白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
ファミレスで花梨の「餌付け」に翻弄されるコナン。不慮の事故で彼女に触れ、探偵としての冷静さを失う中、かつて自分たちが築いた歪で温かい絆を思い出す。歩美の相談に阻まれ、核心に触れられぬまま、午後の時間は甘く溶けていく。

第152話
またねー!


152:また会う日まで

 

 

 

 

 一時間後――。

 歩美、光彦、元太が声をそろえて元気よく言った。

 

 

「ごちそうさまでした!」

 

 

 ファミレスの扉を開けると、夕暮れに染まりかけた街に子どもたちの元気な声が響く。歩道を小走りに進む姿は、まるで夜の街に小さな光を散らしているかのようだった。

 

 

「どういたしまして♡」

 

 

 花梨はふわりと笑顔を浮かべ、両手を軽く合わせて答える。

 

 

「いちごのスペシャルパフェ、おいしかった~♡」

 

「ボクの、ヨーグルトサンデーもおいしかったです!」

 

 

 歩美が楽しそうに肩を揺らしながら口を開くと、隣の光彦も少し照れくさそうに胸を張った。

 

 

「よかったね~」

 

 

 二人の喜ぶ顔を見つめ、花梨は優しく微笑む。

 

 

「ステーキにエビフライ、追加したクリームコロッケもうまかったぞ!」

 

「ふふ、元太くん。あんなに食べたら、お家で晩ごはん食べられないんじゃない?」

 

 

 元太は大きな腹を擦ってから“ポンッ!”、叩いて誇らしげだ。

 ステーキに追加したのは、エビフライだけではなかったらしい。クリームコロッケまで頼んでいたとは。

 

 目の前で彼を見ていた花梨は、その食べっぷりを思い出して、楽しげに笑った。

 

 

「大丈夫! 別腹別腹!」

 

 

 “ポポポン、ポンッ!”

 

 元太が腹を軽快に叩く。

 

 

「ふふふっ、すごいねぇ!(元太くん、可愛いなぁ)」

 

 

 彼のその無邪気さにほっと心が温まった花梨は、そっと微笑んだ。

 これだけ喜んでくれたなら、奢ったかいがあるというもの。

 

 

「車道に出ないよう、気をつけてね~」

 

「はーい!!」

 

 

 子どもたちを家まで送ろうということで、花梨は駅に向かう。

 歩美、光彦、元太の三人はすっかり花梨に懐いた様子。元気に返事をした。

 

 花梨自ら車道側を歩き、彼女は子どもたちを優しく見守っている。

 そんな彼女を見つめるのは――。

 

 

「……」

 

 

 一番後ろを、とぼとぼと歩くコナン。

 彼は花梨をじっと見つめたまま、黙り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駅に着き、花梨は子どもたちの分の切符を買い与え、ホームへ。

 ……前の電車が出発したばかりのためか、五分後に次が来るようだ。

 

 

「わ~、歩美ね、実はこの駅来たの、今日が初めてなんだ~」

 

「米花駅とは、また違う雰囲気ですね」

 

「駅前にうまそうな店がたくさんあったもんな、気に入ったぜ」

 

 

 歩美、光彦、元太は、あまり来ない駅ホームから見える景色を、物珍しそうに眺めている。

 

 

「はぁ……」

 

 

(あいつら楽しそうだなー……)

 

 

 コナンは、少し距離を取って三人を見つめる。

 ……結局、ファミレスに行っても歩美たちに邪魔をされ、花梨には何も聞くことができなかった。

 

 

「……」

 

 

 ――新ちゃん……ごめんね。

 

 

 花梨が歩美たちの後ろで、ため息をつくコナンをちらり。

 自分の事情を説明できないもどかしさを、心の中で詫びる。

 

 ……本当は話すべきじゃない。

 

 けれど、もし――帰り道でなにか訊かれるようなら、今度こそは正直に話そう……。

 新一なら、なにかいい方法を思いついてくれるかもしれないし――と、心が揺らいだ。

 

 花梨が米花町に行くことは、快斗に止められているが、今日は平日。

 権堂も付いているし、駅に向かう間に彼女に目配せしたら、丸サインを両手で作って、承認してもらえた。

 

 花梨の隣を権堂が歩いてもいいと思うのだが、いつも彼女は、お願いしない限りは寄って来ない。

 すぐに駆け付けられる距離を保ち、花梨のプライベートをあくまで重視しているようだった。

 

 

(権堂さんて頼もしいな……)

 

 

 花梨は警護人の権堂の存在が頼もしくて仕方ない。

 花梨が誰かと話す時、彼女は耳を塞いで聞かないようにしてくれる。

 

 その彼女は今――、目と鼻の先の自販機の隣に立っているのだが、辺りを警戒する目つきは物凄い。

 殺気立った目で、花梨のそばを歩く通行人を、次から次へと睨み付けていた。

 

 花梨の見た目に惹かれ、見惚れる男たちへ向けて、権堂の殺気――否、絶対零度の鋭い視線が刺さる。

 男たちは、ただならぬ気配にビクリと肩を揺らし、殺気を感じる方へと視線を移動させると、権堂の存在に気がつく。

 

 その権堂の目は見開き、顎を突き出し、首を親指で斬るような威嚇の仕草……。

 すると、彼らは花梨から視線を逸らして、そそくさとその場を立ち去って行くのだ。

 

 

(権堂さんて、スゲーな……。そのうち視線だけで誰か殺しそうだ……)

 

 

 権堂をちらと見たコナンは、“はは……”と乾いた笑みを浮かべた。

 歩美たちは気づいていないようだが、コナンにはわかる。

 

 彼女が花梨から距離を取る理由――。

 きっと、こうやって花梨と距離を取り、相手を威圧し、牽制しているのだろう。

 

 以前コナンが、花梨に権堂について尋ねたら、「権堂さん? 可愛い人だよ~? なんか、ふわふわなの。でも格好いいんだよ!」と言っていた。

 花梨本人は、権堂のこんな姿に気づいていないのだろう。

 

 ……権堂は、花梨の前じゃ借りてきた猫のように大人しいから。

 警護対象だからなのかもしれないが、それ以上の何かが、彼女の中にはあるのかもしれない。

 

 

「コナンくん」

 

「あ、花梨姉ちゃん……」

 

 

 ふと、権堂のことを考えていたコナンに、花梨が近づいてきた。

 

 

「今日は来てくれてありがとう」

 

「……こちらこそ、ごちそうしてくれてありがとな」

 

 

 歩美たちが景色に気を取られ、まったく気づいていないため、コナンは花梨にいつもの口調で返す。

 

 

「ふふっ、ドリンクバーだけじゃない! いっつも新ちゃん、おみやげ買ってきてくれるし、そのお礼だから♪」

 

 

 花梨も三人が背を向けている様子に気づいてか、コナンにいつも通りの口調で笑顔をみせた。

 

 

「なあ花梨」

 

「ん?」

 

「オレたち、四人で帰るからさ。オメーもそろそろ家に帰れよ」

 

 

 昨日は松田に送ってもらったからいいが、花梨に送ってもらうのは、少々気が引ける。もう暗いし……と――。

 コナンは自分たちだけで帰るから、送りはいいと帰るよう促す。

 

 

「え? 大丈夫?」

 

「ハッ、さすがに四人いりゃなんもねーだろ。逆にオメーの帰りの方が心配だ(オレの中身は、オメーと一緒の高校生なんだぞ!?)」

 

 

 花梨が驚いたように目を丸くし、口元に手を当てた。

 時々コナンは、花梨が自分を本当の小学生だと思っているんじゃないかと感じる時がある……。

 

 「どう見ても危ねーのは、オメーだろうがっ!!」――と、怒号が口から出かけたが、言わないでおいた。

 

 

「そう? それならいいけど……」

 

 

 花梨は心配そうではあるが、コナンの言うことももっともだと静かに頷く。

 そんな時、ホームの向こうから次の電車のライトが見えた。

 

 

「あ、電車が来たね」

 

 

 ホームに電車がやって来て、下車する人々がいなくなると、歩美、光彦、元太、そしてコナンは電車に向かい、順に乗り込む。

 歩美たちは空いてる席を見つけ、走って行った。

 

 

「じゃあね、花梨姉ちゃん」

 

 

 コナンが名残惜しそうに、扉の前で花梨に別れを告げる。

 ちょうど発車メロディーと、「まもなく電車が発車します」のアナウンスが流れていた。

 

 

「……新ちゃん」

 

 

 花梨は小さく息を吸い込み、彼の名を呼んだ。

 

 

「うん?」

 

 

 コナンは首を傾げて花梨を見上げる。

 すると、肩に白い手が伸びて、花梨の影がコナンを覆った。

 

 ふいに額に柔らかい感触が触れる……。

 

 

(新ちゃんが、いつも無事でありますように……)

 

 

 ……花梨は心から願う。

 

 彼がこの先どんな困難に遭おうとも。

 何があっても、無事でいられますように――、と。

 

 震える指先で額にキスを落とした瞬間、堪えていた涙がほんの少しだけ滲んだ。

 花梨は慌てて指先でそっと涙を拭い、深呼吸をしてから自然な笑顔を作る。歩美たちには気づかれないように、髪を整え、少し前を向いて振る舞った。

 その仕草は、外から見れば何でもない小さな仕草に過ぎない。

 

 

「……バイバイ、新ちゃん。元気でね」

 

「へ……?」

 

 

 今、いったい何が起きたのか――。

 コナンは目を見開き、硬直したように驚く。予想もしていなかった出来事に、胸がきゅっと締め付けられた。

 

 花梨が電車から離れ、発車メロディーとアナウンスも終わり、プシューッと扉が閉まる。

 ……電車は静かに走りだした。

 

 しかし、コナンの胸の奥には違和感が残る。

 

 

(……今のは、なんだ……? 花梨、震えてなかったか……? まるで、もう二度と会えねーヤツがするような……)

 

 

 花梨の様子、指先の震え、額の温もり……一瞬にしてすべてを悟ったわけではないが、何か特別なものを感じ取った。

 

 

「……花梨!?」

 

 

 コナンはすぐに混み合う電車内を、人を掻き分け走りながら、隣の車両へと移り、窓際に駆け寄る。空いた窓を見つけ、窓越しに見える花梨の背中に向けて、大きな声で叫んだ。

 

 

「かーりーーん!!」

 

 

 コナンの声に花梨は振り向き、微笑みながら手を小さく振った。

 その瞳は少し潤んでいたが、決して悲しそうではなく、どこか優しく、力強い光を宿している。

 

 電車は遠ざかり、夜の風が二人を隔てた。

 額に残った温もりだけが、コナンの胸に静かに刻まれる。

 

 ……それは、二人の距離を越えて繋がる小さな約束のようだった。

 

 

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