白月の君といつまでも   作:はすみく

152 / 189
-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
ファミレスでの賑やかなひと時。花梨の言い間違いに、コナンは探偵の仮面を忘れて心から笑い合う。しかし、その眩しい笑顔こそが、核心への追及を阻む最大の障壁だった。束の間の平穏の裏で、運命の歯車は静かに、狂い始めていく。

第151話
果たしてコナンは真相を知ることができるのでしょうか。


151:Sweet Accidents

 

 

 

 

 それぞれ注文した料理が出揃い、花梨たちはしばし他愛の話をしながら食べ進める。

 席は花梨の隣にコナン、向かい側に光彦、歩美、元太の三人という並びだ。

 

 

「……」

 

 

(どうやって花梨に話を切り出そう……)

 

 

 コナンは、アイスコーヒーをストローで吸いながら、昨日の件をどう切り出すか考えていた。

 ……事件性があるため、歩美たちがいる前では話せない。

 

 そんな時――。

 

 

「はい、コナンくん、あーん」

 

「……あー……っ!」

 

 

 毎度のことながら、花梨がフライドポテトを口に持ってくる。

 コナンの口は自然と開いて、ぱくっと塩辛いポテトが口に入った。

 

 

「おいしい?」

 

「っ……うん」

 

 

 ――ああ、もうやけくそだ……!

 

 

 昨日もそうだったが、コナンに花梨の給餌行動を避ける術はない。

 こうなったら、ありのままに受け入れた方が楽――。何かを悟ったように、コナンは熱い頬に両手を添え、花梨から目を逸らした。

 

 

「ふふっ♡ ポテトおいしいよね~♡ もっと食べる?」

 

「……うん」

 

「じゃあ、今度はケチャップ付きねっ♡」

 

 

 無邪気な花梨にコナンは大人しく従う。

 

 

(花梨のやつ、またオレを鳥のヒナかなにかと思ってやがる……)

 

 

 花梨の給餌行動に他意なんてない。

 ただ、人の口に物を運んで楽しんでいるだけだ。

 

 

 ――そっちがその気なら、付き合ってやろーじゃん。

 

 

 コナンはやけを起こしているらしい。

 ……今は子どもの姿なのだから――甘えてもいいと思ったのだ。

 

 そんな花梨とコナンのやり取りに、歩美、光彦、元太の三人がぽっと頬を赤くする。

 

 

「……コ、コナン君……?」

 

「ハッ!? あ、花梨姉ちゃん! ボク自分で食べれるよ!?」

 

 

 ――そうだ! 歩美ちゃんたちの前だった……!

 

 

 はっと我に返り、コナンは慌てて花梨からポテトを奪った。

 

 

「あっ」

 

 

 すると、ベチャッ。

 ポテトの先についたケチャップが飛び跳ね、花梨の制服に付着する。

 

 

「あ、ご、ごめん……!」

 

 

 ――ったく、オレは何やってんだよ……!!

 

 

 彼女の制服、胸辺りに飛んでしまったケチャップ。

 コナンは慌てておしぼりを手にして拭き取る。

 

 

「ちょっ、待っ」

 

 

 花梨の制止する声が聞こえたが、挽回しようとするコナンの耳には入らない。

 

 

「「コナン君……!」」

 

「え?」

 

 

 歩美と光彦の声で、コナンの動きは止まる。

 それと同時に、ふにっと柔らかい何かが触れる感触がした。

 

 ……ふとコナンの頭上に影が差す。

 

 

「ちょっと新ちゃん?」

 

 

 向かいの三人に聞こえない小さな声で、花梨が囁いた。

 

 

「あ……」

 

 

 ――この感触って……。

 

 

 ちょっと押してみると、ふにふにと柔らかく跳ね返ってくる。

 それがいったい何なのか――。

 

 気づく前に花梨からボソッと……。

 

 

「新ちゃんの、えっち……」

 

「へっ!?!? ち、ちがっ……! オレッ、そ、そんなつもり……」

 

 

 ズザザザザッ――!

 

 瞬時に顔を茹で蛸のように赤くなったコナンは、慌てて花梨から距離を取る。

 白いおしぼりには、赤いケチャップ汚れが付き、また、コナンの鼻からも赤い血がツーッと垂れた。

 

 

「ふふっ、コナンくんにはまだ早いかなー」

 

 

 花梨は落ち着いた様子で、鞄からポケットティッシュを取り出し、コナンの鼻に当てる。

 そして、無邪気に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーくそ……。なんてことを……」

 

 

 あれから逃げるように「おかわりしてくる!」と言ってドリンクバーにやって来たコナン。

 氷をたっぷりグラスに突っ込み、迷いなくボタンを押し込んで、アイスコーヒーを作る。

 

 

(柔らかかった……って、そんなこと考えてる場合かっ!!)

 

 

 脳裏に焼き付いた感触を、上から下に落ちるコーヒーを眺めながら流していく。

 グラスにたっぷり詰めた氷が、カランと小さく音を立て崩れた。

 

 

(……あいつ、無防備すぎるんだよ。……もしオレがガキじゃなかったら、今ごろどうなってたと思ってんだ……。

 ……それとも、あいつにとっては、オレはずっと『守るべきヒナ』のままなのか……? けど、柔らか――って、バーロッ!!)

 

 

 ふわふわと先ほどの感触を思い出しつつも、慌ててそれを掻き消す。

 

 今日は花梨を問い詰めるために来たというのに、いったい何をしているんだ。

 ……自問自答をし、注がれていくコーヒーを見つめる。

 

 と、そこへ――。

 

 

「新ちゃん」

 

 

 空になったグラスを手に、花梨がやって来た。

 

 

「花梨……。オメー、オレの口に物入れんの、いい加減やめろよ……」

 

「あはは……ごめんごめん。おいしいもの食べると、ついシェアしたくなっちゃって、無意識なんだよね~」

 

「無意識って……そんなわけ――(いや、オレも無意識で口開けてるな……?)」

 

 

 気まずそうに後れ毛を耳にかける花梨に、コナンは言い掛けて止めた。

 

 ……人のことを言えたもんじゃない。

 条件反射が身に付くほど、慣らされているのは自分である。

 

 花梨が口元に何か持って来ると、反射的に受け入れてしまうのは、今に始まったことじゃない。

 

 ……思えば、昔からだ。

 

 昔――、男同士だと思って一緒に暮らしていた間、推理小説を読む自分に花梨が、手が汚れるからと、菓子を口に入れてくれたのが始まりだったと思う。

 

 その頃は本に集中できて、菓子も同時に食べることができ、便利だなと思って、「次」などと口を開けて催促したこともあったくらいだ。

 当時の花梨は、次から次へと口に菓子を運んでくれたり、ジュースを飲ませてくれたりと、楽しそうに給餌行動をとっていた。

 

 

(……あの頃、花梨は『誰かに必要とされること』に、病的なまでに飢えてたのかもしれねぇ。……無心に本を読むオレの口に菓子を運んでいる間だけ、あいつは自分が『誰かの役に立っている』って、安心できてたんじゃねーのかな……)

 

 

 今さら気づいた彼女の「献身」の正体に、コナンの胸の奥がチリリと痛んだ。

 

 だが、同時にふと気づく。

 

 今はそうじゃない……。

 癖になっているとしか思えない――と。

 

 

(ってことは、これはつまり……オレのせい……自業自得なんじゃ……)

 

 

 ……確かに、弟として接してたけども――。

 

 思い当たったコナンは半目になる。

 

 

「歩美ちゃんたちにもしてあげたら、喜んでたよ?」

 

 

 コナンが黙っていると、花梨は、子どもたちにもしてきたことを教えてくれた。

 歩美はともかく、光彦と元太が喜んでいる姿が想像できて、なんとなく、コナンの口がへの字に曲がる。

 

 

「……オレだけにしとけよ」

 

 

 誰にも聞こえないほど小さな呟き。

 ……その独占欲は、探偵としての冷静さを遥かに凌駕していた。

 

 

(……こいつの『優しさ』は、底なしの沼だ。一度浸かったら、子供だろうが大人だろうが、二度と出られなくなる……。……現に、オレがそうだ……)

 

 

 ボソッと呟いたが、花梨は氷をグラスに入れていて、聞こえなかったようだ。

 

 

「ん? なんか言った?」

 

「っ、なんでもねー……!」

 

 

 コナンはハッと我に返って、出来上がったアイスコーヒーを手にする。

 

 

「ふぅん?」

 

「なあ、花梨。オレ、今日は昨日のこと訊きに来たんだけど」

 

「あ~……かなと思った。でも、今日は難しいんじゃないかな~?」

 

 

 花梨もコーヒーマシンにグラスをセットし、アイスコーヒーを選択。

 コーヒーの抽出が始まった。

 

 ……花梨の目線がコナンの背後に向けられている。

 

 

「え?」

 

「コナンく~ん! 花梨お姉さ~ん! 歩美も同じの飲みた~い!」

 

 

 コナンが振り返ると、歩美がグラスを持ってやって来ていた。

 

 

「いいよー。でも歩美ちゃんには苦いから、シロップ入れて甘いのにしようね」

 

「うんっ♡」

 

 

 ……コナンと花梨のアイスコーヒーはブラックだ。

 歩美にはアイスカフェラテのシロップ入りを勧める。

 

 

「こっちは苦いの?」

 

「ちょっと飲んでみる?」

 

「うんっ! ……うわっ、苦っ!」

 

 

 出来上がったばかりの、花梨のアイスコーヒーを一口飲んだ歩美は眉を顰めた。

 

 

「ふふふっ。ちょっと大人の味だね?」

 

「コナン君と花梨お姉さんは飲んでるのに……」

 

 

 ……コナン君と同じのがいいのに――と、歩美が頬を膨らませる。

 そんな歩美に花梨は優しく目を細めた。

 

 

「私、甘いのもたまには飲むよ~」

 

「そうなの!?」

 

「うん、ミルクたっぷりのカフェラテもおいしいよ?」

 

「そっか、そうなんだ~。花梨お姉さんも甘いの飲むんだ~」

 

 

 花梨が甘いコーヒーも飲むことを知り、歩美は笑顔を取り戻す。

 “花梨お姉さんと一緒”ということが嬉しいのか、自分もコーヒーを――とコーヒーマシンにグラスをセットした。

 

 

「ふふっ、甘いのもおいしいよね♡」

 

「うんっ♡ 歩美、甘いの好き! ねえ、花梨お姉さん……ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど……」

 

「ん? うん、いいよー?」

 

「ここじゃちょっと……」

 

 

 にこにこと優しく応対する花梨に、歩美がもじもじと身体を揺らす。

 そして、コナンを横目でちらり。

 

 

「……っ」

 

 

(これ――ひょっとして、話す隙が……ない……!?)

 

 

 歩美と耳打ちし合う花梨の横顔。

 ……彼女は確信犯なのか、それとも天性の「人誑し」なのか。

 核心に近づこうとするたびに、彼女の周囲に広がる『平穏』という名の壁に跳ね返される。

 

 

(花梨……お前、わざとやってんのか? ……それとも、本当に、オレに何も言わせたくねーのかよ……)

 

 

 終わらない女子二人の会話に、花梨が言っていることが遅れて理解できたコナンは頭を抱えた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。