが楽しそうでなによりだよ」

 

 

 二人で話をしていると、歩美たちが戻ってきた。

 光彦が、元太の手に持つどどめ色のドリンクを見て「すごい色ですね……」と眉を寄せている。

 元太は、「色々ちゃんぽんしたらこうなったんだよ」と笑った。

 

 

「コナン君、ドリンク持ってこないの~?」

 

 

 歩美がオレンジ色のドリンクをテーブルに乗せ、席につく。

 

 

「あ、うん。行ってくる」

 

「じゃあ、私も行ってこよっかな~」

 

 

 コナンと花梨は一緒にドリンクバーへと向かった。

 

 

「……コナン君て、花梨お姉さんが好きなのかな……」

 

 

 歩美は持ってきたドリンクを飲みつつ、笑顔を交わしながらドリンクバーに向かう花梨とコナンを見つめる。

 

 

「え?」

 

「……花梨お姉さん、天使みたいに可愛いもん……」

 

「歩美ちゃん……」「歩美……」

 

 

 しょんぼりとしてしまった歩美に、光彦も元太もどうすればいいのかわからず、それ以上何も言えなかった。

 

 と、そこへ一人の影が……。

 

 

「お待たせしました~。期間限定いちごスペシャルパフェでございま~す!」

 

「わぁああああっ♡ すごーい!!」

 

 

 注文していた旬のいちごをたっぷり使ったパフェが届き、さっきまでのしょんぼり顔はどこへやら。歩美は一気に破顔した。

 

 

「「はは……」」

 

 

 これには光彦も元太も笑うしかなかった。

 

 花梨とコナンがドリンクを持って席に戻ると、そこには運ばれてきたばかりのパフェが鎮座していた。

 

 届いたパフェの、鮮やかな“赤”。

 歩美が歓声を上げる中、花梨の瞳が、一瞬だけその“赤”を凝視し、わずかに震える。

 ……まるで、その色が「招かれざる誰か」の影を連想させたかのように。

 

 

「わぁ……おいしそうだね、歩美ちゃん」

 

 

 だが、彼女はすぐに、苺よりも甘い微笑みを子供たちに向けていた。

 

 

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