白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 16 years old

▽前回のあらすじ
押し寄せる警察官たちと置き土産の運動器具に困惑する花梨。だが、雑で騒がしい彼らの気遣いに触れ、忘れかけていた温かな感情が胸に灯り始める。

第15話
零お兄ちゃんにっこにこ。


015:来訪者は警察官②

 

「だってよ、ゼロ?」

 

「ははは、どーも。僕も花梨ちゃんのこと好きだよ」

 

「やった、うれし~! 両想い~♪」

 

 

 廊下に続くドアに松田が顔を向けると、そこには設置作業を終えた降谷がやって来ていた。

 降谷を見つけた花梨は、胸の前に両手で人差し指を使ってハートマークを作り、にっこり微笑む。

 

 

「っ」

 

 

 花梨の笑顔に降谷は大きく目を瞬いた。

 

 

「……っと、いや~やべェ。そういうの簡単に言っちゃうとこ、相変わらず思考が幼児だなー。やべェやべェ」

 

「むぅっ! 幼児ってなによ、陣平さんきらい~!」

 

「はっはっはっ! 俺は花梨ちゃんすきよー?」

 

「きらい~!」

 

 

 松田も花梨の笑顔に一瞬黙り込んだが、すぐに白髪頭を乱暴に撫でる。

 散々揶揄われた花梨はその手から逃れるように降谷に駆け寄り、背後に回り込んだ。

 

 

「花梨ちゃん?」

 

「零お兄ちゃん。陣平さんて、なんであんなに幼稚なんですか? 全然変わってないんですけど?」

 

「……ははは、そうかもな。けどあれでも少しは大人になったんだよ」

 

 

 服を掴んで訴える花梨を見下ろし、最近笑っていなかったが今日はもう何度目か、降谷の鼻から「フッ」と笑みが零れた。

 

 

「オイッ、パツキン野郎聞こえてんぞ」

 

「いーっ、だっ!」

 

 

 松田が降谷を睨むも、降谷の背後から、花梨が鼻を歪ませて威嚇してくる。

 

 

「……。ははっ、いーっ、か。可愛いやつめ!」

 

 

 まるで子猫が威嚇するような様子に気が削がれた松田から、降谷に向けた鋭い視線がふっと消え、目が優しく細くなった。

 ところが、花梨の興奮状態は止まず――。

 

 

「なっ……! かっ、可愛いとか、そういうこと言うのやめてもらえます? セクハラなんですけど?」

 

「ばっか、お前っ、褒めてやってんのにセクハラはねーだろーが!」

 

「いーっ、だっ!」

 

 

 花梨は降谷の背後に隠れながらしっかり反論。

 松田との言い争いが再び始まってしまった。

 

 

「……あはははっ!」

 

 

(争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない……か)

 

 

 降谷の目には黒犬(松田)に今にも噛みつかんとする白猫(花梨)の姿が映る。

 自らの身体を挟んで始まった、白猫と黒犬の戦いが可笑しかった降谷は、声を上げて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしい……」

 

「あ? なにが?」

 

「どうかしたのか?」

 

 

 花梨の何気ない呟きに、松田と降谷が反応する。

 

 

「……いや、だからこの状況がですよ……!」

 

 

 ラグマットに座る花梨の目の前には、ローテーブルを挟んでソファに座る松田、自分の隣には降谷。

 そしてローテーブルの上には美味しい出来立て料理の数々。

 

 

 ――どう考えてもおかしいでしょ……。

 

 

 降谷と一緒に作った料理を食べ食べ、花梨は今朝起きた時のことを振り返る。

 

 ……起きた時刻は六時半。

 平日と同じ起床時間なのは、身体にリズムができた証拠。

 だが今日は日曜、休日である。

 

 

 “ピンポーン”

 

 

 二度寝しようとしたところで、いつもは鳴るはずのないインターフォンが鳴ったのだ。

 ここの住所を知っているのは新一、優作、有希子、学校と一部の親族のみ。

 そしてこの部屋は新一しか来たことがない。

 

 まだ東都に友達もいないし、訪問販売ならオートロックがあるから、七階までは上がって来れない。

 だから玄関ドア前まで誰かが訪ねてくることなど、本来はないはず――。

 

 

『おはよう、花梨ちゃん。久しぶりだね』

 

 

 インターフォンに出たら、降谷が玄関ドアの前に立っていた。

 

 

「っ、えぇええええっ!? 零お兄ちゃん!?」

 

 

 驚き過ぎた花梨の声は大きく、画面越しの降谷はそっと耳を塞ぐ。

 口元は薄っすらと弧を描いていた。

 

 花梨が降谷と会うのは約三年振り。

 引き取られた親戚の家で会ったのが初めての出会いだが、今はその話には触れない。

 

 ただ、降谷には助けてもらったことがある。

 彼は命の恩人なのだ。

 

 見知った顔に鍵を開けないわけにはいかない。

 なぜマンション内まで入って来ているのかわからないが、花梨は玄関に向かい降谷を出迎えた。

 

 

「朝早くからごめんね。松田が後で来ると思う」

 

「えっ、陣平さんが!?」

 

 

 玄関ドアを開いた先にいた降谷は大きな箱を抱えている。

 なんだろうと思ったが、家庭用EMSスーツ、筋肉を増強する装置だとか。

 

 急になぜ……。

 

 わけがわからない花梨は、後で松田も来るという降谷の言葉に反応しつつ、部屋に彼を招き入れた。

 どうして急に来たのかと聞いてみれば、花梨が東都に越したことを最近知って、会いに来たとのこと。

 

 どうやって知ったのかは謎であるが、警察のことだ、巡回連絡カード経由で情報でも漏れたのだろう。

 

 なんでも花梨が部屋に引きこもっているから筋力が落ちないよう、筋肉増強スーツをプレゼントしに来たらしい。

 引きこもっているのは確かだが、どこからその情報が漏れたというのか。

 

 ……花梨はちょっと怖いと思ってしまった。

 

 降谷にお茶を出し「最近どう?」「元気でやってます」なんて近況を話しているとまたもピンポーン。

 インターフォンに出たら松田だった。

 

 

『よっ! 花梨ちゃん♡ 陣平さまが来たぜー』

 

「うわ、陣平さんだ」

 

『うわじゃねー。開けろ』

 

「うわ。命令形」

 

『かーりんちゃん! イケてるおにーさんと、あーそーぼっ!』

 

 

 ブツッ。

 

 サングラスと咥え煙草、怪しい松田の笑顔に花梨はインターフォンの通話ボタンを切る。

 

 

「……プッ」

 

 

 花梨の後ろで、降谷がもう一つの土産である菓子を皿に盛り付けながら噴き出した。

 

 

「開けなきゃダメですかね?」

 

「ははっ、どっちでも」

 

「じゃ、このままで」

 

「プッ!」

 

 

 “ピンポーン”

 

 降谷と話している間にもう一度インターフォンが鳴る。

 

 

「はぁ……はい、どちらさまですか?」

 

『おい、花梨! 命の恩人になんて態度だ。さっさとここを開けやがれ!』

 

「……はいはい。今行きまーす……」

 

 

 再びインターフォンに出ると松田の不機嫌な声が聞こえ、花梨はしぶしぶ玄関へと向かう。

 その後ろで降谷はくすくすと楽しそうに笑っていた。

 

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