▽前回のあらすじ
快斗の強い独占欲と白馬の警戒に挟まれる花梨。キッド予告のあった列車に乗る快斗に、白馬は牽制をかける。花梨は、その特急で二年前会った女王と再会する可能性に気づき戸惑う。
第160話
準備が着々と…。
◇
校門を出て帰路につき、いつものように快斗が花梨の鞄を持ち、手を繋いで歩く。
「ったく青子のやつ……余計なこと言いやがって……」
……話題は青子のこと。
快斗は口を尖らせ、頬を膨らませた。
「ん? 青子ちゃんがどうかした?」
「白馬のヤローに今夜のこと話しやがったんだってよ。青子から情報仕入れてたんだな……」
白馬の情報源は、警察の内部情報をこっそり……というわけではなかった。
まさか青子から漏れていたとは――。
快斗が、キッドだと思っていない青子からすれば、話してしまうのも無理はない。
それくらい楽しみにしていたようだし……と、快斗はため息をつく。
「そうなんだ? でも、白馬くんは乗らないんでしょ?」
「まー、そうなんだけど。白馬は、オレのことキッドだって疑ってっからさ、あんまそういう情報、教えたくねえなって」
「ふふふっ♡ 白馬くんって鋭いよね。探偵って、みんなああなのかな」
花梨は、いつか白馬も新一も、快斗の正体を暴いてしまう気がしてならない。
真実を追い求める探偵は、絶対に諦めないから――。
そんな存在が近くにいて、快斗は大丈夫なんだろうか……。
微笑みながら心配になって、快斗を見上げる。
「ん? 探偵みんなって……どういうこと?」
「あ、うん、幼なじみの彼も鋭いから」
「フーン。けど、花梨は探偵よりも怪盗の方が好きだもんな?」
ふいに快斗が前のめりに覗き込んできた。
「え?」
「ん?」
花梨が「今、そんな話してたっけ……?」と目を瞬かせると、快斗の首が傾き、大きく見開く。
どうして彼は、新一の話題を出すと張り合おうとするのか――。
焼きもちだと、なんとなくわかるのだが、今考えていたのは快斗のことだというのに。
……快斗はおかしな人だ。
「……ふふふ♡」
花梨は口元に手を添えてくすくす笑った。
「ちょ、そこは『うん♡』だろ!? なあ花梨? な?」
笑って誤魔化す花梨に、快斗は必死だ。
「ふふっ……♡」
――快斗の必死な顔、可愛い……そんなところもすごく好き。
快斗はいつも一生懸命で、優しくて頼もしくて。
でも、彼は大事な目的をもってキッドとして活動している。
……だから、自分が足枷になってはいけない。
微笑みながら花梨は、繋いだ手を放して走り出す。
「ちょっと、花梨ちゃん!? そりゃねえよ~~!! こらっ、花梨待てっ!!」
「っ、きゃ~~♡♡」
逃げる花梨を追いかけるように、快斗も駆け出す。
すぐに追いつき、快斗は花梨を抱きしめた。
「ったく、オメーはオレの宝石なんだから、逃げるのは許さんっ!」
「あはははっ! なにそれ~……! いたっ!」
「――も~、今夜ぜったい食っちまうからな……!!(大阪着いたら覚えとけよ……♡)」
がぶっと頬に噛みつかれた花梨は、痛みに身を捩る。
……あむあむと甘噛みされた。
道の真ん中でこんな風にじゃれ合うなんて、バカップルもいいところだ。
けれど花梨は、そんなじゃれ合いがすごく楽しかった。
「いたた……そういえば快斗、授業中抜け出してたけど、どこ行ってたの?」
「ん? あー、ちょっと……な?」
「ふぅん?」
「へへっ、今夜のお楽しみ♪」
花梨の質問に、快斗はいたずらっ子のように笑う。
よくわからないが、楽しそうなので花梨もにこにこと笑っておいた。
二人はそのまま花梨のマンションへ――。
「――よし、荷物持ったな?」
快斗が花梨の家の玄関で言った。
花梨が私服に着替え、荷物を持ったら快斗の家まで行き、そのあと青子とともに駅へ行く予定だ。
一泊旅行ということで、花梨は前日、小さめのスーツケースに着替えを詰めてある。
花梨の今日の装いは、キッドに初めて逢った時と初デートの時に着た想い出の白いワンピースに、夜は冷えるのでベージュのトレンチコート、今は腕に掛けている。
(くぅ~~っ!! 花梨はやっぱ白が似合うなっ!! マジ天使!! かんわええっ♡ 好きだっ♡♡)
その姿を見た快斗はしばし見惚れ、頬はポッと赤く染まった。
「うん。あ、戸締りを確認してくるね」
「わかった、待ってる♡」
快斗を玄関に残し、花梨は踵を返した。
「……お世話になりました」
――ここにも長くいられなかったなぁ……。
花梨はリビングで一人、丁寧に頭を下げる。
鍵は朝、きちんと閉めてあり、戸締りの確認など本当は必要ない。
けれど、最後に部屋にも挨拶をしたい花梨は、一年半住んだ部屋に戻り頭を下げた。
幼い頃から、一つのところに長居できない根無し草のような生活は、最期までそうみたいだ。
そう思うと、なぜか笑えてしまう。
「……」
――この部屋で、快斗や新ちゃん、お兄ちゃんたち、権堂さんと過ごせて楽しかった……ありがとう……。
部屋を見渡せば、この部屋であった出来事が、次々と思い出されて目の奥が痛む。
……快斗が玄関で待っているから泣くわけにはいかない。
後処理のお願いは手紙に書き置いておいたし、そこは申し訳ないと思うが、許してもらおう。
花梨はすんと鼻をすすって玄関に向かった。
「戸締り、OK?」
「うん、ばっちり!」
玄関に行くと快斗が微笑みかけてくれる。
優しい笑顔に少し泣きそうになった花梨だが、笑顔とサムズアップで答えた。