白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
快斗が用意したバスタイムで寝落ちした花梨は、彼に口移しで水を飲まされ、肌ケアまでされていた。彼氏の優しさに心を揺さぶられるが、花梨の心は複雑。明日の大阪行きに際し、彼女は快斗には内緒である決意を固めていた。

第159話
白馬くんも乗ればよかったのに!


159:金曜日の牽制

 

 

 

 

 ……金曜日がやってきた。

 

 快斗は一度家に帰ると言って、朝早くに花梨の部屋を出て行った。

 登校時間にはまたマンションに迎えに来て二人で登校したが、登校中、快斗はきょろきょろと辺りを見回し、何度も首を傾げていた。

 

 

「や~、終わった終わった! 黒ちゃん、話()げーわ。花梨ちゃん、おまたせ~!」

 

「あっ、うん。じゃあ、白馬くん」

 

 

 つつがなく終えた金曜の放課後。

 快斗が黒瀬の呼び出しに応対する間、教室で待っていた花梨は、白馬に声をかけられ話をしていた。

 

 白馬にも挨拶をと、花梨がふわりと微笑む。

 すると、白馬はいつもとは違う反応を見せた。

 

 

「花梨さん……今日、ちょっと元気がなさそうでしたが、大丈夫ですか?」

 

「えっ? そ、そうかな……別にいつもと同じだと思うけど……」

 

 

 ――白馬くん……鋭い。

 

 

 図星を突かれて気まずい花梨は、ぎこちない手つきで後れ毛を耳にかける。

 

 白馬は探偵だからだろうか。

 新一並みに鋭いと花梨は思った。

 

 

「そーだぜ! 昨日、寝るの遅かったから眠いだけだよ。な?」

 

「っ、う、うん……」

 

 

 背後から快斗の腕が花梨の腹に回って、さっと後ろに抱き寄せられる。

 ……白馬と距離を取らされた。

 

 

「はっ……相変わらず、すごい独占欲ですね」

 

 

 花梨の肩に顎をのせ、威嚇するように、ジッと鋭い視線を浴びせてくる快斗に、白馬は呆れて苦笑する。

 

 

「花梨はオレの彼女だからな」

 

「知っていますよ。今は……ですよね?」

 

 

 花梨を間に挟み、白馬と快斗が睨み合ってしまった。

 睨み合いは続かず、すぐに快斗がくるっと身体を反転させる。

 

 

「今はじゃねーよ。ずっとだよ! ほら花梨、帰ろう?」

 

 

 身体に腕を巻き付けられた花梨は、一緒に反転させられ、白馬の視線から隠された。

 肩越しに白馬に文句を告げる快斗は、花梨に向けて話す言葉だけは優しい。

 

 

「っ、うん……」

 

 

 ――なんか私……子猫みたいね……。

 

 

 軽々と持ち上げられて、花梨は――まるで子猫の気分だ。

 

 

「いつも思うのですが、花梨さん。黒羽君に囚われて、窮屈ではありませんか? ボクならあなたの自由を尊重して差し上げられるのですが……」

 

「あ、あははは……」

 

 

 確かに少しだけ……と思った花梨だが、それも今日までである。

 ここは笑って誤魔化しておく。

 

 

「白馬っ! オメー、余計なこと言うんじゃねえよ! 花梨はオレのそばが一番安全なんだぞ!?」

 

「へ~、怪盗キッドのそばが安全だなんて、妙ですねえ?」

 

「ばっ、オレはキッドじゃねえって、言ってんだろーが……ったく。お前、最近しつこいぞ! ……花梨、帰り支度まだだよな? 待ってるから行っておいで」

 

 

 快斗は白馬の相手をしつつ、花梨の背をそっと押した。

 花梨は黙ったまま頷き、自分の席へ戻って帰り支度を始めた。

 

 ……快斗を待っている間に準備しておこうと思ったのに、呼び止められてできなかったのだ。

 

 

「フフフ。いえね、今夜キッドが現れるらしいじゃないですか」

 

「なんだよ?」

 

「どこに現れるか知っていらっしゃいますか?」

 

「知らねーよ。なんでオレが知ってるんだよ……」

 

 

 不敵に微笑みながら見下ろしてくる白馬に、快斗は耳を小指でほじほじ。

 知らぬ存ぜぬで躱していく。

 

 

「なんと! 今夜出発の大阪行きのロイヤル・エクスプレスなんだそうです。大胆不敵ですよね。警察も乗り込んで警備にあたるというのに……」

 

「へ~。ま、オレには関係ねーけどな」

 

 

(こいつ、どこまで知ってんだよ……)

 

 

 白馬はずいぶんと詳細な情報を掴んでいる様子。

 さすがは警視総監の息子――大方そっち方面から情報を得たのだろう。

 だが、警察の情報を私的に利用するなんて、とんでもない奴だ。

 

 快斗は白馬の挑発には乗らずに、鞄に教科書を詰める花梨を見つめる。

 すると開いた窓から風が吹き込んで、彼女の髪が揺れてキラキラと輝く。

 

 “ああ、綺麗だな……”と、つい見惚れた。

 

 そんな快斗に、白馬が距離を詰める。

 

 

「黒羽君」

 

「な、なんだよ……」

 

 

 急に近くなった距離に、快斗は警戒心をあらわにして身構えた。

 

 

「くれぐれも、花梨さんを巻き込んで、怪我をさせないよう頼みますよ?」

 

「っ、だからっ! オレはキッドじゃねーってのっ!!」

 

「フフフ。でも、列車に乗るんでしょう?」

 

「な、なぜそのことを……!? 花梨から聞いたのか!?」

 

 

 ……まさか花梨が話すわけない。

 彼女はいつでも自分の味方なのだから――と、快斗が不敵に笑う白馬を鋭い目つきで見上げれば。

 

 

「いえ、青子くんから。『今夜のロイヤル・エクスプレスで、セリザベス女王と会うんだー。花梨ちゃんと快斗も一緒に♪』と、楽しみにしている様子でしたよ」

 

「青子ーーっ!!!」

 

 

 白馬の話に、快斗の怒りの声が教室に響いた。

 

 なんでも、さっきまで青子も教室にいたのだとか。

 青子はロイヤル・エクスプレスに乗る話を、事細かに白馬に教えたのだそうだ。

 

 

「セリザベス女王……?」

 

 

 ふと、帰り支度を終えた花梨がやって来る。

 快斗たちの会話が聞こえていたらしい彼女は尋ねた。

 

 

「ああ、花梨さんは知りませんか? この女性ですよ。イングラム公国の女王です」

 

 

 白馬が何日か前の新聞を花梨に見せる。

 そこにはイングラム公国の女王、セリザベスの写真が一面を飾っていた。

 

 

「あ……この人……」

 

「おや? さすがに知っていらっしゃいましたか」

 

「……」

 

 

 白馬に「どうぞ」と新聞を手渡され、写真を見下ろす。

 イングラム公国の名に聞き覚えがあるような気がしていたが、女王の写真を見て、確信した。

 

 ……花梨は二年前、親戚の家を飛び出す前に、女王と会ったことがある。

 

 

「花梨……?」

 

「あ、ううん。なんでもない」

 

 

 快斗に不思議そうな顔を向けられ、花梨は首を横に振った。

 

 

 ――同じ列車に乗るだけだし……大丈夫だよね……?

 

 

 一緒の時間を共有したのは僅かの間。

 セリザベス女王も、覚えていないかもしれない。

 

 ……彼女は親戚の家に招かれたお客様で、花梨はその時、家の手伝いとして使用人の格好で給仕をしていた。

 屋敷内で、迷子になっていた女王の息子を案内しただけで、他にはこれといって特別な交流はなかったはず――。

 

 不思議な再会もあるものだな……と花梨が考えていると、快斗は視線を白馬に移した。

 

 

「白馬も乗るのかよ?」

 

「いえ……残念ながら、今夜は別件で埋まっていまして」

 

 

 “今夜は知人がイギリスからわざわざ来るんですよ”――そう言う白馬は、花梨を心配そうな瞳で見下ろす。

 白馬の視線に、花梨はぱちぱちと目を瞬かせた。

 

 

「そ、そっか。それは残念だったな! じゃあ、花梨、帰ろう」

 

「あっ、快斗……! ちょ……」

 

 

 快斗は花梨の手を取って走り出す。

 花梨が連れられながら振り返ると、白馬が優しい瞳で手を振っていた。

 

 

「黒羽君! くれぐれも、頼みましたからね!」

 

「るせー!!」

 

 

(言われんでも、花梨を危険な目に遭わせるわけねーだろ!!)

 

 

 白馬に手を振り返す花梨だったが、快斗が白馬を振り返ることはない。

 不機嫌な様子で教室を後にした。

 

 

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